美桜の昔話2です。
最初に私を糾弾したのは幹部の一人である峰谷紅葉という女だった。
彼女は、言ってしまえば完全な努力型の天才で、どんなことでも自身の努力1つで与えられた研究や解析を完璧にこなし、全く新しい未知の研究であってもそれのとっかかりを必ず一人で見つけ出す人だった。
そんな彼女だったからこそ、私が幹部になった経緯が許せなかったのだと思う。
私の研究成果はお祖父様の資料という土台があったからこそ成し遂げられたものであり、私は資料に書かれているままのことを実行すれば良かったのだから。
当然そこには私自身の努力なんてものはない。
だから私はそうなることを恐れていたとは言え、いつかは必ず言われることであると覚悟をしていたし、そうなった時はその人の言うことを甘んじて受けるつもりでいた。
神農製薬の幹部と言うのは常に才ある者が座するべき地位であるらしく、新しく幹部を増やす時には既存の幹部がその人を審査し適正であると判断されて初めて幹部となることが出来る。
勿論その逆もしかり、幹部が幹部としての地位を失う時も既存の幹部がその人が幹部として本当に相応しく無いのかを審査して降格させる。
私が幹部になる以前は7人の幹部で神農製薬を運用してきていて、全ての決定はこの幹部達による多数決か話し合いによるもので決まっていたらしいの。
当時、私を幹部として迎えられることを快く思った人が4人、快く思わなかった人が3人だったと後から知った。
その中の一人が峰谷で、彼女は最初っから私のことを敵対視していた。
それこそ露骨に、普段の活動の上でも分かりやすい程にね。
だから彼女にとって私の功績がお祖父様の研究を元にしてあるものだというのは私を降格させる為の良い種だったのだと思う。
最初はいくら研究の土台があったとは言え、それを実現させるにはそれ相応の才能が必要だと言ってくれていた肯定派の四人の幹部も峰谷に唆されて彼女の意思に染まってしまい、揃って私のことを糾弾するようになってしまった。
人の研究を借りて残した功績がそんなにも偉いのか!
お前には研究者としてのプライドは無いのか!
よくも今までのうのうと過ごしてきたな!
私に向けられた言葉はそんなのばかりだった。
笑っちゃうわよね?
私は初めから幹部になんてなる気が無かったのに、その意思もちゃんと見せたのに君の功績は素晴らしいものだーって持ち上げてもてはやして私を幹部に迎えたのに、峰谷のほんの些細な口添えで考えを180°変えちゃうんだから。
本当、笑うしか無いわ。
まぁでも、とは言ってもそんなことは大した問題じゃないの。
最悪の場合そうなることも予想していたから多少の対策案は考えていたし、そのおかげで私は条件付きで幹部の座に残ることが出来た。
その条件とは峰谷が出したものなのだけど、この話には関係ないから今回は省かせてもらうわね。
……それでここからが話の核となる部分。
他の幹部達は峰谷に唆されて私のことを揃って糾弾した。
それはいい。
でも、それと同時に彼女らはお祖父様の研究や論文を蔑ろにし、見世物にした。
こんな誰にでも思い付けるような研究でよくも恥ずかしげも無く権威としてふんぞり反っていられるな、と。
しかも言葉だけならまだしも峰谷らはお祖父様以外の医学界の権威にもお祖父様の研究にケチをつけざるを得ないような卑劣な口添えをしてお祖父様の品格を貶めた。
それだけは……許されることでは無い。
お祖父様は気にするなと私を支えてくれたけど……そんなことが出来るわけがなかった。
峰谷らに対する私の憤りは尋常では無かったわ。
私がここまで来るのに培った経験や人脈を全て使って如何にお祖父様が素晴らしい人なのかを知ってもらう為に多くの活動をした。
けれども神農製薬の幹部ともなると他の医療関係者に与える影響は強く、誰もが自分にかけられる圧力に負けて、本心ではお祖父様の研究が素晴らしいものだと分かっていても立場がそれを許さず私に同意する人は居なかった。
私とお祖父様は医学界から孤立してしまい、どうすることも出来なかった。
全ては私の考えが甘かったせい。
たかだか一会社の幹部だからといってその地位がどれだけ重要なものなのかを考えず、二つ返事で誘いを了承してしまったこと。
私の功績にいつかはケチがつくことは分かっていたのだから、それに対する対策をもっと前からしなかったこと。
多くの人から糾弾される日々が続き、ついには気丈に振舞い、私を支えてくれたお祖父様も精神的に参ってしまい入院生活を余儀無くされてしまった。
元々老体の身。
今まで味方だと信じていた人達が皆敵になり、自らを傷つける行為をしてくることに耐えきることは到底不可能だった。
そして日を追うごとにお祖父様の体は衰弱していってしまい、今はもう……
私にとって神農製薬は、神農製薬の社員はお祖父様を殺した仇。
その元となった原因を産み出した幹部は命を賭してでも復讐しなければならない怨敵。
私があんなことになっても尚、幹部の座に居座り続けたのはいつか訪れる復讐の時の為にあいつらを殺しやすいように準備をする為。
ふふ。
ドン引きでしょ?
今の私はね、人間でも半死還人でもないただの復讐鬼。
人を殺すことしか考えていない復讐鬼。
この感情は、あなた達死還人がそう為った時に得たものと違い、私が人間であった時から持っていた感情。
正直ね、神崎を殺して喰べた時心の底では歓喜の気持ちが沸き上がっていたの。
神崎は峰谷と並んで私のことを快く思っていなかった幹部の一人であり、お祖父様の資料や論文をあろうことか私の目の前で足蹴にした許されざる人間。
そんな奴をちゃんと自分の手で殺すことが出来て私は本当に嬉しかった。
これが、私の本性。
これが、私の動機。
私は生きていた時から人として生きていなかった。
どう思うかは、鈴の自由よ。
投稿が遅れてしまい申し訳ありません……




