Grab the world
1.Grab the world.
翌朝、玲音は真っ先に廉の部屋にやって来て寝ていた廉をを叩き起こした。
「はい、これ親父の連絡先。インドネシアから今日の昼頃に日本に帰国する予定だって」
半分寝ぼけながら廉は連絡先の書いたメモ紙を受け取りった。
「もう、連絡したのか?」
「ああ、時差が有るから未明に事務局に電話したらNYの秘書が対応してくれて教えてもらった。後は廉、よろしくね 。俺寝るわ~」
「ん?寝るって……。お前、学校は?」
昼休み玲音からもらった連絡先に電話してみると、この学園の卒業生でもある秘書の藤堂先輩が出て、今は時間取れないから空き時間におじさんから直接連絡くれるとの事だった。
その日の夜の8時を過ぎた頃に時宗から電話がきた。
「すまない連絡が遅くなってしまって。廉、体調はどうだい?まだ頭痛や吐き気は頻繁に起こるのかい?」
「こちらこそ忙しいのに急に連絡してすいません。体調は大丈夫です」
「そうか、それは良かった。気を使うことはないからね?いつでも遠慮なく連絡してくれよ?それで何か困った事でもあったのかい?」
廉は時宗に夏休みの計画を説明する。
「楽しそうな計画だね。ただ、その冒険するには子供だけでは少々危険も伴うように思える事だね。今ここで即答はできないな。
出来るだけ君達の詳しい計画を書類で作成して東京事務局に送ってしてくれるかい?それ見てから判断するよ。できるかい?」
「はいわかりました。できるだけ早急に送ります。あと前に言っていた夏休みはいつ取られる予定ですか?」
「まだそれもママと調整中でね。それも含めてまたこちらから連絡しするよ。
ところで玲音はそこに居るかい?」
廉は時宗からの言葉で玲音の方に目をやると、玲音は気付いたのか頭の上で手を大きくクロスしている。
「すいません。さっきまでは傍に居たんですが・・・・・・。ちょうど今、席を外したみたいです」
「そうかそれは残念だ。では、また連絡するよ。体には十分気を付けてな」と時宗がそう言って電話が切れた。
電話が切れたと分かると玲音は「どうだった?」と目を輝かせながらやってきた。
「詳しい計画書作れってさ。それで判断するって」
「俺に?」と玲音がぼけた事を言う。
「お前は、計画まだ十分把握してないだろう。そんな奴が書いた計画書でおじさんがOKだすかよ。
お前は死ぬ気で、数学を勉強してくれ。
期末試験結果を出せなければ、玲音はお留守番だからな?」
「ひっでーな廉。なんでそんなこと言うかな。いいさ、数学平均+10点でいいんだろ?やってやるさ。みてろよ!俺だって数学ぐらい。俺の本気を見せてやる!」
玲音はやけくそ状態で言う。
「他の科目も落とすなよ。それと、本気見せるなら平均+10点ではなくて満点目指せよ!」と廉は容赦なく玲音にどめを刺す。
「廉の鬼!」
「千景、計画書作成を手伝ってくれ」と言いながら玲音を部屋に残し、廉と千景は千景の部屋に移動した。
廉と千景は手分けをして、遺跡資料や調査範囲、それを決めた決定根拠、仮日程、具体的な探査方法等を含め出来るだけ詳しく計画を書いてそれを計画書としてまとめて日本櫻グループ統轄事務局ビルの統轄長宛に送った。
返事は3日後に時宗から直接電話であった。
「よくこんなに短時間でここまでまとめたね。しかも、この遺跡は世界中の学者が血眼で探しているんだよ?よくこんなに情報が集まったね。びっくりしたよ」
「友人の五十嵐千景が、長い年月をかけてコツコツと調べあげて、遺跡の場所を推測して本当にその考えが正しいか検証するために協力を依頼されて僕達が計画に乗った状態です」
「へぇ、すごい子だね」
「どうでしょう?許可貰えますか?」
「そうだね、私と私の友人達も、この話に乗っかっていいかい?」
「えっ?」と廉は、びっくりする。
「いやなんかね。計画書見てると、こんな楽しそうな話を聞くと私も興味が出てね。せっかく休日もあるしね。みんなと参加できれば君達とも一緒に過ごせるしさぁ。いいかなぁ~なんて思ったりしたんだよね。私の友人に専門家がいるからさ君達の役に立てると思うんだよ。
それに、あの島、無人島でまだ宿泊施設はおろか、電気、ガス、水道とかライフラインが無いんだよ。そんな所に子供達だけでキャンプとかはちょっとね。許可は出来ないな。
なんにしても、大人の手は必要になると思うんだ。本気でこの遺跡を探そうとするならね 。
計画にある島に渡る簡易ボートは遭難する可能性が高いだろ?本島からかなり距離があるからね。私達が居れば船はもとよりヘリでもセスナでも使って島を行き来できるだろ?そうすれば島でキャンプしなくても良いだろ?どうかな?」
「そうですね………。でも僕だけの計画では無いので即答は………」
「そりゃもちろん。みんなで話し合って返事をくれればいいよ。どうだろう返事は明日、貰えるかな?」
「はい」
「では明日、またこの時間連絡するよ。その時、玲音と五十嵐君とも話しがたいので呼んでおいてくれるかい?」
「わかりました」
電話が切れると皆が心配そうに「どうだった?」と集まってくる。
廉は時宗と話した内容をそのまま話す。
「えっ親父達も参加するの?」
微妙な顔をして玲音が言う。
「まぁ玲音のおじさん達が参加してくれれば、玲音のもうひとつの問題がクリアできるし、島に渡る苦労も減るね。それに玲音のおじさんの協力あれば期待以上の成果が期待できるから悪い話ではないのでは?」と千景が賛同する。
それを聞いた玲音が「そうか!そうだね。いいんじゃない?」と全部の問題が解決したかのように賛成した。
潤と悠貴は玲音の家族と一緒に旅行と言えば親の承諾も得やすいので問題無いと。
こうして遺跡探査の計画に大人たちの参入は全員一致の賛成で決まった。
「千景と玲音は、明日おじさんから連絡来るから同席してくれ、おじさんが直接話ししたいって」
千景は素直に「わかった」と言う。
玲音は「えっ~俺?俺は関係無いじゃん」
「おいおい、お前の父親だろう?関係もなにも無いだろうが。この計画は玲音お前にすべてかかっている。おじさんのご機嫌損なうなよ」
廉は玲音の肩を叩く。
「悠貴、特訓するぞ~。残念ながら玲音はお留守番かもだが、お前は俺が何がなんでも連れていくぞ」と言って廉は悠貴を呼ぶ。
それを聞いた悠貴は苦笑いしている。
「なんで俺がお留守番なんだよ!廉。
何としても俺も連れてけよ!何がなんでも俺はいくぞ!」
「はいはい。では玲音君、有言実行しようね。僕が責任を持って連れて行ってあげるから覚悟してね。僕は廉程、優しくないよ」
千景が笑顔で言いながら玲音に数学の問題集を差し出す。
2.Four arithmetic operations.
廉の前に、悠貴と潤が一緒にわからない部分教えてくれと並んで勉強している。
潤は理系は、かなりずば抜けているがそれに比べて、文系は苦手らしい。
問題が有るほどの成績ではないのだが理系に比べると点数はかなり落ちる。
悠貴は外国語と世界史が苦手な様で、後の教科は平均よりやや上、世界史は外国語よりは、いいが平均点を下回る事がちょこちょこあるらしい。
廉はこっそりと悠貴に耳打ちする。
「悠貴お前、将来は玲音のボディーガードしたいんだろ?」
「うん、もちろん!」
「玲音は、ああ見えても櫻グループの総帥の息子だからな。将来的に世界中あちこち飛び回ることになるぞ。
その時ボディーガードが、外国語理解出来ないと守れ無いぞ。
それにその土地の風土、風習や国民気質など理解出来てないとその土地でどういう危険が起こるか推測もできんぞ?その土台が世界史だ。
ボディーガードになるには武術や護身術だけでは無いんだ。悠貴はボディーガードとして一番必要な学問が抜けている」
廉が悠貴にそう囁くと悠貴は目から鱗が落ちたように熱心に勉強し始めた。
玲音は友人を盾にするような事はしたくないから、悠貴をボディーガードにはする気はないし、友人に危険だらけの職業について欲しく欲しくないと思っているのだが、悠貴に苦手科目を克服させるために苦肉策で煽った事に廉は少々罪悪感を感じた。
すこし離れたところで玲音と千景が会話している。
9−3÷1/3+1=?
「ねね千景この問題。四則計算問題に則ったら最初に3÷1/3から解いて9-9+1で答えは1なのはわかるんだけどなんで【分数の割り算は分母逆にして掛ける】のさ?
掛けるって増えることだろ?」
玲音は、教科書とにらめっこしながら呟くと、千景が仕方無いなと言う雰囲気で説明をし始める。
「お前のためにわかりやすく教えてやると3÷1/3とは3個のスイカをそれぞれ3等分にしたら全部でスイカの断片はいくつになる?」
「9個だね」
「割るとはそういうことだ1つのものを3分割したのが3つあるんだから断片が増えるが元のスイカの個数は変わらない。
この数式のわかりやすくいうと3個のスイカをそれぞれ3等分にし、9個あるのリンゴの山から3等分して出来たスイカ1片とりんご1個を1セットとし、スイカが無くなる数を持ち去り、最後にバナナ1本を置いていく。それで残った数はいくつだと聞いているんだ」
「そうか!そういう風に教えてくれればいいのに・・・・・・。ずっと不思議だったんだよ」と玲音は楽しそうに言う。
「しかし、数学の公式とかはきちんと覚えている癖に、なぜ解けない?」
「だって、どれをどう使うかわからないじゃん。似て居て非なるものばっかり」
「数学は暗記するだけの学問ではない。物事の心理を見分けるんだよ。糸口は必ず隠れている。
"The book of Nature is written in the language of mathematics."(自然という書物は数学という言葉で書かれている)
これはガリレオ・ガリレイの言葉だ。
この言葉の通り数学は生活に密着した学問だ、日常の疑問や現象に対して物理や科学で答えを出す場合、数学という言語でその現象を説明し証明するんだ。
数学でこの世界すべてが説明できると言われている。
すごいと思わないか?
数学を理解出来ればこの世界を掴めるぞ?」
廉はこの言葉が、昔、何処かで聞いたように思えた。
この言葉が、自分の心の中で世界感を変えたような記憶がある。
玲音も正にその状態になっていた。
千景が自分の部屋に帰って行くとき、廉はあの言葉は誰かの受け売りかと聞いたが千景は自分の主観だと返答した。
では、昔俺にも同じ様に語ったか?と聞くと覚えが無いと。
廉はデジャブを感じたが忙しさのため気にせずにいた。
千景の【世界を掴む】という言葉に、酔わされ玲音は数学に興味を持ったようだった。
悠貴は玲音と世界中を一緒に回る夢ため懸命に外国語に浸った。
3.将来
翌日、時宗から電話があり、廉は「お願いします」と承諾の旨を伝えた。
「そうか、良かった。今年の夏は一段と楽しそうだ」
時宗は、子供の様に喜んだ。廉は、こう言う所は、親子だなそっくりだと思った。
「細かな日程や手配はこちらでするので、君達は当初予定通り、君達の計画を進めてくれるかな?」と言われその後、千景と電話を代わった。千景の後が、玲音だった。
時宗は千景に「興味本位で聞くんだけど、あの遺跡の情報は何処から手に入れたの?」と質問する。
「あれは、何年か前に玲音の家に行った時に、おじさんと知らないおじさんが楽しそうに世界で今話題の有名な遺跡があって、かなりの情報量は有るんだが決定的な情報がなく、世界中の学者が血眼で探して居ると話しをしていたのを小耳に挟んで、なんとなく興味が湧いたので自分なりに色々と調べて見たんです。資料を集めてそこから分の推理で場所絞ったので確証は無いんだけど……」
「そうか、なるほど、私達の会話がきっかけかぁ~。なるほどねぇ~。千景君は考古学が好きなのかい?」
「いえ、あの時、遺跡の話していたおじさんが、とても楽しそうだったので、興味本位で調べて見ただけで………。でも嫌いって訳でも無いけど……」
「では、今でも将来は医者になりたいのかな?」
「自分でも、まだよくわかりませんが、調べたり研究したりするのは好きなので、直接患者をみる医者ではなく、新薬や新しい治療方法を研究したいと思ってます」
「そうか、おじさんにできることあれば言ってくれ、できる限り協力するよ。
後、玲音と廉をよろく頼むよ。
玲音は今までずっと、おじさん達のせいで世界中あちこちしていて、友達と言う関係を上手く築くこと出来てなくてね。君達に迷惑かけるかもしれないがよろしく頼むよ。
廉は廉で、事故の後遺症でまだ記憶が錯乱しているみたいなんで、何か有れば直ぐに連絡して欲しいんだ」
「わかりました」
「それでは、近々会えるの楽しみにしてるよ。玲音に代わってくれるかい?」
「はい」
千景が玲音を呼ぶと玲音はばつが悪そうに代わった。
「何?親父」
「何?では無いだろ。数学は落第点だって?授業についていけるか?」
「大丈夫、助けてくれる友達いるから」
「そうか、ならいいが。廉はどんな具合だ?授業半分くらいしか出て無いらしいが、まだ事故の後遺症で苦しんでいるのか?
成績は事故以前より上がっているみたいだが………」
「なんか、ひとりで考え事している時はあるけど、大丈夫みたいだよ。頭痛とか眩暈は軽くなってきたみたいだしね」
「そうか。でも廉も家族一員なんだからいつも様子を気にかけておいてくれよ。それに廉に心配かけるような事するんじゃないぞ」
「はいはい。大丈夫だよ!廉には俺がいつも側にいるから。後、ママは?元気しているの?」
「あぁ、多分ママもそろそろ日本に戻って来るはずだ。試験が済んだら廉と一緒に会いに行くがいい。帰国したら連絡するから」
「考えておくよ」
「遊ぶのもいいが、ちゃんと勉強しろよ。そろそろ自分が将来何やりたいかきちんと決めろよ。いいね」
「わかっているよ 。切るよ?じゃあまたね」と言うと同時に玲音は電話を切った。
(将来何か。廉の奴は何やりたいのだろう?もう決めているのかな?)