妙なフラグは必要ありません。
「……まぁとりあえずこの病院の現状は分かったわ。でも、今の話を聞く限りじゃ別に私の……医者の助けなんて必要無いように思えるのだけど?」
「あぁ。問題はそれからなんだ。第三外科病棟に閉じ込めたゾンビを使ってあの人は――――」
「やぁやぁやぁやぁ!松本君、まさか君が連れてきた医者というのがこの人だとは!いやぁ久しぶりだねぇ?あの日以来かな?美桜君!」
「か、神崎さん!」
「神崎、蒼矢……やっぱりあなたがこの病院の人間を指揮していたのね」
「やっぱり、とは?」
「他者の能力を瞬時に把握し、その人間の持つ能力を効率的かつ自在に操る才能、生への異常なまでの執着、身の安全を確保する為なら努力を惜しまない鉄壁主義者。……この人から大体の話を聞いてあなたが居るんじゃないかなとは思っていたわ」
「はっはっは!美桜君のその状況把握能力も大したものだよ!」
「皮肉にしか聞こえないわね」
「まぁまぁそんなに敵意を剥き出しにしなくてもいいじゃないか。同じ研究をした仲間同士、仲良くやろう!」
「誰があなたなんかと!」
……この男、一体何者なんだ?
表面上は明るく豪快な人柄に見えるが、その、なんと言うか内側から溢れ出ているドス黒い気配は僕の気のせいなのか?
「おやおや。私も嫌われたものだね。まだあのことを根に持っているのかい?」
「!」
あのこと?
んー……二人間には何かあるみたいだけど、まぁ別に美桜のプライベートなんか知ったことじゃない。
僕が気にしなければいけない理由も無いしな。
「……あなたへの怒りなんてとうの昔に消えているわ。でも、だからと言ってすぐに馴れ合える程軽い怒りでも無い。鈴、帰りましょう。こんな場所、居るだけ時間の無駄よ」
「リョーカイ」
「ま、待ってくれ!今あんたに帰られると俺達は――」
「俺達は?どうなると言うのかな松本君?」
「そ、それは……」
「まだ私の言うことが信じられないかな?大丈夫。君達の命は私が保証しよう!何も心配することは無い!」
「なら!森乃と橋場はどうなったんですか!?」
「逃げたかあるいは、途中で怖じ気づいてどこかに隠れているかでは無いかな?」
「あいつらはそんな人間じゃありません!それに……他の人だって未だに帰ってきてないんですよ!?それもあなたの研究に賛成した人達ばかりが!」
「ふむ。それはただの偶然だろう?何にしても、帰ってこない人間のことを考えても仕方が無いだろう?大丈夫!そのうち帰ってくるさ!」
……胡散臭い男だな。
これは確かにさっさとこの病院から立ち去った方がいいかもしれないな。
「……あなた、また何か下らないことをしでかしているようね」
「しでかしているとは酷いな。私は私の研究を続けているだけさ。何も怪しいことなんてしてやいない」
「何を……しているの?」
「それを話せば私の研究に協力してくれるのかな?」
「……内容次第よ」
「ミオ」
「ごめんなさい。私には、それを確かめる義務がある」
「はっはっは!大層なことだな!ならば私について来たまえ第三外科病棟に案内しよう。松本君と車椅子の少年もだ」
「お、俺もですか!?」
「当たり前だ。そうでもしないと君は私の言うことを信じないだろう?」
「それはそうですが……いやしかしあそこに行って無事で済むわけが……」
「私の言うことが聞けないのか?」
!
雰囲気が変わった……?
人に有無を言わせず支配するような圧力……
面倒くさい奴がいるな。
変な展開にならなければいいのだけど。
「い、いえ……!」
「よろしい。少年もいいかな?」
雰囲気が元に戻った……
妙なフラグが立ったんじゃ無いだろうなクソ。
「ハイ」
「それでは行こうか」




