番外編 ゲームオタクの願い。
≪エイトの攻撃!
テラスラッシャー!
メンタルスライムに328ポイントのダメージ!
メンタルスライムを倒した!
トゥルルルー!
エイトは30050の経験値を手に入れた!
テレレレッテッテッテーン!
エイトはレベル99に上がった!
3のスキルポイントを手に入れた!
スキルポイントを割り振って下さい≫
「…………ぬぁぁぁ。とうとう、レベルMaxになっちまったかぁ……」
これでこのゲームも後はすることが無いなぁ。
魔物図鑑もアイテム図鑑もコンプリートしたし、全員のパーティはステータス最大値だし、何よりもクリアするのもこの周で確か六周目だしな。
一周目はまぁ普通にクリアして、二周目は武器を全員初期装備でクリアの縛りプレイ、二周目は呪文禁止の縛りプレイ、三周目は呪文・特技禁止の縛りプレイ、四周目は呪文・特技・アイテム禁止の縛りプレイ、五周目は呪文・特技禁止で主人公以外常に全滅状態でプレイ。
そして六周目がとにかく最速で完全クリア。
……流石にここまでやれば後はやることないよな?
と言うより六周目のクリアともなると当然飽きてくるわけで。
だから俺は本体からゲームソフトを取り出して、それをそのまま容器に入れて後ろのタンスに片付ける。
「1、2、3、4…………128、か。結構やったなぁ」
後ろのタンスにはこれまで俺がクリアしてきたゲームが数多く並べられている。
旧世代のゲーム機から最新機種のゲーム機まで揃えているのでソフトさえあればゲームをすることに困ることは無い。
たまに昔のゲームをしてみると、現在の複雑なシステムがSFに思えるくらいにシンプルで、それがまた逆に面白くてハマることがあれば、シンプル過ぎて飽きてきて最新のゲームをしてみると「おぉ!?やっぱ凄ぇ!」ってな感じのループが俺の中に出来てしまっているので1日中ゲームをしていても割りとそこまで苦痛に感じることも無い。
なので専ら今の俺の生活サイクルは12時間ゲーム、6時間睡眠、その他6時間といった具合だ。
一般的に見れば俺の生活サイクルは不健康極まりないのだろうが、そんなことは関係ない。
仕事?
とうの昔に退職だ。
学校?
とうの昔に卒業した。
友達?
もしかしたらまだ居るかもしれない。
同僚?
上記に同文。
家族?
既に死んでいる。
お金?
文字通り腐る程ある。
何故ならそんなことを気にする必要が既に無くなってしまっているからだ。
だから俺は新しいゲームを手にいれる為、頭にヘルメットをして、手には防刃手袋、黒いジャケットの下には防弾チョッキを着て、靴は鉄板入りの安全靴。
腰には日本刀を携えて、背中に背負ったリュックサックに非常時の七つ道具があることを確認して準備完了。
俺は二階にある自室を出て、下の階に降りる。
そこでふと、階段を降りたらすぐ横にある部屋のカーペットに目が行く。
そのカーペットは元々真っ白で無地のカーペットだったのだが、今ではそのど真ん中にずりずりと何かを擦りつけて汚れを落としたような赤黒い跡が2本残っている。
俺はこれをやった奴を知っている。
だが、別にそいつをわざわざ探してきて弁償させてやろうとは思わない。
何故なら一階は『危険過ぎて』使う気にはならないからだ。
だから俺は別に自分の家の一階の家具がどうなろうが知ったことでは無いし、むしろあれは残しておくべきだと考えている。
あれは俺とあいつとを結ぶ物だからだ。
こんなことを理由を知らない誰かに話したとしたら、あんなもののどこがと言われるかもしれない。
けれどもあれは俺とあいつを結ぶ唯一の物であると俺は信じている。
あいつがこの家に来た時は、確か数ヶ月程前だった気がする。
いつも通り何の気無しにゲームをしていてふとトイレに行こうとしていたら、誰も居る筈の無いこの家の廊下にあいつが立っていたんだ。
あの時ばかりは俺は自分の死を覚悟した。
間違いなく殺されるなとも思った。
でも、それ故に俺は死の恐怖以上の感情に支配されてしまった。
それは、目の前に居る奴が俺の退屈を紛らわしてくれるかも知れないということ。
俺はゲームをすることを苦痛には思わないが、退屈と思うことはある。
何本もゲームをクリアしてくるとシステムもストーリーも大体似たようなものに見えてきて、たまに単純作業になることがあるのだ。
そんな時、俺がよく考えているのは『一緒にゲームをしてくれる他の存在』だ。
どんなゲームでも、対戦の出来るゲームであれば相手がどのように動くかを考え、自分はどのように動かすかを考えるので絶対に単純作業になることは無い。
それはつまり、他の誰かが入ればたまに訪れる退屈が無くなるということ。
だから俺は一緒ゲームが出来る人を探していたのだが、中々そう見つかるものじゃない。
そんな時に現れたのがあいつだった。
俺は強引にあいつを自室に連れ込むと、コントローラーを渡してゲームを強制的に開始してやった。
最初は戸惑っていてコテンパンに叩きのめしてやったが、現状を理解すると慣れた手つきでコントローラーを操作して反撃してきた。
あいつは割りとゲームが上手い方で、俺も手加減していては負けてしまうほどの腕前を持っていた。
それでも基本は俺の勝ち越しで、俺が勝つ度にあいつは悔しそうに呻いていた。
今思い出しても、面白い。
あいつと一緒に遊んだのは後にも先にもあれっきりだが、あいつはまだこの世界に存在しているのだろうか?
もし存在しているのだとしたら、どこに行ったのだろうか?
まだこの街に残っている?
それとも別の街に移動した?
もし存在していないのだとしたら、どういう最後を迎えたのだろうか?
誰かに襲われた?
事故に巻き込まれた?
……どちらにせよ、俺には確認をする術を持ち合わせていない。
だからこそ、実はこうやって外にゲームを調達しに行くときはこっそり楽しみにしているのだ。
ばったりと、あの日のようにあいつと出くわす時が来るのを。
どんなにこの世界が荒れようとも、どれだけあいつと似通った死に方をした人間が居ようとも、俺は決してあいつのことを見紛うことは無いだろう。
だから俺は出来る限り生き続ける。
ゾンビであるにも関わらず、俺を殺さず一緒にゲームをした友と再会するために。
次に会った時も、変わらずあいつを叩きのめしてやるために。
家族はゾンビとなり、友達とも音信不通になり、誰一人として知り合いの居なくなった俺にとってはあいつだけが俺の友達だ。
あいつがゾンビでも構わない。
それこそあいつに殺されるのならそれでも別に構わない。
だから……
「機会があればまた来ると言ったんだ。必ずここを訪ねてこい」
俺は次にあいつに会った時の為に、新しい格闘ゲームと暫くの間やりがいのありそうなゲームを求めて近所のゲーム屋へと向かった。
頭の防御良し。
体の防御良し。
手の防御良し。
足の防御良し。
武器の携帯良し。
道具の携帯良し。
抜りは無い。
これで万全だとは思わないが、それでももし、ゾンビに見つかってしまっても生存率を少しは上げることが出来る。
それだけでも充分だ。
よし。
それじゃあ行こう。
今日も生きてゲームを手にいれるぞ!
本編とは少し時間軸が未来にあたるお話となっています。
だからと言って何かが変わるわけではありませんが……




