3人の敗北
(……なんで?なんでなの?)
水先に頭を切り落とされ、遠くへ蹴り飛ばされたモルガーナは自分達に起きた状況が理解出来ず混乱していた。
当初、モルガーナはモーザとドゥーグは敵に一度遅れを取ってしまったものの、それは実力を発揮出来ていなかった所為であり、実力さえ発揮出来ればあんな奴らは敵にもならないと考えていた。
だからそれを解決するべく、肉体に大きな負担をかけ、後日しばらくの間は動く事が出来なくなるデメリットはあるものの、身体能力を大きく向上させる事の出来る薬を投与する事でその戦力差を埋めようとした。
自分の一存でその薬を2人に投与する訳にはいかなかったのでモルガーナは頭に埋め込まれた超小型の通信機を使い、ケリーにその薬の使用の許可を貰い、紆余曲折はあったものの無事2人に薬を飲ませる事に成功した。
その結果、2人は本来の力を出す事が可能となり、これで自分達を阻む敵は全て殲滅出来ると確信していた。
だが、現実は違った。
モーザは彼より劣る筈のType-Sである第二世代の久野相手に一方的に倒されてしまい、ドゥーグに至っては最も劣る筈の第一世代の紅牙と第二世代のジェイクになす術もなく倒されてしまった。
本来であれば、ケリーによって手術が施された合成魔人である第三世代のモルガーナ達はそれより劣る敵に負ける筈はなかった。
実際、第二世代の久野相手にはそれなりに追い詰める事が出来ていたので、それは間違いでは無かった筈だった。
にも関わらず、モルガーナは久野より更に劣る第一世代である死還人の水先にいとも容易く負けてしまった。
一体何故こうなってしまったのか。
どこで何を見誤ってしまったのか。
合成魔人化計画の被験者に選ばれた自分達こそ、この場における最強の存在ではなかったのか。
そもそも私達は本当に合成魔人として手術が完了しているのか?
確か当初の計画では6人のType-Sの特徴を全て併せ持つ予定では無かったのか?
そうなると私達は未だ未完成の状態なのではないか?
そんな考えがモルガーナの頭をぐるぐると回り続ける。
どれだけ考えても与えられた情報と得た情報が少な過ぎるので答えは出ないし、自分が動けない以上頼みの綱となる筈のモーザとドゥーグは完全に無力化されて助けは期待出来ない。
2人よりは多少優れている自分の身体は、頭部を失っても尚戦意を見せてくれたが、それも長続きはしなかったようで、すぐに沈黙してしまった。
最後の手段であるケリーに助けを求めようにも、肺がなくてはいかに優れた再生力を持つモルガーナであっても声を出す事は出来ないのでそれも叶わない。
そもそも、本来のモルガーナ達の役目は久野達をこの場に足止めをする事だったので、ケリーに助けを求めた所でケリーが助けに来るとは限らないといったのが現状だった。
それを思うと、
(まさか私達、使い捨ての駒にされた?時間稼ぎの?)
そんな不穏な考えがよぎってしまうが、それだけは絶対に無いと自分に言い聞かせ、現状を打破する事の出来る策をなんとか捻り出そうと思案する。
(せめてもう数十m自分の身体に近づく事が出来れば勝機はあると言うのに!)
そんなもどかしさを感じながらグラウンドを恨めしそうに頭1つで観客席から眺めていると、モーザとドゥーグに近づく見知らぬ2人の男の姿が見えた。
その男達はそれぞれ1人ずつモーザとドゥーグに歩み寄り、モーザとドゥーグの身体に何かを突き刺したのを確認する事が出来た。けれどもそれが一体何なのかまではモルガーナには分からない。
唯一分かった事は、あの2人の男達は自分達の味方では無いという事。
何故分かったかと言うと、2人の男達がモーザとドゥーグを倒した敵と親しそうに話しているのが見えたからだ。
(何が今私達に起きているのかは分からない。けど、早めにどうにかしないと手遅れになる!)
それを見たモルガーナは焦りを感じ、1秒でも早く自分の身体に近づこうと色々と試行錯誤をしてみたが、
「こんな子供にまでアイツは……!ごめんなさい。あなたをもっと早くに救ってあげられなくて。もう、ゆっくり休んで良いからね。彼らも私の仲間が助けにいってくれたから」
(はぁ?誰なの!?)
聞き覚えの無い女の声を聞いた所でモルガーナの意識はそこで途切れてしまった。