戦います。
「はぁっ……!はぁっ……!次から次へと、うっとうしいわね!」
「完成体よりも能力が劣っているとは言え、よくもそんな棒っきれ一つでこいつらを容易く退けるものだな。くっく……!ますます美桜君の体を調べたくなってきたよ」
「こんの……ド変態!」
神崎がリモコンを操作してから拘束されていた化物が次々と立ち上がり、美桜へと襲いかかり始める。
その全ての化物と美桜は一人でなんとか戦っているが、最初に比べるといくらか動きが鈍っているように見える。
早く加勢をしたいが、今の僕では足手まといになることは確実。
だから松本、早くしてくれ。
「マツモト」
『シッ!』
松本は今、美桜達の混乱に乗じてこっそりと神崎の背後に回りこもうとしている。
少しずつゆっくり、機材の陰に隠れながら神崎との距離を縮めていく。
そしてついに、松本は神崎の真後ろに到達する。
……ん?
なんだ?
何か言っているな。
『こいつの気を引いてくれ!』
あぁなるほど。
了解した。
……でも、どうしようか?
気を引くと言っても、単純な子供騙しじゃ引っ掛からないだろうし。
……あ、そうだ。
いいこと思い付いた。
ちょっと危険な橋を渡ることになるけど、多分これならいけるだろう。
僕は車椅子から降り、床に寝そべる。
手の位置、よし。
足の位置、よし。
神崎との距離、よし。
気合い、よし。
覚悟、よし。
僕は全ての要素に問題が無いことを確認すると、松本にこれから行くよとサインを出す。
ちゃんと伝わったかは分からないが、まぁ大丈夫だろう。
流石に気づくだろうし。
それじゃ松本、しっかり頼んだぞ。
1、2の3!
「え?」
「んなっ!?」
「に、兄ちゃん!?」
「の、うぉぉぉぉぉぉ!!?」
僕は両手両足に力を込めて、全力で跳ね上がった。
そしてそのまま神崎に向けて飛んでいく。
いわゆる人間ミサイルみたいな感じだ。
流石に神崎も上から、しかも怪我人だと思っている僕が飛んでくるとは夢にも思っていなかっただろう。
お陰で見事虚を突くことは出来たみたいだし、何よりも……
「よっしゃ!これでどうだ!文句ねぇな!」
「なっ!?松本君!?いつの間に!?くっ……!それを返すんだ!」
「マツモト!ブッコワセ!」
「あいよぉ!」
松本がちゃんと仕事をしてくれた。
神崎からリモコンを奪いそして、
「なっ!?こ、この!?クズがぁぁぁ!よくもこれを壊してくれたなぁ!?」
床に思いっきり叩きつけてリモコンを破壊してくれた。
……思った通りだ。
頭のフラつきが嘘のように消えた。
あれから何か奇妙な電波でも発信していたのだろう。
「ざまぁねぇな!」
「この……!檜山!この男を殺せぇ!」
『ジャァァァァァァ!』
これでようやく、まともに動くことが出来る。
松本に襲いかかった化物の腕を僕は掴み、止める。
ん?
思ったよりも力が無いな。
こいつ。
「なっ!?少年!?どうして君が檜山の一撃を止めることが出来て……」
「サァ、ネ」
「後は任せたぞ!俺は安全な所に避難する!」
松本が速攻で部屋から出ていく。
あれだけの度胸があるなら松本も加勢してくれたらいいのに。
……まぁ逃げてしまったものはどうしようも無いので、僕は目の前の敵をしっかりと見据える。
「どいつもこいつも……!」
神崎が忌々しそうな目で僕を睨むが、そんなのは関係ない。
さぁやるぞ。
準備運動はもう充分だな?
「ザコハ、マカセロ。ミオハ、コイツダケヲ、ネラエ」
「遅いのよ。全く。護衛ならさっさと働きなさいよね」
悪態をつくだけの元気があるのなら充分だ。
「ハイハイ。ソレジャ、ケントウヲイノル」
「あなたもね!」
さぁ、こいつらとの戦いを終わらせよう。




