Type-Sの強さと基準
「あの球場で改造され、実戦投入が可能な段階にまで完成された個体はそれぞれ
【獣型原始解放者/Type-M】が86体
【触手装備巨人型原始解放者/Type-GF】が49体
【廃棄用非適合者/Type-G】が387体
【有翼型原始解放者/Type-W】が3体
【生体兵器移植型試験者/Type-S】が6人
で合計525体と6人が俺達が脱走する前に存在していたのは間違いない。アレからどれだけ増えてどれだけ減ったのかは分からないが、とりあえずの指標ぐらいにはなるだろう」
「随分とまぁ造ったものね。でも、Type-GFは私達が6体、久野さんが17体倒したから残りは26体。Type-Mも自衛隊の人達が何体か倒しているのを見たから数は少し減ってるわ。Type-GはType-GFを運んできたコンテナの下敷きになってる奴が複数体いたから数十体は目減りしていると考えてもいいわね」
それでもまだ概算で400体強の戦力が残っている事になる。
久野さんの戦闘能力は凄まじいけれど、1人でそれだけの数を相手取るのは難しい。私達だって多分1人1体が限度だろうし、トリスタン達は捕らえられている研究者達の救出に向かって貰うつもりだから戦力として加えるつもりはそもそもない。
そうなると、私・鈴・錬治・久野さんの4人しか戦う事は出来ないから、単純に考えて4対400強の戦闘を強いられる事になる。
久野さんが用意してくれていた武器があるとは言え、この戦力差は中々に埋め難いわね。
「……ちょっと待て。久野、お前1人でType-GFを17体も屠ったのか!?」
「別にそんなに驚く事でもないでしょ?案外弱いよ?アイツら」
「いやいやいやいや!平均5mの巨体に縦横無尽に襲って来る触手ってだけでかなりの強敵だぞ!?少なくともお前らType-Sの適合者を除けば最強の戦力なのは間違いない!弱いって事はいくらなんでもないだろう!?」
「動きはトロいもの。落ち着いて対処すればなんて事ないわ」
「はぁ〜……そんなものかね。流石はType-Sの適合者と言うべきか。生物兵器としての格がそもそも違うんだろうな」
「いや、そうとも言えないと思うよ。久野さんの戦闘能力は他のType-Sのメンバーと比べてもズバ抜けているみたいだ。ほら。これを見てごらん」
そう言ってルーランが取り出したのは画面の広いタブレットだった。
そしてその画面には他のType-SとType-GFが模擬戦闘を行った際の記録が表示されている。
【2038年5月26日 Type-Sの戦闘能力計測記録】
・先週に引き続きType-Sの戦闘能力を計測する為、それぞれ単騎で何体のType-GFを連続して討伐をする事が出来るかを廃棄間近の個体を使用し計測を行った。
その結果中々に興味深いデータを得る事が出来た。
まず、それぞれの討伐数は以下の通りとなる。
《鱗》の移植者・大岩鷹斗/3体
《角》の移植者・樹無天空/5体
《鋏》の移植者・片羽白波/3体
《毒針》の移植者・藤崎真希/7体
《鎌》の移植者・ジェイク=グレイド/11体
Type-GFは5mを簡単に越す巨体となった時点で身体全体の皮膚が硬質化し、動物で例えるならサイやワニのような強度にまで上がっていた。
それ故に、生半可な攻撃では傷をつける事は難しく、生身の人間がType-GFを倒す為には銃火器の使用が必須とされる。
だが、Type-Sの適合者はそれぞれ他の生物の特徴を受け継いだ部位があるとは言え、一切の武器や銃火器を持たずに複数体のType-GFの討伐に成功した。
これは凄まじい戦果だと言える。
特に、Type-Sの適合者の中でも最も攻撃的な部位を移植されたジェイク=グレイドの戦闘能力は目を見張るものがある。
ジェイク=グレイドの持つ両腕に備えられた一対の鎌はType-GFの硬質化した皮膚を易々と切り裂き、瞬く間に両腕・両足を切り落として行動不能にし、頭蓋を貫く事で絶命させた。
Type-Sの適合者となった時点で常人の身体能力を遥かに凌ぐ力を得たとは言え、生身の人間がType-GFをここまで圧倒出来るとは予想もしていなかった。
ジェイク=グレイドと比べるといくらか見劣りしてしまいがちの4人だが、それでも最低でも1人で3体ものType-GFを討伐しているだけで充分な戦闘能力を有していると考えられる。
今回の結果から、今後造り出される個体の戦闘能力の基準値として量産が可能で最も戦闘能力の高いType-GFを単騎で銃火器を用いずにどれだけ討伐出来るかで以下の等級を与える事にする。
0体でE等級
1〜3体でD等級
4〜6体でC等級
7〜9体でB等級
10体以上でA等級
これに当て嵌める事により、
《鱗》の移植者・大岩鷹斗/3体/D等級
《角》の移植者・樹無天空/5体/C等級
《鋏》の移植者・片羽白波/3体/D等級
《毒針》の移植者・藤崎真希/7体/B等級
《鎌》の移植者・ジェイク=グレイド/11体/A等級
となり、これらを当面の間各個人の戦闘能力の目安とする。
惜しむらくは既に死亡報告が上がっている《触手》の移植者・久野菜絵の戦闘データが得られなかった事だ。
Type-Sの中でも唯一早期に驚異的な戦闘能力を有していると判断出来、その力を使われた際の反逆を恐れた為に始末を急いだが、充分な戦闘データを計測してから使い潰せば良かったと今更ながらに後悔をしている。
最も、人間1人とゾンビ2体に苦戦した時点で大した戦闘能力は有していなかったのかも知れないが。
僕達の計測が間違っていたのか、その時に何かしらのイレギュラーが発生していたのかは分からないが、いずれにせよ久野菜絵が死亡している以上それを確かめる術はないので今後はそういった事が起こらないよう自分への戒めとして久野菜絵という失敗例を心に留めておくとする。
「これは……あの子の研究記録の1つかしら?」
「そうだよ。この記録はType-Sの強さや彼の個人的な感想が書かれているだけだからこの記録に大した意味は無いと思ってたんだけど、今の久野さんの話が本当ならまた違った意味が生まれてくる」
「と言うと?」
「彼はType-Sの皆をそれぞれの戦闘能力に応じて等級を定めて優劣を決めていた。球場に居た5人のType-Sの内、最高の等級であるA等級を頂いていたのはジェイクのみだ。しかも、そのジェイクはType-GFを11体しか倒せなかったのに対し、久野さんは17体ときた。この時点で久野さんは彼らの最高戦力であるジェイクを上回っているという事になる。これは大きなアドバンテージだ」
「ちょっと待って。アイツの決めた等級とやらは全く意味が無い。少なくとも、Type-S同士が戦う上では。あんたも私がジェイクと戦って苦戦する所を見たでしょう?Type-GFなんて雑魚を何体倒したかじゃ本当の実力は測れない。実際、次に私がジェイクと戦ったとしたら勝てる見込みは1割もないと感じている。それ程アイツの力と私の力は相性が悪いの」
今の研究記録を要約すると、Type-Sのメンバーの中だと誰が1番強くて誰が1番弱いのかを暫定的にハッキリさせたって事になるのかしら。
1番強いのがジェイク=グレイドで、1番弱いのが大岩鷹斗。
でも、そこに久野さんの話を付け加えるとType-S同士が戦った場合は与えられた力に優劣が発生する事もあるから等級が高い=等級が低い者より強いという事では無い。
そうなると、あくまでもあの記録に記載されている等級は参考程度に留めておく方が良いかも知れないわね。
「でも、実際久野はType-GFを楽々と倒したんだろう?それだけでも充分な戦力だ。他の雑魚は久野が処理してジェイクの相手はまたどうにかする策を考えれば良いだろう」
「ブランと言う事は最もだけど、そんなに上手く行くかな?Type-GFを久野さんが倒したとしても、まだ残りは300体強居る事になる」
「まぁそうだが、そこは俺達も戦闘に加わってどうにかすればいいだろう」
「いや、待って。あなた達3人は捕らえられている仲間を救出する事に専念して。生身の人間がどうこう出来るレベルの問題じゃ無いと思うの。私達3人も、久野さんも周りに気を使わずに自由に戦えた方が戦闘の幅が広がるから戦列には加わらないで欲しいの」
「そうね。私も美桜さんと同意見よ。邪魔だから視界に入らないで欲しい」
「でも、僕達だって銃を持てばそれなりに……」
「それだと流れ弾を気にしながら戦わないといけないじゃない。味方の放った弾で怪我をするなんてまっぴら御免よ。そこのゾンビ2人と違って私は一応生身の人間なんだから。怪我をすれば痛いし、身体能力も鈍る。だから、無理をして戦おうとせずにあんた達の仲間を助ける事に専念して。それが1番効率が良いの」
久野さんも私と同じ意見だったようね。
多分敵は銃火器を使用してこないだろうし、基本的には近接戦闘がメインの戦いになると思う。
そうなると、敵も味方も銃火器を使わないのなら四方に存在する敵の位置を把握しておけば流れ弾による無駄な負傷を防ぐ事が出来るから戦闘は遥かにやりやすくなる。
最悪、どうしても私達だけじゃどうにもならなくなった時に加勢してもらうって形で良いんじゃないかしらね。
「勿論、救出した仲間達と共に球場から出た後追ってきたTypeシリーズとドンパチやるのは勝手よ。私は球場の中にいる敵とあのクソ餓鬼を殺す事だけを考えて行動するつもりだから。とにかく私の邪魔だけは絶対にしないで」
「お、おう。分かった。そう言う事なら俺は何も言わねぇ」
「変に加勢した方が邪魔になる、か。そうだね。久野さんの言う通りかも知れない。僕達は僕達で仲間を助ける策を練るから、君達は君達でどうやってケリーを倒すかを考えてくれ」
「言われなくてもそうするつもりよ」
「ははっ頼もしいな。それじゃ一旦グループを分けよう。僕とブランと、戻ってきたらトリスタンの3人は仲間を救出する策を。君達4人は球場をどう攻め落とすかを」
「分かった」
「それじゃまた後で互いの策を照らし合わせよう」
そうして球場を攻める為に開かれた会議は一時分断され、2つのグループがそれぞれの役割を果たす為に策を練る事になった。
私はこのままあまり口を出さずに、久野さんに主体性を持たせておいたほうが良いかも知れないわね。
「さて。それじゃ球場の内部構造を知っている久野さんを主導に策を練るとしましょう。よろしく頼むわね。久野さん」
「ええ。分かった」