どこかで見た事のある化け物です。
「……花木、班員は全員揃ってるか?」
「ちょっと待ってね。1、2、3……えぇ大丈夫よ。20人全員揃ってる」
「……そうか」
僕達は今、ビルの15階にある少し広めの会議室のような場所に居る。
長机やパイプ椅子が雑に散らばっているけど、それでも僕達全員が入った所で手狭に感じない程度の広さがある。
おまけに窓は一面ガラス張りになっていて、余計な物が無いから街を一望出来る作りなっている。
世界が壊れる前だとさぞかし良い景色が見えたんだろうなぁ。
今はあちこちが破壊されて見るも無惨な状態になってるからお世辞にも良い景色とは言えない。
……っと、そんな事はどうでも良い。
東に何故後退を始めたのか聞かないといけないな。
「東、先頭の方で何があったのか教えてくれないか?僕達は何がなんだかさっぱりなんだ」
「あぁ。勿論すぐに説明しよう。他の皆んなも少し俺の周りに集まってくれ」
他の人達も気になっていたのか、東がそう声をかけると全員が東を中心に円を描くようにして集まった。
「花木、さっきの奴の写真は撮れたか?」
「勿論。ほら」
「皆んなも見てくれ。俺はコイツに対して只ならない異常さを感じた。人のようだが、獣にも似た説明の付かない生物。あまりの気味悪さに無闇に接触するよりかは一度引いて皆んなの意見を聞いた方が良いと思ったんだ」
そう言って花木から受け取ったスマホには、四つん這いになっている黒く毛深い体毛に覆われた人のような生物が写っていた。
臀部からは尻尾のようなモノも伸びている。
これってもしかして……
「美桜さん、こいつは一体?」
「錬治が私達の仲間になる前の話だから知らないだろうけど、私と鈴は少し心当たりがあるわね」
「うわぁ……やっぱりかぁ。また面倒な事になりそう」
「君達はこいつの正体について何か知っているのか!?もし知っているのなら是非とも教えてくれ!」
僕達の反応を見て東が食い気味に問い詰めてくる。
まぁ、気になるよね。
「美桜、説明頼む。多分僕が説明するより美桜の説明の方が分かりやすいと思うから」
「あら。嬉しい事言ってくれるわね。それじゃ私の方から説明させてもらおうかしら。……と言ってもまだ予想の域を出ないから話半分に聞いて。多分ほぼ間違い無いとは思うのだけどね」
「なんでも良いさ。何も情報が無いよりは良い」
「そ。じゃあまずは写真の化け物について説明させて貰うわね。コレは元々は普通の人間だったのだけど、生前に死還人から採取した血液を少しずつ投与される事で変異してしまった人間でも死還人でも無い意思なき化け物。ある男はこの姿を人間が本来持っていた古代の姿を取り戻した様として、原姿解放と呼んでいたわね」
やっぱりあれは以前戦った神農製薬の幹部の1人である神崎が作った化け物か。
若干姿形は違うし、ここまで毛深くはなかったけど美桜も同じ意見なら間違いないのだろう。
コイツの力は僕達からすれば大した脅威ではないけど、死還人の限界が外れた力の上に獣のような俊敏さは戦い慣れてない普通の人からしたらかなりの脅威な筈。
一体だけなら僕達3人でどうにか出来るけど、複数体いたら厄介だなぁ。
「原姿解放……?アレは人が作った存在なのか?」
「命を冒涜する外道の所業だけどね。アレは間違いなく人の手で作り出された存在よ」
「なんてこった……!あんなのが元々は生きた人間だなんて信じたくないな。死還人よりよっぽど酷いじゃないか」
「えぇそうね。その通りよ。でも不思議だわ」
「何がだ?」
「アレを作った張本人……元は神農製薬の幹部だった神崎という男が元凶なのだけど、その男は既に私達が殺した。あの男が作り出した他の化け物もその時全滅したから本来ならアレが存在する筈ないのよ」
そうだな。
あの時神崎は美桜に喰われて絶命してしまったし、他の連中は僕達が倒したし最高傑作だと吹聴していた奴らも神崎に支配されていた普通の死還人に倒されてしまった。
実は地下にまだ目覚めてない奴らが居て、そいつらが目覚めて地上に出てきたって話なら有り得なくもないけどそんな事ある?
いくらなんでも都合が良すぎないか?
「だが、現にあの化け物は居た訳だし、だからこそこうやって写真に収められた。実は良く似た別の化け物って事は考えられないか?」
「可能性はゼロじゃないわ。あくまでも写真を見ただけで判断した憶測だから。ただ、こんな事が出来るのはあの男以外に居ないだろうし、死還人の血液を与えると言っても他にも手順が必要な筈だから自然発生する事も考えにくいのよ」
「じゃあその神崎という男が生きているという可能性は?」
「それは絶対に無い。誓っても良いわ。あの男は間違いなく死んでいるわ。死還人にだってなってない」
「……そうか。となると結局今の段階じゃ正体は分からない、か」
実際に神崎がどんな感じで生きた人間に死還人の血液を与えていたのかは知らないけど、それでもただ毎日少量ずつ血液を与えるだけなんて事はないだろう。
あんなに高らかに勝利宣言をしていたんだ。
誰にでも出来る方法であんなに得意げになっていた訳じゃないだろうし。
「なぁ美桜さん、話の腰を折るようで申し訳ないんですが、少し写真のここを注目して見てもらっても良いですか?」
「どこ?」
「頭と背中と腕の部分です。こいつ、何か着けてないですか?」
どれどれ?
……あ、本当だ。頭には何か漫画で出てくるような、人質を洗脳する為に頭へ電流を流す為の鉄網みたいなヘルメットと、背中と腕には銃のような物が装着されている。
それに……なんだこれは?おでこの辺りからツノのようなモノが一本生えているように見える。
「着けてるわね。ヘルメットと、これは銃かしら?それに、おでこに一本のツノ。……そう。そういう事。気味が悪いとは良く言ったものね。正にその通りだわ」
美桜が一人で納得している。
何か分かったのか?
「何か分かる事が他にもあるなら教えて貰ってもいいか?」
「ええ勿論。でもちょっと待って貰えるかしら?一応私の仲間に先に相談してみたいの。鈴、錬治、少しいいかしら?」
「ああ」
「どうしました?」
美桜は僕達2人を連れて一度部屋の外へ出て、向かいにある誰も居ない部屋へと移動して人払いをした。
そんなに聞かれたくない内容の話なんだろうか?
「少し、厄介な事になりそうだわ」
「と言うと?」
「前に戦った久野を覚えているかしら?」
「忘れるもんか。あの触手の少女だろう?」
「俺達の仲間を殺した張本人です。忘れる訳がありません」
僕達は以前、久野菜絵という少女と戦った事がある。
彼女は友人や家族を喪い、そのきっかけとなった神農製薬を酷く恨んでいて、その会社の幹部だった美桜にも見境のない恨みをぶつけようとした為に戦う事になってしまった。
彼女は幼いながらに強力な武器を手に入れていて、それが彼女の背中に生えていた4本の触手だった。
普通の人間ならばそんなものは絶対に自然に発生しないから、誰かに何かをされたのだろうけど、結局それは一体何だったのか分からずじまいだった。
ここで久野の名前が出てきたという事は、もしかすると何か関係があるのだろうか?
「あの子は背中から自在に操れる触手を生やしていた。勿論、普通の人間ならどんなに努力をしようと自然に触手が生えてくる事はない。でも、手術をする事であぁいった生物として不自然な要素を加える事の出来る子を私は1人だけ知っている」
「……また神農製薬の幹部か?」
「えぇ。神崎が外道の極みならその子は非道の極みと言った所ね。人を人として見ていない鬼子のような子よ」
「美桜さんのその良い方、まるでその人が子供のように聞こえるのですが?」
「えぇそうよ。その子の名前はケリー・ハイル。齢12歳にして医師免許を取得した所謂天才児。飛び級で海外の大学を卒業した後、本人の強い希望もあって極秘裏に神農製薬に勤める事になったの。それが今から大体3年前くらいかしら」
「ちょっと待って下さい。では神農製薬は未成年を医者として雇っていたのですか?」
「だから極秘裏に勤めるって言ったの。日本の法律的に未成年を医者として雇うのは問題があるし、医師免許の取得は最短でも24歳だからいくら知識と技術を持ち合わせていても、そんな子供を雇ったという事を公にするのは世間的にあまりよろしくない。だから表向きは製薬に興味を持った未成年に特例として社内を自由に歩き回る許可を与えただけって事になっていたわね」
12歳で医師免許か。
世の中には頭の出来がずば抜けて良い人がいるんだな。
僕とは大違いだ。
「でも、その子は医師として神農製薬に勤めていたのですよね?なら診察とか手術とかもやっていたのでは?」
「まさか。流石に神農製薬もそこまで馬鹿じゃないわ。そもそもウチは製薬会社であって病院じゃないから診察も手術もしないわ。表向きにはね。あの子は神農製薬が抱える後ろ暗い闇の部分で主に活動をしていたわ」
「それは聞いても大丈夫な話ですか?」
「勿論。と言うより聞いておいて欲しいわ。これから先、あの子と接敵する可能性も無い訳じゃ無いからあの子がどんな人物なのか知っておいて欲しい」
「分かりました。なら深くは考えずお話を聞きます」
美桜のこの物言いだとケリー・ハイルという子供は随分と厄介な人物な感じがするな。
神崎といいその子といい、神農製薬にまともな人間は勤めていなかったのか。
はぁ……なんだかまた面倒な事になりそうだな。




