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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
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世界と日本の違いです

 メルボルンオリンピックの開催、人気海外ドラマのseason2の公開、話題になっていたハリウッド映画の続編の上映・舞台挨拶。

 サッカーや野球などのスポーツの世界大会の開催。

 etc.


 今、僕達が葉崎から手渡されたスマホで見ている情報は、もし仮に世界が死還人ゾンビ達によって壊滅する事がなければどれも予定通りに行われる筈のものばかりだった。


 情勢に疎い僕でもオリンピックの開催時期と開催国くらいは知っているし、興味の無い映画やスポーツでも世界的に報道されるようなものであればこの映画はどんな物語だー、とかこのスポーツの世界大会はどこの国で開催されるのかー、とかの詳細は嫌でも耳に入る。

 だからスマホに映っている様々な情報が僕の記憶と合致している以上、これらの情報は事実であると認めざるを得ない。


 何より、この情報や映像を僕達に見せる事で世界は本当は壊滅していないと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 画面に映されている情報を疑うよりは、最初から事実であると受け入れる方が容易に納得出来る……そう、思わざるを得ない程に僕達が今見ているものには説得力があった。



「フェイク……では無さそうね」


「1人2人ならまだしも、これだけの大勢を出演させたフェイクムービーを作るのは実質一本の映画を作るのと同等でしょうし、そもそもこんな物を作る意味も分かりません。俺もこれは事実だと思います。……信じ難い話ですが」



 美桜と錬治もほぼ僕と同じ考えのようで、スマホから得られる情報は事実であると認めるようだ。

 僕も一瞬フェイク動画や捏造された記事だという線を疑ったが、それにしては粗のない動画ばかりだったし、信憑性の高い文章で構成された記事しかなかった。



「でもこれは一体どういう事?死還人ゾンビは日本に留まらず、世界各国にウィルスを持った人達が流出してしまった筈。事実、各国で感染者達が暴れた記録もあるし、トリスタン達もそう言っていた。なのに何故、世界は無事なの?」



 そして美桜は僕と錬治が1番気になる事を真っ先に聞いてくれた。

 スマホの画面こそ見ていないものの、後ろに居る久野や水先達も詳細を知りたい筈だ。



「……お国柄、とでも言えば良いだろうか。全く。くだらねぇよな」


「……?」



 美桜の質問に対し、葉崎はどこか呆れたような様子で語り始めた。



「世界が無事で、何故日本だけ壊滅的ダメージを受けたか。その答えは異常事態に対する各国の対応速度の違いによって差が生まれた事にある」


「……どう言う事?」


「最初にゾンビの被害が報告された際、この日本という国はただの酔っ払いが傷害事件を起こしたのだと認識した。続くゾンビ達の被害も、酔っ払いや薬物中毒者や精神障害者が()()同時期に多発した事による事件だと処理をした」


「まぁ、にわかには信じ難いでしょうね。死還人ゾンビが現実のモノとなって人を襲うなんて」


「そうだ。この国のお偉いさん方はゾンビをゾンビとして認識せず、ただの異常者達による暴行事件だと認識した。ゾンビに噛まれるなどして傷つけられた人達が、同じようにゾンビになったとしても」


「……何となく話が見えてきたわ」



 美桜はもう何となくの見当がついたらしい。

 僕にはまださっぱりだ。



「ゾンビの襲来を災厄/災害として扱わなかった日本政府は、ネズミ算式に増えていくゾンビを前に、一般的な対処しか取る事をしなかった。暴れる者を機動隊や警察が抑え付け、怪我をした者は病院へ搬送する。そんな事をしても全く意味が無いという事はお前達もよく分かっている筈だ」


「……痛い程にね」



 死還人ゾンビの力は強い。どれだけ訓練と鍛錬を積んだ機動隊や警察の人達と言えど、人間の限界を容易く解放してしまった僕達ゾンビが普通の人間相手に遅れを取る事はまず無い。

 それに、僕達ゾンビは本能のままに生きた人間を殺して喰べようとするのに対して機動隊や警察は僕達の事を殺すつもりで抑えようとはせず、あくまでも生きたまま制圧をする事を主にして望んでくる。

 殺意の差からしても勝敗がどうなるかは想像に難くない。 


 勿論、銃火器を使われたらほぼ僕達ゾンビに勝ち目はないが、盾や警棒くらいしか武具や防具を持っていない彼らが僕達ゾンビに勝てる可能性は殆ど無いと言っていい。

 1人2人くらいは倒せるかも知れないが、それだけだ。

 襲い来る全ての死還人ゾンビを倒し切るには一般的なやり方では間に合わない。

 銃火器による圧倒的な暴力こそが僕達ゾンビを殲滅する数少ない手段の1つだろう。


 そして僕達ゾンビに噛まれたり、傷つけられた者は確実に死還人ゾンビになる事は美桜やトリスタン達が証明してくれている。いつかはワクチンのようなものが完成するのかも知れないが、それはまだ未来の話。死還人ゾンビが発生した直後であれば死還人ゾンビ化を防ぐ薬はおろか、それを遅らせる薬や手段さえなかっただろう。

 そんな中、死還人ゾンビに傷つけられて体内にウィルスを持っている人達を病院に運べば搬送中は良くても病院の中で発症し、好き勝手に暴れ回る事になる。

 基本的には怪我人や病院、医療従事者や一般人しか居ない病院で死還人ゾンビが発生すればそれこそ被害は拡大する一方だ。

 今でこそ言える事ではあるが、僕達ゾンビに対して一般的な対処を取る事は致命的な悪手であると言わざるを得ない。



「国のお偉いさんがそれに気付いた時にはもう手遅れと言って良い時期だった。日本中にゾンビ共がうごめき、見る場所全てにゾンビが居た。一応、俺も自衛隊の端くれだ。救助活動や戦闘は行ったが成果は微々たるもの。全てを元通りにするには俺達の力はあまりにも小さ過ぎた」



 そう言う葉崎の顔には悲しそうで悔しそうな感情が滲んでいる。

 葉崎は葉崎で人助けをしようと頑張ってはいたのだろう。



「そうして日本が誇る、唯一の()()()()は呆気なくゾンビ共に敗北した。原因は、早急に適切な対処を取らなかった為。或いは、取らせなかった為だ」


「……なるほど、ね。確かにお国柄という言い方は正しいのかも知れないわね」



 何となく僕にも話が掴めてきたぞ。



「つまりはこういう事でしょう?日本以外の国は死還人ゾンビの存在が確認された段階で死還人ゾンビを排除し、それらに襲われた者達も適切に処理をするか隔離をして死還人ゾンビの発生を極限まで封じ込めた。違うかしら?」


「大体そんな所だ。銃社会の国はゾンビをゾンビと分かっていなくても、危険な人物として警官や軍人が射殺し、時には一般人がゾンビを射殺した。銃社会でない国も、国が迅速に動いたお陰でそれぞれの国の軍隊がゾンビを積極的に排除したからそう酷い事態にはならなかった」



 国の対応が遅れると、こうも差が生まれるのか。



「勿論、多大な犠牲と影響が出た事も事実ではある。だが、空気感染をするタチの悪い未知のウィルスと違って、ゾンビ共のウィルスは空気感染をする事は無い。原因となるゾンビを全て排除すれば、自ずと事態は解決に向かう。大国と小国の差はあれど、日本以外の国々は最初に自国でゾンビを確認してから数ヶ月以内にはゾンビの殲滅を成し遂げていた。……これが真相。これが事実だ。日本が滅んだのは、平和ボケして危機感の無いお偉いさんといつか何とかなるだろうと能天気に過ごす国民性が原因だ」



 そんな事で、日本は滅んでしまったのか。

 多くの感情を失った僕も、死還人ゾンビという未知の災厄に見舞われたとは言え、何故世界に誇る自衛隊という組織がありながら日本が壊滅してしまったのかの真実を聞いて、流石に何とも言えない気持ちが胸の奥で震えているのを感じていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れさまです 個人的には異論もありますが、日本についてはまあ諸々考えるとなくもなさそうだよなあとは思いますw あ、でも以前ネットでみかけた日本はゾンビパニックに強い!みたいなまとめは面…
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