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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
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決意

「まず、大前提としてここにいる者達は全員世界を滅茶苦茶にした神農製薬に強い憎しみを抱いている者達だということ。それが何を意味するか分かるかい?」



ここに居る全員が強い憎しみを抱いているのが何を意味しているか?

憎しみ……感情……そう言えば。



「……以前、鈴に聞いたことがあるわ。死還人ゾンビは基本的に何らかの感情が欠落している、若しくは1つの感情が強く暴走している者が殆どだって」

「そうだね。他には何か聞いた事はあるかい?」



他に聞いた事?

感情の欠如の事を言っているようでは無いみたいね。



死還人ゾンビは生前のように記憶をしっかりと持って行動することは出来ない。時間と共に記憶は薄れ、生前頻繁に行っていた行動を繰り返すようになる」

「それも確かな情報だ」



これでも無い、か。

それにしてもこの男、どこまで死還人ゾンビの事を知っているのかしら?

思わせぶりな事を言ってくる上に、言葉の1つ1つに抑揚が無さすぎて真偽を見極められない。

本当に知っているのか、それとも知っているフリをして私から情報を引き出そうとしているのか。

……分からないわね。

とりあえず今は私の知っている事を話すしか無いか。



「私自身、これまでそんな死還人ゾンビを沢山見てきたわ。そんな中、数少ない例外の死還人ゾンビが鈴だった。鈴は何故か意識と記憶をはっきりとさせて自律行動を為していた」

「私のように、か」



鈴も水先も見た目は大して他の死還人ゾンビと変わったような所は無い。

性格は、鈴が気怠そうな性格に対し、水先は真面目な感じの性格に思える。



「ええ。そして鈴と出会ってすぐにまた死還人ゾンビと出会った。その死還人ゾンビは鈴程正常では無かったけど、それでもやはり一般的な死還人ゾンビと比べるとかなり人間に近かった。そして錬治、彼もまた人間に近い死還人ゾンビ

「ふむ」



拓哉は今、何をしているのでしょうね。

あのままどこかでのたれ死んだか、まだどこかで細々と活動しているか。

まさかとは思うけど、私のメモを役立てる事の出来る人に会えたわけでも無いでしょうし。

……今なら彼とは上手くやっていけそうな気がする。

彼が今尚この世界に存在していたらの話だけど。



「そこで私はある仮説を立てたの。彼らはたまたま意識をしっかり持つようになったのではなく、必然的に意識をしっかりと持つようになったのではないかって」

「何故、鈴君達がたまたま数少ない例外の個体であったと考えなかったんだい?」



「不自然……なのよ」

「不自然?」



「ええ。死還人ゾンビになると普通じゃなくなるケースが殆どなのに、生前同様に自らの意識を持って行動が出来る事が」

「それなら新種、若しくは亜種かも知れない」



死還人ゾンビについては私達神農製薬の人間でも分かってない事が多い。

何しろサンプルになる個体がそもそもの話殆ど居らず、その個体もたまたまウィルスを投与した後に活動を再開したただのモルモットだったから人間とは勝手が違うのよね。

だからあくまで私達は鈴に話を聞くまではモルモットの観察データを元にした予想しか出来ない。


それ故どこかでウィルスが突然変異し、鈴や水先のような意識がハッキリとした死還人ゾンビが現れたのだと言われると、それを否定する証拠が無い以上私には何も言えない。

けど、



「まぁ、その可能性は否定できないわ。それを証明する証拠はないもの。でも、今はあくまでその可能性は無いとものとして仮説を立てるわ」

「分かった」



それはまた別の話。

今は私の考察としての話だからその話は他所に置いておく。



死還人ゾンビは元々全人類の夢である、『死者蘇生』を叶える為の薬を研究している際に偶然開発されてしまった失敗作の薬によって生み出される存在。死人以上、生者未満。それが死還人ゾンビ

「そうらしいね」



今考えると愚か、としか言いようが無いわね。

人の生き死にを死んだ後に操ろうなんて、おこがましいにも程があるわ。



死還人ゾンビが失敗作と呼ばれる所以は、その存在の在り方にある。思考や感情は失われ、生者を見れば襲いかかる。死人が動き出したからと言って、人を襲って生者を死還人ゾンビにしてまうのでは映画に出てくるゾンビそのもの。神農製薬はこの薬を即座に厳重に封印したわ」

「人間に試した事があるのかい?」

「ええ。私の知る限り、たった一度だけ極秘裏にね」



被験者は社長の奥さんだったわね。

過去に記録の無い新しい病気に罹患し、神農製薬の全技術を持ってしても救う事の出来なかった人。

哀しみに暮れた社長は現実を受け入れず、不完全な状態で完成していたあのウィルスを投与する事で奥さんを蘇らせようとした。


けど、結果は今回と同じ。

最初こそボーっとした感じで成功したかに見えたが、視界に生きた人間が入ると同時に死還人ゾンビ特有のあの身体能力で襲い始めた。


幸い奥さんは万が一の事を考え強化ガラスで仕切った部屋に隔離してウィルスの投与を行なったので犠牲者は出なかったが、それでも自分の身体を顧みず、強化ガラスに突撃してガラスに亀裂を入れた時は私を含め、その場に居た全ての研究員が戦慄した。


あれが決定打だったわね。死還人ゾンビには知性や意識が無く、人を襲うだけの化物って結論に達したのは。



「結果はどうだったんだ?」

「今の惨劇と一緒。強化ガラスを隔てた研究員を見るや否や襲いかかってきて、そのままガラスに激突してあっけなく行動不能になったわ」


「その被験者の処分は?」

「骨をも残さない程の高温で完全焼却。中途半端な火葬や別の薬品を投与して変にウィルスの中和を試みるよりはまだ安全そうだったから」



あの時の社長、見るに堪えなかったわね。

大事な奥さんを蘇らせようとしたばっかりに、骨さえも残してはならない状態になってしまったのだから。

恋人すら居ない私には到底理解出来ない悲しみでしょうけど……



「ならなんでその時一緒にウィルスを処分してしまわなかったんだ」

「単純な話、処分の仕方が分からなかったのよ。薬とは言え、媒介となるのはウィルス。空気感染するのか、経口感染するのか分からず、死人以外にも生者に効くのかも分からない。それこそ完全焼却しても安全だと保証されているわけでも無い。だから、そんなものを下手に処分して惨事になるくらいなら……と言うのが上の判断。私は間違っていなかったと思うわ」

「…………」



納得はいかないでしょうけど、それ以外に方法は無かった。

それに、社長を含め幹部や重役達が絶対に触れるなと言ってある薬品を誰かが持ち出すなんて頭をよぎりすらしなかったもの。

あれだけ厳重に保管されていて尚持ち出そうとしたのは……亡くした人への愛故なのかしら。



「話を戻すわ。私があなた達みたいな死還人ゾンビが不自然だと言った理由は、今言った思考や感情が失われて、と言う所にあるの」

「思考や感情が失われて、か。でも、私達以外の普通の死還人ゾンビでも思考や感情はある程度あるのではないか?」



あぁ。水先がさっき私に聞いた質問の意味。

話しているうちに分かって来たわ。



「そう。生前私達はそこを勘違いしていたの。あんな様子じゃ思考や感情は無いと決めつけていた。でも、実際は違った。どんな死還人ゾンビでも思考や感情はちゃんとある。ただそれをちゃんと伝える事ができず、弱ってしまっているだけ」

「そうだな」



普通の死還人ゾンビと鈴達のような死還人ゾンビの違い。

何故、そんな違いが出てくるのか。

何故、そんな違いが出ているのか。



「そこに来て鈴やあなたのような思考や感情がはっきりした死還人ゾンビが現れた。しばらくの間悩んだわ。何の違いがあってこんなことになるのだろうって。色々悩んだ結果、あなたを見て答えを導く事は出来た。間違っているとしても、正解だとしても」

「どんな答えなんだい?」



その答えは既に鈴達や水先が示している。



「強い感情。死ぬ直前、若しくは死還人ゾンビになった後に強い感情を抱いた者が比較的まともな死還人ゾンビになるんじゃないかって。例えば鈴で言えば自堕落な感情ね。ずっと何もせずにゴロゴロしていたいみたいな事を言っていたし。錬治であれば死の恐怖かしら?ここには居ない拓哉という死還人ゾンビは恋人に対する強い復讐心、そしてあなたは神農製薬に対する憎悪」

「ふむ」



全ては感情。

それがキーワード。

必然的に失う感情。後天的に強まる感情。

どうしてそんな中途半端な事が起こるのか。

初めこそ私はウィルスによる副作用や死んだ時のショックで感情になんらかの影響が出ているのだと思った。

けど、それは違う。



「強い感情が体を支配した時に限り、死還人ゾンビは思考や感情を失いにくく、普通に活動が出来る。それが私が導き出した答え」

「……ふむ。じゃあ私がさっきあなたに与えた質問の答えはもう出ているんだな?」



感情の一部が失われる理由。

それは、何か1つの感情を大幅に増幅させ、心に余裕を持たせる為。

そして、生者が強い感情を持ってして様々な奇跡を自力で引き起こすように、死人も強い感情を持つ事で新たな生を……死還人ゾンビとして再び生前のように活動する事が出来るという事。



「えぇ。一見普通の死還人ゾンビを装ってはいるけれど、実際は思考や感情がはっきりした死還人ゾンビなのでしょう?」



それが水先の私に対する質問の答え。

ここに居る全員が神農製薬に強い憎しみ……憎悪を抱いている。

それはつまり、憎悪という感情がほかの感情を殺して増幅していると言う事。

そうなると当然、私の仮説通りならここに居る全員、生前の意識と記憶を持つ死還人ゾンビと言う事になる。



「はっはっはっはっ!満点の答えだよ!あなたの言う通りだ!ここに居る全員、皆私のような死還人ゾンビだ。それはつまり、人智を超えた軍隊と同然になる。そこらの軍人では到底及びもしない戦力がここには揃っている」



どうやら私の仮説は間違っていたわけでは無いようで、水先は心底嬉しそうに笑っている。

でも、そんな事は関係無い。私にとって今大事なのは、水先達が私の目的にメリットのある存在であるかどうか。



死還人ゾンビによる軍隊によって神農製薬を叩き潰す。そう捉えていいかしら?」

「あぁそう言うことだ!これだけの数の死還人ゾンビが連携を持って戦えば敵無しだろう!そして少しでも戦力は多い越した事は無い!ましてや元神農製薬の幹部なら尚更だ!内部の事情についても詳しいだろうからな。どうだ?私達と共に来てくれはしないだろうか?」



 死還人ゾンビの軍隊。その卓越した身体能力を考慮し、神農製薬を潰すと言う目的だけを持って行動するのなら正直、悪く無い話だと思う。

水先の言う話はもっともだし、神崎のような敵が現れた時の事を考えると単独行動をするよりも水先達についた方がいいのは明確。

 ……鈴はまだ帰ってきてはないけど考える必要も無いわね。



「いいわ。私達もあなた達に協力するわ」

「おぉ!協力してくれるか!」


「でも、お互いに目的を達成した後の事までは知らないわ。あくまでも神農製薬に復讐を遂げるまで。それでいいわね?」

「勿論さ。私だってそんな先の事まではまだ考えていない。……よし。交渉成立だ。皆!新たな仲間に歓迎のエールを!」



 水先の掛け声で死還人ゾンビ達が一斉に歓喜の声を上げる。

 悪い気は、しないわね。



「さぁ。共にこれからの事について話し合おうじゃないか!」



 きっとこれでいい。

 単体で復讐を成し遂げるのが難しいと分かった今、この選択に間違いは無い筈。

 水先と上手くやっていけばきっと私の復讐も遂げられる。

 さぁ。

 これからの計画を練ろう。

 準備を万全に。

 待っていなさい。愚かな神農製薬。

 世界を滅茶苦茶にした罪を、必ず償わせてやる。

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