男の回想です。
このビルには色んな所から逃げてきた人達が集まって互いを助け合って生きていく為の集落のようなグループが構成されていたんだ。
家族を逃げてくる途中に失った者、何が起きたのかさえちゃんと理解出来ずに逃げてきた者、知り合いの安否さえも分からず逃げてきた者。
年齢も性別も様々で、俺もその中の一人だった。
朝起きて見れば街全体から煙が上がっていて、外には人を襲う誰かの姿。
すぐに異常事態が起こっていることを理解した俺はただがむしゃらに逃げ惑ってこのビルに辿り着いた。
ここではそうやって集まった人達をまとめるリーダーのような人が居て、俺達はその人の指示に従った。
リーダーは決して独裁者のような人では無く、全員が平等で安全に過ごせるよう最大限の配慮をしてくれた。
だから俺達はリーダーの言うことを信用することが出来たし、疑い無く指示に従うことが出来た。
基本的にこのビルに居た男性には何かしらの役割が与えられ、決まった時間にその役割をこなすことが日々の日課となっていた。
俺が与えられた役割はビルの外に出て周辺を観察する役割だった。
一日四人一組でその仕事を担当し、定時になって観察していた時だ。葉崎と久野、田中と柊という男女がこのビルまでやってきたんだ。
聞けば葉崎は自衛隊員で、後の三人の男女は学生だと言う。
このビルで過ごす上でのルールの中には同じように逃げて来た人を無条件で保護するというものがあった。
だから俺は迷い無く葉崎ら四人をこのビルに招待することにした。
……だが、それが俺の過ちだったんだ。
リーダーは葉崎が自衛隊員で、しかも銃器も携帯していたことからビル周辺の警護、可能であればゾンビの排除の役割を与えて学生三人には役割を与えずビルの中で出来ることをしてもらうことにした。
ただ時間が時間でかなり日も落ちてきていたからとりあえずその日は休むことにして、明日から行動をするように指示を出したんだ。
そこまでは良かった。
俺達が普段通りにそれぞれの役割をこなし、葉崎が外に出て見回りに行った少しした後、ここに来るまでの話をリーダーに話していた久野の背中から何本もの触手のようなものが生えてきて、一瞬にして俺を含めたその場に居た人の背中を刺して殺してしまった。
そして気付いた時には俺はゾンビになっていて、他にも大勢いた筈の仲間も全員ゾンビになっていた。
恐らく俺と同じように背中を貫かれたのだろう。
誰一人として、生きている者は居なかった。
俺は到底受け入れられない現実を与えた久野にどうしようもない位に強い憎しみも覚えた。
それは他の皆も同じようで、目の前で不敵に笑っている久野をどう殺してやろうかと思案していた時に、ふいに後ろから破裂音がしてバタバタと仲間が倒れていったんだ。
何が起きたのかと後ろを振り向くと、銃を構えた葉崎が立っていた。
どう考えてもゾンビの俺達に殺意を持っている。
このまま突っ立っていたら俺も皆みたいにやられてしまう。
そう考えるや否や俺は撃たれていないのにも関わらず、その場に倒れてやられたふりをした。
幸か不幸か、俺達は既に死んでいるゾンビ。
動きさえしなければ死体も同然の存在。
葉崎は俺がやられていないことに気づかず、久野も気づいてか気づかないでか特にやりのこしがいないか確認することも無く俺達の仲間がゾンビで隙を見て自分を襲ってきたとかありもしない事実を葉崎に伝えて被害者を装った。
それからほんの数分後に二人ほど人が来た。
藤堂と天祢、とか言ったか。
正確には覚えていないが確かそんな名前だった気がする。
そいつら二人は久野と葉崎に騙されてまんまと着いて行ってしまった。
多分もう、生きてはいないだろう。
馬鹿な奴らだよ。本当。
あんな奴らについて行ったばかりに……
あぁ……憎い。
善良な人間を意味もなく殺す久野が。
事情を正確に把握せず仲間を撃った葉崎が。
どうしようもなく憎い。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
不定期更新ながら読んでくれる方が居るので本当に嬉しく思います!




