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ゾンニート  作者: 竜獅子
第2章 神農製薬
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突撃前の作戦案

「……とは言ったものの、実はそこまで複雑に考える事じゃないんだよね。球場に居るTypeシリーズの連中はあのクソ餓鬼の言いなりになるよう調整されているから、奴らの意思で球場の外に出る事はない。仮に外に出るとしたら外に出る命令が与えられた時だけ。しかも、基本的に奴らは球場の客席部分を改築した場所にまとまって大人しく待機しているから、そこを狙って球場の外からアレをぶっ放せば大体は片付く筈」



 そう言って久野さんが指を刺した先には携帯対戦車擲弾発射器けいたいたいせんしゃてきだんはっしゃき……通称RPG-7と呼ばれる兵器が弾頭付きで9本がたなに立てかけられていた。



「使えるの?」


「さぁ?いつぞやの米兵達が使っていたのを回収しただけだから。まぁ、その時はちゃんと弾頭はしっかり飛んで行っていたし、凄まじい爆発でゾンビを吹き飛ばしていたから使えると思うよ」


「そう。それは頼もしいわね」



 RPG-7は1961年にソビエト社会主義共和国連邦が開発・製造・増産を行って以来、未だに世界各地の戦場で日の目を浴びている対戦車兵器の1つ。

 ソビエト社会主義共和国連邦が解体されてからは後続の国となるロシアを始め、中国やアメリカなどの大国も製造や開発に携わるようになり、初めて製造された時から半世紀以上の年月が経っているにも関わらず今も尚世界各地の戦場で使用されるのにはそれなりの理由がある。


 まず、大前提として高い威力を持っているという事。

 次に比較的安価で購入出来るという事。

 そして、複雑で時間のかかる訓練を経ずとも少しの指導で誰にでも扱う事が出来る武器だという事。

 どれだけ人や物を排除する事に長けた武器であっても、それを満足に扱う事の出来る人が居なければ宝の持ち腐れになってしまうし、それなりにまとまった数を揃える事が出来なければ戦場における武器の価値は他の似たような武器と比べると幾分下がってしまうのは否めない。

 その点、RPG-7は武器としての役割を充分に果たしてくれるから1961年以降様々な兵器の開発や研究が行われ、より良い兵器が生み出されたのにも関わらず旧世代の武器でありながら今尚世界各地の戦場で活躍する事が出来ている。


 実際、多人数で襲いかかって来る死還人ゾンビ相手にRPG-7程効率良くまとめて排除出来る強力な武器はそんなにないし、安価で用意出来る事からどれだけ使用しても軍の懐はそこまで痛手を被らない。

 下手をすれば普通に銃を乱射して弾を無駄に使う方が費用はかかるかも知れない。

 それが事前に分かっていたからこそ、米軍はRPG-7をかなりの数を用意していたんじゃないのかしら?

 本来日本で手に入れる事が困難なRPG-7が9本もある以上、そう考えるのが自然なような気がする。

 最も、これがRPG-7を模倣したコピー品だとしたらまた話は違ってくるのかも知れないけど、これがここに来た過程なんかどうだっていいから考えるだけ無駄ね。

 今は強力な武器が手元にある事を喜びましょう。



「でも、1つ良いかしら?私の記憶だとRPG-7の有効射程距離は約900m程なのは間違い無い筈だけど、発射した後は風や空気抵抗の影響を受けるから必ずしも発射した弾頭が一切のブレが無く一直線に進んでくれるとは限らない。それこそ、距離が離れれば離れる程ブレは大きくなって目標地点に着弾する可能性は低くなる。となれば必然的にある程度近い距離で発射するか、外れる事を覚悟で遠距離から発射するしかないのだけどその辺はどうなのかしら?今の久野さんの案だと球場の外から狙い撃つのではかなりのブレが生じる筈よ?」


「あぁ。キングスも確かそんな事を言っていたね。武器の事は私には全然分からないけど、大和ドームでクソ餓鬼の研究を手伝う傍らでロケットランチャーなんかの弾頭に取り付ける小型の推進器スラスターを作ってたそうよ?何でもそれがあれば外部からの影響を相殺して弾頭が真っ直ぐに飛ぶようになるのだとか?詳しい事は私には分からないから気になるようだったらキングスに直接聞いてみて」



 小型の推進器スラスター……?

 弾頭の軌道にブレが生じたらそれを修正するように小規模のジェット噴射でも行うのかしら?

 棚に立てかけてあるRPG-7の弾頭にはそれらしき物は見当たらないからまだ取り付けられていないみたいね。

 一体どんな代物なのか気になる事だし、後で話を聞いてみる事にしましょう。



「とりあえず強力な武器が私達の手元にある事は理解したし、それを使って先制攻撃を仕掛けるのも賛成よ。でも、球場の観客席を狙うとなるとそれなりの高さのある建物じゃないと無理でしょう?しかもTypeシリーズが待機している客席をピンポイントで狙えるような位置に建っていてかつ、射出した際のRPG-7の飛距離である約900m以内に建っている場所じゃないとその作戦は実行出来ないわ」


「……その心配は無用よ。ほら。これを見て」


「?」



 少し悲痛な面持ちを見せたかと思うと、すぐに元の表情に戻った久野さんが私に示したのはスマホのマップアプリの画面だった。

 そしてその画面には目的地としてビジネスホテルの大手チェーンである【SUPAホテル】が設定されていた。



「ビジネスホテル、よね?ここがその条件に合う場所なの?」


「そう。このホテルの14階にある140〜149番の部屋からは大和ドームを覗き観る事が出来るから一部の界隈の人達には有名な場所だったの。そして、145番の部屋からは今私が言った客席が丁度見える位置にあるからここにさえ行ければあの武器を撃ち込む事が出来るの。私もその部屋を何度か利用した事があるから間違いない」


「そんな場所があったのね。久野さんが直接泊まってそこから観た事があるというのならわざわざ下見をする必要もない、か。ならRPG-7を発射する場所はそこで確定でいいわ。後は誰がそこに行くかだけど、久野さんと私の2人かどちらか片方になりそうね」


「何故?別に男共2人に行かせてもいいんじゃない?」


「そういう訳にはいかないのよ。そうでしょう?鈴、錬治」


「……少なくとも僕は無理。ホント無理。マジで無理。エレベーターが使えるなら可」


「申し訳ありませんが俺も鈴と同意見です。多少無理をすれば不可能ではありませんが、それでもかなりの時間が掛かってしまうので足手まといになる可能性の方が高いかと思います」


「どういう事?」



 久野さんが訳が分からないといった感じで戸惑っているから死還人ゾンビの特徴の1つを説明する事にする。



「久野さんは知らないかも知れないけど、鈴達のように死還人ゾンビになった人は平衡感覚が崩れて階段のような段差を上手く登り降りが出来なくなるの。詳しい原因まではまだ解明出来ていないのだけど、多分死還人ゾンビになった時点で三半規管になんらかの障害を生じさせてしまっているのだと思う。だから、電力が止まってエレベーターなんかの機械が動かせない今ホテルの上階へ行こうと思ったらどうしても階段を使わざるを得ないから、きちんと階段を使えない2人に客席への攻撃を任せる訳にはいかないの」


「……使えない人達ね」


「酷い」


「面目ありません……」



 久野さんの辛辣な一言に若干のショックを受けてしまった鈴と錬治だけど、多分そこまで気にしてはいないだろうからこのまま話を進める事にする。



「だからホテルからの射撃は私と久野さんしか行えないのだけど、どうする?どちらか片方がやるか、私達2人がやるか。内部の事情を知っている久野さんに決めて貰った方が作戦の成功率が上がると思うから久野さんの指示に従おうと思うのだけど」


「そう……なら……いやでも……」



 自分に話を振られると思っていなかったのか、久野さんはぶつぶつと独り言を呟きながら思考を巡らせる。

 しばらく経った後、結論が出たのか久野さんは私達3人に向かってこう言った。



「なら、ホテルからの射撃は私1人で行う事にする。美桜さんと藤堂と砂垣は球場の前で待機していて。私が9回目の発射を行ったタイミングで突撃して欲しい。もし、何らかの不足の事態が起こった時は……どうしよう?美桜さん。美桜さんは何か連絡を取れる機器のような物は持っていないかな?」


「以前はスマホを持っていたけど、随分と前に捨てたから今は持っていないの。残念ながらそういった類の物は持ち合わせてないわ。勿論鈴と錬治もね」



 今の日本ではスマホや携帯などの端末は日本各地に点在している基地局の大部分が死還人ゾンビの襲撃による被害のせいで基地局としての機能を果たしていない所が多い。その為連絡用ツールとしてスマホや携帯を使用出来る場所は限られているけど、一部の地域やWi-Fiが生きているエリアなんかは辛うじてインターネットに繋いで通話やネット検索なんかを使用する事が出来る。

 ただ、まともにスマホが使えなくなった時点で少しでも荷物を減らしたかった私はすぐにソレを捨ててしまった。

 どこか適当なモールや携帯ショップを漁りに行けばまだ使える状態のスマホがあるのかも知れないけど、ソレを使える状態にするまでの設定をどうすればいいのかを私はよく知らないから結局あっても無くても一緒なのよね。

 でも、今この場合に限ってはスマホなんか無くても問題は生じない筈。



「ただ、遠距離から意思の疎通をするだけなら一方通行にはなってしまうけど、手段がない訳じゃない」


「どういう事?」


「錬治、あなたの聴力は大体どれくらい先まで聴き取る事が出来るの?」


「昼間など、雑音がある時間帯は1〜2km程度の距離なら人の会話ぐらいなら聴き取る事が出来ます。深夜など周りが静寂に包まれている場合なら3〜4kmは聴き取る事が出来ますね」


「まぁ、そんな感じよ。球場とホテルの距離が約900m以内だと言うのなら、錬治ないし鈴が久野さんの声を聴き取って指示に従ってくれると思うわ」


「……信じられない。ゾンビってそんなに耳が良いの?いや、だからこそ少しの物音でぞろぞろと集まってきた……?」



 鈴にも以前話を聞かせて貰ったけど、死還人ゾンビとなってしまった人は味覚を除く視覚・聴覚・触覚・嗅覚がずば抜けて良くなった人が多いらしい。

 一部例外はあるらしいけど、殆どの人がソレに該当するのだと言う。

 私は半死還人ハーフな為に死還人ゾンビとなった際の恩恵をそこまで受ける事が出来ていないけど、それでも普通の人間だった頃に比べると視覚や腕力、聴力なんかは良くなったと自覚出来ているから死還人ゾンビの基礎能力は中々に馬鹿に出来ない。



「まぁそんな訳でこちらから久野さんに向けて何かを伝える事は出来ないけど、久野さんからこちらに向けて何かを伝える事は出来るから何か不足の事態が発生したらこちらに向かって叫んでくれれば大丈夫よ」


「……にわかには信じ難いけど、美桜さんがそう言うなら信じる事にする。とりあえず球場に突撃するまでの作戦はそれでいくつもりで。なら次に考えるべきは私が9回目のRPG-7を撃ち込んだ後の話だけど、それはキングス達の作戦を聞いてからね。多分、救出と戦闘を同時に行わなければいけないからまず足並みを揃えない事にはどんな作戦も上手くいきっこない。どうやらまだ議論の最中みたいだし、終わるまで待機ね」



 ふとルーランとキングスの方を見てみると、何やら白熱した様子で議論を重ねているのが見て取れる。

 聞き耳を立てれば会話の内容も分かるのでしょうけど、中途半端に会話を聞いて情報の処理を行うよりちゃんと議論によってまとまった案を聞いた方が混乱を招く事も無さそうだからこのまま私も静かに待っている事にしましょう。



「出っっっっ来マシタデーーーース!!!私凄いデーーーース!!!」



 ……そう、思っていたのに今までお店の奥で何かを作っていたトリスタンが上機嫌で表に戻ってきた為に議論は一時中断され、全員の意識がトリスタンへと向く事になった。




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[気になる点] 先生、RPG-7で900m狙撃は無謀っす……弾頭がデカいあれの構造上、どうしても風の影響やらなんやらで遠距離になるほどブレがでかくなります 実際の武器もちだすよりそれを基にしたオリジナ…
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