東と花木⓵
「あったぞ。花木」
「まさか本当にあるとはねぇ。半信半疑だったけど、あの子の言っていた事は嘘じゃなかったんだね」
鈴達と別れた後、東と花木達の20人から成る水先グループは久野が手渡した自衛隊が残した物資が隠されている場所を記したメモを頼りにそこを目指していた。
メモに記されていた場所は大手のショッピングモールにある立体駐車場の屋上で、角の方に停められていた黒い軽バンの中に拳銃や突撃銃、手榴弾や地雷などの武器が乱雑に保管されていた。
東達水先グループの中には自衛隊に支給される装備の詳細を知っている者は居なかったが、明らかにテレビやネットで知られているような自衛隊の標準装備から逸脱している武器があった事から、そこにあった武器の全てが自衛隊が残した物だけではない事は全員がすぐに思い至っていた。
現在の日本では主に海を除く陸・空の自衛隊と各地の基地に配属されていた米軍が死還人を駆逐し生存者を保護する任務に当たっていた。
未曾有の非常事態である為、国を越えて最大限の協力を約定した日本とアメリカの団結力は凄まじく、一時期は死還人の総数が最盛期の1割程に減らす事に成功していた。
しかし、どれだけ武力によって死還人を駆逐しようとも、一体一体を丁寧に銃火器で倒していくのでは時間はかかるし、1日に倒せる死還人の数も限られている。当然ながらどこに生存者が居るのかも分からないので空から空爆を行う事でまとめて一網打尽にするという案も許可がされる事はなかった。
何より使用する銃器の弾薬に限りはあるし、無尽蔵に弾薬や爆弾の補充が出来ない事から最盛期と比べて1割程に減った死還人も時間と共に次第に数を増やしていき、今では日本の国民は凡そ4000万人近くしか生存されていないとされている。
そんな倒しても倒してもキリのない死還人を前に国を守護する役目を持つ自衛隊は出来る限り戦い、生存者を保護すべく死力を尽くしていたが、元より条約の範囲外とも言える死還人の襲来に対しアメリカは自国民の命を無駄に散らす必要はないと考え、当時のアメリカの大統領であったスミス・アンバーケインは一切の例外なく全ての兵士をアメリカへ撤退させた。
それにより国を守る事の出来る数少ない貴重な戦力が日本から離れる事を当時の日本の総理大臣であった陸奥金久は酷く憤慨し、大統領に対し抗議をしたが死還人という未曾有の大厄災を自国から出した挙句、それを自国のみで対処出来なかったばかりか他国にも被害を出してしまったが故に日本という国そのものの信用は失われて、それに伴い総理大臣の言葉も空虚なものとなってしまったので総理大臣がどれだけアメリカや他国に対して救援や保護を熱望しようとも無視されるだけであった。
その結果、守るべき人間の数に対して守る人間が圧倒的に足りないので各地の戦線が崩壊するのは時間の問題となってしまった。
事実、米軍が日本から撤退した後はそれまで米軍の戦力によってなんとか生存者の救助や襲い来る大量の死還人を撃退する事が出来ていたが、米軍が居なくなった途端に手薄となった戦線から順に死者は増え、1日に救助出来た人間の数は減っていった。
自分達が居なくなるとそんな未来が必ず訪れると読めていたので、日本から立ち去る米軍達もせめてもの情けにと自分達が所持していた武器や弾薬を大統領の許可を得て日本に置いていったが、どれだけ強力な武器があってもそれを扱える人間の数が足りないので結局あってもなくても大差はなかった。
故に、武器を預かった各地の自衛隊はどこかで誰かが必要とした時に使えるようにと余った武器を駐屯地や避難所の近くに配置し放置した。
それがこれまで水先達が狙っていた自衛隊の物資であり、鈴達が手に入れる事の出来た武器である。
「結構な数があるな……皆んな、悪いけど1人2つは何かしらの武器を運んでくれ」
東がそう言うと、それぞれ順番に軽バンの中から思い思いの武器を手に取り運び出していく。
拳銃、小銃、突撃銃、狙撃銃、散弾銃と銃器の種類は豊富であり、弾薬もある程度はあったのでそれなりの戦闘であれば苦戦を強いられる事もなくこなす事が出来そうだった。
手榴弾や地雷などの爆弾は数が少なく、手榴弾は10個しか無かったので武器の運搬の負担を減らす為に比較的軽い武器を選んだ人が運ぶ事となり、地雷は2つのみだったので東と花木が代表で持ち運ぶ事となった。
「……これで全部か。全員問題なく移動は出来そうか?」
東の問いに対し、全員が首を縦に振り、武器を運ぶ事に一切の支障がない事を示す。
「よし。なら出発しよう。行き先は水先さんの所だ。なるべす寄り道はせずに最短距離で行くぞ」
そう言って東は皆を先導するように前を歩き、久野が武器を隠したショッピングモールを後にした。