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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
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触手の化け物 美桜side

「錬治、あれを見て」


「自衛隊、ですかね?3人だけでしょうか?」



 なるべく物音を立てずに気配を殺して前へと進んでいると、迷彩服に身を包んだ3人の男性の姿が確認出来た。

 通信装備や銃火器を背負っている所からして十中八九自衛隊か何かしらの軍務に就いている者で間違いないわね。



「辺りには他に誰も見当たらないし、今は3人しか居ないと考えるながら妥当ね。……何か話しているみたいだけど、私の耳じゃ聴こえないわね。少しあの3人に近づくわよ」


「分かりました」



 鈴は死還人ゾンビの聴覚は発達してかなり遠くの物音をや話し声が聴こえるって言ってたけど、人間と死還人ゾンビの中間の存在の私にはそこまで発達した聴力は備わっていない。

 普通の人間の頃に比べたら格段に良くなっている気はするけど、それでも鈴の言うような距離の物音や話し声は探知出来ない。

 だから、私が何か秘密裏に聞こうとすると少し近づかなければ聞き取る事が出来ない。

 武装した人間に近づくのは多少のリスクを伴う事になるけど、拾える情報があるなら拾っておいて損はない。

 勿論、錬治に聞いて貰ってそれを私に伝えて貰う手段もあるけど、人の記憶は曖昧だし伝える過程で情報が変質しないとも限らないから自分の耳で聴くのが1番良い。



「……この辺かしら。少し止まりましょう」


「はい」



 目測で大体500mくらいまでは近づいたけど、この距離ならギリギリ聴こえるかしら?



『全く、嫌になりますよね。こんな何もない場所で今更巡回なんて。生きてる人間がいなけりゃ死んだゾンビだって居ないじゃないですか』


『まぁそう言うな。何もないに越した事はないし、別の部隊はこの辺に残された我々自衛隊の物資を回収する為に動いている。その部隊の作戦が滞りなく終える為にもこうして辺りの見回りをするのも大事な事さ』


『なんですかね。まぁ、急にゾンビに囲まれて乱戦するよりは断然マシですけどね』


『はははっそうだな。……っと、そろそろ定時連絡の時間だな。本隊に異常無しと伝えておいてくれ』


『分かりました』



 大丈夫そうね。

 この距離なら何を喋っているかハッキリ聴こえるわ。

 それにしても、彼らによるとこの辺りには彼ら以外の部隊が展開していて、しかも残された物資を回収しに来ているらしいわね。

 多分、私達が狙っている物と同じ物なのでしょう。

 少し厄介な事になってるわね。

 武装した自衛隊とかち合えば私達が惨敗するのは目に見えている。

 彼らと遭遇する前に早いとこ物資の回収が水先達との合流を急がないといけないわね。



「錬治、この人達は放っておいて先に行くわよ。後手に回ると計画自体が失敗するわ」


「分かりました。……ん?」


「どうかしたの?」


「いや、なんだか奇妙な足音が聴こえるんですよ。人間が歩く速度にしては素早く、死還人ゾンビのようなふらついた足音でもない。それもかなりの近く……あいつらの前です!」


「え?」



 蓮治がそう言って指を刺した先には例の獣型の原始解放をした1体の死還人ゾンビが3人の自衛隊員に向かって急速に接近しているのが確認出来た。

 私が視認した時には自衛隊員達と獣型の死還人ゾンビとの距離は目測で100数mはあったというのに、瞬きをして一瞬目を離しただけでその距離は10数mにまで詰められていた。

 この速度はちょっと不味いんじゃないかしら……?

 私達でも対応できるか分からないわね。



「あれは何だ!?ゾンビ共の仲間か!?」


「分かりません!未知の生物です!」


「こちら第86小隊所属田中!未確認生命体アンノウンと遭遇!指示を!」



 自衛隊員達は目前に迫る死還人ゾンビに気が付いたようで、原始解放をした死還人ゾンビのその異様な容姿を見て一度は恐怖に身を支配され、所持している銃火器で戦おうともせずにその場から逃げる事を選択するけど、あまりの速度に逃げる事は困難だと判断したリーダー格の男が応戦するように指示を出す。

 咄嗟の判断にしては正解の道を選んだと言えるわね。



「駄目だ!追いつかれる!発砲許可を出す!己の命を第一に身を守れ!」


「でも弾がもう!」


「限りある物資でも、俺達が死ねば無駄になる!なら、惜しまず使え!田中もだ!本隊と連絡はもういい!応戦せよ!」


「了解!」



 3人の隊員は背負っていた小銃を構え、死還人ゾンビに向けて発砲を開始する。

 いくら常識外れの速度を有しているとしても、銃弾の発砲速度には完全に対応しきれてはいないようで、それなりの数の銃弾を回避はしているけど何発も避けきれずに被弾しているのが分かる。

 そして、被弾をする毎に動きが少しずつ鈍くなっていき、苦しそうに叫び声を上げながら辺りをぐるぐると回るように逃げ惑う。



『グギィィィィィァァァァァァ!』



 そして断末魔のような甲高く、酷く不快な叫び声を上げると獣型の死還人ゾンビは力なく地に伏せて動かなくなった。



「やったか?」


「いえ、まだです!」


「グ……ギ……!」



 完全に活動を停止したと思ったのだけど、まだ活動限界を迎えていないようで、被弾してボロボロになった筋肉を無理矢理動かして少しずつ前へと進み逃げようとしているけど恐らくそれは叶わない。

 原始解放をした死還人ゾンビがどれくらい体内にウィルスを内包しているのかは調べてみないと分からないけど、あれだけ被弾して身体中に穴が空いて体液が漏れ出ていたら、活動するのに必要なウィルスが体外へ排出し切るのも時間の問題。

 遅かれ早かれ、あの死還人ゾンビはじきに動かなくなるわ。



「隊長。こいつが何かは分かりませんが、ここで止めを刺しておくべきです」


「私も伊藤の意見に賛成です」


「……コレが何か分からない以上、生け捕りにして本隊へ連れ帰るのが理想なのだろうが、コレは生け捕りにして運び出すのには余りにもリスクが大き過ぎる。責任は私が負う。私の判断で、コレを殺そう」



 でも、そんな事は分からない自衛隊員達はその場で息の根を止める事を選択する。

 正しい判断ね。無理に連れて帰って研究するよりも、その場で処分した方が安全を維持する為のリスクはかなり軽減される。

 基本的にはどの死還人ゾンビも脳髄を傷つけられれば生きた人間と同じように動く事は出来なくなるから、恐らくその事だけは経験上知っているであろう3人のリーダーらしき男は手に持っていた小銃の銃口を死還人ゾンビの額に向けて発砲する。

 銃弾を脳に撃ち込まれた事で何度かビクンビクンと身体を痙攣させた後、力なくうなだれてそのまま活動を完全に停止した。


 とりあえずこれで彼等にとっての脅威はこの場から完全になくなったのかしら?

 だとしたら、いずれ彼等も先に進んでここから居なくなるでしょうし、下手に動いて見つかるよりかはこの場を動かず彼等をやり過ごした方がいくらか安全は確保出来そうね。

 彼等の様子を伺い過ぎたからもしかすると後をついて来ている鈴達との距離はかなり近づいてしまっているかも知れないけど、見つかった時のリスクを考えれば……

 何、あれは?



「錬治、見える?」


「コンテナ……でしょうか?トラックとか電車がよく運んでいるような物と同じように見えますが」


「そうね。多分同じものよ。でも、さっきまでコンテナなんてあの場所に無かったわよね?あんな目立つ物、見過ごす筈がないし」



 考え事をしていた私の視界に入ったのは、赤茶色っぽい塗装が施された長方形のコンテナ。

 場所は、さっきまで彼等が死還人ゾンビと戦っていた所からほんの数百m離れた開けた道の上。

 当然ながらどこかの建物が崩れて偶然その場所に転がってきたという事はありえない。

 もしそうならかなり大きな音がする筈だから、私や錬治は勿論の事、彼等も気づかない筈がない。

 となると誰かがアレを持ち込んだという事になるけど、重機が使われた痕跡はないし、それを使った場合もそれなりの音がする筈がだから絶対に気づく筈。

 ……嫌な感じね。また何か予想外の事が起きる気がしてならないわ。



「隊長、後方数百mに未確認のコンテナがあります先程まであんなものはありませんでした。近づいて中を確認してみますか!?」


「何故あんなものが突然……!?待てまだ近づくな!扉が開き始めている!!」


「な、なんですかアレは!!!」



 嫌な予想は当たるものね。

 コンテナの中からは数mはあろうかという巨体の何かが這い出て来た。

 背中には無数の触手。

 身長もさながらだけど、背中の触手はもっと異常。

 コンテナから完全に出ると、触手を勢いよく振り回して周囲の建物を次々に破壊していく。

 なんてデタラメな力。

 あんなもので薙ぎ払われたらたまったものじゃないわ。


『化け物の次はまた化け物だと!?弾はまだ残っているか!?』


『殆どありません!』


『自分もです!』


『……っ!不必要な装備は捨てて全力で逃げるぞ!走れ!』



 自衛隊員達は必死の形相で装備を捨てて出て来たアレから逃走を図る。

 弾薬は尽きかけて、他の死還人ゾンビと死闘を繰り広げて疲労を溜めている今無理に戦おうとせずに命を優先にこの場から逃げ出す事は合理的だとは思う。

 けど、合理的な判断が必ずしも正解とは限らない。



『隊長!奴の歩く速度なら逃げられますよ!』


『無駄口を叩くな!黙って前へ進め!』



 アレの繰り出す攻撃の破壊力は凄まじいものだけど、力がある分速度は秀でているとは言い難い。

 実際アレの走る速度より自衛隊員達が走るほうが遥かに早い。

 けど、改造された死還人ゾンビの力は通常の人間の常識を遥かに凌駕する。

 かつてアレと同じような触手を持つ女の子の戦闘を間近で見ていたから良く分かる。



『かっ……はっ……!?』


『『隊長!?』』



 アレは膝を抱えてアルマジロのように丸くなると、背中にある触手を前方へ加速的に伸ばすと隊長と呼ばれる男の身体を的確に貫く。

 その男の口からは多量の血が吐き出されていて、生身の人間では助かる事が出来ないのは明白だった。



『俺に……構うな……!今が、チャンスだ……動きのない、うちに……進め……!……っ!』


『……!』


『くっ……!』



 己の死期を悟った隊長の男は残された2人に檄を飛ばし、自分を見捨てて先へ進むように指示を出す。

 それが納得出来ないと言わんばかりに残りの2人は名残惜しそうにノロノロと動き出すけど、あの怪物はそんな事は知った事じゃないと言わんばかりに丸めていた体を元に戻すと少しずつ距離を詰め始める。

 残りの2人はどうやら覚悟を決めて隊長の男をその場に残しどこかへ逃げていった。



美桜みおさん、アレはちょっと不味いんじゃないですかね?」


「言われなくても分かってる。アイツはかなりの化け物よ。普通に戦っても勝てるかどうか分からないわ」


「いやそれもそうなんですけどね、それ以前にほら、見てくださいよ」


「!」



 錬治が指差す方向にはあの化け物が出てきたコンテナが1つ。

 ……だけの筈だったのに、少し目を離した隙に更に4つが増えていた。

 嘘でしょう?あんなのが全部で5体出てくるって言うの!?



「不味い、なんてものじゃなさそうね。作戦は中止よ。鈴達と合流するわよ!」


「はい!」



 後方に位置している鈴達の元へ戻ると、どうやら鈴達もアレらの戦闘を目撃していたようで表情が強張っている人が殆どだった。

 けど、それなら説明の手間が省けるから状況を飲み込んでもらいやすい!



「鈴!皆んな!」


「鈴!無事か!」



 鈴達がアレ以外に後方に控えている化け物の存在も気づいているかは分からないけど、今はこの場から離れる事が先決よ。



「話は後よ!私達について来て!」


「お、おう!分かった!皆んな!行くぞ!」



 私達はそうしてまたしても倒壊しかけているビルに逃げ込み、現状の把握と情報共有を行う事にした。

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[一言] 転送装置を例の企業が開発していたのか、或いは隠密性に長けたやつにこっそり運ばせたのか 前者なら脅威、後者は絵面はシュール
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