交渉成立です。
「やっと興味を示してくれたわね。正直これで駄目だったらどうしようかと思ってたわ」
「ウーア (その時は僕を諦めればいいだけの話だ)」
「嫌よ。ここまで意思疏通が出来る死還人は本当に珍しいんだから!あなた達の飛躍した身体能力も馬鹿には出来ないし、復讐するのに連れていく仲間としては最高なのよ」
ゲームじゃ無いんだからさ、そんな連れていく仲間とか言われても。
……まぁそこは特に僕にとっては問題じゃない。
「ガ? (それで?話を聞かせてもらおうか)」
「あなたがこの話に興味を示したってことは、あなた達の体がいずれは使い物にならなくなるってことは知っているのよね?一応聞いておくのだけれど、どこまで知っているの?」
「ウガウ (どこまでも言われても。さっきお前が言った疲労で動かなくなるとしか聞いたことは無い)」
「そう。それじゃもう少し私の方から補足しておくわ。君達の体が使い物にならなくなるパターンとして、死還人の特徴の一つである治癒能力の欠如を前提に、
①蓄積された疲労による活動停止
②肉体の損傷による活動停止
③ウィルスの漏出による活動停止
の3つがあるの。①は勿論、②も分かるだろうけど、多分③については知らないのではないかしら?」
「ウガー (いや、知らないな)」
ウィルスの漏出……?
……あーなんかちょっと閃いた気がする。
多分僕達の体を動かしてるのがそのウィルスで、肉体が欠損していて治ることの無い傷口からそのウィルスが漏れ出て動かなくなるとか言うんだろ。
「簡単に言うと、死還人の体を動かしているのは体内に注入されたウィルスで、それ故にそのウィルスは体内を循環しているのだけど、その循環中に欠損している部位からウィルスが少しずつ漏れてしまって、最終的には肉体を動かすのに必要なウィルスが足りなくなってその死還人は活動停止をしてしまう」
ほれみろ。
やっぱり同じこと言いやがった。
……でもこれが本当だとすると質が悪いな。
こいつが僕に嘘を吐くメリットは何も無いし、初めて知った情報だとしても神農製薬の元社員……それも幹部格の人間だと言うのならその信憑性はかなり高い。
「その期間は個体や損傷の具合にもよるだろうけど、推定で約一年とされている。根源が発生したのが約一ヶ月前だから、極端な話後十一ヶ月全人類が太平洋のど真ん中に水上基地でも造って立て籠れば君達は自然と姿をこの世から消すわ。当然そんなことは机上の空論の実現不可能な対策なのだけどね」
太平洋がどーのこーのは別にどうでもいい。
でもこいつが今言ったことは聞き捨てならない。
早い話今僕は後一年で確実に死にますよ~って死刑宣告をされたのだ。
……それはマズイ。マジでマズイ。
後一年で……この理想郷からおさらばしないといけないだと!?
クッ!
僕のゾンニート生活、そんなことで終わらせてたまるか!
「ウゴーガ (それで僕は何をすればいい?何でもしよう。どんなことでもしよう。最大限尽力を尽くそう)」
「……エラく協力的になったわね」
「ゴアー (僕のゾンニート生活を守る為ならなんでもする)」
「ゾンニート……?まぁ別にいいわ。それじゃ交渉成立ね。私はあなたに半永久的に活動出来る体を。あなたは私に復讐の、神農製薬までの護衛を」
「アーウー (分かった)」
「よし!そうと決まったら早速行くわよ!道のりは長いわ!」
そうして僕とこいつは神農製薬の本社を目指して歩み始めた。
……やっぱり何か忘れてるような気がするけど、このショッピングセンターから出るまでに思い出さなければそこまで大したことでは無かったということだろう。
だからまずは……目の前のこのエスカレーターを攻略することから始めないとな。




