避難所に着きました。
「……一応聞いておくわ。私、寝ぼけてなんかいないわよね?」
「この場合何を基準に寝ぼけているとするのかは分からないが……多分寝ぼけてはいないと思う」
「ウガーウ(俺も寝ぼけてはいないと思いますよ)」
「なら、目の前の光景はどう考えたらいいのかしら?」
「どう考えるも何も、そのままの意味で捉えたらいいんじゃないか?」く
「ガウ(俺もそう思いますよ)」
「はぁもう。最っ悪の展開ね。これは流石に予想していなかったわ。だって仮にも彼らはちゃんと訓練され、適切な武器を所持した自衛隊なのよ?それなのにこの光景は何なの?」
僕達は今一番近くにあったマーク…避難所にまで来ている。ここでは複数のテントや死還人の侵入を防ぐバリケードなどが厳重に設営され、葉崎達が降り立ったあの場所のように避難所の設営は失敗せず、ちゃんと施設として成り立っているようだった。
そして、当然そんな安全地帯に生きている人が群がらないわけがなく、ざっと周囲を見渡しただけでも数十人近くの人が確認出来た。その中には迷彩を纏った自衛隊らしき人も数多く混じっており、いかにここがちゃんとした避難所だったのかを物語っていた。
当然、僕達が驚いたのはそんなことじゃない。美桜も含めた全員が驚いた事実。それは……
「全滅…いや、殲滅と言うべきか?一般人も含めて全員死んでいるな」
テントやバリケードはそのままに、ここに避難していたであろう人が全員死んでいるのだ。
言葉は悪いが、僕達の目の前に広がっているのは見渡す限りの死体の野原だ。耳を澄ましてみても、誰一人として生きている気配は無い。
「ガーウガ(美桜さん、これ)」
「どうやら錬治の話の方が正しいみたいね」
そう言って美桜が見つけたのは死体に空いている小さな穴。
僕達があのビルで見たものと全く同じようなものだった。
これが示す事実はつまり、錬治が話したことは本当のことで、久野菜絵が背中から生やした触手でここに居た人全員を殺したということ。
……でもおかしいな。もしそうなのだとすると、この人達は死還人になっていないとおかしい。錬治達が死還人になったのだから、この人達もそうならない訳が無いの筈なのだが。
「なぁ美桜?」
「何かしら?」
「人が死還人に殺されて死還人になるまでの時間ってのは個体差があるものなのか?」
「それは実際に試してみないと分からないけど、多分個体差はある筈よ。年齢や性別とかでね。とはいえ人が死還人になるまでの時間はそんなに長くは無い筈よ。精々十数分ってとこかしら?だから、この人達があの子に殺されたのだとしたら、今頃死還人になっていないとおかしいのよ」
美桜も僕と同じ疑問を抱いていたようで、僕が質問をする前に答えてくれた。
でも、美桜の話が正しいのなら錬治の話に矛盾が生じてしまう。断定は出来ないが、この人達が死還人になることは無いと思う。なんと言うか…同族が故の感覚なのだろうか。死還人にコ殺された人はその現場を見ていなくても直感的に死還人になると感じるのだ。あまり意識した訳では無かったが、以前に死還人に襲われた人が死還人になった時もそんな感じの感覚を抱いていた。だから、その感覚が目の前に広がっている死体の山から感じられ無い以上この人達が死還人になることは無いだろう。
「死還人になれない理由があるのか、ただ単に発症が遅れているのか。それとも根本的に考えが間違っているのか…一応聞いておくけど錬治、あなた嘘は吐いていないわよね?」
「ガウーガ(まさか。嘘を吐く理由がありません。ここに来たのも俺の意思ではありませんし)」
「そうよね…鈴は何か思い当たることはあるかしら?」
「思い当たることはないけど、死還人が故の特性なのかは分からないがこの人達が死還人になることは無いと直感的に分かるんだ」
「そうなの?錬治も?」
「ガー(ですね。鈴の言う通り、俺もこいつらが死還人になることは無いと思います)」
やっぱり同じ死還人の錬治も同じ感覚を持っていたのか。死還人の特徴追加だな。死体が死還人になるかどうかは直感的に分かる。……まぁ、分かった所で何かが変わるわけでは無いんだがな。
「そう。だとしたら厄介ね。ここで何があったのか知ることが出来ないし、あの二人の行方を追うことも出来ない。一応何か手掛かりが残ってないか探してみましょう。」
「了解」
「ウーガ(分かりました)」
テントやバリケードは比較的損傷が少ないものの、銃器や車などの武器や装置はことごとく破壊されている。僕達が銃を回収した時に使われていたトランクケースもいくつか転がっているのだが、あの固いケースをどうやったのか無数の穴が空いて中に入っている物ごと貫かれている。……これがもし、錬治の言っていた触手でやったのだとしたらかなり厄介だな。久野は自在に操れる槍を持っているのと同じことになる。接近戦では太刀打ち出来ないかも知れない。そうなると頼れるのはやっぱり銃、か。
「テントの中は……駄目か。電子機器も全て壊されている」
あるもの全てを破壊したような感じだな。多分ここをこの避難所のメインにしていたのだろう。隣にパラボラアンテナがついた車が停まっており、テントの中にはそれを表示する為のディスプレイやよく分からない機器っぽいのがある。この様子だと中のデータも見れないだろうな。
☆★☆★☆
「何か手掛かりになるようなものはあったかしら?私の方は駄目。手当たり次第に死体の所持品を調べてみたけど使えそうな物は何も無かったわ」
「ガーウガー(俺の方も、避難所の中と外の地面に何か落ちていないか確認してみましたが銃器などは全て壊されていて、携帯や無線など通信機の類いも全滅していました)」
「僕の方もだな。テントの中を調べてみたが、そこにあった機材は全滅。あったと言えば穴だらけになったトランクケースぐらいっくっはっ…!?」
なん、だ!?急に体に衝撃が…!胸から…棘?刺されたのか僕は?
「鈴!?」
「ガウガ!?(こ、こいつは!?)」
「ふ~ん。てっきり死んだものだと思ってたんだけど、生きてたんだ。ま、別に死のうが生きてようが関係無いんだけどさ、隣に居るそいつ、死還人だよね?どうして生きてる人間が死還人と一緒に居るのかな?それも襲われずに」
僕の後ろから聞こえるこの声は……久野なのか!?
「死還人を手懐ける方法でも確立したのかな?ま。それも関係無いんだけどさ。あんたが神農製薬の関係者である以上、いずれ殺すつもりではいたし。まずは手始めに仲良さそうに行動してたこいつを殺すね」
「鈴!」
うぉぉぉぉっ!?真横に思いっきり吹きとばされてバリケードごと建物の壁に激突させられた。どれだけ力が強いんだよ!痛みこそないが、いくらか骨をやられたんじゃないか!?それに…錬治の話は本当だったか。背中から黒い4本の触手が伸びているのが分かる。僕を刺したのも、吹き飛ばしたのもあの触手によるものだろう。
「あははははははは!『鈴!』だって。残念。もう死んじゃった。あははっ」
「あなた……!」
「あははははっ!ついでにあなたもね」
「ガウ…!?(ガハッ…!?)」
「錬治!」
「これであなたの周りには仲間も死還人も居なくなった。今のあなたは丸腰同然!あははっ!どう痛めつけてやろうかなぁ?どうやって殺してやろうかなぁ?」
「くっ!」
久野…最初に会った時と随分と性格が変わっているな。僕達と出会った時は猫を被っていたのだろうか?どんな因縁があるのかは知らないが、かなり美桜に殺意を抱いている。幸か不幸か、久野は僕のことを普通の人間だと勘違いし、既に殺したと勘違いしている。錬治も動きはしないが微かに体勢を建て直そうとしている音が聴こえるから完全に壊されたわけではない筈。少しだけ美桜に頑張ってもらって、機をみて反撃に移るとしよう。
ごめんなさい…!
本っっっ当にごめんなさい!
時間が取れずまた1ヶ月後の更新に……
次の更新がいつになるかは分かりませんが、失踪作にするつもりは毛頭ありませんのでよろしければこれからも読み続けて頂ければ幸いです!




