黒衣の男
「おぉ。どうやら無事終わったみたいだな。調子はどうだ?」
(ガ (美桜。喋ってもいいか?))
(えぇ)
「オカゲサマデ……ナントカ」
「そりゃぁ良かった!でもやっぱりまだ喋りにくそうだな。無理せず安静にしておいてくれよ?折角拾った命、無駄にすることは無いからな」
「ハイ」
この男、結構心が荒んでるんじゃ無いかと思っていたけど案外そうでもないのかな?
見た感じでは僕の無事に安堵しているようだし、嘘を言っているようにも思えない。
少しは信用が出来る人なのかもな。
「それじゃ今度はあなた達の番ね。それで?一体何があったの?移動しながら話してもらえるかしら?」
「あぁ。まず何から話したものかな……」
男は少し考え込むと、頭の整理がついたようで美桜に助けを求めた理由を話し始める。
「まず、俺は元々ここに入院していた患者だったんだ。まぁ入院と言っても単なる盲腸で、それも後数日もすれば退院を予定していたんだが」
「それで?」
「いつものように俺が何の気なしにベッドから外を眺めていると、奇妙な連中が敷地内に入ってくるのが見えたんだ」
「ゾンビね」
「初めは何とも思わなかったが、そいつらが人を襲い始めてこれはヤバイなって思って俺は速攻で逃げだしたんだ。ただ、その時には既に手遅れだったみたいで奴らは病院内に侵入していた」
「数はかなり居たの?」
「そうだな。十や二十なんてものじゃ無かった筈だ。奴らはベッドから動けない患者を次々に襲い、襲う患者が居なくなると今度は俺達を標的にした」
「その患者もゾンビになったの?」
「いや、半分近くは完全に喰われて動けない状態だった。今でもそこらの病室にゃウーウー唸ってる何も出来ないゾンビがゴロゴロ転がってる。……まぁそれでもこんな大病院なんだ。半分近くは動けないとは言えかなりの数のゾンビに俺達は対抗しなければいけなかった」
「その俺達と言うのは?」
「主に俺のような患者や職員、診察を受けに来た一般人だな。数だけで言えば互角くらいだったが、まともな武器が無い上に殆どが非力な人間ばかり。8割近くは奴らに喰い殺されてしまった」
「……でもそのわりにはゾンビは見当たらないわね?まだかなりの数が居るのでしょう?」
「あぁ。居るさ。でも、奴らはとある区画に閉じ込めてある」
「どういうこと?」
「俺達が奴らに抵抗している時に、一人の男が現れたんだ。全身を黒衣に包んだ明らかに異質な男が」
「やっぱり、ね」
やっぱり?
心当たりがあるのか?
「知り合い、なのか?」
「多分ね。いいわ。先に話を続けて」
「……その男は俺達に命令したんだ。私の言う通りにすればお前達は助かる、だから私の手足となれ。って」
「胸糞の悪い……」
「その物言いと態度に俺達は初めこそ反発したが、他に頼るものも無かったが故に俺達はそれに従うことにした。そして事実、俺達の命は助かった」
「一応聞いておくけどどうやってゾンビを閉じ込めたの?」
「よく分からない」
「分からない?」
「あの人は三人の比較的元気な奴にトランシーバーみたいな物を渡して、これを持ってとある区画……一階の第三外科病棟に全フロアを回ってから走るように言ったんだ」
「トランシーバーみたいなもの……?それでどうなったの?」
「まるでそのトランシーバーみたいなものに引き寄せられるようにゾンビ達は移動し始めて、その区画にあらかたのゾンビが入ったのを確認すると、黒衣の男はそれを放棄して外に出るように指示を出した」
「……でも第三外科病棟は緊急時にいつでも患者を受け入れる為に出入口はかなりあるのよ?まさかそれを全て塞いだって言うの?」
「あぁ。あの人の指揮はそりゃぁ見事だったさ。全ての人材が暇を持て余すこと無く、かつ効率的に指示に従えるように配置してものの数十分で第三外科病棟を奴らの牢屋にしてしまった」
「はぁ……本当、よくやるわね」
んー……?
その黒衣の男やら、どうやら美桜の知り合いみたいだな。
悪の親玉とか、悪の組織の幹部とか、若しくはそれに準ずる何かとかの展開は止めてくれよ?
そんなフラグは僕は望んで無いんで。




