手掛かりを発見です。
「ガ……ウガ……ウ…… (ぬ……あっ!く、くそ……)」
「……大丈夫?手を貸そうか?」
「ウガー! (悪い。話しかけないでくれ。手も貸さなくていい)」
「……死還人って不便ね。見ていて可哀想になってくるわ」
「ウー! (黙っててくれ!)」
マジで集中しないと転げ落ちるんだって!
いちいちこいつの言うことに構ってられるか!
「半死還人の私は大丈夫なのにね。……やっぱり個体としての能力が半死還人と死還人とでは他にも違う点があるのかしら?」
「ゴガァ! (横でゴチャゴチャ呟かないでくれ!こっちはマジなんだ!ホントに黙っててくれ!)」
……あー駄目だ。
落ち着け僕。
一歩一歩丁寧に、慎重かつ安全にエスカレーターを下るぞ。
まだ二階にすら辿り着けて無いんだ。
こんな所で立ち止まってしまう訳にはいかない。
それにこのエスカレーターはさっき見た僕達が転げ落ちたエスカレーター。
ここを下った僕達は転げ落ちるなんて妙なジンクスが宿っているかも知れない。
僕は未だにゴチャゴチャと何かを呟いて集中を乱してくるこいつを無視しながらなんとか下っていく。
クソー!
マジで安定しない!
でも、やっと残り数段!
後三段……二段……一段……
「ゴアー!……!? (やった!ようやく降りれ……ってぬぁ!?」
「ちょっと大丈夫!?」
痛たたた……
いや、痛く無いけど、クソ。
なんだ?
やっとの思いで下りれたと思ったら何かを踏んでバランスを崩して転んでしまった。
……エラく滑りやすい物だったな。
転んだ勢いでそれもどこかに蹴っ飛ばしたみたいだけど……ん?あれか?
僕から見て約10m程離れた所に小さな黒いシカクイ物が落ちている。
なんだこれ?
僕はそれに近づいて拾ってみる。
「ゴーアー? (生徒手帳?)」
「ん?それを踏んで転んだの?それは……生徒手帳ね。確かこの近辺にある高校のじゃなかったかしら」
このショッピングセンターから逃げる時に落としたのか?
全く……
落とすのはいいけど質の悪いところに落とさないでくれ。
生徒手帳なら顔写真と名前ぐらい入ってるだろう?
もし見つけたら文句の一つでも言ってやる。
僕は生徒手帳の持ち主が誰なのかを確認する為に、中身を開いて見てみる。
……残念ながら持ち主は僕達に喰われたのか、表が黒かったから気づかなかったが中の手帳は血で染まってかなり見にくくなってしまっている。
顔写真は血で汚れていて判別が難しいのだが、どうにか名前は読める。
何々……
『日元拓也』
どうやらこの持ち主の名前は日元拓也と言うらしい。
……ん?
日元……拓也?
なんかこの人の名前知ってるような……?
……あっ!
拓也!
てか思い出した!
こいつあれだ!
多分僕がこのショッピングセンターに来る原因となった奴だ!
……てことはもしかして拓也って、あの転げ落ちた僕達?
一部始終を僕が見てた、ついでに応援してた僕達?
え、マジか。
拓也ってあいつかよ!
「……どうかしたの?どこか欠損した?」
「ゴウガ (いや、その、体は大丈夫なんですけど、ちょっと個人的にショックな出来事がありまして)」
「そう?まぁ体に問題が無いのならいいんだけど。気を付けなさいよ?ある程度の傷なら本社に戻れば修復出来るけど、骨折とかしたら流石に補強が難しいからどうなるか分かったものじゃないわよ」
「ゴアー (あ、はい。分かりました)」
……どうしよう。
拓也、こいつ追うべきか?
多分こいつまだ二階にいる筈だし、車椅子に乗ってるから見つけやすいと思うんだよね。
んーどうしようかなー?
正直このまま神農製薬まで行くのもありなんだけど、これを放っておくと後からモヤモヤしそうなんだよなー
んー……よし。
決めた。
「ゴーガ (僕ちょっと探し人が出来たから探してくる)」
「え、ちょ、ちょっと!探し人って!?」
「ゴアーガ (この生徒手帳の持ち主。僕がここに来る理由だった人。誰がこいつかもう分かってるから探してくる)」
「あ、ちょ!待ちなさい!それなら私も行くわよ!」
どこに居るのかなー
まぁ適当に歩いていたらすぐに見つかるだろ。
僕は拓也とやらを探しにフラフラとまた二階を散策することにした。




