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「さて。それじゃ大体の話は皆んな聞いていたから改めての説明は必要ない。今俺達が欲しいのはまず、あの化け物がどういった存在なのかだ」
スマホに録画されていた奇妙な生物。見た感じは神崎の原始解放をさせられた人間に見えたけど、体毛が生えてたり角があったりと微妙な差があった。
直感的には神崎の研究成果の1つなんだろうけど、完全に同一と言う訳でも無さそうだから美桜の意見も聞いておきたいな。
「まぁ端的に言えばアレは元人間よ。生きた人間に死還人の体液を与え続けると、細胞が変異して人間がかつて持っていた身体的特徴を呼び起こす作用が生じるみたいなの。とある男はあの姿を原始解放と呼んでいたけど、本質は人間を理性なき獣にするだけの野蛮な失敗作よ」
「人間を獣のように変質させたのがアレなのか……じゃあ古代の人間には角も生えていたのか?」
「いや、恐らくそんな事はないわ。未だに発掘される古代人の遺骨やこれまでの人類の進化の軌跡を考えても、人の額に角が生えるなんて事はまずあり得ない。あの化け物の歪な容姿は後から手が加えられたモノであると考えるのが正解よ」
「それがケリー・ハイルって子供の仕業なのか?」
「ほぼ間違いなくね」
美桜の考え方だと、原始解放した人間の身体に本来なら有り得ない筈の身体的特徴が追加されているからケリー・ハイルって子の仕業だと考えたのか。
……ん?そう言えば、他の6人の幹部がどんなテーマを元に研究をしていたか聞いたけど、その子の研究テーマはまだ聞いてなかったな。
「美桜。ついでだから1つ聞いてみたいんだが、そのケリー・ハイルって子はどんな事を研究していたんだ?」
「あぁそう言えばまだ言っていなかったわね。あの子の担当分野は《幻想上の生物の再現》よ」
「幻想上の生物の再現?ペガサスとか、ドラゴンとか?」
「まぁそんな所ね。馬に翼を生やして空を飛ばせる事が出来たらそれはペガサスになるし、トカゲを巨大化させて翼と炎を吐く能力を与えてやればドラゴンになる。あの子は人為的に生物を改造する事で幻想上の生物を作り出す事を研究していたわ」
「へぇ……」
中々夢のある話のようだけど、神農製薬が絡んでいる以上まともな話ではないんだろうな。
「その幻想上の生物ってのはどこまで実現してたんだ?まさか本当にペガサスやドラゴンが再現された訳じゃないんだろ?」
「まぁ普通に考えてそんなの無理よ。出来る訳がない。勿論それを可能にする為の研究なんだけど、あの子の研究の本質はもっと別の所にあった」
「というと?」
「端的に言えば人体改造による強力な兵士の増産よ。普通の人間に、象の強靭な皮膚、熊の強力な筋力、虎の俊敏な脚力とかそう言ったあらゆる生物の良い所を寄せ集めて改造した人間は人の知性に獣の暴力を得た最強の戦闘マシーンになる。それを各国の紛争地に派遣して……っていうのが実状だったみたい」
なるほど。確かに人間が獣の力を得たら普通の人間には太刀打ちが出来そうにない。
そんな人間が兵士として増産された日には地球全体のパワーバランスも崩れてきそうだ。
改造された人間と普通の人間で対立もあり得たかもしれない。
改造された人間が一国を落として国のトップが成り代わる、なんて事件も起こり得たかもしれないな。
「それはまた随分と凄まじい研究だったんですね。その改造された兵士っていうのはどのくらいの人数が居たのか美桜さんは把握してたんですか?」
「どうかしら。100人は改造し終えたとは聞いていたわ。そのうち8割以上が海外に派遣されたとも。その話を鵜呑みにするなら100人中20人近くはまだ日本に居るって事になるけど詳しい数までは分からない。あくまでも推測よ」
「そう、ですか」
「ただまぁ恐らく今回はそういった正規の改造人間は居ない筈よ。あくまでも私の勘だけど、もし日本にその改造人間が居たとして、その指揮権がケリー・ハイルや他人間にあるとしたら、こんな本社から離れた辺境の地に持ってくるより本社かそれに近い拠点の警護に当ててる筈よ。少なくとも私ならそうする」
それもそうだよな。そんな海外にまで派遣出来るような人間をわざわざこんな所まで連れてくる必要もない。
ましてや、その人達は生きた人間に死還人の体液を投与された意思なき化け物じゃなく、しっかりとした意思疎通が取れる人間なのだろうし。
今のこの世の中じゃ普通の銃火器以上に貴重な戦力だろう。
「だから当面私達が警戒するべきなのはあの獣型の化け物よ。元は人間だけど、ああなった以上意思も記憶も何もかも失っているだろうから奴らを排除する事に躊躇いは必要ないわ」
「元々あんな化け物相手に躊躇う気持ちなんざサラサラないが、実際の戦闘力はどれくらいあるんだ?」
「実の所、普通の死還人と力自体はそんなに変わらないのよね。ただ瞬発力はかなり上がっているから複数体に囲まれたら翻弄されないように気をつけて。一応槍のような武器を持っていたら1人1体くらいなら対処出来る筈よ」
実際美桜は神崎に操られていた奴らを担架だかパイプ椅子だかの棒を槍のように扱って制圧していたもんな。
美桜の戦闘力が高かったのか、奴らの戦闘力が低かったのかは分からないけど、側から見ていた僕としてもそこまで強そうには見えなかったから案外1人で1体は案外どうにかなるのかも知れない。
勿論、油断は出来ないけど。
「そうか。なら安心……」
「ただ」
「ただ?」
「それはあいつらが私と戦った時の個体と同じ過程で作られた場合よ。さっきも言った通り、ケリー・ハイルは人体改造のプロ。実際妙な改造が施されているのは確認済みだし、私が戦った時もあの男は未完成だと言っていたから、もし奴らの変異と改造が完全なものだとしたらその脅威は未知数よ。下手をしたらここに居る人全員で束になっても勝てないかも知れないわ」
「そんなに、なのか?」
「可能性が0ではない以上、警戒するに越した事はないわ。いくらなんでもそこまで出鱈目に強化されているとは思わないけどね」
そういえば神崎もあの時まだ未完成の〜とかどうとか言ってた気がするな。
もしあれが完成していたとしたらどんな風になっていたんだろう。
制御が不能なだけで、完成体自体は多分居たんだろうけど、それはあの時神崎の制御装置で地下に鹵獲されていた普通の死還人達が僕達の知らぬ間に倒してしまってたから結局どんな奴なのかは分からないし。
少し不安だな。
「まぁとりあえず私から言えるのはそれぐらい。後は実際に目で見て直接確かめる他はないわ」
「そうか……よし。じゃあ次は先陣を切るグループと後衛を務めるグループに分けよう。比較的動ける者は……」
「あぁ別にその必要はないわよ?」
「どういう事だ?」
「先陣は私と錬治と鈴の3人で切るから。ね?」
「俺は別に構いませんよ」
「え……僕も?」
「何?嫌なの?」
「出来れば働きたくないし動きたくない」
「あぁ……すっかり忘れたけど本来のあなたはニートだものね。いいわ。じゃあ鈴はそのまま東達と一緒に居て」
「了解」
美桜の話を聞く限り、どう考えたって先陣を切ったグループが例の化け物と戦闘になる可能性が高い。
僕としてはそんなリスクは負いたくないしら出来れば避けたい。
僕達3人だけと言わず、もっと大勢でグループ分けするなら何かあってもその人達に紛れてこっそり後ろで楽すればいいやって考えてたけど、そうじゃないならわざわざ危険を冒す事はにないもんなぁ。
「訂正。私と錬治の2人で先陣を切るわ。あなた達は私達の後ろに着いて周囲をしっかり警戒してて」
「2人で大丈夫なのか?俺と花木もそこそこ戦えるぞ?」
「見た目はか弱そうな女の子だけど、私だってしっかり戦う術は持ってるんだから頼って貰える方が嬉しいかな?」
「だからこそ、かしら?あなた達は確かに強いのかも知れないけど、実際に誰かと戦った経験がある訳じゃないでしょう?それも、普通の人間じゃない異形の姿をした化け物達なんかは特に。私達はここに来るまでに多くの異形の存在と戦ってきたわ。だから基本的にはどんな相手でも動じないし、対処もそれなりに出来る。けど、そうじゃないあなた達がいざ対峙すると予想不可能な事態に陥る可能性がある」
「それはまぁ、そうかも知れないが……」
「端的に言ってしまえば足手まといなのよ。だから急に実戦に臨むのではなく、1度私達の立ち回りを見て学んで、それから各々が動いて欲しいの。余計な時間と犠牲を減らす為にもね」
「ん……そう、か。そうだな」
「決まりね。先陣は私と錬治の2人、後の全員は私達の後方数十mをついてきて。本人の要望もあって鈴もその中に置いていくけど、いざってなった時には頼りになるから安心して。普段はやる気が全く無いけどやる時はやる男だから」
失礼な。僕はいつだってやる気だぞ。
って、言うのも面倒だし今のままのが僕にとっては都合が良いから黙っておこう。
美桜と錬治の2人ならまず誰にも負けないだろうしな。
「それじゃそれでいいかしら?一応あなた達の意見も聞いておきたいんだけど?」
「いや、俺は天祢さんの言う通りにしよう」
「私も。特に言う事はないかな。他の人達も同じ気持ちよ」
「そう。それじゃ行きましょう」
……なんだかんだ美桜が全体を仕切ってる辺り、口ではああ言っても本人の性格的には人を導く指導者の才能があるんだろうな。
僕には到底真似できそうにない。
今回は事が事だけに頼れるリーダーは必要そうだし、それが美桜なら僕も従いやすい。
あんまり働きたくはないけど、今回も頑張るか。




