かなりヤバかったです。
「ま、待って下さい!私達はあなた達に害を為す存在ではありません!」
「ふざけるな!そんな話が信じられるか!それならお前の横で暴れてる奴はなんなんだよ!」
「ウガァァァァァァァ!!!」
くっ……この!
流石にリミッターが外れてるだけあって凄い力だ!
少しでも気を抜いたら振りほどかれそうだぞ……!
「これは……私の研究資料です。あなた達も既に知っているでしょう?この感染爆発が発生した原因は神農製薬会社であると。私はそこの幹部格の人間です!」
「なんだと!?」
美桜の言葉に僕らを囲む人間が動揺を露にする。
まぁ、そりゃそうだろうな。
世界を破滅に導いた会社の社員が、それも幹部ともなるとその立場の重要性は語るまでもない。
「私も当然この感染爆発を引き起こしたウィルスの研究にも少し関わっていたことがあります。だから私は、そのウィルスを無効化するワクチンを作成する為に、こうして一人のゾンビを引き連れているのです!」
ん?
一人?
「一人って……それならその車椅子を押している奴は何なんだよ!思いっきり首元を怪我してるじゃねぇか!そいつもゾンビなんだろう!?下手な嘘で俺達を騙そうとしたって無駄だ!おい!もしかしたらこいつは特別なゾンビなのかも知れねぇ!一気に殺っち―――」
「この人はゾンビではありません!私と一緒に逃げていたただの一般人です!逃げる途中、怪我をしてしまいましたが、感染はしていません!」
あ、僕一般人扱いされてる。
まぁその方が都合が良いのかな。
流石にゾンビ二人を引き連れてる女なんて怪しいにも程があるし。
てか拓也!
お前もうちょっと大人しくしていてくれ!
「何ぃ?」
「事実この人はあなた達を襲うどころか、あなた達を襲おうとしている研究資料を止めているではないですか!もしも、この人がゾンビなら真っ先にあなた達を襲っている筈です!」
「む……まぁそうだが、それでもまだ信用は出来ない!そもそも俺はあんたが神農製薬の社員だってのもまだ信じてはいない!」
中々に用心深い人間だな。
こんな世界なら当たり前か。
「別に信じて貰わなくても結構です!とにかく、私達はあなた達に危害を加えるつもりはありませんからここを通して下さい!」
「ここを抜けてどこへ行くつもりだ?」
「豊農大学病院です!あそこなら神農製薬の系列の病院ですから研究資料の研究に必要な物は揃っていますし、何よりこの人の首の怪我もちゃんと治療しなければなりません!このまま放っておくと、いつか必ず死んでしまいます!」
このまま放っておくといつか必ず死んでしまいます。
美桜のその言葉に、人間達は少したじろぐ。
こんな世界とは言え、『生きている人間』を見殺しにするのは未だに罪悪感に苛まれる所はあるのだろう。
……くっ!てかヤバイ!
早く!
「……まぁあんた達が無害な存在だってのは百歩譲って信用してやる。でも1つだけ聞かせてくれ。あんたが感染爆発だと言うこの死人が蘇って人を襲う『病気』は治療が可能なのか?治療が可能だとしたら、ゾンビになった奴は元に戻るのか?」
「現時点ではまだ何も言えません。それを確かめる為に、これから研究に向かうのですから」
「そうか、そうだよな……おい!お前ら!この姉ちゃん達の包囲を解け!」
リーダーらしき男の声で僕らにされていた包囲が解かれる。
急いでこいつらと距離を取らないと!
「ご理解ありがとうございます。鈴君、急いで研究資料をこの人達から遠ざけて。人間から遠ざければ暴れることも無いから」
僕は無言で美桜の指示に従い、真っ直ぐと走っていった。
少しだけ、足に負担がかかってしまった気がしないでも無いが、今はどうこう言っている場合じゃない。
仮に壊れてしまっても、後で直してもらえる当てはある。
僕は足が壊れるか壊れないかのギリギリの差の力で車椅子を押して人間達から離れて行った。




