小難しい話は嫌いです。
「あなたは知らないわよね。この世界がこうなる原因となった愚かな社員を追った者達の事の顛末を」
「一応報告は受けている。君と、品元君と、弓野君の3人が追いかけたと。その後、暴走した社員を止めることが出来ず、死還人の根源となる一体目が誕生し、追いかけた三人は行方不明になったと聞いている」
美桜も言っていたな。
複数人で追いかけたって。
「間違ってはいないわ。でも、足りない情報があるわ」
「なんだと?」
「私達三人は、その時根源に噛まれる、若しくは引っ掛かれたの」
「何?もしそれが本当なら美桜君は死還人となっている筈だ。だが、今の君はどうみても普通の人間そのものだ。どうして君は死還人になっていない?」
他の幹部からしても、半死還人の存在は信じがたいもののようだな。
「簡単な話よ。根源が保有するウィルスは酷く感染力が低いの。だから私は死還人とならず、その中間の半死還人となった」
「半死還人……なるほど。合点がいった。それで君は進化した二人を止めることが出来たのだな?死還人の特徴である身体のリミッターの解除。これならば彼らを止めることが出来たのにも納得がいく」
流石同じ研究者、というべきなのか。
すぐに美桜の力の理由を察したぞ。
「そして君の言う自食作用の仕組みもだ。これはまだ推測の域でしか無いが、君の半死還人となったその体、既に細胞レベルで人間のそれとは完全に違うものに変異してしまっているのではないのか?」
「……えぇ。そうよ。私は既に、人間とは言えない。私がこうなってから私自身、検査をしてみたのよ。そしたどうなっていたと思う?身体能力は勿論、代謝や筋肉の配列、細胞の大きさから何から何まで変わってしまっていた。笑っちゃうわよね」
……なんか小難しい話になってきた。
聞き流そう。
「そのお陰で欠点も発生したけれど、利点も同時に発生した。その1つが、私は私の意思で細胞の位置を移動させることが出来る。筋肉のある程度の調整が可能になった。感覚的に、どうすればいいのか分かるのよ」
「ふざけるな……と、言いたい所だが、あのウィルスが人体に与える影響は計り知れない。事実私もあれのお陰でこうして太古の人間の姿を蘇らせることが出来たのだからな」
そう言えば僕のこのフラつきの原因、神崎が何かやってるんじゃないか?
僕に対してではなく、僕達に対して働く何か。
それなら、ここに入ってきた時に倒れていた僕達にも説明がつく。
でも、何なんだろう?
「そうね。全く、忌まわしい限りよ。だからこんなウィルスは早く世界から根絶させなければいけない」
「馬鹿を言え。このウィルスを根絶させる?はっはっは!出来るわけがない!」
「それはやってみないと分からないでしょう?」
「ふん。やってみることすら出来ないさ。美桜君は今ここで、私に殺されるのだからな。いくら美桜君が超人的な力を得ているとは言え、その自食作用、長くは持たないのだろう?」
「さぁ?」
「くっく。まぁいい。二人で駄目なら、倍の四人だ。峰岸!檜山!」
おぉ?
敵が更に増えたぞ。
……ん?
でも先の二人と何か違うな。
皮膚の色がそんなに黒くなくて、爪や尻尾が若干短いような。
「出来れば森乃と橋場以外は使いたくなかったのだがな。こいつらはまだ完成していない未完成の個体だ。……最も、身体能力こそ二人に劣るものの、未だ私の命令に従順な駒だ」
「従順な駒、ね。ことごとく外道ね」
「言っていろ。そっちは一人、こっちは四人。勝ち目は無いぞ?今大人しく諦めるのなら命は助けよう」
「お断りさせてもらうわ。そんなことをしたら、私があなたの研究資料になることは明確だわ」
「分かっているのなら話は早い。美桜君のその体質、私の新たな研究テーマに加えさせてもらおう。さぁ!やれ!」
「面倒、ね!」
四体同時に化物が美桜に襲いかかる。
流石にこれはまずいか?
「おい!これで大丈夫か!」
「上出来!」
おぉ!
いいタイミングで松本が帰ってきたな。
松本が美桜に渡した武器は……
長くて堅そうな棒だな。
なんだあれ。
「マツモト、アレ、ナニ」
「ありゃぁ担架をバラして持ち手だけを持ってきたヤツだ」
あ、なるほど。
確かにそれっぽい。
でもあれでどこまで戦えるんだ?




