騒動
1.騒動
期末試験後の結果発表
期末試験全科目終了3日後に学校のロビーに学年毎に順位が貼り出される。
その日の夕方、玲音と悠貴が2人揃って顔をはじめ体中にあざや擦り傷を作って廉の部屋に帰ってきた。
あの玲音の綺麗な、顔は見事に腫れ上がり、一見しただけでは誰だかわからない程、酷いものだった。それは悠貴も同様だった。
廉はビックリしたものの、余りの変わり様に笑える位の有り様だった。
「どうした?その怪我は」と廉が聞くと「転んだ」と玲音と悠貴は恥ずかしそうに笑う。
「2人揃ってか?それにしても、そんな怪我はしないだろう?取り敢えず病院に行こう」と2人を病院に連れて行こうとすると玲音は、廉の部屋のソファに座り込み
「廉、心配しなくてもいいよ。こんな怪我放っておけばすぐ治るよ。それより今年の夏はみんな揃って海底探査だからな!用意しておいてよ」と言うだけで病院に行こうともしないし、怪我に関しては何も言わない。
病院には行かないと2人とも言い張るので傷の手当てをしてもらうために樹里亜に連絡して2人の手当てを頼んだ。
樹里亜は、すぐに来てくれたが2人の顔見て大笑いした。
「誰かさんの為に、大勢相手に馴れない事をするから大変ね」と言うと、玲音は「余計な事を言うなら、帰れ!」と珍しく激しく怒る。
しかし樹里亜は、「はいはい、自分で手当て出来ないんだから大人しく素直にしてなさい。
私だって暇では無いんだからね 。来て貰えるだけ感謝しなさいよ」と言った後、樹里亜としては珍しく黙って手当てして、「お大事に」と言い残して帰って行った。
玲音と悠貴からは、何も聞けそうに無いので千景の部屋に行き、何か知らないかと聞いてみた。
「玲音と悠貴は何と言っているんだ?」
「何、聞いても『何でもない。大丈夫。悠貴とふざけ合っていたら階段踏み外して落ちて転んだだけ』といい張って教えてくれないんだ。どう考えても、転んであんな怪我するわけ無いのは明白なのに」
廉は、玲音が素直に教えてくれない事に不満を言う。
千景は廉に話していいのか躊躇って悩んでいた。
それを察した廉は、「おい、みんな俺にだけなんで教えてくれないんだ?何があったんだ」と千景に問い詰める。
千景は真直ぐな廉の問いかけに観念して「まぁ、そうだな俺がお前なら真相を知りたいと思うわな。しかし俺もその場にいて見ていたわけで無いけどな。噂をしていた連中から聞いた話しでは、玲音と悠貴が複数の生徒相手に乱闘騒ぎを起こしたと聞いた」とゆっくりと自分の知っていることを話す。
「あの玲音が乱闘?!」
廉は信じられない顔をしていた。
「俺も何かの間違いかと思ったが、その場にいた多数の生徒も証言しているから間違いなさそうだ」と千景は言う。
「事の発端は?」と廉は、掘りさげて聞く。
「期末試験の結果発表はもう見たか?」
「いや、まだだけどあの2人、必死に頑張っていたから問題なかったのでは?玲音もさっきみんな揃って、海底探査だと言っていたよ」
「そうか悠貴達の結果は、潤は学年10位、悠貴も25位だ。1学年200人以上いる中だからまずまずの結果だろう」
「俺達中等科1年の部はこうだ」
1.櫻 玲音
2.五十嵐 千景
3.山下 綾
4.野田 遠吾
5.橘 廉
6.松本 春菜
7.須藤 薫
8.伊崎 透
9.大野 哲
10.藤春 樹里亜
「玲音が、お前より順位は良かったのか?」と廉は結果を聞き驚く。
「あぁ、負けたよ。見事にな」と千景は苦笑する。
さかのぼる事3時間前
期末試験の結果を公示している掲示板の前で、玲音と悠貴が「海♪海♪」と喜んでいた。
結果を見に来た全校生徒でごった返したロビーの人混みの中、そこに男子生徒の5人組がやって来た。
玲音達に気づいていなかったのか、気付いていて敢えて言ったのか不明だが、掲示板見てその中の1人が大きな声で言う。
「やってられねぇなぁ。途中から編入してきて、中間では25位がいきなり1位って」
それに呼応して、他の1人がまた大きな声で言う。
「まぁ、それはここのお坊っちゃんだからな。しかし、授業半分も出てねぇ奴が5位なんてあり得んだろう。やりすぎだよな?俺達だって必死で勉強してるのに」といい、掲示板の端を蹴る。
他のもう一人が「それに、こいつは初等科ではずっと30位前後をさまよっていた奴だぜ。いきなり授業半分も出てなくて5位になるなんて不正な操作しない限りおかしいだろう」と大声で言う。
それに呼応して周りが「そうだ、おかしい」とざわつき始めた。
それが、玲音達の元にも聞こえた。
玲音は、自分の事だけならいつもの様に、にこやかな顔で『やだなぁ~。そんなに誉めて貰うと照れるな?でも、それ以上は負け犬の遠吠えに聞こえるよ!』と嫌味のひとつ、ふたつ言い放って立ち去るだろうが、今回はその様にはならなかった。
自分だけではなく廉を不正扱いした事にキレたらしい。
「授業に出てようが出ていまいが、自分のスタンスで勉強して、結果出せているなら問題無いだろ。
不正している証拠が何処にある。憶測で勝手な事を言うな!不正工作しただと?
たかが、期末試験の順位を不正工作してどうなる?
お前らの親父と違って、俺の親父がそんなことをするように、指事するほど暇な訳ないだろ!
そもそも、この学園が親父の指示ひとつで、不正していると不満に思うようなら、この学園を辞めて他の学校行けばいいだろう。
学校なんて星の数ほど有るのだから、自分達が一番になれる学校でも探せよ!」と玲音は怒り言い放った。
しかし、男子生徒達は玲音に向かって大声で反論する
「証拠?この前まできちんと授業受けても、奴はずっと30位を前後してたんだぞ?でも櫻グループに入れてもらったらどうだ?いきなり中間も期末もトップ5だ。どう考えてもおかしいだろうが!」と悪態をつく。
それに呼応して周りもざわつき「おかしい」と次々と声があがる。
また更にもう一人が「俺達だって、朝から晩までぎっちり勉強しているんだ。遊んでいるわけではない。その中でそう簡単には順位上がるはず無いじゃないか!」と反論する。
「他人を表面だけで見るな!お前らは、廉の何を知っている!廉は事故に遭ってから、まだ記憶障害の後遺症が残ってるんだ。
それを克服しようと苦しみながらでも、自分のペースで勉強しているんだ。それが廉の勉強の仕方に合っていたから成績が、伸びただけだろう。
証拠も無しに変な疑いをかけるな!」と珍しく感情的に怒る玲音がいた。
言い争いが続き最後は、どちらから手をだしたか、わからないが殴り合いの喧嘩になっていた。
廉は、千景からその説明を聞いて絶句したままだった。
他人から見れば、屋上や図書室などで授業も受けずにいるのに、なぜ成績があんなに上がるのか?と不審に思うのは当然だ。
自分でもよくわからない。ただ遠い昔に覚えたような、記憶あるので教科書読めば思い出すように解けるのだから。
だが、その様な事は他人には理解してもらえる訳が無いのは当然だ。
「千景お前も、俺の成績はおかしいと思うか?」とおそるおそる聞くと。
「廉と玲音じゃなければ、そう思うだろうね。
でも、玲音の頑張りは、教えていた自分がよく知っている。
廉は順位に拘る人間ではないし、不正をするような奴じゃないのは、十分過ぎる程、俺は知っているからな。
それに廉は事故を受けて記憶障害起こしている。
人間の脳は神の聖域だからね。その記憶障害が、脳を刺激して学習能力向上させたとしても、何の不思議はないよ。
それにお前、まだ時々記憶が錯乱して頭痛起こすんだろ?
サボって居るとかではなくてそんな状態で、授業まともに出れるわけはないよ。
玲音も、それ理解しているから、らしくもない喧嘩なんかしたんだろう?
まぁ真相は知らないことにしておけ。それも思いやりだ。俺も含め理解してくれる友人は大事しろよ」と冗談ぽく笑いながら千景は言った。
「あぁそうだな。俺は本当にいい仲間に恵まれているな」と廉は笑って応える。
【仲間】と言う言葉に反応したように頭の奥底でまたあの声が響く。
『忘れるなよお前の使命を』と………。
2.騒動の沙汰
騒動の翌日、玲音と悠貴は校長から呼び出しがあった。騒動の事情聴取のようだ。
玲音は学年主任に連れられて職員室で自分の番まで待たされた。校長に続く廊下で喧嘩相手とすれ違ったが、相手も担任と思われる教員と一緒におり、挑発や暴言など吐くことも無く知らない顔で通り過ぎて行った。
玲音は学年主任にノックして校長室に入るように言われて素直に従った。
「どうぞ」と言われ大きなドアを開けると部屋の奥に入学試験の面接の時に居た優しい面影の紳士が座っていた。
「久しぶりだね玲音君。学校生活には慣れたかい?
今回の試験の数学は、見事に満点だったね?数学の面白さ見つけた?」と言いながら部屋の真ん中にあるソファに座るように誘導される。
顔中痛々しいアザと傷だらけの男の子は言われた通りソファに腰掛けて目を輝かせながら校長先生に向かって
「うん!数学で世界を掴むんだ。
数学は物事の心理を見分けるんだよ。
糸口は必ず隠れている。
数学は生活に密着した学問なんだ、数学でこの世界すべてが説明できる。
すごいと思わない?神様かくれた謎解きだよね?」
校長は玲音の言葉に少しびっくりした顔をしたが嬉しそうに微笑む。
「玲音君は将来、数学者になるかい?」
「ん?それはどうかな?数学の楽しさは千景から教えて貰ったけど、世の中もっと面白い事がたくさん有るかも知れないじゃん?簡単に自分の可能性を簡単に決めつけちゃあさぁダメだと思うんだ」
「ハハハ。そう、その考え方はお父さんそっくりだね?」と何処か少し残念そうに笑う。
「親父?そうかなぁ……」と玲音は首をかしげながら言う。
「ところで、玲音君その傷の訳を教えてくれないかい?」と先程とは少し厳しい顔で問いかけられる。
玲音は少しうつむき上目使いで弱々しい声でこたえる。
「う~ん、親父には内緒にしてくれる?」
「そうだね。極力はそうしてあげたいけど理由にもよるよ?暴力はどんな理由があっても肯定は出来ないからね?
でも、きっと玲音君には理由が有るんだろ?それを聞かせてくれないかい?」
先程まで楽しそうに唯野の顔をまっすぐに見て話していた玲音は凄く悔しそうな顔で少し下を見つめながらゆっくりと話しはじめた。
「廉が記憶障害の後遺症で苦しんで居るのに………。廉はね、授業中に発作起きてみんなの授業の妨げになるのも、同情されるのも嫌だから、1人で自習しているんだ。
多分それが自分の勉強のスタイルに合って居たんだと思う。悠貴や潤に試験勉強を教えて居るのもね。俺にだって分からない所を丁寧に解りやすく教えてくれている。
廉は、人に教えるのには自分が十分に理解していないと教えられないとちゃんと1人で勉強してるんだ。
それなのに、そんな苦労や悩みを知らない癖に親父がたまたまこの学園の偉い人だからその力で不正して成績が上がったと………。授業も受けずサボっていると沢山の生徒の前で嘘をでっちあげたんだ!
僕の事は別に何言われても平気だけど、ただでさえ苦しんでいる廉の事は………。
自分達の努力と廉の努力を勝手に相手の想像で量りかけて大勢の前で誹謗中傷した奴等に頭に来て、悔しくてつい、喧嘩してしまった。ごめんなさい」
「そう、謝るのは喧嘩相手に謝らないとね。理由はともあれ喧嘩両成敗だよ?暴力では、いくら玲音君が正しい事を言って居ても認めて貰えないよ?」
「そうだね」
「学園は楽しいかい?」
「うん!仲間がいる。大切なね」
「そう、ならもっと頑張って勉強してね。
ただし、今回起こした騒ぎには何らかの罰はあるよ?」
「仕方ないね。でも、悠貴は僕を庇って巻き込まれたんだ。後、廉は何も知らない。
廉には言わないで傷つけたくないんだ」
「そう、できるだけそのようにするから
もう、問題を起こさないでくれよ?」
「うん!もう、2度としない。約束する」
「そう、ありがとう。話はこれで終わりだから部屋に帰っていいよ」
玲音はドアの所まで行き、くるりと校長の方を向き
「もっと数学が出来るようになったら、もっと数学の面白さを教えてくれる?」
「あぁ、是非いつか2人で世界の謎解きに挑戦しょう」
「ありがとう。でもその時は廉も仲間に入れてね」
玲音はそう言って部屋から出て行く。
玲音の次に悠貴が校長室に入って行く。
玲音は心配そうに悠貴を見送った後、部屋に戻って行った。
夏休みまで数日と残したある日
時宗から、夏休みの遺跡探索計画の打ち合わせと参加メンバーの顔合わせを兼ねた、会食をしようと言う案内とともに、具体的な工程と計画書が送られてきた。
それを見た、玲音と悠貴はもうすぐだと期待に胸を膨らましながら喜び。千景と潤の2人は、探査機の最終調整しようと廉の部屋から千景の部屋に消えて行った。
残った玲音と悠貴は、二人揃って漫画を読んで居た。
二人の顔は腫れがひき、なんとか見れる様になってはいたが、多数の青あざや擦り傷が見事なまでに鮮明に残っていた。
「そのキズ……。ここまで残っていると言うことは、派手にやったんだな?」
廉は隣に座っている玲音の顔をまじまじと見ながら顔の青アザをつつく。
「痛い。もう、何するんだよ!廉」
玲音はのけぞり、廉の手を振り払い睨みつける。
「う~んその顔、おじさん見たら何と言うかなぁ?おばさんが見たら泣くなきっと。それに会食には、おじさんの友達も来るんだろ?どんな反応するかな?」
「え?」
玲音は予想外の言葉にたじろく。
「もうバカな事はするなよ」と廉は両手で2人の頭を優しくポンポンとかるく叩いて部屋を出た。
廉は、玲音達には真相を知らないふりを通すことにした。
その2時間後、学校から今回の乱闘騒ぎの沙汰が届いた。それは、校舎内の掲示板にも貼り出されていた。
今回の騒ぎを起こした以下7名を
停学3日とする。
中等科1年
櫻 玲音
嘉川 純一
牧野 慎二
高城 隆史
林 真人
浅野 寛
初等科6年
下田 悠貴
以上
7月20日より執行する。
停学中は、用意された課題を全て消化し停学解除日に学園事務局に提出する事で処罰を完了とする。
フロンティア学園 校長
唯野 雄大
玲音の乱闘騒ぎは、学校より時宗のところにも、当日連絡が入っていた。
時宗は藤堂から喧嘩説明を聞きながら「あの玲音がねぇ……」と呟く。
自分が知る限り息子は人当たりはよく、媚びて来る人間には、柳に風のように上手く交わし相手にせず。敵意のある人間でも、適当にあしらって反対に、上手く手懐けるような性格で、人との付き合いは子供とは思えない程、ませた子供で決して暴力で相手を服従させるような事をする子供ではないと思っていたので、初めは何かの冗談かと思ったのだが………。
学校からは、「突発的な殴り合いの喧嘩で、周りに大勢の生徒が居たため、何人か巻き込んで乱闘騒ぎになったが、大きな怪我人はいない」と校長の唯野氏からも直接聞いており、学校の事務局からも藤堂を通じて報告を受けていた。
時宗は、その騒動を(子供の喧嘩だし、大怪我をした子供も居ないのだから……。親が出て行って騒ぐ事でも無いだろう。まぁ男の子なんだから喧嘩の1つや2つは誰でも経験することだし、反対に少し覚めた子供の様に思っていたが、玲音にも子供らしい所もあるんだなぁ。)と少し玲音の事を見直していた。
騒動の翌日、櫻グループ本社ビルに玲音達が起こした喧嘩の騒ぎの相手の両親と当事者の5組が時宗に会いにやってきた。
櫻グループ関係者なら統括長が年の半分以上日本には居ないのは有名なことであり、時宗のスケジュールはグループ幹部と一部関係者しか知りえない事であり何処から今現在、時宗が本社ビルに居ることが分かったのか不思議な程である。
受付で、アポイントメントがないと時間は取れないと丁寧に断りを言っても、「何時間でも待ちます」と5組の親子はロビーで待っていた。
その子供達は玲音に負けず劣らず顔や体に痛々しい傷やアザがある。
会社玄関ロビーの椅子にその5組の親子が重い雰囲気で神妙な顔をして並んで座って待って居るのである。本社ビルに出入りする人々に注目を集めながら不思議な顔して通り去っていく。
それを見かねた受付嬢は内線で秘書室の藤堂に状況を説明し、このままロビーに居座られると他の来客達が驚くのと、会社イメージが少々損なわれると苦情の連絡を入れた。
藤堂は受付からの報告を受け急いで、時宗にロビーの状況と受付からの説明を報告した。
その報告を受けた時宗は、喧嘩相手の親達が【玲音の暴力に対する抗議】にやって来たのかと思い。親としては当然時間を作って話を聞く義務を感じて、しかたなく本日の業務の時間調整を余儀無くされた。
ロビーの親子5組には社の来客室に移動して貰い、そこで時宗の時間が空くのを待って貰うこととなった。
取り敢えず、藤堂に何とか小一時間程、本日の業務の時間調整をしてもらい、急いで来客室に行く。
時宗がドア開けるなり、5組の親子が一斉に立ち上がり頭を下げ、代表者と思われる親の1人が「この度は、大切なご子息に私どもの愚息が大変な事を致しまして申し訳ありません。以後このような事は2度とさせませんのでどうかお許しください」と言い終わると一斉にまた深々と頭を下げる。
時宗は苦虫を潰した思いだった。
(子供の喧嘩をどうしてこんなに大袈裟するのか?)と、心で思いながらも仕方なく対応する。
「取り敢えず、どうか頭をあげてソファーにお座りください。
恥ずかしながら私は仕事が忙しく、学校から息子が喧嘩をしたとしか聞いてないので、喧嘩の経緯も状況も解って居ない状態でして、正直謝られても困るのですが………」
時宗は子供達の方に向かい「君達は、玲音に対して何か悪い事したのかい?」と聞いたが、子供達は黙って何も答えず目を反らしていた。
すると親達は「愚息がバカな事を言い御子息を怒らせた上に、暴力までふるい、大切な御子息にアザや擦り傷付けてしまった様で誠に申し訳ありません」と無理矢理、子供達の頭を押さえて平謝りしている。
「貴殿方の御子息もアザや擦り傷有るようですが、喧嘩両成敗ではないのですか?
学園からの報告では誰一人、大怪我をしたわけでは無い様ですし、喧嘩の内容も良くある事と聞いてますが、もし御子息が、玲音に対して悪い事したと思って居るなら、ご子息自身が玲音のところに行き、謝るべきで私の所に来られても正直困ります。
暴力を肯定するわけでは有りませんが、別段この程度の殴りあいの喧嘩はこの年代の男の子には珍しい事では無いでしょう?大怪我した子が居るなら別ですが……。親が出てきてまで大騒ぎする事では、無いのではないのですか?」と時宗は少しイライラしながら答える。
親達は「その様に言って頂けると幸いです」といってまた頭を下げる。
「では、私は次の仕事が有りますので」と言ってさっさと仕事に戻るべく時宗は立ち上がろとしたところ、ある親の口から質問を投げ掛けられた。
「では、今回の件で息子達は、あの学園を退学になることはありませんか?」とここまで来た本音が出たようだ。
「私は、あの学校を運営や経営には関与してますが、あくまでも運営や経営です。
学園内の教育方針や生徒の処遇については、私個人が指図しているわけではありません。その様な事は校長の唯野氏に御相談下さい。彼に一任しております。
それに私の息子達も、あの学園の一生徒ですので、私も貴殿方同様、彼らの一生徒の親と言う立場です。
今回の騒動は貴殿方と同様の処分が学園から下されると思いますよ」と溜め息をつきながら時宗はいう。
すると、ある一人の母親が「主人はグループ傘下でお世話になっているのですが…。今回の件で主人に影響は…」と最後の方は聞こえない。
時宗は苛立ちを深め、「何度も、言うようですが、これは子供の喧嘩で親が乗り出して、どうこうするような大きな問題が有ったとは思えません。幸い大怪我をした様なお子さんも居ないようですし学園の処遇に素直に従えばいいと思いますが?
それでも不服に思い、ご主人を子供の監督不行き届きで処分して欲しいとでも言うので有れば、私ではなく直属の上司に御相談ください。左遷でもなんでもその上司が判断すると思いますよ。
残念ながら私は貴殿方のご主人の職場での管理は致しておりませんので査定しようが有りません」
時宗はイライラを隠せず皮肉交じりの返答をする。
「いえ、とんでもないです」と親達は恐縮している。
「それでは、よろしいですか?私の時間も差し迫っておりますので、これで失礼させていただく」と言って時宗は来客室から出た。
時宗は無駄な時間に割かれて、頭にきたが親達と一緒にいた子供の顔の青アザや傷を思い出し、(玲音奴、派手に暴れたんだなぁ。玲音も同じように顔アザや擦り傷だらけなのか?ちょっと見てみたいもんだなぁ。)と先程の子供達と玲音の顔を重ね合わせて想像していた。
3日後、学校から『御子息を停学3日の処分に決定いたしました。他の当事者、御子息の友人含め6人も同様の処分です』と連絡がきた。