さよならです。
彼女と親友による裏切り行為で復讐の色に染まってしまった拓也は、自らの手で二人を殺すことで見事にその復讐を遂げており、初めのような悲壮感は既に一切無く、どこか清々しい顔で拓也は僕達の元へと戻ってきた。
拓也の復讐の仕方があまりにも凄惨だった為に、気持ち悪さを僕と美桜は抱いていたがそれも近くの民家で休むことで拓也が戻ってくるまでになんとか治っていた。
だから今は、落ち着いて声をかけることが出来る。
「ウーガ (あれで良かったのか?)」
「ガウ (勿論。後悔はしてませんよ。最初こそ悲しかったけど、二人を見ているうちにどうでも良くなってしまいましたから)」
「ガ (そうか。お前がいいなら僕は何も言わないよ)」
「ウー (えぇ。ありがとうございます)」
僕達が人を喰らう光景はこれまでに何度も見てきた。
けれどもそれは死還人が故の本能に従っただけのもので、今回のように複雑な感情を入り交えたものでは無かった。
同じ人を喰べるという行為でも、1つ感情が加わるだけであんなにも違うとは……
僕は、ああならないように気を付けて行きたい。
「……それで?あなたはこれからどうするの?一応目的は達成したみたいだし、これ以上私達に付いてくる必要は無いのだけど?」
!
……流石に美桜と言えども、先程の拓也の姿に怯えているのか?
初めは神農製薬までの護衛を頼んでいたのに、美桜は今遠回しに私達に付いてこないでと頼んだ。
気持ちは分からないでも無いが、よっぽどのことをしない限り美桜が襲われる心配は無いと思う。
今は立って歩くことが出来ているが、本来なら拓也の足は歩くことさえままならない程に損傷している。
いくらあの二人に対する憎悪が不可能を可能にしたとは言え、それも長くは持たないだろう。
僕達に治癒能力は無いのだから。
「ウーガ…… (そうですね……では、僕はここでお二人とお別れすることにします。一応歩くことも出来るようになりましたし。……それに、他の仲間も探しておきたいですから)」
「ガウ? (いいのか?僕達と居た方がまだ安全では――」
「ゴガ (いいんです。今は平静を装ってはいますが、内心罪悪感で心が押し潰されそうなんです。裏切られたとは言え、かつての恋人と親友をこの手にかけてしまった。……残念なことに、僕にはその感情を享受するだけの心が残ってしまっているんです)」
僕には既に無い心。
けれども人間であれば殆どの人が持っている心。
拓也は僕よりもずっと、人間らしい死還人だ。
少しだけ、羨ましいな。
「ガーウア (偽善だとは分かっていますが、僕はこの罪を償いたい。僕の肉体で何が出来るかは分かりませんけどね」
「……そう。なら一応、これを持っていって」
「ガ? (これは?)」
美桜はポケットからメモ帳を取り出すと、メモが記載されたページを一枚破り拓也に手渡す。
「それには死還人の肉体の簡単な修復方法が記されているの。もし、あなたの足が動かなくなり、かつ医療技術を持つ協力者がその時に居たのならそれを見せれば直すことが出来るわ。技術さえあれば、死還人でも出来るから」
「ウガ (ありがとうございます。美桜さん。……それではお元気で)」
拓也はそう言うと、ゆっくり、フラフラと僕達の前から去っていった。
また、会えるといいな。
とりあえずこれでシリアス回は一旦終わりのつもりです。
……これで良かったのでしょうか?




