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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
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チーム鈴⓵ 照明塔から降って来た者

「……っ!凄い音だな。上手くいったのか?」


「多分ね」


「本当にあんな距離から届くものなんですね」



 久野が放った弾頭が観客席に着弾すると、球場の外に居るれい達3人にも爆発の衝撃が深く響き渡り、その衝撃を体感するだけでかなりの被害を敵に与える事が出来たとうかがえた。



「全部で9発だっけか?久野が撃ち込むのは」


「ええ。でも9発全てを撃ち切れるとは思っていないわ。ケリーも馬鹿じゃないでしょうし、味方に被害が出れば即座に対応の為に動く筈。今の段階で敵の戦力を削れるだけ削るに越した事は無いけど、そう上手くはいかないでしょうね」


「そうか……」


「まぁそれならそれで俺達がどうにかするだけですよ」



 今回は仕方がないとは言え、出来れば何もせずに事を済ませたいれい美桜みおの言葉を聞いて気落ちする。

 それに対して錬治れんじは抗戦に意欲的で武器のチェックや身体の調子を念入りに確認している。



「2発目……だけど着弾が少し早い?音もさっきより近く感じるような……?」



 そうして鈴達が話している間に2発目が撃ち込まれるが、1発目の時と比べて弾頭が爆発するまでの時間と、爆発した時の音に多少の違いがある事に美桜が気付く。



「錬治」


「あぁ。何か変な音がしたな。発砲音……か?」



 鈴と錬治は1発目と2発目の違いに気付く事は無かったが、逆に美桜が気付けなかった不審な音を察知する。



「美桜、今の音聴こえたか?」


「音って、今の爆発音の事?」


「いや、その直前に聴こえた破裂音……銃を撃った時のような音だ」


「私には何も。その様子だと錬治にも聴こえたの?」


「はい。ほぼ間違いなく銃の発砲音だと思います。でもどこから……?」



 錬治はキョロキョロと辺りを見回すが人影は見当たらず、自分達が狙われている様子も無い。

 久野はRPG-7以外の武器を持っていかなかったから発砲音の主は久野では無いし、拳銃所持しているトリスタン達は地下で待機をしているのでこんな所に居る筈がない。

 そうなると、残る可能性は球場の中に居る誰かが発砲したという事になるが、誰が何故何を撃ったのかは分からなかった。



「2人はそのまま耳を澄ませて音の出処を特定して。3発目がそろそろ来るわよ」


「あぁ」


「了解しました」



 鈴と錬治はその場に座り込み、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。

 美桜は3発目の弾頭が撃ち込まれるタイミングを計る。



「……変ね」



 だが、撃ち込まれる筈の弾頭は未だ撃ち込まれず、美桜の中に何か予定が狂い始めているのでは無いかという疑念が芽吹き始める。

 本来なら弾頭が観客席に着弾した後、約15秒の時間を置いて次弾を発射するという手筈で美桜と久野は打ち合わせていた。

 次弾の装填と発射までの手順は何度も練習をしたので余程の事が無い限りは打ち合わせ通りの間隔で弾頭を撃ち込める筈だった。

 逆に言えばそれが出来ないという事は何か不足の事態が発生したという事の裏返しでもあった。

 美桜はマズいなと思いつつ、久野が居るホテルを見ていると3発目の弾頭が発射されたのが確認出来た。



「来たわ!」


「……」


「……」



 美桜の合図に対して鈴と錬治は右手を少し挙げる事で返事を返す。

 余程集中しているのか、余計な情報はなるべく受け取りたく無いといった様子だった。



「……やっぱり変よ」



 そして3発目の弾頭が爆発するのを聞くと、美桜の疑念はより強くなり、何かがおかしいと判断して久野に連絡を取る。



「久野さん?何かあったの?応答して!」


『美桜さんごめん!1発目は着弾したのだけど、2.3発目は観客席に届く前に空中で爆発して敵に被害を与える事が出来なかった!何か障害物があった訳でも無いし、弾頭に不備があった訳じゃないと思う!原因が分からないの!』



 地上からは見えなかった爆発の様子を久野から聞くと、美桜は弾頭が迎撃されてしまったのだと判断する。

 それも鈴と錬治の話からするに、それなりの速度で飛来する弾頭を正確に銃で撃ち抜く狙撃手スナイパーのような人物の手によって。

 2.3発目の弾頭が迎撃された事から敵の狙撃手スナイパーはかなりの腕前だと予想された。

 なので美桜はこれ以上はRPG-7による攻撃は無意味だと判断し、久野に次の指示を出す。



「そこから離れて!恐らく狙撃手スナイパーが居るわ!こちらに戻って来て!』


『み……か……』



 だが、久野から返ってきた応答には酷いノイズが混じっていてまともに言葉が聞き取る事が出来なかった。



通信妨害ジャミング……!」



 たった今まで使えていたトランシーバーが突然使えなくなった事から、どこかで通信妨害装置が展開されたのだと美桜は考え、通信妨害が行われる事を予想していなかった美桜は軽い焦りに襲われる。



「まさか今の日本でそんな物が手に入るなんて……過ぎてしまったものは仕方が無いわ!鈴、錬治!発砲音の出処は分かった?恐らく狙撃手スナイパーがそこに居る筈よ!」



 だが、過ぎた事を悔やんでも仕方がないと割り切り、せめて後手に回らないよう対応を急ぐ。



「悪いが今のじゃ分からなかった。球場の中から撃っているのは間違いないんだけど、音が反響して特定には至らなかった」


「申し訳ありません。俺も鈴と同じです。ただ、それとは別に妙な音がさっきからしているんです」


「妙な音?」


「はい。何か硬い金属を貫くような音が上の方から……アレです!誰か居ます!」



 錬治が叫び、指を刺す方向は夜間など暗い球場を照らす為に用いる照明塔で、そのてっぺんに誰かが立っているのが確認出来た。

 かなりの高さがある為、視力が普通の人間と変わらない美桜にはそこに立っている人物の顔や身体の特徴までは見る事が出来なかったが、死還人ゾンビの向上した視力を持つ鈴と錬治にはハッキリとその姿が捉えられていた。



「両腕に生えた鎌のような何か……もしかしてあれがトリスタン達を襲って、久野を追い込んだジェイクって奴じゃないか!?」



 ジェイクの顔や姿を知らない3人ではあるが、久野からジェイクは鎌を移植されたType-Sだと聞かされていたので、照明塔に立っている人物がジェイク本人であると予想出来た。

 それと同時に、自分達の中では最も強い久野を容易に追い込むだけの力を持つ人物であるとの認識なので、今襲いかかれてしまえばかなりマズイ事になると全員が考える。



 《美桜さん!上!照明塔にジェイクが居る!逃げて!》



 そして、そんな鈴達の考えを裏付けるようにして久野の声が鈴と錬治に届く。



「美桜!上に居る奴はジェイクって奴で間違いない!久野が叫んだ声が今聴こえた!」


「そう……なら逃げるわよ!」


「了解!」


「了解です!」



 鈴達ではどう足掻いてもジェイクに勝つ事は出来ない。

 ジェイクに対抗出来るのは久野だけである。

 それが分かっていたから、美桜は即座に撤退命令を出す。



「降って来たぞ!」


「あの高さから……!?馬鹿なんじゃないのかアイツ!?」



 そうして今いる場所から3人が逃げ始めると同時にジェイクは照明塔から3人を目掛けて飛び降りる。

 無謀とも思える行為だが、ジェイクは落下中に腕に生えた鎌を球場の外壁に突き立てる事で勢いを殺し、一切のダメージを受ける事無く着地に成功し、3人を見据えると大きな声で話し始める。



「ラッキーだぜおい!高い所から見下ろせば楽に見つけられると思ったが、まさか真下に居るとはなぁ!女ぁ!てめぇが天袮美桜あまねみおって奴だな!んで両隣の男は……聞いた気がするが忘れたな。どうせ雑魚だろ。後から殺してやるからそこで突っ立ってな!」



 両手を大きく広げ、笑顔で話す様は一見すると無防備なのだが、逃走を試みようにも絶対に防がれてしまうという予感が3人から離れてくれなかった。

 隙があるようで隙がない。

 神崎や久野と戦った時とは全く違う次元の強さを3人は肌で感じていた。



「俺が用があるのはそこの女だけだ。ウチのボスがお呼びだぜ。生捕りを命令されているから殺しはしないが、抵抗するなら半殺しにする。大人しく付いて来い」



 何も出来ないでいる3人を他所よそに、ジェイクは自分の要求を一方的に伝える。



「よく言ったものね。Type-GFとやらを大量に送り込んで私達を殺そうとしたクセに。今更生捕り?信用出来ないわね」



 が、当然そんな要求は飲めないと美桜は突っぱねる。



「馬鹿言っちゃいけねぇぜ?ボスはあんただけは捕縛するつもりだったんだ。他の奴らは皆殺しの予定だったらしいがな。菜絵の邪魔さえ入らなければ今頃あんたはボスの手駒になっていただろうよ」



 菜絵の邪魔さえ入らなければ。

 あの場には鈴達3人と東達20人しか居らず、現れたType-GFは全て久野が殲滅したので、ジェイクのその言葉からあの時の戦闘を誰かが見ていた事が分かる。



「馬鹿言わないで。あなたの言うボスってハイルの事でしょう?あの子と敵対する理由はあれど、大人しく従う理由なんて1つも無いわ」


「知るか馬鹿。てめぇの事情なんざどうだっていいんだよ。ボスが手駒にすると決めたらてめぇはもうボスの手駒になるしかねぇ。お前アレだろ?なんか凄い技術を持ってんだよな?ボスはそれが欲しいんだとよ」


「あの子が私の……?何を企んでるのかは知らないけど、ロクな事じゃ無いのは間違いないわね」



 美桜が持つ技術の中で、ケリーが欲しがりそうなモノと言えば

 《移植手術による拒否反応の完全無効化技術》

 の他に思い浮かばなかった。

 久野やジェイクのように後天的に他の生物の特徴を模した部位を移植した被験体が居る以上、そこに至るまでに犠牲になった者達が居る事は明白だった。

 臓器や部位の移植後に拒否反応が生じ、移植した部分が壊死してそれが原因で死んだ者はかなりの数が居る筈。

 もし、そうだとしたら移植手術の成功率を100%に高めるだけの技術を得る事が出来れば被験体を無駄にする事無く実験を飛躍的に進める事が出来る。

 そこまで美桜は思い至る事が出来たので、絶対にハイルには私の技術は渡せないと決意する。



「生憎だけど私の経験と技術は善良な患者にのみ使うと決めているの。間違ってもあの子の非道な実験に使う為じゃないわ」



 そして美桜は腰から拳銃を取り出すと、ジェイクに向けて構える。

 それに習って鈴と錬治も拳銃を取り出してジェイクに向けて構える。



「馬鹿な女だな。女が馬鹿なら連れも馬鹿か。そんな物で俺がビビると思ってるのか?面倒臭ぇから穏便に事を運んでやろうと思ったが、このままダラダラと話し続ける方が面倒臭ぇ。女は足首の1つでも切り落として、男はギロチンの刑だ」



 ジェイクもそれに対し、両腕の半月状の鎌を鈴達に向けて応戦の為の構えを取る。



「いくらあなたが強くても、拳銃の弾が当たれば無傷では済まないでしょう?」


「さぁな」



 ジェイクは不敵に笑い、拳銃など自分の脅威にはならないと余裕を伺わせる。

 だが、美桜も不敵に笑みを浮かべると拳銃を降ろして構えを解く。



「あぁ?観念するってのか?」



 戦う事を諦めた訳ではない。

 ジェイクと戦うのに相応しい人物が接近しているのを察知したからこそ、美桜は構えを解いたのだ。



「まさか。あなたがダラダラと話してくれたお陰で間に合ったわ」


「何言って……ぬぐぁっ……!てめっ……!」


「ジェェェェェェェイク!」



 ジェイクの背後から5本の触手を使う事で巨大な蜘蛛のように駆けて来た久野が現れ、そのまま攻撃に転じて2本の触手でジェイクの身体を貫く事に成功する。



「久野さん、後は任せたわよ!」


「ここは任せて!男達はしっかり美桜さんを守りなさいよ!」


「言われなくてもな!」


「すまん!任せた!」



 軽症ではあるが、手傷を負ったジェイクは一度鈴達と距離を取って体勢を立て直す。

 その隙に鈴達は球場の中へと離脱する。



「菜絵ぇ、てめぇホテルからロケットランチャーをぶっ放してたんじゃ無かったのかよ?」


「それが何?どうかした?」


「毎度毎度邪魔しやがってよぉ……いい加減目障りだ。殺してやる……!」



 ジェイクの久野に対する怒りから、これまで両腕に一対しか無かった半月状の鎌が、背中・両足・てのひらと大きさは違えど様々な場所から生えてくる。



「ご生憎さま。今の私はあんたに殺される程ヤワじゃないのよ?どっちが殺される羽目になるんだろうね?」


「前回俺から尻尾巻いて逃げた奴がほざくな……と言いたい所だがてめぇ前回とは違うなぁ?油断はならねぇ。最初っから全力で行くぜ!」



 前回とは違う久野の様子をジェイクは見逃す事なく感じとっていた。

 久野も口には出来ないが、ジェイクの気迫のようなものが前回とは違う事を感じており、油断をすれば殺されるのは自分だと強く言い聞かせる。



「無駄に喋る馬鹿は死亡フラグよ?」


「はっ!んなの関係ねぇよ!」



 その言葉を皮切りに、久野とジェイクの戦闘が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、なんとなくRPGの件はわかった気がします。すっかり忘れてたわ、感染者にばかり気をとられてたw 久野VSジェイド、ある意味因縁というか、推定最強VS現状最強というS同士の激突。ケリー君、…
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