#3
放課後俺がバスケしている間、春子は図書館で時間をつぶしている。
今日も部活が終わった後、図書館に春子を迎えに行った。図書館は一般の人も使えるようになっていて、いろんな人がいた。
「春子ー」
春子が読んでいた本から顔を上げる。学習の時のみ使うメガネをかけていた。
「ショウ。もう帰る?」言いつつ、メガネを外した。
時計は6時30分を示していた。
「いや、まだいいけど。その本全部読む?」
「ううん、これは借りるからいい。ねぇ、今日はどうだったの?」
春子はこうして毎日、部活のことを聞いてくる。
「んー、今日の調子はまあまあ、シュートも結構入ったよ」
「へー」
バスケの専門用語を並べても、どうせ伝わらないから、とりあえずシュートを何本とか、誰のボールをカットしたとかを報告するようにしている。
「あーあ、あたしも運動したいなぁ」
頬杖して、溜め息をついた。
春子には持病があり、運動ができない。今の医療でそれを完治させることは難しいらしく、春子自身も自分がいつどうなるかわからない不安に毎日つきまとわれている。だから運動をしていなくても、(顔以外は)華奢な体つきをしているのだ。
珍しく、春子が貧弱な咳をした。蛍光灯のせいか、春子の顔がいつもより青白くみえた。
春子が本を抱えて席を立つ。
「帰ろっか」
「ああ」
* * *
帰りは池田のおばちゃんに豆をもらい、後はいつも通り朝と同じ通学路を通っていった。
再び、海沿いの道。
夜の海は明るい朝のイメージとだいぶ異なり、暗く、黒く…恐ろしいような感じもした。
いや、感じ、ではない。海は本当に恐ろしかった。
夏の海水浴でイラ(クラゲ)に刺されて痛い思いをした…なんて、可愛いことだ。
本当に恐ろしいのは、死。
…春子の両親は海に殺された。
2人で釣りに出かけた先で、予期せぬ嵐に見舞われ、海に飲み込まれたのである。
…だから、海は何が起こるかわからない。恐ろしい。
今、春子は祖父母と一緒にすんでいる。
島におじちゃん、おばちゃんの知り合いが多いのは、その影響もあるのかもしれない。
「おまえは友達たくさん♪だもんな」
ぴん、と春子の頬をはじく。
「あいたっ!何すんのいきなりっ。」
春子がタコのようにふくれた。
「ごめんね、タコさん」
「もぅ」
いい加減飽きそうなあだ名だが、春子が反発してくれるので、まだ使用は継続。
ぴゅう、と夜風が吹いた。
半袖の俺たちには少々肌寒かった。
8月の、ある日。
もうすぐ、夏も終わる。