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ゾンニート  作者: 竜獅子
第1章 ゾンビになった少年
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副業はニートやってます。

 ズガガガガガガガガ!!!


 パァンパァン!


 ガガガ!ガガガガガガ!!!



 荒廃した市街地のド真ん中で、僕の命を狙って発砲した銃火器の乾いた音が人気ひとけの無いビルに反響して辺りに響き渡る。

 普通、自身の命を狙われたらもっと焦るべきなのかも知れないが、これは今僕がプレイしているゲームセンターに設置されたアーケードゲームの中で起きている出来事なので、僕は自分の命が狙われる事なんてお構いなしに淡々とクリアを目指してステージを進んで行く。



 『本部!こちら第3部隊!敵が最終防衛ラインを突破!我々では止める事は出来ません!奴は異常です!』



 ゲーム開始からここまで一切の被弾をせず、的確にプレイをしていたお陰で普通は聞くことの出来ない特殊な台詞を敵兵が発してくれる。

 何十回とプレイしたゲームだ。これくらいは出来ないと嘘だろう。



『……やむを得ん!アレを出せ!奴を迎え打つぞ!』



 そうしてラスボスまで来る事が出来たのだが、このラスボスが厄介だ。

 二足歩行の兵士を模した巨大なロボがラスボスなのだが、膨大なHPと高い防御力を有している割にはこちらが道中得る事の出来る武器では僅かなダメージしか与える事が出来ない。


 戦闘中、弱点を撃てば大幅にHPを減らす事は出来るものの、それを狙う為の隙は少なく、ちょっと油断しただけで即死級の大技が襲ってくる。

 だからラスボスに対する基本的な戦略は弱点を積極的に狙う事をせず、ちまちまとダメージを減らしつつ絶対に敵の攻撃に被弾しないよう回避を繰り返す事がセオリーとなる。


 僕は何十回と辛酸を舐めさせられたこいつに雪辱を晴らすべく、今までに無い程の集中力を発揮して戦いに望む。


 残りHP95%…80%……65%………35%…………3%。


 あと少しだ。

 よし、ここだ。



『なんて事だ……もう奴に抗う術はこの世にはないと言うのか』



 僕は無事にラスボスを倒す事に成功し、エンディングを迎える事が出来た。

 これで何度目かのゲームクリア。

 最初の方こそ死んでばかりでコンティニューの為に沢山の100円玉が犠牲になったけど、最近では100円1枚でゲームクリアまで達成出来るようになった。

 これはきっと喜ばしい事なのだろうけど、生憎と僕にはもうそんな気持ちを抱ける感情は無い。

 僕は手に取っていた有線式の拳銃型コントローラーをゲームの筐体のホルスターに片付けると、ゆっくりノロノロとゲームセンターの外に出る。



「ウガ……(眩しいな……)」



 ゲームセンターの外に出たは良いものの、薄暗い室内で何時間もゲームをしていたせいか、真っ昼間の太陽の光が妙に眩しく目に刺さる。

 それも時間と共に慣れるだろうから大して気にはしないけど、それにしたって最近は太陽の光が眩しく感じる気がする。 

 最も、その原因には何となくの検討はついているのだけど。



 数週間前、1人の男性が街中で近くに居た女性の首元に噛み付き、失血死させるという事件が発生した。

 それだけならば猟奇的な事件として時間と共に忘れ去られた筈だったのだが、驚くべき事に殺された女性はその場で息を吹き返し、自身を噛み殺した男性と同じように付近の通行人を襲い、殺し始めた。

 その襲われた通行人もまた死んで少しすると蘇り、同じように誰かを襲う。


 そうして殺され、蘇り、殺すを繰り返すうちにそれらが映画やアニメに出てくるような《ゾンビ》であると国民が理解をするのにそう時間は掛からなかったが、映画や漫画のように《ゾンビ》が増える速度は凄まじく、ネズミ算式に《ゾンビ》は増え続け、あっという間に日本という国は国家としての機能を麻痺させ、荒廃した国になってしまった。


 どこの誰に聞いたのだったか、今や日本国民の殆どが《ゾンビ》になったらしい。

 たまに近所を歩いていると、かつての友人や知り合いによく似た《ゾンビ》を見かける事がある。

 だけど、彼らに話しかけても返ってくる返答はトンチンカンなものばかりで、死んで《ゾンビ》となったと共に記憶能力が欠如したのか、僕と顔を合わせても僕が誰か分かっていないし、ちゃんとした会話も成立し辛い。


 大概の《ゾンビ》がそんな感じだからしょうがないと割り切るしか無いのだが、それでも見知った誰かが変わり果てた姿を見るのは何とも言えない気持ちになる。

 ……最も、僕自身も他人事では無いのだけど。


 僕も少し前に《ゾンビ》に襲われ、殺され、蘇り、《ゾンビ》となった。

 襲われた時はもっとちゃんと生きれば良かった、沢山やりたい事があったのにと酷く後悔し、生きる事に執着心を燃やしていたけれど、いざ《ゾンビ》になってみると思いの外気分がスッキリしている。

 何より、記憶力が欠如している彼らと違って僕は生前とほぼ同様の記憶力を持っている事が非常に大きい。

 一応、自己確認はしておこう。

 僕が誰で何なのかを。



 名前は藤堂鈴(とうどうれい)

 職業は元高校生のゾンビ。

 副業はニートか浮浪者かな。

 特技は徘徊。

 性別は男。

 家族の安否は分からないけど多分死んでるか《ゾンビ》になっている。



 ……とりあえずはこんなものか。

 一応記憶はハッキリしているし、多分今後も大丈夫だろう。


 

 

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