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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
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意識が…飛び…

「あなた…!葉崎はどうしたの?」


「んー?あの人はねぇ…知らない」


「知らない?」


「そ。知らないの。あんた達と別れた後も一緒に行動してたんだけど、途中で歩き疲れて日陰で休んでたらいつの間にか居なくなっちゃった。薄情だよね。あいつ。私のことを守ってくれるとか言ってた癖に勝手に居なくなるんだから」



 そこまで無責任な人間には見えなかったけど…こんな世界なんだ。何が真実か分かったものじゃない。案外、久野の本性を見抜いて別の場所に救援を要請していたりしてな。……可能性は低いだろうけど。



「ま。別にいいんだけどね。お陰で動きやすくなったし、必要な情報はある程度あいつから聞き出していたからね」


「必要な情報?」


「別にそんな機密性の高いものじゃないよ。あんた達も貰ったでしょう?この辺にある避難所をマーキングした地図」



 確かに葉崎から地図を貰ったな。ここへもそれを頼りに来たしな。でも、そんなものを何故久野が必要としたんだ?



「えぇ。貰ったわ。でもそれがどうかしたの?」


「私はこの触手を貰う時に誓ったの。この世界に対して復讐をしてやるって。だから手始めにこの辺りにある自衛隊が設営た避難所を襲撃してやったんだ。その地図にマーキングされていた場所よ。あははっ。本当はまだやるつもりは無かったんだけどね。我慢が出来なかったんだ!」


「…復讐?何か理由があるの?」


「無かったらやるわけないじゃん。馬鹿なの?あ、馬鹿か。世界をめちゃくちゃにしたクズ会社の社員なんだもんね。頭イカれてるとしか思えないよ。何なのあんた達。本当にさ」



 久野のこの言いようだと美桜に対しての恨み…神農製薬に対する恨みが爆発して暴れているように思える。でも、もしそうなら背中の触手はどこで手に入れたんだ?神崎みたいな前例がある以上、神農製薬ならあんな人体改造の技術を持っていても不自然では無いと思うんだよな。



「死ねよ。死ねよ。あんた達に生きる権利なんて無い。私の両親がどんな死に方をしたか教えてあげるよ。お父さんはゾンビに襲われかけた私を庇って守った時に肩を噛まれてしまった。それを目撃していた自衛隊の男がもう助からないから余計な被害を出す前にってふざけた事を抜かしながらお父さんを私の目の前で射殺したの」



 美桜曰く、死還人ゾンビに噛まれた人の発症率は100%で、それはつまり致死率100%を意味しているという。

 発症までの時間は個人差があるらしいけど、一度噛まれたら絶対に死還人ゾンビになって生きた人間を襲い始めるから被害を最小限に留めるって意味ではその自衛隊の男の行動は正しかったのかも知れない。

 けれど、それが最善の行動であったかどうかはまた別の話だ。



「お父さんを喪った私達は当てもなくフラフラとただ前に歩む事しか出来なかった。しばらくしてからようやく生き残った人達の集まりに合流する事が出来たけど、そこに辿り着くまでに足下の悪い場所を通らなければならなかったらそこで何度かお母さんは転んでしまった。その時に出来た生傷をあろう事かゾンビにやられたモノだと勘違いした連中は、私をお母さんと引き離して『ゾンビになる前に殺せ!』とか言って集団でお母さんを痛めつけて殺したの。……許せると思う?百歩譲って死が確定してしまったお父さんはともかく、何の罪も問題もないお母さんまで殺されたんだよ。自衛隊でも何でもない、普通の人達に」


「……ごめんなさい。謝って許されることじゃないのは分かってる。世界がこうなってしまったのは、一人の社員の暴走を止めることが出来なかった私達神農製薬の責任よ。あの時は私達が何としてでも暴走を止める事が出来ていれば普段と変わらない日常があった筈。……本当にごめんなさい」


「そんなことを聞きたいんじゃないんだよ。あんたらがどれだけ後悔した所で殺された家族は帰ってこない……!だからせめてお前達は死んで罪を償え!死んでから後悔しやがれ!その為に私はここに居る!私から大切な人を奪ったクズ共に復讐する為に!そうするだけの力をあの人は私に授けてくれた!!!」



 久野のバックにはやはり誰か居る。自在に操れる触手を久野に与えた誰かが。そいつを特定しない限りは、同じように触手を与えられた人が更に犠牲者を増やしていってしまう。

 強いてはいつかは僕達の目の前に立ちはだかって命を脅かす存在になるかも知れない。

 それだけはどうにかして避けたい。



「そうするだけの力、と言うのはその背中に生えてる触手のことかしら?」


「えぇそうよ!これのお陰で私に怖いものは無くなった!屈強な自衛隊員は速さで翻弄して殺した!雑魚の一般人が群れて襲ってきた時の数の暴力は一撃多殺で殲滅した!この力さえあれば私はお前達を一人残らず殺すことが出来る!さぁ来い!天祢美桜!楽には殺してやらない!痛ぶって痛ぶって声が枯れて喉から血が出るまで叫ばせてから殺してやる!」



 本来なら守ってもらうべき自衛隊に目の前で父親を殺された悲しみ、罪もない母親を自分と同じ一般人に殺された怒り。どれも僕には想像も出来ない程の苦しみだったのだろうけど、だからと言って僕も美桜も殺される訳にはいかない。



「女一人にその戦力差はズルいんじゃないか?詰めが甘いな。僕はまだ死んでいないぞ?何を早とちりしてはしゃいでいるのやら」


「ウーガー!(俺も無事だぜ美桜さん!ちょっと不意討ちを喰らって無様な姿を見せてしまいましたが、俺も参戦しますぜっ!)」


「なっ!?あんた達どうして生きて!?」



 残念ながら僕達は死還人ゾンビだ。

 多少身体を貫かれた所で死にはしない。



「……どちらも生きていないわよ。久野さん、あなたの苦しみは私にもよく分かる。でも、私だってこんな所で死ぬ訳には行かないの。私は世界をこんな風にしてしまった組織の元一員としてケジメを付けなければならない。だから、多少無理をしてでも大人しくして貰うわよ!」



 バン!バン!



 美桜の放った二発の銃弾が戦闘開始の合図になった。

 僕と錬治は左右両側から久野の間合いに詰め、美桜は正面から銃で攻撃をする。



「そんな事が出来る訳ないしあんた達はここで殺してやるからさぁぁぁ!大人しくし死んどいてよねぇぇぇ!!!」



 久野の背中から生えている触手は全部で4本。僕、錬治、美桜が一本ずつ相手にしても一本余ってしまう。だから、



「錬治!捨て身で触手に刺されろ!」


「ガーウア!(はぁ!?何言ってやが…了解だ!)」



 察しの良い死還人(ゾンビ)で助かる。



「馬鹿な奴ら!そんなに刺されたいんだったらグサグサ串刺しにしてやるよ!」


「くふっ…!」


「ガ(むっ…!)」



 僕と錬治の胸部にそれぞれ一本ずつ触手を刺してくる。

 若干の衝撃はあったが、痛みは無い。胸部を貫かれた所で、ウィルスを全身に送り届ける心臓が破壊されない限り死還人(ゾンビ)の僕達にとっては大した問題ではない。



「錬治はそのまま右に向かって走れ!僕は左に向かって走る!」


「ガー!(はいよぉ!)」


「なっ!?どうしてあんた達胸部をを貫いたのに元気に動いて……!?まさか二人ともゾンビ!?まずい!」



 錬治が喋れない事から一人は死還人(ゾンビ)だと分かっていただろうに。久野は久野で軽くパニックを起こしているのか?

……まぁそんなことはどうでもいい。判断が遅かったな。二人分の死還人(ゾンビ)の脚力と腕力を使えばこんな触手!



 ぶちぶちっ!!!



「なぎゃぁぁぁぁぁぁ!あ、あぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」



 久野自身を起点とし、左右両側に触手を限界まで力を込めて引っ張れば当然千切れる。僕達の体に触手を貫かせたのはその為だ。ぬるぬる素早く動く触手を素手で掴み取りなんて神業が僕達に出来る訳もないからな。おかげで掴みやすかったぞ。



「クソがぁぁぁぁ!ざけんじゃねぇぞ!」


「美桜!」


「ええ!」



 残る触手は二本。如何に化け物じみた改造を施されているとは言え、即座に再生などはしないようだ。再生さえしないのなら遠距離から美桜が触手を銃で狙い撃って当ててくれさえすればそこから千切れてくれる筈だ。



 バン!バン!



「うざったいわね!さっさと死んで…なっ!?」


「そらよっと!」


「ガーウ!(ちょいとばかし黙ってろ!)」



 勿論そう簡単に上手くいく筈がないのは分かっている。

だから僕達二人は遠距離から瓦礫(がれき)を投げて攻撃してやる。恐らく肉体の強化も少なからずされているだろうから大したダメージにはなっていないと思うが、それでも少しの隙を作ることは出来る。

その隙さえ作ってやれば後は美桜がどうにかしてくれるだろう。

それに、不本意ながら僕にはまだ秘策がある。



「全く、本当にこんなものが役に立つとはねっ!」


「あんた、その手から出ているのは!何っよ!」


「さぁね!」



 以前美桜が僕の身体を強化した際に着けた、某アメコミヒーロー紛いの手の指の間から出る槍状の武器。何かを切り裂くことは出来ないが、それでも力任せに貫かせてやることは出来る。故に、



「あっ…うっ…!?こんなもの!あぁぁぁ!!?」



 僕は触手を千切られてひるんでいる久野を地面に押し倒し、その両腕を僕の手の武器で地面ごと貫き固定してやる。その時一緒に槍状の武器も壊れて久野両腕を地面と一緒に貫いたまま僕の手から離れてしまったけど、お陰で僕は自由になりつつ久野は自由は効かないという最高の状況を作り出す事が出来た。



「離、せ!離しやがれ!クソが!死ね!死ね!!死ねぇぇぇ!!!」


「あ、か、くふっ…!」


……そう、思っていたのに久野は地面に寝転んだまま背中の触手を伸ばして後退しようとしていた僕を目掛けて攻撃する。

油断、していたせいで、避ける事が出来なかった……

 背中を何度も……触手で貫かれている……の、が分かる。傷みは……無い、が意識飛びそう……になる。



「美桜…錬治…わる、い」


「ガーガーウー!(美桜さん!俺があいつの触手を捕まえますから触手を近距離で撃って切り離して下さい!俺だけの力じゃ多分無理です!)」


「分かったわ!急いで!鈴が危ない!」


「クソ共がぁぁぁぁぁ!!!」



 おぉ…?急に、意識が変にクリアになったな。

 錬治が触手を捕まえ、美桜が残りの触手を撃ち抜ぬいて触手を切り離す事で久野の無力化に成功する。美桜が触手を撃ち抜いた今、久野の背中には触手は一本も無く、惨たらしく血が背中流れているだけだ。触手を喪ったダメージが大きかったのか、今は僕の隣に倒れている。



「……!……!!!」



何か叫んでいるような気もするが、何を言っているのかは分からない。



「鈴……!錬……!早……!」


「ガー…ウー……(分かっ……でも……どう……)」



 なんだ…?何を言ってるんだ…?もっとちゃんと喋ってく……



 ☆★☆★☆



「はぁっ……はぁっ……こんな……!馬鹿なことが……!私は!自衛隊のクソ共を一人で皆殺しにしたんだぞ!それなのに…それなのにどうして!たった三人の貴様らを殺せない!!!」


「錬治!その女を動けないよう厳重に拘束して!」


「ガー!(了解です!)」



「私の質問に答えろぉぉぉ!?なんなんだよお前達はぁぁ!!?」


「うるっさいわね!それどころじゃないのよ!……あぁもう!私達は全員普通の人間では無いの!死還人(ゾンビ)だったり、その中間の存在であったり!少なくとも、訓練を積んだ自衛隊と言えども私達の方が身体的能力は上よ!これで説明は充分!?」



「私の……大切な家族を殺した同族共にこんな……!」


「所詮は生身の体に便利な道具を備えただけのあなたに勝ち目は無かったのよ!錬治!鈴はどんな状態!意識はある!?」


「ガーウー!(鈴!鈴!おい!俺の声が分かるか!?……駄目です!反応がありません!)」


「この!は、離せ!私をどうするつもりだ!?」


「錬治、その女は無視でいいわ!鈴の応急処置が先よ!身体を損傷し過ぎている!このままじゃ、ウィルスが全て抜け出て活動を停止してしまう!」


「ガガ!(俺は何をすればいいですか!?)」


「あの拾ったケースの中にあった救急キットを持ってきて!応急処置でもしないよりはマシよ!後は他に邪魔が入らないよう周囲の警護!」


「ガー!(分かりました!)」



 お願い…!鈴!私には…私の目的を果たすにはあなたという存在が必要なの!こんなところで私の前から居なくならないで…!!!







 ☆★☆★☆



「……私です。Type-Sの被験者、久野菜絵が天祢美桜(・・・・)に捕縛されました」

『…………』


「……ええ。勿論一人ではありません。死還人(ゾンビ)と思われる二体の固体の活躍によるものが主です」

『…………』


「理由は分かりません。元々の相性が悪いのか、それとも彼らが特殊なのか。直接研究してみないことにはまだ……」

『…………』


「はい。武装をしていたとしても、生身の人間相手には無類の強さを誇ります。それは間違いありません」

『…………』


「ですが……先程も申し上げた通り、元々の相性が悪かったのか、彼らが特殊なのかは分かりませんが、久野菜絵が撃破出来たのは一体のみです。人間相手以外にはまだ充分な効果を得られないかもしれません」

『…………』


「どう……でしょうか。現在、天祢美桜が撃破された一体を必死に手当てしているようですが間に合うかどうかは際どい所かと」

『…………』


「……はい。はい。分かりました。では引き続き調査を行います」

『…………』



「……天祢達はとりあえず放っておこう。先に短い間だったが、同じ時間を共にした仲間達の供養をしておくとしよう」

ようやく久しぶりの投稿が出来ました汗

長いこと更新していないのにも関わらずポイントが少しずつ増えているのは本当に励みになります。次の投稿がいつになるかは分かりませんが、これからもよろしくお願いいたします。

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