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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
120/149

チームトリスタン⓵

「……時間だ。ツィー、行けるか?」


「あぁ。いつでも行けるよ」


「ミャオミャオ……」



 キングスは左腕に着けた腕時計を見ると、予定の時間を過ぎてしまっている事を確認してルーランに扉の開錠を指示する。

 ルーランは電子扉に繋いだPCの画面を見て、後はエンターキーを押すだけで扉のロックを解除出来る事を確認する。

 トリスタンはどこか落ち着かない様子で美桜の名前を呟いていた。



「トリスタン。そう心配をするな。予定の時刻になっても天袮達から連絡が入らない所をみると、恐らく何らかの不足の事態が向こうで発生したのは間違いない。だが、だからと言って俺達が何か彼女達に出来る事がある訳でもない」


「それはそうデスけど……」


「お前の気持ちは分かるが、そうなった時の為の予備のプランだろう?」


「……はい」



 美桜は今回の作戦において、久野が9発のRPG-7を着弾させた後に地下から球場の内部へ入るようトランシーバーを使い連絡をするとトリスタン達3人に伝えていた。

 ただ、


『もしも私から定めた時刻になっても連絡が入らなかったらキングスの判断で球場の内部に突入して欲しい。そうならないように努めるけど、絶対は有り得ないから一応そのつもりでいて』


 美桜からそのように言われていたので悪い方向に美桜の予感は当たっていたという事を3人は痛感する。


 夜明けから20分後。

 それが、美桜の定めたトリスタン達救出組への待機時間だった。

 その20分を過ぎた為、キングスは己の判断で球場の中へ突入する事を決める。



「天袮達は天袮達で自分に出来る役割を果たしに行った。なら俺達は俺達で与えられた役割を果たすべきだ。今、この状況で最も最悪なのは天袮達の作戦が失敗して、かつ俺達も誰も救出出来なかった場合だ。そうはさせない為にも今は他の事に構わず目の前の役割を果たすぞ」


「そうだね。ブランの言う通りだ。僕はもう覚悟は出来た。トリスタンは?」


「……そうデスね。ブランとツィーの言う通りです。私は、私達は仲間を助ける為にここに居る。なら、それを果たさずして何の意味があるでショウか!ブラン!私も行けマス!」



 キングスの激励が2人に効いたのか、落ちつつあった士気は最良の状態にまで高まっていた。



「ここから先は見知った建物とは言え、敵地の中だ。油断はするなよ!行くぞ!」


「これで良し!開いたよ!」


「行くデスよ!」



 意気込みを充分に、解錠された扉に手をかけていの一番に球場の地下へと足を踏み入れるトリスタン。

 図面が正しければ、扉を抜けて次の部屋がトリスタン達が休養の為に使用していた大部屋になる筈。

 はやる気持ちを抑えながら、慎重に次の部屋へと続く扉に手をかけ、ドアノブを回す。

 鍵は掛かっていなかったので扉はすんなりと開き、次の部屋へと入る事が出来た。

 そして……



「……ヘレナ?ヘレナか!?それにキングスとツェペシュも!?無事だったんだなお前達……!」



 大部屋の中には数十人の白衣を着た外国人が床に敷かれた布団の上やソファや椅子に座って休んでいた。

 部屋の中に入って来た3人に1人が気付くと、全員がトリスタン達の方を向き、全員が安堵した表情で3人を迎え入れる。



「心配かけましたデス。皆も無事で良かったデス」


「……あぁ。誰一人欠ける事無く、全員が無事だ。でもどうしてお前達はそんなとこから……?」


「おっとそれについては俺から説明させて貰うぜ。皆!悪いがちょっと集まってくれ!大事な話をしなきゃならねぇ!」



 キングスがそう呼び掛けると、全員が立ち上がりキングス達3人の下へと集まった。

 そして、キングスは自分達が球場から脱出した後の事や今現在球場で行われている作戦についての説明をする。

 その話を聞いて、皆一様の反応を示したが誰も異議を唱える事無く話を聞き続けた。

 そしてキングスの話を聞き終えると、1人の男性が口を開く。



「状況は理解した。ならば今度は俺達がお前達に話をしなければならない」


「エイバン?」



 キングスにエイバンと呼ばれた男性……フォスター・エイバンがこの場の全員を代表して口を開く。



「あの日俺達は球場内部に待機していたType-GFとType-Mに無理矢理連れ戻された。正直このまま殺されるのでは無いかと思ったが、ケリー・ハイルは俺達を傷つけ、殺す事を良しとせず引き続き自身の研究を手伝うよう俺達に命令を出した」


「それで誰も欠ける事なく無事だったのか」


「あぁ。そしてアイツは言ったんだ。『もう君達に手伝って貰う事は殆ど無い。最後の仕上げさえ終わらせてしまえば君達を解放する』と」


「最後の仕上げ?」



 キングスにとっては心当たりの無い言葉に、一体何を仕上げるのかが疑問になる。

 久野達Type-Sも、その他のTypeシリーズも基本的には完成していて仕上げをするような個体は居ない。

 だとすると、別の可能性が浮かび上がって来るがまだ確証は無いのでソレを口にする事なくエイバンの話を聞き続ける。



「あぁ。アイツは俺達が思っていた以上に慎重で疑り深かった。正直子供だと思って侮っていたよ。まさかあんなモノを裏で作っていたなんて、思いもしなかった」


「何を見た?何をさせられた?」


「まずはアイツの目的を…… アイツの夢の果てとも言える《竜魔人化ドラグライズ》について語らねばならない」



 神妙な面持ちでエイバンは自身が見て聞いて行ってきた事を3人に向けて話し始めた。



 ☆★☆★☆



「さぁ皆!ここに長居は無用だ!俺達が通ってきた地下通路を抜けて脱出するんだ!」


「外にはゾンビ達が居るかも知れない!だから、駅まで戻ったら放置されている地下鉄の車両の中で待機していてくれ!」


「急がず焦らず落ち着いて移動して下サイ!ここは比較的安全デスから慌てる必要はありまセン!」



 エイバンから3人が球場を抜けてからの話を聞き終えた後、3人は囚われていた仲間を逃す為に自分達が通って来た地下通路から球場を脱出するよう促し、仲間の救出を試みる。

 ここに囚われていた人達は渋々ケリーの研究を手伝わされていただけなので、当然ながら未練などある筈も無く、3人の指示に従い順に球場から脱出する。

 元々の人数がそこまで多く無かったので、全員が脱出するのに要する時間は10数分程度しか掛かりそうに無く、取り敢えずはトリスタン達の目的はこれで達成された事にある。

 そうしてルーランを先頭に囚われていたアスクレピオス社の研究員は無事に球場からの脱出に成功し、皆が囚われていた部屋に残っているのはトリスタンとキングス、それにエイバンの3人だった。



「さて、残るはお前だけだ。エイバン。お前もいつまでも聞き分けの無い事言ってねぇでさっさとツィー達を追いかけろ」


「だが、君達はどうするんだ?俺はやらなければならない事があるからここに残る。でも、君達はそうではないだろう?」



 最初からここに残るつもりだったエイバンに対し、キングスは笑って答える。



「馬鹿。逆だ。お前はもう充分役目を果たしてくれた。後の事は俺達に任せろ」


「だがしかし……!」


「待って下さい。少し、訂正がありマス」


「なんだ?」


「ここに残るのは私だけデス。キングスとエイバンはルーラン達と合流して下サイ」


「ちょっと待てトリスタン?お前1人だけ残ってどうなるんだ」


「そうだ!さっきの俺の話を聞いていただろう?最早アレに対抗する術は無いかも知れないが、それでもアレの完成に携わった俺が居れば何か変わるかも知れない。ヘレナとキングスがルーラン達と合流しろ。ここには俺が残る」



 エイバンの話を聞いて以降、エイバン・キングス・トリスタンの3人はそれぞれ自分がここに残ると言って聞かなかった。

 ルーランも残ると言い出したが、仲間の救出を優先させる為に半ば強制的に送り出したのでここには居ない。

 そうして3人は残ったのだが、未だ自分の主張を引く事をさせず全員が自らの我を通そうと奮闘している。



「だからデス。落ち着いて考えて下さい。まず、ブラン。ツィー達は無事に球場から逃げ出す事が出来ましたが、だからと言ってゾンビの脅威が無い訳ではありマセン。いつ、どこから奴らがやって来るかは誰にも予測出来ないのデスから。だから武器を扱え、戦闘経験のあるキングスに皆を守って欲しいのデス」


「お前の言ってる事は分かるが……」



 納得のいっていないキングスを他所に、トリスタンは続いてエイバンに話を振る。



「エイバンの気持ちは分かりマス。あなたの話してくれた事も理解出来マシタ。それを踏まえた上で、私は私がここに残ってミャオミャオに……美桜に今の話を伝えるべきだと判断しマシタ」


「でも話を伝えるだけなら俺でも」


「私より弱いエイバンが球場で繰り広げられる戦闘に対応出来るのデスか?」


「ッ……!」



 トリスタンは強い口調と眼差しでエイバンを御すようにしてその言葉を遮る。

 普段見せないトリスタンの様子にエイバンは怯んでしまい、口を閉じる。



「私はこんな見た目デスが、人よりも力は強いし運動能力も秀でていマス。その上頭脳も高いデス。恐らく、今居る仲間の中では誰よりも。両親から受け継いだこの身が何の為にあるのかと言うと、きっと今この時に役立てる為だったのだと自信を持って言えマス。現在外では美桜達や久野さんがTypeシリーズを相手に死闘を繰り広げていると予想されマス。そんな中、無事に美桜達の下へ辿り着けるのは私以外には居ないと思っていマス。違いマスか?」



 トリスタンの問いかけに、2人は肯定する以外に選択肢は無かった。

 トリスタンの異常とも言える集中力から紡がれる研究成果は誰もが認めているし、ボクシングの全米チャンピオンである父親とボディビルの全米大会を10連勝した母親から受け継いだ強靭な肉体はその辺の軍人を軽く凌駕するだけの才能を秘めていた。

 事実、力比べでトリスタンに勝てる者など誰一人として居なかった。

 だからトリスタンの言う事は理に叶っていると認めざるを得なかった。



「エイバンは万が一私が失敗した時に、あなたが持つ情報を次の誰かに伝えるべく生き延びて下さい。ブランは誰も失わないよう皆の剣となり盾となって下さい。後ろが安全であると分かれば、私も目の前の事だけに集中が出来マスから。あ、勿論死ぬつもりなんて毛頭ないデスよ?生きて勝って皆と祝杯を上げる。そこまでがセットデスから」



 そう言ってトリスタンは無邪気な笑顔を2人に見せる。

 トリスタンが嘘を苦手としている事は周知の事実だったので、その言葉が嘘や強がりなんかでは無く本心からであると信じる事が出来た。

 だからこそ、ようやくここで2人も覚悟を決める事が出来た。

 トリスタン1人に危険な道を歩ませ、自分達は先に行った仲間の為にその身を削ると。



「どうせお前はもう俺達が何を言っても聞きゃしないんだろう?この分からず屋め」


「痛いデス!?何するデスか!?」



 キングスはトリスタンの頭を目掛けて強めに左手でチョップをする。

 急な不意打ちに驚いたのか、それなりに痛みを伴う頭を抑えながらキングスを睨みつける。



「文句はお前が生きて戻って来たら聞いてやる。倍返しでも何でも食らってやるさ。だから、アイツらの事は任せたぞ」


「……うん。任されたデス」



 ただ、それがキングスなりの激励だと分かると睨むのを止め、柔らかい眼差しで返答をする。



「万が一、なんて事は有り得ない。お前がしっかり決めてこい。ヘレナ」


「えぇ。頑張るデス」



 そう言ってエイバンは別れと再開を祈って、トリスタンと握手を交わす。

 エイバンの顔には迷いはもう無かった。



「それじゃあ俺達は行くぞ。お前も気をつけて行けよ」


「油断するなよ。いくらお前が強くても、敵は人ならざる化物だ。その恐ろしさは、他でも無い俺達が1番良く知っている」


「デスね。充分気をつけるデス」


「あぁ。そっちは任せたぞ。こっちは任しとけ!」


「また後でな。ヘレナ」


「ええ。2人共、また後で」



 そうしてキングスとエイバンは地下通路を通って球場を後にした。

 残ったのはトリスタンただ1人だ。

 誰も居なくなった大広間でトリスタンはポツリと呟く。



「エイバンの話が本当だとしたら、きっと今回の作戦の鍵を握る事になるのは鈴君。()()()()()()()()()()()()()なんてきっと日本のどこを探しても彼しか居ないでしょうから」



 トリスタンは絶対に解けないよう靴紐をしっかりと結び、エイバンから聞いた話を頭の中で何度も反復させて齟齬や忘却をしないよう心掛ける。

 そして深呼吸をして体の調子を整え、自身が向かうべき場所へと足を進める。



「待っていて下さい。美桜」


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[一言] 人を食べたことのないゾンビ……確実にそうと言えるのは鈴だけだけど、探せばいるんじゃないかな。問題は見分けれるかだけど あと、やろうと思えば作れるからそっちのが怖いかも
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