どうしてこうなりましたか。
「さて、と。なぁ、美桜?」
「どうしたの?」
「僕の治療、終わったんだよな?」
「そうだけど……何か不具合でもあった?」
「不具合は無い。多分。でも、治療はもう終わったんだよな?」
「えぇ。今ここで出来ることは他には無いわ。あの馬鹿が無駄なことに薬品やら機材を使ってくれたお陰で大したことも出来なかったしね。……まぁそれでもあいつの資料を参考にしてあなたの体の強化が少しでも進んだのは良かったわ。どうかしら?調子は?馬鹿の発想に私なりの技術を組み込んで改良したつもりなんだけど。感想を聞かせてもらえるかしら?」
感想……感想……
あぁうん。そうだよな。
感想と言えばやっぱりこの一言しか無いと思う。
「どうしてこうなった!?」
美桜が良いアイデアが浮かんだと僕の体を治療と総じて手術するのは別に構わなかった。
事実、その手術のお陰で普通に喋ることが出来るようになったしな。
これには感謝する。
でもな?
これは無いと思うんだよ。
「あら。今回の事を顧みて私の護衛としてあなたに必要な能力だと思ったからよ。その程度、別に困らないでしょう?」
「これがか!?」
両手の拳に力を入れると、ニュッと三本の長い骨が伸びてくる。
長さは15㎝くらい。
見た目はあれだ。
不死身で有名なアメコミのヒーロー
ウル○リン。
これ必要か!?
「私思ったのよね。多分これから先、他の幹部も日本のどこかに散って神崎と同じようにふざけた研究を続けていると思うの。研究過程でお蔵入りになった危険な研究って腐るほど本社にあったから。あれが実際に研究されているかもしれないと考えるとそれなりに戦力は強化しておいた方がいいって」
他人事のように美桜がコロコロと笑う。
この女……!
「確かに護衛をするとは言ったけどここまでするようなことなのか!?美桜の目的は神農製薬の本社に行って復讐するだけだろう?」
「えぇそうよ。でもね?今回のことで確信したの。私が復讐をしたい相手である、神農製薬の元幹部は本社に残ってはいない。さっきも言ったでしょ?他の幹部も日本のどこかに散っているって」
「……どういうことだ?」
「私は今まで幹部格の人間は全員本社に立て籠っていると考えていたの。あそこは薬品以外にもこんなウィルスも取り扱っているから下手な軍事施設よりも建物は強固だし、外から身を守るには適し過ぎている場所なの」
「それはなんとなく分かるが……それがどうしたっていうんだ?」
「神崎はね、聞いていたかも知れないけどとにかく自分の命を守る為には手段を選ばない人間だったの。研究は元より、感染の可能性が高いウィルスには手もつけようとしなかった。やるとしたら自分の出世がかかっていたり、莫大な利益が発生する場合のみ。この病院を見て分かるようにとにかく徹底していたのよ」
うわぁ……
相手にすると面倒くさそう。
よくそんな奴と同じ職場で働くことが出来たな。
僕ならそんな面倒そうな奴と一緒ならイライラして仕事が手につかなさそうだ。
働く気なんて一切無かったけどな。
「それで?」
「そんな男がわざわざあの強固な建物から出てくる理由がまずないの。食料もそれなりに備蓄してあったしね。だから、考えられる理由としては誰かがあそこを占拠したか、外に出てでもやりたいことがあったか……」
「僕達が社内に入ってめちゃくちゃにしたとかは無いのか?」
「それはあり得ないわ。根源が発生したのは本社からかなり離れているし、死還人ウィルスが感染爆発を起こしたと気づいた時には既に守りを固めていたでしょうから」
なるほど。
もしその推測が当たっているのなら、神農製薬の本社はかなり安全な建物と言える。
神崎で無くてもそんな安全な場所からわざわざ外に出たいと思う馬鹿はそうは居ないだろう。
「なるほどね。それならこれからどうするんだ?このまま本社に向かうのか?それとも散った幹部とやらを探すのか?……そもそも、こんなことを聞いていいのかは分からないが美桜は一体何の復讐をしようとしているんだ?神崎とも過去に何かあったみたいだし」
「……そうね。あなたになら話しても構わないかしら。少し長話になるのだけどいいかしら?」
「勿論」
「ありがとう。あれは私が入社してから1年が経った時の話だったわ」
僕は美桜を突き動かす感情の源を知るために、黙って話を聞くことにした。
死還人となってからこれまで他人の過去になんて興味を持つことなんて無かったけど、今は不思議とそれを知ろうとしている。
ここまでの経験を経て死還人としての僕になんらかの影響が出てきた?
思えば初期に比べると少し感情が戻ってきたような気がする。
……まぁそれはいいか。
今は、美桜の話を聞くとしよう。




