頑張って下さい。
神崎の号令と共に、森乃と橋場と言う者らしき人達が自身の体を拘束していた金具を引きちぎり、神崎と僕達との間を遮るように立つ。
うわ。
見た目ボス戦じゃん。
改めて見てみると、本当に人間というよりは獣だな。
細長く、毛のない光沢のあるツルツルした黒い尻尾。
ライオンも真っ青な長い爪。
吸血鬼のような口元から少し飛び出た牙。
頭こそは人間としての原型をちゃんと留めているけど、生きている筈の二人の顔は、僕達よりも黒く染まり、精気が全く感じられない。
こんな化け物相手に二人だけで勝てるのか?
「森乃……!橋場……!」
「何か武器は……鈴!あなた戦える!?」
「ムリ、ダ」
思考こそはちゃんとしているけれど、未だに平衡感覚が完全に失われている謎の現象は収まっていない。
座っているのがやっとだ。
「ははははは!怪我人に助けを乞うとは!そんな奴、居るだけ無駄の足手まといじゃないのかぁ?優しい美桜君は怪我人を見捨てるなんてことは出来ないものなぁ?ははははは!」
「あなた!その為に鈴をここに連れてきたのね!?」
……うわ。
マジかこいつ。
外道にも程があるぞ。
「さぁ森乃!橋場!やってしまえ!」
『ロガァァァァァァ!』
『シギャァァァァァ!』
神崎の指示で二人の化物は同時に美桜達に襲いかかる。
……が、
「ほぉ?美桜君がこいつらを止めるか。隠れて修行でもしていたのか?くっく」
「くっ!松本!あなたは何か武器になるような物を探してきて!なるべく硬くて長いものを!」
美桜は襲いかかってきた二人の手を掴み、その場に押し留める。
こいつらは僕達以上の力があるのか、美桜の体はプルプルと震え、留めるのが精一杯のように見える。
恐らく美桜がリミッター解除をしているのにも関わらずだ。
「い、いや!俺が二人の相手を」
「馬鹿言わないで!普通の人間に……!こいつらは抑えられない!早く探してきて!」
「あ、あぁ!分かった!」
美桜の指示で松本が部屋の外へと出ていく。
美桜が耐えている間に見つけれればいいのだけど。
「……ふん。武器があった所で何が出来る?完成されたこいつらの前には武器など役に立ちはしないぞ?」
「どう……!かしらねっ?」
「強がっても無駄だ。事実美桜君は徐々にこいつらに力負けをしているじゃないか。すぐに耐えきれなくなって、殺される。松本君が帰ってきた時には美桜君は死んでいるだろう」
『ロガァァァァァァ!?』
『シギャァァァァァ!?』
「勝手に言ってなさい!」
「なっ!?」
おお。
マジか。
あの力のない非力な美桜が化け物二人を神崎に投げ返したぞ。
何があった?
「私ね?今とってもお腹が空いているの」
「何の話をしている?」
お腹が空いた?
「こんな世界になってから私は水分しか摂取していないの。だから、とってもお腹が空いているの」
「馬鹿な。あれからどれだけの日数が経っていると思う?そんなことはありえない」
そう言えば……
美桜が何かを食べている所を見たことが無いな。
「でも、嘘は言ってないわ」
「ふん。まぁいい。それがどうした。腹が減っているのなら力は出ないだろう?今のはまぐれだ!今度こそ確実に仕留めろ!」
『ロガァァァァァァ!』
『シギャァァァァァ!』
「無駄よ。今の私には、あなた達では勝てない」
おぉ?
また飛びかかってきた化物二人を投げ返したぞ?
ん~……?
「何故だ?何故勝てない?美桜君。君は何をしたんだ?」
「何もしていないわ。厳密にはね」
「どういうことだ?」
「さっき私は言ったわよ?こんな世界になってから何も食べていないってね」
「だからそれがどうしたと」
「まだ分からないのかしら?自食作用よ。あなたなら知っているでしょう?」
「ふざけているのか?あれは足りない栄養を細胞から取り込むことで一時的な力を得るものだ。そんな馬鹿みたいな力を出せるような現象ではない」
「私が、普通の人間ならね!」
「何?」
自食作用?
確か……生物が飢餓状態に陥ると自身の細胞からタンパク質?か何かを取り出して少しの間生き延びるための力が得られるとかいうやつだったか?
いやでも神崎の言う通りそんな飛躍的な力が得られるようなものじゃなかったような。
ん~……まぁいいか。
これなら僕の出番も無さそうだし。
頑張れ。




