フラグが立ってしまいました。
「酷い有り様ね……」
「しょうがないさ。ここも感染爆発当初は怪我人でごった返していたんだ。荒れてしまうのも無理は無い」
僕達が入ったこの第三外科病棟の中はそれはもうどこの映画だと言いたくなるくらいに荒れていた。
僕が最初に手術をしたあの部屋が可愛く見えるくらいにはここは荒れている。
ガラスは割れて、薬品は垂れ流し放題。
道具や資料は床にぶちまけられ、機材も乱雑に放置されている。
それに何よりも……
「ウゥ……アゥ……」
所々、力なく横たわっている僕達だ。
疲労限界が来たのか、どこか故障をして動けなくなったのかは分からないが、かなりの数の僕達が床に転がっている。
……何があったんだ?
今は美桜に代わりの車椅子を見つけてもらってそれに乗っているが、倒れている僕達が多くてそろそろ車椅子じゃ先に進めなくなりそうだ。
「神崎、あなた一体この死還人に何をしたの?」
「もう少し先に進めば分かる」
「……?」
僕達は神崎に導かれるままに着いていく。
そして数分歩いた所で僕の体に異変が起こる。
「ちょ、ちょっと鈴!大丈夫!?」
「おい兄ちゃん大丈夫か!?」
「む……?どうした?」
急に平行感覚が掴めなくなり、車椅子から落ちてしまう。
……クソ。
めちゃくちゃ頭がフラフラする。
前後左右の感覚が分からない。
僕は今立っているのか?座っているのか?
それさえも分からない。
「神崎、引き返しましょう。鈴は怪我人。あまり無理をさせたくないわ」
「ふむ……私の言うことが分かるか?少年」
言うこと?
「モチロン……デス」
「意識はちゃんとしているか。少年、私達はこのまま先に進もうと思うのだが、少年はどうする?一緒に進むか?それともここで待機しておくか?」
どうするべきだろうか。
頭がフラフラするとは言え、意識はハッキリしてちゃんも考えることは出来る。
その気になれば自力で這ってでも移動することは出来る。
……となると一応着いて行った方がいいかもしれないな。
こんな何があるか分からないが場所に放置されるより、複数で居た方がまだ安心出来る。
「イッショニ、イキマス」
「鈴!無理はしないで!」
「ダイジョウブ……モンダイナイ」
「……私が駄目だと判断したらすぐに引き返すからね」
「リョーカイ」
それからも僕は美桜に車椅子を押してもらって進んでいたが、何故か進めば進む程に頭のフラつきは酷くなり、途中何度も車椅子から落ちそうになった。
その度に美桜や松本に支えてもらっていたのだが、それもそろそろ限界のようで、流石にこれは不味いなと思った所で僕達は神崎の案内する目的の場所に辿り着いてしまった。
部屋の名前は第一手術室。
僕が手術を受けた場所よりも一回りは大きな部屋。
そんな部屋の中で僕達が見たものは……
「これは……!?」
「うっ…………!!?お、おい!お前、森乃か!?それに……橋場!橋場じゃないか!どうしてこんな所にお前達が……!?」
数十体の、動けないように寝台にガッチリと固定されている『異形』の姿をした僕達だった。
僕達のわりには色が黒く、妙に体躯も大きい。
それに両手の爪が異常に長く、心なしか口元からは牙のようなものが生えているよくにも見える。
そして何よりも僕達と違う点と言えば、皆それぞれに尻尾のような物を寝台から垂らしている所。
この部屋に来てフラつきが最高潮に達している中で、僕は目の前の面倒事の種を見て、こんなことに直面するのなら着いてくるのでは無かったと後悔していた。




