つまらない話は聞かない主義なんです。
「元々私達、神農製薬の社員は人類の悲願である人体蘇生を目指して日々研究に取り組んでいたの。死とは何か。生とは何か。何を持って生とし、何を持って死とするのか。そればかりを私達は考えていた」
ふーん。
「でも、人体蘇生なんて夢のまた夢。そう簡単に実現する訳がない。私が神農製薬に入社して数年経つけども、たったそれだけでも1000以上の挫折を経験してきたわ」
そうなんだー
「勿論挫折と言っても無駄なことばかりじゃ無かったわ。その副産物として、死者を甦らすことは出来なくても、これまで不治の病とされていた病気に効く特効薬もいくつもこの世に産み出されてきた。……それだけでも、かなりの人間が助けられた筈よ」
凄いねー
「でも、私達はそんなことが目的なんじゃない。あくまでも、死者を甦らすことが最終目標。実の所を言うと、私が入社した時点で既に人体蘇生はかなり近いところまで再現出来るようになっていたらしいの。そのことを知ったのは、私が幹部になってからなんだけどね」
……あ、エスカレーターを降りようとして転げ落ちた僕達が居る。
バーカでー
「そしてそれが、今の君達の状態である、死還人。通称ゾンビ。生きながらに死んでいて、死にながら生きている。生者とも、死人とも呼ぶことの出来ない生と死の狭間の存在。人体蘇生というには余りにも欠点が多すぎる不良品」
……お?
転げ落ちた僕達を他の僕達が心配して集まってきている。
ここの僕達は思いやりがある僕達が居るんだな。
「だから死還人の元となるウィルスは人体蘇生に最も近い研究の失敗作として倉庫に厳重に保管されていたのだけど、一人の馬鹿な研究員が妙な野心を起こして亡くなった親族にそれを使ったの。これが上手くいけば我々の悲願は為されるのだ、と」
んーでも残念。
やっぱりこのエスカレーターから転げ落ちて肉体が無事なわけがない。
動くことがままならない程に弱っているようだ。
「当然私達はそいつを止めに入ったわ。でも、普段からは考えられない程に強い力で振りほどかれて、逃げられた。そして彼の後を追って亡くなった親族の元に到着した時には既に遅かった。その親族は死還人として中途半端な存在としてこの世に還って来てしまった」
なんとかそいつを助けだそうとする他の僕達。
でも、どうにかしようにもどうにも出来ない転げ落ちた僕達。
必至になって動こうとするけど……
どうなる?
「でも、その元になるウィルスは既に死んでいる人間には大した効果は出無いの。そのウィルスの正しい使用方法は、生きている間にそれを体内に注入し、なんらかの原因によって死んでしまった時に始めて体内でウィルスが突然変異を起こし、死んだ体を再活動させるというものだったから」
お、そうだ!頑張れ!
転げ落ちた僕達は他の僕達に支えられながら立ち上がり、近くの手すりに掴まって歩き始めた。
その調子だ!
「それでも既に死んでいる人を再活動させることは可能だったのだけど、その効力は完全では無く、今の君達のように噛みついたり引っ掻いたりすることで他者に自身の持つウィルスを移して即座に死還人にする程の影響力は持っていなかった」
おぉ?
別の僕達が何やら面白い物を持ってきたぞ?
あれは……車椅子だな。
なるほど。
車椅子を使えば基本滞りなく移動が出来る。
エライぞそこの僕達!
「だから私は人間と死還人の中間の存在になったの。一体目の感染力が弱かったから。……とりあえず説明はこれでいいかしら?」
お~
転げ落ちた僕達凄い嬉しそうだ。
そうだよね~
嬉しいよね~
人間なんかよりも僕達の方が人情味に溢れてる気がするなぁ。
……て、ん?
話終わったの?
途中からマジでどうでも良かったから聞いてなかったけど。
まぁ、うん。
ご苦労様。
「ウガーウ (あ、説明どうもです。良く分かりましたありがとうございます)」
不治の病に効く特効薬がどーのこーの言ってた辺りから話聞いてなかったけど、まぁいいよね別に。