♯2
「あー、あたしのおかげで歩いて登校できるー♪」
満足そうに春子が背伸びをした。
もの欲しそうにこちらを振り向き、小首を傾げる。
しょうがないやつだ。
「ありがとうございました、タコ様。」
「ん、よろしい…て、またタコっていったなっ」
「ごめんごめん、でもホントに感謝してる。さんきゅ」
ぼ、と春子の顔がおもしろいように赤くなった。
「べ…別にショウのためじゃないし。おばちゃんが朝早くからお仕事忙しいから、お手伝いしてるだけなんだからねっ」
おせっかいな春子だが、ちょっとツンデレ気味で、なんか可愛いところがある。
* * *
俺たちは、島に住んでいた。九州の、ずっと西の隅の、小さな島だ。
海沿いの通学路を2人でのんびり歩く。
ここにいるとどんなに慌ただしい日でも、時間はゆったりと過ぎてゆく。
潮風がふいて、髪がなびいた。
春子の髪から、シャンプーの匂いがした。
「あ、船」
俺たちにとっては海上を船が通っていくなんて当たり前の光景だったが、春子はそれをとても喜んだ。
「海…栄…丸…、坂田のおじちゃんの船だ! おぉーい!!」
春子は船に向かって大げさな身振りで手を振った。すると船の方も誰か気づいたようで、プー、と汽笛を鳴らした。
「ねぇ、ショウ。おばちゃんは漁協なの?」
「あぁ、多分。最近はアジがたくさんあがってるらしいから、さばく仕事、手伝ってるんじゃね?」
「ふーん。」
海は朝日の照り返しで、きらきら光っていた。魚がたまにぴんとはねた。
「あら!春子ちゃんに翔君じゃない」
「あ、池田のおばちゃん!おはよー」
「はよーっす」
春子には知り合いが多かった。
「今、畑で豆がとれとるけん、帰りに取りにおいでね」
「うん!行ってきまーす」
軽く頭を下げる。池田のおばちゃんが手を振った。
今日の島も、朗らかだった。