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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
87/150

私って……? 美桜side

「…………」


「…………」



 鈴達と分かれてから十数分程歩いているけど、私も錬治も一言も喋らず黙々と前へ進んでいる。

 ……おかしいわね。話す事ならいくらでもある筈なのに、何故か言葉が出てこない。

 別に錬治の事が嫌いだから話したくない、という訳ではないし、何かあったから話しかけるのが気まずいという事でもない。

 何かしら、この妙な空間は。

 私が変に意識しているだけ?普通の人ならこれが普通なの?

 いやでも、鈴が前の戦いで倒れてからはしばらく話せるのは2人だけだったし、その時は普通に喋ってた。

 今と何も変わらない。

 ……んー?

 変ね。変よ。何が変とはハッキリ表現出来ないけど、何かが変よ。


 ……そう言えば私、今までに2人っきりで誰かと過ごした経験ってあったかしら?

 物心ついた時から勉強勉強で子供の頃から大して友達を作らなかったし、そのせいで基本的には1人で過ごす時間が多かった。

 小中高大と学年が上がるにつれ、積み重ねた努力のおかげで勉強や知識の面では誰よりも上をいっていたし、それ故に私のレベルに合う友達も限られていた。

 そんな人達でさえ、2人っきりでどこかに行く、という事はなかったし、基本的には複数人で遊んだり研究をしたりする事が主だった。

 神農製薬に入社してからもそう。

 与えられた課題をこなし、その傍らで自分の研究を進めるうちに1人で居るか、複数人でいるかのどちらかだったから場所は変われど私を取り巻く環境自体はそこまで大きく変わる事が無かった。


 ……という事は。

 いやぁ……え?そうなのかしら?

 違うと言いたいけど、違うと否定するにはあまりにも状況証拠が揃い過ぎているような……

 あぁ、駄目ね。研究者として1番可能性の高い考察を自分にとって都合が悪いからと切り捨てるのは良くないわ。

 認めざるを得ないわね。

 私自身、今の今まで気づく事は無かったけど、間違いないわ。

 私、誰かと2人っきりの状況に限ってはコミュ障になるみたいね。

 何を話していいのか分からないし、そもそも話していいのかも分からない。

 ここがせめて研究室で、相手が部下や後輩なら次の指示を与えて誰かが来るのを待ってやり過ごせばいいのだけど、今は勿論そんな状況下にない。


 後ろには鈴達が控えているから戻って誰か1人だけでも連れてきてもいいのだけど、流石にそれは体裁が悪過ぎる。

 私コミュ障だったから誰か来てーって、そんな情けない事言える訳ないじゃない。



「……ふふっ」


「どうかしましたか?美桜さん」


「あぁ。いや、ね?ちょっと面白い事に気づいちゃって」


「?」



 でもそうね。

 だからどうしたのと自分で自分に問いたいわ。

 確かに私は2人っきりで誰かと居る事が苦手だけど、それならそれで克服すれば良いじゃない。

 誰にだって苦手なものはあるし、それは避けようのない事。

 当然、苦手な事から逃げ続ければそれはいつまで経っても改善しないし、自然にどうにかなるなんて事もあり得ない。

 だったらやる事は一つしか無いじゃない。



「私ってさ、誰かと2人っきりで居るのが苦手みたい。なんかこう、喋りにくいというか、話しにくいというか。生前は1人で居るか複数人で居るかのどちらかだったから、2人だけの場合どんな感じで人に接していいのか分からないのよ」


「へぇ。普段の美桜さんからは想像もつきませんね」


「でしょ?私だって今初めて自覚したんだから。で、私思ったのよ。苦手なら苦手って事を受け止めて克服してやろうって。だから錬治、少し私の治療に付き合って貰うわよ」


「治療だなんてそんな。普通に会話をするだけでしょう?そんなのいつも通りですよ」


「えぇそうね。いつも通りね。でも、それが難しいの。少し分かり難いかも知れないわね」


「かも知れません。……でも、もし美桜さんが誰かと2人で居る事が苦手だったなら、これまでどうしてたんですか?」


「これまでって?」


「ほら、俺達にあの場所で出会う前は鈴と2人っきりで旅をしていたんでしょう?鈴は大丈夫だったんですか?」


「言われてみれば……」



 それもそうね。大して意識をしていなかったけど、鈴と2人っきりになる時間はこれまで沢山あった。

 拓也や他の死還人ゾンビと出会う事はあったし、生きた人間に出会う事もあったけど、鈴と行動を共にし始めた時間を考えれば一瞬の事。

 鈴と2人っきりで居る事の方が長かったのに、別に何とも思ってなかったわね。



「もしかして、鈴に恋とかしちゃってます?」


「まさか。あり得ないわ。特別な仲間意識は持ってるけど、1人の異性として見る事はないわ。鈴もそうでしょうし」


「なら……」


「いいわ。別に。その辺の事は考えなくてもいずれ分かる筈よ」


「そんなものでしょうか?」


「そんなものよ。別に、私が誰と居たら苦手意識を持って、誰と居たら苦手意識を持たないかなんてどうでも良い事だもの。これからその苦手を克服するんだから」


「それもそうですね」


「えぇ」



 とは言え、別に心当たりが無い訳じゃない。

 けど、わざわざそれを口にする必要もない。



「さ。話している間に少しペースが遅くなってきているわ。さっさと進んでスムーズに事を終わらせましょう。勿論、周りの警戒も怠らずにね」


「はい!」



 いつかそれを話す日が来るのかは分からないけど、今は頼れる仲間2人に囲まれて幸せだと言う事を噛み締めていましょう。

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