表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンニート  作者: 竜獅子
第1章 ゾンビになった少年
3/149

あ、本業はゾンビです。

 始まりと終わりは割とありきたりだった。

 この世界は一ヶ月程前には普通の平和な世界で、始まりと終わりが来たのも普通の平日。

 僕が学校で退屈な授業を聞いていると、授業中にも関わらず校内放送で



『本日講演を予定しておりました佐藤さんがいらっしゃったので全校生徒は体育館に移動して下さい』



 との指示があったので僕達は即座に体育館に移動し始めた。

 これは勿論佐藤さんという人の講演を聞く為では無く、不審者が校内に侵入したという事を生徒と教員に知らせる事で不審者から身を守る為に体育館に避難をさせる隠語の1つだ。

 基本的にこういうのは避難訓練の時ぐらいにしか使われないのだが、この日は別に避難訓練があると事前に聞かされていなかったので、僕はこの放送が本物だと理解し内心ワクワクしながら移動していた。



 こんな非日常な出来事なんてそうそうあるわけじゃない。

 あったとしても学校生活を送る上で生涯に一度度あるか無いかだ。

 どちらかと言えば無い方の可能性が高いだろう。



 だからこれからどうなるのだろうと期待と不安を胸に抱きながら体育館に着くと、先程までの不謹慎な考えをしていた自分自身を呪いたくなった。

 何故なら僕達のクラスが体育館に着いた時には既に何百人という生徒が血を流して苦しんでいたからだ。


 その時僕は何が起こっているのかが分からなかったけど、生徒が何百人と血を流して倒れているのを見て明らかに普通じゃない何かが起きていると本能で理解してしまったから体育館まで引率してくれていた教師や友達の指示を仰がずに1人で速攻で逃げ出した。


 どこに逃げればいいのかは分からなかったが、このまま体育館の近くで呆然と立ち尽くしているよりかはどこかを目指して走った方が良いと考えたからとにかくがむしゃらに走り続けた。


 そうして気がついたら僕は学校の屋上に来ていた。

 多分、屋上からなら校舎と街の全体的な景色を見渡せると無意識に考えていたからだろう。

 事実、僕が通っていた学校は街のど真ん中に建っており、360°街並みを眺めることが出来た。

 それ故に、僕は愕然とした。


 ほんの数時間前までは普通だった街並みは、所々火事でも起こったのか黒煙が立ち上っており、救急車やパトカーなどのサイレンがうるさく鳴り響いていた。


 あまりにも現実離れをした光景に何が起こっているのかとパニックになっていると、ふと視線を校庭に向けたら二人の女生徒が走っているのが見えた。

 そしてそれを取り囲むようにゆっくりフラフラと歩く数十人の生徒も確認出来た。


 二人の女生徒が自分達を取り囲もうとしている生徒達に向かって叫んでいるのに対し、取り囲んでいる生徒は何も言わず無言のままゆっくりと歩を進めていた。

 そして無言の生徒達が形作る円の中心に二人が追い詰められると、そいつらは一斉に二人に覆い被さるような形で襲い始めた。

 それが性的なものだったのか、傷害的なものだったのかは屋上から校庭を眺めていた僕には分からない。

 けれども無言の生徒達が二人を襲い始めたと同時に校庭中に響き渡った二人の絶叫を聞く限り、何が二人の身に起こったのかは想像に難くなかった。


 僕にはどうする事も出来ないので呆然としながらその様子を眺めていると、しばらく響いていた絶叫がパタリと止み、それと同時に二人を襲っていた無言の生徒達も離れていった。


 どうして離れていったのか?

 答えは二人を見れば明らかだった。


 二人は屋上からの遠目でも分かるぐらいに大量の出血をしており、間違いなく助からないといった量の血を流していた。

 つまりそいつらは二人を殺したのだ。


 同じ学校の生徒が同じ学校の生徒を寄ってたかって殺害をする。

 そんな悪趣味なアニメでも今日び見ないような異常な光景が現実で繰り広げられていると理解すると、次は僕が殺されるんじゃないかと思って恐ろしくなってしまい、もっと安全な場所に逃げようと考え、走り出そうとした。

 けれども、同じ学校に通う生徒が殺されたという現実があまりにも恐ろしく感じてしまい、僕はその恐怖心から足がすくんで動く事が出来なくなってしまっていた。


 立つ気力さえ失われ、その場にへたり込むようにして座った僕の目は今しがた殺された二人の遺体に目が釘付けになっていた。

 別に死体をみたい訳じゃなかった。ただ、他に目を向けるものは無いし、嫌でも目線がそっちに向かってしまうから不可抗力的に目がいってしまっただけ。

 でも、だからこそ僕はより非現実的な現実を突きつけられる事になる。


 無言の生徒達に襲われて大量の出血をさせながら校庭に横たわっていた二人と少女はまるで何事も無かったかのようにゆっくりと立ち上がると二人を襲った無言の生徒達のようにフラフラとどこかへ歩いていってしまった。

 僕の見立てでは、無言の生徒達に襲われた時点で二人の女生徒は致命傷を受けており、どうやっても普通に立ち上がって歩き出すという事は出来なさそうだったし、恐らく死んでいるのだとさえ思った。


 にも関わらず二人は何事も無かったかのように立ち上がってフラフラとどこかへ歩いて行ってしまった。

 その様子から、客観的に見て二人は一度死んで再び蘇ったと推測する事が出来た。

 一度死んだ者が蘇る。その事実に僕はあり得ないなと思いながらも、死んだ人間が生き返るという事と生き返った人間が生きた人間を襲うという事実から漫画や映画のようなゾンビがこの世に発生してしまったのだと理解してしまった。


 なんとかハザードとか、なんとかオブザデットとか、そんな感じの世界になったんだなって、混乱しながらも冷静になってそう結論づけていた。


 ゾンビによってこれまでの日常は失われ、ゾンビによって世界が壊れてしまった。

 そんな非情な現実を理解してしまった僕はゾンビを倒す為の武器を調達しようとゾンビものでは一番定番な武器であるバットを入手する為に野球部の部室向かった。

 部室に向かう道すがら、何人かの生徒には出会ったがゾンビらしき者は居なかった。

 だからまだそこまでゾンビの数は増えていないんだと安心していた。

 何より、目当ての金属バットを手に入れる事が出来てたんだ。

 これで一先ずの準備は整った。

 そう、思っていたのに偶々部室の近くを徘徊していたゾンビに襲われて僕は死んでしまった。


 そしてその後僕は蘇ってゾンビになった。

 何の変哲も無い普通の学生だった僕がゾンビに転職した瞬間だ。

 漫画みたいな世界になったから主人公みたいな展開が待っているかと思ったけど、全然甘かった。

 主人公どころかモブの扱い……モブとして描写されるのかさえ分からない程にあっさり僕は死んでゾンビになった。


 もしかしたらちゃんと主人公みたいな展開になってどこかで活躍している人がいるのかも知れないけれど、別に興味は無い。

 だってそれはきっと僕とは全く関係の無い人だろうから。

 無関係の赤の他人がどうなろうと僕の知った事では無い。

 まずは他の人より自分の事。

 だから僕はゾンビになってしまった事を受け入れてこれから何をすべきかを考える事にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ