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第20話(プロローグpart2) 春来たりなば……

 ここでお話の時間をさかのぼり、二人の出会いのところにまで時を戻すことにする。


 それは去年の春のことである。

 その春も桜の花は少し早めに満開の時期を終えていた。ソメイヨシノの梢にわずかに散り残った花びらが、淋しげに最後の花を降らしている、そんな頃のことである。




 草壁圭介がなぜそのとき、その病院に入院していたかは、以前にもちらっと書いたが改めて説明しておく。

 ちょうど良く晴れた日のこと、彼が雲ひとつなく突き抜けるような青い空をながめながら車道を歩いていたところをトラックに跳ね飛ばされたというもの。

 友人の大原ではないが、はねたほうが災難ともいえる事故だった。


 草壁は車に衝突した瞬間に感じた、突風のような衝撃の直後から記憶が飛んでしまっていた。

 だから、これは彼が後に警察や保険屋から聞いた話によるのだが、そのとき彼の体は見事に5メートルほど吹き飛ばされたらしい。

 そのまま、ちょうどいい具合に、道路の中央分離帯に落下した。

 なぜ、ちょうどいい具合かというと、それより1メートル、いや、50センチでも飛びすぎるか、飛距離が伸びなかった場合、彼の体は車道にはみ出ていただろうし、そうなったら、彼は後続車両の下敷きとなっていたであろうことは確実だったという。


 

 言われて見ても当初、自分がラッキーだなんて微塵も思えなかった。

 それはそうだろう、そもそもトラックに轢かれたというだけで充分バッドラックな話だ。が、責任の半分ぐらいは確実に彼にもあるのだが。



 結局、片足は骨折に加えて、打撲捻挫と裂傷、つまりは足に数針縫うほどの傷を受けた。頭部はコンクリートに打ち付けた衝撃による打撲、そして頭にも大きな裂傷を負って、こちらも縫合手術を受けることとなった。

 あばら骨にもヒビが入ったということでしばらくはコルセットを着けて過ごす日々。

 

 医者からは「状況聞く限り、この程度のケガで収まったのは奇跡と言える」などと言われたが、痛いものは痛い。

 ただし、自分でも不幸中の幸いか?と思えたのは、両手だけは、かすり傷程度の負傷で済んだことだ。

 ベッドの上で体を動かすたびに、あちこちがズキズキと痛んだが、両手さえ使えたら病室での生活に看護師の手をそれほど煩わすことがなかった。

 簡単な介助があれば着替えや入浴も可能だったし、なによりもトイレで世話にならずにすんだ。

 

 そして、松葉杖の助けを借りたら病院内の移動ぐらいは自由にできたのも大きい。

 入院期間はとりあえず2週間とのことだった。骨折でこの程度の入院期間というのだから、重症のほうではない。どちらかというと骨折よりも固い地面に強打した頭部のほうが気になると医者が言う。


 現在は裂傷と打撲のみだが、脳自体に影響を及ぼしている可能性があるので、精密検査をして予後を見るためにそれぐらい入っておいて欲しいとのことだった。




 こんなことで入院しなきゃいけなくなったというのはつらいには違いない。

 が、草壁にとってはその入院生活、想像以上に悲惨だった。


 彼はちょうど大学入学のために上京してきたその直後にこの事故にあっていた。

 ほとんど見ず知らずの土地でたった一人ぼっちでここに入院しているのだ。

 大学も入学間もない時期ということもあって、友人もない。

 以前に書いたが、実家の両親は家業の店があるということでこちらも草壁をほったらかしにしている。一度、二つ年下の妹、草壁加奈子が、親のつかいでお見舞いに来ただけである。

 

「なんだ、お兄ちゃん元気そうでよかった!お父さんもお母さんも心配してたけど」

「二人とも本気で心配してるのか?こっちが入院してるっていうのにほったらかしで……」

「お店あるから仕方ないじゃない?それより、横浜土産って何がいいの?私帰りに中華街寄ってこうかなって思ってるけど、オススメとかある?」

「知らねえよ!こっちだって来たばっかりなんだからな!」


 妹の加奈子は観光ついでに立ち寄ったみたいにして草壁の見舞いを早々に済ますと、包帯でグルグル巻きの兄貴を置いてさっさと帰っていった。



 そして草壁の入れられた大部屋の患者というのがジイサンばっかり。草壁の次に若いのが60歳。それ以外はみんな70超えているという、超高齢化部屋だった。

「にいちゃん、元気でいいな」

 どこ行くにも点滴といっしょみたいなごま塩頭のジイサンたちにいつもそう言われているのが、包帯ぐるぐる巻きの松葉杖男なのである。実際、そのとおりだが、そのとき草壁が置かれていた状況というのはそんなふうだった。


 とにかく、話す相手がまったく居ないのだ。

 

 医者からは、松葉杖を使う練習にもなるし、怪我はしてても健康なんだから、億劫がらずに色々と出歩くように言われてたので、あっちこっち病院内をウロついても、なぜか年寄りばかりしか目にしなかった。


 俺、ひょっとして間違って老人養護施設に入れられてる?と本気で思ったりしていた。




 ちょうどそんな時、同じ病院の同じ病棟の最上階の一室に長瀬ゆかりも入院していた。


 服毒自殺を図った後、救急車で運ばれた彼女は、発見が早かったせいもあって命に別状こそはなかった。

 が、飲んだ毒薬の影響と治療薬の副作用などで、しばらくはベッドの上を離れることの出来ないような容態が続いた。


 病室には、ゆかりが自殺を図ったという知らせを受けて飛んできた、母親の長瀬登善子がそれ以後泊まりこみとなって、文字通り付きっ切りの看病をしていた。


 容態が落ち着いてからの彼女は抜け殻みたいになっていた。

 ずっとゆかりのそばを離れない母親が何を問いかけても、さあ、とか、うん、とか、あんまり、などの曖昧な単語だけを微かに漏らすだけで、白痴のようだった。


 心配して主治医にまさか発語障害でも負ったのだろうか?と聞いてみたが、脳への影響は考えられない、おそらく病理的原因ではなくて心理的要因でしょうとのこと。


 加えて彼女は、物を食べようとはしない。

 普通の病院食はもとより、流動食ですら吐いた。それも、母が拝み倒すようにして頼むので仕方なし口に匙で数口運んだあと、すぐにそれは胃液ととも排水溝に消えてしまう。

 そのころはずっと点滴で命をつなぐ日々が続いた。



 もう毒物の影響を心配する必要はないが、このような状況で退院させることに危惧を感じていた医者から、せめて経口で食事がとれるまで入院させておいたほうがいいと言われていた。


 

 やがて、少しづつゆかりは話すようになっていった。

 たしかに、医者の言うとおりのようだ。そして、このまま少しずつでも心の傷が癒えて、食事も普通にとってくれれるようになってくれれば、と母親は思ったのだが、事態はそれほど簡単ではなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「そうですか……じゃあ、お盆もう下げますね。長瀬さん、お腹すかない?……そう。あっ、お母さんはおリンゴですか?食後のデザートですね。おいしそう……それじゃあ、これで失礼しますね」


 担当看護婦は、今日もほとんど手付かずのまま残った病院食のトレーを確認すると、ゆかりのソバでリンゴを剥いている母親のほうに微笑んで出て行った。

 食べてもらうのが一番だとはわかっているが、この手の患者に無理強いは禁物。そして、そんなやりとりはここ2,3日続いた光景だった。



 母のほうは、昼時になると、娘が湯気の立ち上る病院食のトレーを虚ろな顔をしている横で、買ってきた寿司折やサンドイッチなんかをなるべくおいしそうに食べてみたが、娘のほうはそれを横目でみながらも、全く食欲も示さなかった。それどころか、母親の存在にすら興味なさそうにしていた。

 

 そういえば、ゆかりは小さいときからあんまり好き嫌いなかったけど、これが大好物、っていうようなものもなかったわね。

 食事時になって娘の横で何を食べようか考えるころになると、登善子はよくそんなことを改めて思い出したりしていた。



「外、いい天気ね……」

 小ぶりのナイフを使って器用にリンゴの皮をむきながら、母、登善子が呟いた。

 そんな話題を娘に振ってみたところで、ほとんど反応らしい反応は返ってこないということは承知していたが。


 病棟8階に位置する、ゆかりの個室には春の陽光がまぶしいぐらいに差し込んで、クリーム色のリノリウム張りの床をまぶしく光らせていた。

 4月も浅いそのころでは、まだ外は少し肌寒いだろうが、もし健康ならちょうどいい散歩日和だろう。



 シャリシャリと音をたてながら、リンゴは赤い皮を少しずつはぎ落として、ゆかりの目の前で白い肌を覗かせたせた。馥郁とした香りをただよわせながら。

 ただ、目の前で母が剥くリンゴを目にはしても、それを欲しようとはゆかりはしなかった。虚ろな目で見ているだけだった。

「リンゴ、食べる?」


 静かに首を振るゆかり

「いらない、どうせ戻すだけだし」

 それでも、言葉らしい言葉をやっと発するようにはなっていた。



 すると、病室のドアをノックする音。

「お姉ちゃん、どう調子は……」


 顔を覗かせたのは弟の長瀬亮作だった。自殺を図った姉を藤阪公司とともに発見してから、彼も学校帰りなどに毎日見舞いに来ていた。

 今日も片手にはコンビニ袋を下げている。

「流動食も受け付けないなら、アイスクリームならどうかなって」

 弟なりに、お菓子を買ってきたり、プリンを買って来たりしてなんとかゆかりが食べてくれるようにと気をつかっていた。しかし、姉の返事はいつもこうだった。

「いらない、あんた食べたら?」

 表情ひとつ変えずにそっけなくそう答えるだけ。


「点滴だけじゃ体もたないよ?」

「もたなくていい」

 ゆかりはそんなことを平気で言った。そしてそれは本心だった。

 能面のような冷たい顔でそう言い放つ姉の横顔を亮作は黙って見ているしかなった。


 

 

 ようやく口を開くようになったゆかりだったが、彼女が口にする言葉と言ったら「死に損ねた」という言葉か、気を使う周囲に対して、冷たく拒否するような簡単な言葉ばかりだった。


 そんな様子なので母も目覚めたとき、ゆかりがベッドの上で大人しくしている姿を見て、とりあえず安心するという日が続いていた。


「亮作、あなたおリンゴ食べる?」

「うん、あっおいしい。結構甘い」

「アイスクリーム、冷蔵庫に入れといたらいいわ」

「うん……プリンまだ残ってるんだ……」

「もう持ち帰ってあなた食べちゃったら?」



 その後、母は用事があるからと言って、病室を離れた。

 病室に弟二人きりとなったときである。ゆかりが相変わらず能面のような顔のまま、ぽつりと言い放った。


「監視に来たの?」


「何のこと?」

 入院後、姉のほうから話かけてくるというのがほとんどなかったことに加えて、その言葉がそんなものだったから亮作が驚いた。


「私を一人にさせたくないんでしょ?」

「そ、そんなんじゃないよ!」


 弟は声を上げたが、実際はそうだった。前日母から、外出の間ゆかりを見ておいてほしいと言われていたのである。それほど、娘の様子は危なげに母の目からも見えていた。

 あんまり長い間一人で放っておくと、何をするかわからない。そんな雰囲気が確かにあった。


「飛び降りでもなんでも、その気になれば、訳ないけどね」

 ギョッとなって弟が姉を見ると、ベッドの彼女は思いつめたような様子で目の前の壁の一点を見つめていた。


「こんどは絶対、失敗しない」

 言葉は静かだったが、冗談とは思えなかった。歯軋りするようにキツく奥歯を噛むと、釣りあがった眉尻に青白い血管が浮かんだ。ずっと感情なんか失ったようにしていた彼女はやっと表情を変えたが、その表情は悔しげだった。


 そして、搾り出すようして吐き出された、かすれ声が漏れた。

「どうして、もっと遅く発見してくれなかったの?」



「もう、生きてく自信がない」



 泣く気力も失っていた彼女は、すぐとなりの亮作がやっと聞き取れるほどの小さな声でうめく様にやっと一言、そう発すると、しばらくじっと俯いているだけだった。

 弟には掛けるべき言葉はなかった。ただ黙ってみているしかなかった。



 

 しかし、こうやってつらい告白ではあっても彼女は本心を話した。それは母には無理だった。なぜかこの2つ年下の弟だからこそ言えたのだった。

 他人のことを考える余裕など今の彼女にはなかったが、それでも、そんな言葉は母に投げかけるにはあまりに残酷すぎることに心の奥で気づいていたのだろう。

 


 そして、たとえ、そんな言葉でも本心を誰かに話しているというのは、それだけで、わずかな前進だとも言えなくはない。

 傷口は開いたときから治癒力が働く、それは自然の摂理だし、終わりのあとには始まりが続くものだ。時は止まることなく流れる。



 だが、事態は快方に向かっているようにも見えなかった。

 なによりも、彼女はまだ「死」を諦めていなかった。

 亮作に言い放ったとおり、地上八階のこの病室から眼下のコンクリートまで飛び降りようと思えばできなくはなかった。

 それをしなかったのは、誰かに迷惑を掛けるような死に方をしたくなかっただけである。

 


 やがて、彼女は横で言葉を失ってただ押し黙るしかない亮作には一瞥も与えることなく、スッとベッドから起き上がると、カーティガンの袖に腕を通した。


「どこに行くの?」

 という弟の問いかけに


「一人にさせて」

 相変わらずの能面で一言、すこしイラついたように言い放った。


 そして、病室のドアを抜けて廊下へと消えていった。

「監視するつもりじゃないなら、放っておいて」

 という言葉を残して。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ところで、草壁のほうである。

 どこに行っても、彼に掛かってくる二人称名詞が「にいちゃん」という日が続いた。それなりに話は合わせているが、どうしてこうも気軽に喋れる同年輩がいないのか?もはや、不思議としか言いようがないような毎日だった。


 慣れない土地で、見舞い客もほとんどゼロ。周りは話のあわない年寄りだらけ。

 ケガもつらいが、その孤独というのがとてもこたえた。


 主治医からは、ベットにじっとせずに色々と出かけろと言われていたが、どこに行くのでもお一人様という状況で行って見たい場所なんかとくに思いつかなかった。


 仕方ないので、大きな病院の中を松葉杖つきながら、一人でアッチフラフラ、こっちフラフラしてベッドの上に帰って、また一人。という日々が続いていた。



 その日、昼食も済ませた彼、やることがないのは相変わらずだったが、いつものごとく病院内を徘徊すべく松葉杖に両脇を乗せた。



 

 ところでそのとき二人が入っていた病院というのは、当時二人が住んでいた松木町という町の程近くにある総合病院であった。

 病床数が800超という規模の、地域医療の中核的な医療施設。

 大きな敷地の中にある3つの病棟から構成されるその病院の入院病棟には各階に患者同士がくつろいだり、見舞い客との憩いなどに利用される、ロビーがある。


 病棟の中階に広がるそのロビーは、一階のように外来患者なども利用するような広大なものではなかったが、4人がけのソファーの6つの連なりが2列になって配置される、細長い形をしたエリアだった。

 目の前に広がるガラス張りの向こうには、病棟に囲まれた中庭となっていて、築山や小川に見立てた細い流れが、中央にそびえる大きな常緑の楠と小さな祠のまわりを取り囲むように作った庭園が見える。



 そこへフラフラとやって来た草壁。

 フロアは春の好天の日差しを一杯に受けて、明るく光っていた。

 憩う人も少ないせいか、草壁が慣れない松葉杖を繰りながら歩くたびにその音だけが乾いた響きを当たりにコダマさせた。



「いい天気だなあ。空が青い」

 高い天井をしたロビーはそこだけ一面のガラス張りである。

 窓際まで進んできた草壁が見下ろしてみると、すぐ足元に入院患者らしき人たちが中庭を散策している様子も確認できた。

 そして今度は頭上に広がる青空を眩しげに見上げた。ここならトラックに撥ねられる心配はない、というかそんなことがあっても相変わらず、そんなクセが抜けなかった。



 しばらくそこでジッとしていたが、やがて、窓際に並んでいるドリンクの自販機に向かってゆっくりと進んでいく草壁。



 ホットコーヒーでも飲んでみようか、と思って自販機まえでぼんやり考えながら、胸のポケットの小銭入れをまさぐった。

  

 脇に松葉杖を挟みながらの作業。なかなか取り出せない小銭入れを指先で探しているうちに、脇への注意がおろそかになってしまった。サイフを取り出そうとした指先に力が入ると同時に、脇を締める二の腕の力が抜けてしまった様子。

 その瞬間、松葉杖は、カランと高い音を響かせて床に転がった。



 あっ、まずい!この体で床に落っこちたものを拾うのは面倒だぞ。


 そう思いながら、転がった杖のほうへ、片杖突きながらよっこらせっと体の向きを変えた。視線はずっと床に横たわる杖に注いでいたせいもあって、そのとき、自分に近づいてくる人影には気づかなかった。



 最初に目に入ったのは、白いムートンのスリッパ。そんなの履いている人なんか見たことなかったので、草壁もオヤッとおもって、そのスリッパの主を見上げて確認してみた。



 毛糸織りした厚手のカーディガンの下に、山桜の花のような薄桃色をした柔らかそうなパジャマを覗かせ、彼女がぼんやり立っていた。

 そのとき、今まで見た誰とも違う女性、と思ったのと同時に、どっかで確かに見たことのある懐かしい人のような気がしたのは不思議だった。

 


 草壁のほうは、最初、しばらく目の前の彼女を見つめたままだった。

 胸の下あたりまで長く垂れた、濡れたように光る黒髪のその人の目がうつろな様子なのはそのときから気になった。

 しばらく草壁が視線を引き込まれるようにしながら見つめていても、それに大した反応をしめさない。

 まるで人形のようだ。あるいは見ている草壁を人形としか思っていないようだ。



 肌が白さに加えて、唇の色も薄いせいで、人形のような生気なさを感じた。黒目がちの目がうつろに開いていてる様子は、少し怖いような印象もした。

 自分の足元へ不注意に松葉杖を転がしたことに怒っているような気さえした。


 やがて、彼女は物憂げな様子をしながらも、足元の杖を拾い上げてくれた。


「どうぞ」

 目の前の男に松葉杖を手渡す。

「ありがとうございます」

 親切は嬉しいのだが、彼女の様子に感情の彩りが感じられない草壁は少し戸惑いながらその杖を受け取った。


 受け取ったのはいいのだが、実は片手には先ほど取り出した財布を持ったままである。この状態で転がった杖を手渡された草壁が、サイフをどうしようか、もう一度ポケットに戻そうかとか思いながら、両脇に杖を挟んで、そのサイフを右に左に持ち替えたりしているのを見た彼女がポツリと言った。


「飲み物でも買うおつもりですか?」


 病室を出たゆかりが院内をさまようようにして、たまたまこのロビーに足を運んできたときに、自販機の前の草壁が胸のポケットに片手をつっこんでモゾモゾしている様を目にしていたので、だいたいのことは想像できた。


「はい」


 彼女はさっきから感情の篭ってない目をしながらじっと草壁を見ているだけである。

 そんな目で見つめられる覚えがないので、草壁のほうは少し戸惑っていた。

「私が買ってあげましょうか?」

「お願いできますか?」

「いいですよ」


 音声自動ガイダンスのロボットと話しているみたいな気分になりながらも、この目の前の美人ともう少し、話してみたい。と思った。

 それは、ずっと続いた孤独な入院生活で感じていた人恋しさかもしれない。やっと年の似たような人と出会ったから、できたらゆっくり話ができないかな?という。

 あるいは、それともまた違う、何か、のせいかもしれないが。

 


 いずれにせよ、目の前で自分の小銭入れを持って、自販機の前に歩み寄ってゆこうとする彼女に向かって、そのときこんなふうに声を掛けたのは、彼にとって生涯初のナンパともいえた。

 そんなことをするようなキャラじゃないが案外と気持ちの抵抗なかったのは自分でも不思議に思えた。



「あ、あの……よかったら、一緒にお茶でも飲みません?」 

 

 そして、その声を聞いた彼女が自販機の前で草壁のほうを振り向いて

「はあ……」

 とうつろな声でそうこたえた返事は、イエスという意味にもノーの意味にもとりかねた。

 なにしろ、ずっとなにも考えていないみたいな様子だったから。

 中途半端なところで途切れたままの彼女の返事の続きを、しばらく期待と不安を込めた面持ちでじっと見守っていたが、彼女はそう言ったきり、また能面みたいな顔をして草壁をじっと見ているだけだった。


 仕方ないので、草壁は「たしか、この先に喫茶店があったはずですから」と言いながら、彼女の目の前を松葉杖をつきながら通り過ぎた。

 ついてきてくれるなら、ラッキー。無視されたら、仕方ない。


 ラッキーなことに彼女は草壁のあとを付いてきてくれたのだが、それはひょっとすると、自分に預けたままになっている財布を彼がすっかり忘れてどこか行こうとしているから、仕方なしにだったのかもしれなかった。




 ロビーを通り抜けた先で、一度右手に折れ曲がってまっすぐ行った突き当りまで、二人はこれと言った話をするでもなく黙って歩いた。

 松葉杖を突く草壁の歩きに合わせるようにしてついてきても、彼女はなぜか彼より半歩ほど後ろをじっと黙ってついてくるだけだった。


「迷惑じゃなかったですか?」

「別に?」

「時間、大丈夫なんですか?」

「まあ」


 声かけても返ってくる答えが、そんな一言ばかり。

 草壁のほうも、ついて来てくれた割には、手ごたえの薄い人だなあと、ちょっと困っていた。



 そうしてたどり着いた喫茶店。

 一応、喫茶店とはなっているが、店というほど本格的なものではない。ちゃんとした喫茶店は1階にあって、この店は喫茶室とでもいったほうがいいようなこじんまりとしたもの。休憩室以上、喫茶店未満な感じ。

 普段の利用は、患者とその見舞い客がちらほらある程度。

 ガラス扉を開けて中に入ると食券を買って、脇のカウンターでいつもだいたい一人で仕事をしている係のおばちゃんにそれを渡して、かわりにドリンクなんかを受け取る仕組み。


 4人がけのテーブルが6つほど置いてあるだけの小さな空間である。


 そして、そんな喫茶スペースの中に、どういう必要があるのかは分からないが、なぜかピアノが一台、カバーを被って置いてあったりする。



 扉近くに設置してある食券売機の前で「なんでも好きなもの頼んでくださいよ」と言いながら胸のポケットをまさぐったあと、そこにサイフがないことに気づいた草壁が焦っていると、彼女は「ここにあります」と言いながら、表情一つ変えずに片手にずっと持っていたそれを草壁に示して見せた。

 照れ笑いを浮かべる草壁だったが、やっぱり彼女のほうは、そんなことの何がそんなに面白いんでしょうか?とでも言いたげな冷ややか視線を彼に向けているだけなので、そのうち笑っている草壁のほうが居たたまれなくなってきた。


 私が買いますよ、何がいいですか?。あっ、すみません、僕はホットーコーヒー。わかりました。そっちも好きなものを頼んでください。

 言われたゆかりは、しばらく小銭入れの中身をじっと確認した。おそらく草壁の所持金を一円単位で完全に把握したのであろう。そのせいかわからないが、一番安いウーロン茶のボタンを「ごちそうさま」の一言も発することなく黙って押した。

 別に、もう少しましなものを頼めるぐらいの金はあったはずだけど、と草壁がそのとき、ちょっとバカにされたような気分になった。



 それから二人並んでカウンターのおばちゃんから、食券と引き換えにドリンクを受け取ると、二人分のドリンクを無表情に持ったゆかりを、松葉杖ついた草壁がエッチラオッチラ先導して、窓際近くのテーブルに向かった。

 この席でいいですか?と草壁が聞いても、ゆかりはウンともイヤとも言わなかったが、無言のまま、草壁のために椅子を引いてあげたりしてくれた。

 その動作に、感情的な引っかかりがまったく感じられないので、まるで高性能介助ロボットをつれているような気がした。




 一応、簡単な自己紹介はしてみた。

 が、彼女からは反応がない。相変わらず「だからどうかしましたか?」みたいな目でじっと草壁を見ているだけ。

 仕方ないので、名前ぐらいは教えてもらおうと聞いたら「長瀬ゆかりって言います」とだけは答えてくれたが、そのあとが続かない。

 ひょっとして知能に問題のある人か?とも思わなくもなかったが、草壁の先回りをして彼がドリンクを買いたいことを察知していたり、さっきもサイフの中身を確認してから自分の注文ボタンを押したり、言われなくても松葉杖の自分のために椅子を引いてくれたりする動作を見ているとそうとも思えなかった。

 虚ろに見える瞳の奥と、時々発するまとまった言葉には、ちゃんと知性の青い火が灯っているようには、感じられた。

 じゃあなぜ、彼女がそんな様子をしているのかは、気になったが、初対面でそんなこと聞けるわけもない。


”入院、長いんですか?”

”まあ……”

”学生さんですか?”

”まあ……”

”内科ですか?外科ですか?”

”まあ……”


 ずっとこんな調子である。

 自分のこと全く興味がないのに、ついてきたのか?とさえ思った。が、なぜ興味ないのに付いてきたんだろう?と考えると謎。


”今日は冷えますね”

”まあ……”

”外、天気がいいですね”

”はあ……”

”趣味ってなんですか?”

”さあ……”

”テレビって見ます?”

”さあ……”



 ジッとこっちを見ながら、返事らしい返事をしてくれない長瀬ゆかり。だんだん喋っている草壁のほうが空しくなってきた。

 こんな調子じゃあ、話にもならない。こっちと話すつもりがないなら、もうそれでいいや。

 変な出会いだったけど、これで今日一日ちょっとした時間つぶしができた。

 また明日からジイサンバアサンに囲まれた日々が続くだけだ。



 草壁がそんなことを考えながらふと横を見ると、カバーを被ったアップライトピアノが食堂の壁際に置いてあることにそのときになってようやく気づいた。


 時間ツナギ、となるかどうかわからないが……。


 草壁はピアノをちゃんと習ったことなどなかったのだが、実は一曲だけなぜか弾ける曲があった。

 もちろん大した腕でもないのだが、一応譜面なしで、空で弾ける曲なのだった。というより、彼の場合譜面なんか見ながら弾きこなせるような人間では、そもそもない。


 見渡すと、自分たち以外誰も居ないその喫茶室。

 今、この時間なら大丈夫かもしれない。



 そう思った草壁。

「あっ、ピアノがあるんですね」

 と言うと、松葉杖につかまって、ゆっくりと立ち上がった。杖を突きながらカウンターまで行き、そこのおばちゃんに、一曲だけでいいからあのピアノを今弾かせて欲しい、と頼んだところ、まあ、それぐらいならどうぞ、との許可が出た。


 ピアノの前まで来ると、大儀そうに杖から身を離し、椅子に腰を下ろしてピアノのカバーを開けた。



 草壁がそうやって、目の前のテーブルから、カウンターそして、ゆかりからすると斜め後ろにあるピアノのところまで、杖をついてゆっくりと進んでゆく様子を彼女は、やはり、ぼんやりと眺めていた。


 しかし、草壁がピアノの前に座ると、急にそちらから目を逸らすようにして、正面に見える窓の外に視線を移した。


「ちょっとした余興ですが、聞いてください」

 そのとき、草壁が離れたところでじっと座っているゆかりの背中にこう声をかけても、彼女は振り向きもせずに、あいかわらず

「はあ」

 という小さな声を発しだけだった。




 そのとき、草壁はショパンの「雨だれ」を演奏した。

 これが彼にできる唯一のピアノ曲である。


 なぜ、その曲だけ弾けたか?

 彼の幼馴染の従兄弟というのが居て、その人はピアノをちゃんと習っていた。近くに住んでいたその従兄弟の家に遊びにゆくと、草壁は出来もしないピアノを遊びでたまに弾かせてもらっていたのである。

 そこで、有名作曲家のもので、曲も有名で、あまり複雑な指運びを要求しない、譜面どおりに指を置くだけならなんとかなりそうな曲を従兄弟に軽く教わり、その家に遊びに行くたびに一生懸命勉強した。

 誰が聞いてもすぐに素人演奏と分かるような腕前ではあったが、そんなわけで素人相手ならちょっとした余興ぐらいにはなる曲を一つだけ、彼はレパートリーとして持っていたのだった。



 この曲を今披露している、この相手が実はプロ志望の本格的な腕前の持ち主だとは彼は知らない。



 もう彼女の気を引こうとかいう興味もなくなりつつあった草壁、そっちには一瞥もくれずに背中を向けたままの彼女に対してというより、久しぶりに遊ぶピアノのほうに興味のスイッチを切り替えて、一音一音、ゆっくりと彼なりに、丁寧に奏で出した。



 しばらく触れることのなかった鍵盤だったが、「雨だれ」の指運びはすでに体が覚えていた。

 彼は目を閉じながら、静かに演奏を続けた。

 その曲にまつわる色々な思い出を頭の中でリフレーンさせながら。



 だから、彼はしばらくの間気づかなかった。すぐ、そばに人の気配があることに。

 

 曲は最初明澄な長調から、後半やや陰な短調に変ってゆくのだが、彼はそこまでやるつもりはなかった。彼自身がそれを好まなかったからである。

 そこで、ふと我に返ると、確かに人の気配を感じた。

 誰か、オーディエンスでもいるのだろうか?

 



 目を開けると彼のすぐ隣に長瀬ゆかりが立っていた。



 

 彼にはそのとき、なぜ彼女がそんなところに立っていたのか、その理由はわからなかった。



 鍵盤の上の草壁の手がピタッと止まった。

 草壁のすぐ隣、まるで彼といっしょに鍵盤を叩こうとでもするようなところで寄り添うように立った彼女の大きな黒い瞳には、驚きの色が現れていた。

 ほんの少しだが、彼女が何か感情的な起伏を示してくれたわけである。


 驚いたのは草壁もである。

 

「び、びっくりした……」

 壊れてると思った目覚まし時計のアラームが突然響いたみたいなものだ。いきなり、自分のとなりに立っていた彼女を目を見張りながらしばらく見上げている草壁だった。


 彼女は微かに微笑んだ。

「『雨だれの前奏曲』ですよね?お上手です」


 多分これが、草壁に対してやっと人らしい反応を示してくれた、最初だろう。




 その後、急激にとまでは行かなかったが、彼女は草壁の言葉にまともな反応を示してくれるようになった。

 とはいっても、あんまり個人的な話に突っ込んではいけないような気がしたものだから、話題が天気とか其の頃まだ少しは咲き残っていた桜の話なんかをポツリポツリとするうちに、ちょっと外を歩きませんか?と草壁が持ちかけたところ、彼女は「別にかまいませんが」という淡白な返事ながら、承諾してくれた。




 外来患者や見舞い客らの頻繁な出入りに混じって、二人は正面玄関から外に出てみた。

 出入り口付近の大きな車寄せの前には客待ちのタクシーが数台駐車していたりするのを見ながら、病棟の裏側に回りこむように、草壁の杖運びに歩を合わせてゆかりも並んで歩いた。

 良く晴れた午後とは言っても、春先の外気はやはり肌寒く、外に出ると思わず着ていたパジャマの襟元をキュッと閉じずにはいられなかった。

 

「寒くないですか?」

 まだ木で鼻をくくったような様子は完全には消えていなかったが、それでも外に出ると彼女のほうからそんな言葉をかけてくれるだけでもちょっとした進歩のように感じた。


 その理由は草壁にはよくわからなかった。

 こっちのことにちょっとは慣れてくれたのか?ぐらいに感じていた。



 因みに草壁は病院売店で買った作務衣みたいなパジャマの上に、病院でレンタルしてもらった青いトレーナーという格好であった。

 やはり若干冷える。



「長瀬さんのそのパジャマ暖かそうでいいですね?ウールですか?」

「これですか?たしかオーガニックコットンとかなんとか……」

 そう言われてもよくわからなかったが、なんかそれなりに高そうな素材のパジャマらしい。売店のイチキュッパとは多分桁が違う様子。

 

 二人は、同じように敷地内を散歩する車椅子の患者たちとすれ違いながら、外来者専用の駐車場の縁に並ぶ桜並木を見ながら病棟の脇に沿って歩き出した。。

 花は見上げた先よりも、足元を真っ白に染めている。

 

「桜、すっかり散っちゃいましたね」

 一歩一歩足を進めるごとに地面の花びらが軽く撒きあがった。

 草壁の問いかけにゆかりがそっけなく答えた。

「そうですね」


 で、言葉はそこで終わってしまう。

 ちょっと口数が増えてくれたと思ったら、やっぱりこれか……。草壁はもう苦笑しそうになっていた。


「残念ですね?」

「そうですか?」

 そっけなくそう答えるゆかり。いやいや、ここは社交辞令で、とりあえずこっちの言うことを肯定してくれたらそれでいいんじゃないの?なんで、答えがそうなるかな?


 彼女、結構かわった考え方の持ち主なのだろうか?たとえば……

「花、きらいですか?」


「春にゆっくり桜を見た記憶がなくて」

 つまり、花には興味なし、ってこと?それとも春は今までずっと急がしかったのだろうか?

 

 やはり、反応が薄い。

 もう会話をするというより、一人で喋ったほうがいいのかもしれない。彼女、無口で口下手な人なのだろうか?



「僕は去年見に行きましたよ、地元の桜の名所に……とてもきれいでした」

 とりあえず、黙っていてもしょうがないので自分からずっと喋ることにした草壁。去年の花見のことをずっと彼女に語って聞かせた。

 

 と言っても、大した事件があったわけでもないのだ。

 満開から少したった其の頃は、花は一斉に花びらを散しだしていたので、まるで雨の中を歩くみたいにしてずっとそこを歩いたこと。みたらし団子を一串だけたべたこと。休憩のためのベンチがどこもかしこも先客がいて、ゆっくりと腰を下ろす場所を見つけるのにも苦労したこと。甘酒を売っていたのでそれを飲んだこと。そして、その甘酒の中に桜の花びらがヒトヒラ落ちてきたので、いっしょに飲んだこと。結局、ずっと歩きっぱなしのまま、夕方に帰ったこと。

 そんなどうってことない話。


 

 二人は別にどこに行こうか示し合わせていたわけではなかったが、病棟と駐車場の間をずっと進んで、さきほど、ロビーから見えた中庭にさしかかろうとしていた。



 そこで、草壁はふと歩みを止めた。

 そして、例の彼のクセである、青い空をじっと見上げるという、仕草をした。

 

 隣を歩いているゆかりも立ち止まり、彼のそんな様子をじっと見ていた。


 やがて、草壁がニッコリ笑ってゆかりに言った。

「そんなふうに桜を見れたら、お花見にまた行きたいって思ったりするかも」


 しばらく、そんなふうに問いかけてくる草壁の顔を少し不思議そうにじっと見たあと、彼女はちょっとだけ微笑んだ。

「そうかもしれませんね」



 彼女が笑ったのも仕方ない。草壁の言葉は少し変だったから。

 聞いていると、どこと言って楽しそうな要素が感じられなかった。

 むしろそんなお花見をしたら、もううんざりするんじゃないんだろうか?とさえ思ったが、なぜか彼はそんななんの事件もこれという楽しいイベントもなかったらしいお花見が楽しかったそうだ。

 変な人だ。

 そう思って、彼女は少しだけ微笑んだ。

 



 綺麗に刈り込まれた芝生の覆う築山のうねりがクネクネと続く中に常緑樹をところどころに配置した、立体的な見た目のその病院の中庭は、陽の高いうちは、レンガ色したタイル張りの小道をゆっくりと散歩する患者たちの姿が絶えなかった。


 草壁は杖をついて外にまで出るのが面倒だったので今まではずっと窓から見下ろすしかしたことがなかったが、実際来てみると綺麗な場所だった。


 隅の方のウッドデッキには白木のテーブルセットなんかもあってそこに憩う人の姿がよく見られた。


 遊歩道沿いの花壇には、そのときならベゴニアやナノハナ、ライラックやユキヤナギなんかがが立ち上る香気とともに綺麗に咲き誇っていた。


 どちらかというと西洋風にアレンジされたその庭なのだが、その真ん中に1本大きなクスノキが注連縄を巻いて立っているのと、そのクスノキの下に小さくはあったが、銅材で吹いた切り妻屋根の立派な祠の存在が、ちょっと周囲の様子とは異質に見えた。


 きっとこんなところにこんなものがある、というよりも、こんなものがあるところに病院が建ったのであろう。



 二人がこの中庭に迷いこんでから、なにげなくこのクスノキの近くまで歩いてきたときである。

 草壁がやおら、祠の前に立ち止まった。

 背の低い祠におわします神様を見下ろすようになるのは少々失礼かもしれないが、片足ギブスの松葉杖姿では、しゃがむということはちょっと無理なので、松葉杖を脇に挟んだまま彼はパンパンッとカシワデを打ったあと、神妙な顔でしばらく黙って手を合わせた。


 やがて、お祈りも終わった草壁が松葉杖付きながら、ちょっと離れたところでその様子を見守っていたゆかりの元まで戻ってきた。


「ケガが早くよくなって、退院できるといいですね」


 ゆかりがそう声を掛けた。この状況で神頼みするとしたら多分そういうことだろうと思っていたから。


 しかし、その言葉を聞いた草壁が笑って首を振った。


「そうじゃないですよ」

「ん?」



 そして、彼は穏やかな顔をしてこう言った。



「長瀬さんが、来年の桜を見れますようにって……」



 防寒という点でも、また草壁の足の状態という点でも、長時間の外出には向かなかったので、二人は短い散歩を終えて病棟に戻った。

 そして、次の約束をするわけでもなくお互いに病室へ戻っていった。



 病室に帰ったゆかりは、その晩、ほんの少しだけ病院食に手をつけたあと、母にリンゴをねだった。








◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ようやく、小鳥ほどの量を口に入れたゆかりだったが、まだまとまった量を食べることはできなかった。リンゴを一口食べたその翌朝、用意された小さなお椀一杯の流動食をまた吐いた。


 しかし、本人から食べたいと言い出したのはそれだけで大きな進歩だったと言える。




 そうして二人が初めての出会いをしたその翌日のことである。


 再会の約束をし忘れたことを、その日寝るまでずっと悔やみ続けた草壁だった。

 また会いたいと願いながら、彼は目が覚めると松葉杖をつきながら出会いのロビーを目指して朝から出向くことにした。


 予想とすると、もし出会えるとするならやっぱり昨日と同じ時間帯にしたほうがいいと最初は思った。

 彼女の日々の行動パターンというのが、そうなっているという可能性が考えられたから。

 だが、じっと待っていることができなかった。


 とにかく行ってみよう、そこで会えなかったら、また時間を置いて行ったらいいし、病室の中でジイサンに囲まれながら煩悶しているより、あそこで彼女のことを考えているほうが楽しい。



 というわけで、まだ慣れない松葉杖の遅い歩みにちょっとイライラしながら、朝食と回診を終えた彼は午前中も早々に出会いのロビーへとやってきた。




 そこに彼女は座っていた。



 萌黄色した細長いロビーのソファーの上に背筋を伸ばしてしゃんとした姿勢のまま、窓の外にじっと視線を向けている。

 考え事でもしている様子にも見えたが、やはり、まだ最初の頃の虚ろな様子は色濃く残っているようであった。



 やがて近づいてくる松葉杖の響きに気づいた彼女が草壁のほうをチラッと見た。

 そのとき微かに笑みを浮かべてくれた。それだけで草壁は体の奥のほうでジンとなるような心の疼きを感じた。


 互いに形どおりの朝の挨拶を交わしたあと、「横いいですか?」という草壁に、どうぞと答えたゆかりの返事はまたもやそっけない。

 少し、心の殻が少し破けたようにも思えたが、相変わらず彼女の口数は少なかった。

 草壁が隣に座ってからも、彼女のほうから積極的に話かけてくることはなかった。




「もう学校じゃあ授業も始まったり、サークル活動始めてる人とか、ゼミに入ったりしてるっていうのに、僕はいきなりスタートラインからこれですから」


 放っておいたら、何時まで経っても何にも話してくれないようなゆかりだったので、今日も草壁が独演会みたいにして、自分の話を続けていた。


 もちろん彼女のことについて色々と聞いてみたいことはあったが、話したくない話題を無理に振ってみて、向こうに不快な思いをさせることは避けたかったのだ。


 そして、彼にとっての一番の話題というと、現在の自分の状況について、となる。

 そのときも、事故の話から怪我の話題へと移っていくと、やがて大学生活早々に躓いてしまったことに関するグチみたいなことをそのうち話していた。



「なんか、いきなりみんなから出遅れちゃっいました」

 そんなことを考えていると、体の痛みとも相まって本当に寝れない夜が続いていた草壁、自嘲の混じった力ない笑顔でそう言うと


「まだ大学生活始まったばかりじゃないですか」

 彼女の軽い慰めの言葉も昨日の様子からすると大きな進歩だった。


「こんなところでジッとしていると余計に気落ちします。これからどうしようって……新入生オリエンテーションとかガイダンスみたいなところから乗り遅れてるんですから、もう笑うしかないですよ。もうね、怪我治って大学に行ってみても、最初なにしたらいいかすら良く分からないんです」


 仕方ないので本当に笑うしかない草壁だった。

 ゆかりは隣で俯く草壁をしばらくジッと見ているだけである。


「これからどうしよう」

 一人で喋っているうちに、どうも暗い方向に話題が行っちゃったなあ、と思いながら、そのまま笑っている草壁だった。


 すると、ゆかりがその言葉に合わせるようにしてポツリと呟いた。


「わたしもこれから、どうしてけばいいか……」


 草壁がゆかりのほうを見ると、彼女は最初の出会いのときのような能面みたいな表情のまま、じっと俯いていた。しゃんと伸ばしていた背をいつのまにか丸めているせいか、彼女の姿はとても小さく見えた。

 草壁は、病室で一人でいるときの彼女の姿をそこに見たような気がした。



 だが、草壁にはそんなふうにしているゆかりの姿が不思議に思えたのだ。

 そんなふうになる必要はないと、そう思えた。

 そこに、理由は特になかった。ただそう直感的にそう思っただけだった。何より、このとき草壁はゆかりについてのほとんど何の情報も知ってはいなかったのだ。


 だから、彼がこんなふうに言った一言に深い意味はなかった。彼はただ感じたままを口にした。特に励ましたいとかも思わずに。



「心配いりません。あなたは大丈夫な人です」




 隣から聞こえてきたそんな言葉に、なぜかハッとなったゆかりだった。

 目を見張るようにしてオモテをあげて、彼のほうを見ると、その男はゆかりが発した言葉の意味が分かりかねるような不思議そうな顔をして自分を見ていた。

 なぜ、そんなことをあなたが言うのか、僕にはまったくその理由がわかりませんね。

 その表情はそう言っているように見えた。


 ゆかりの抱えている事情を彼は全く知らないくせに、何を分かったようなことを言うのだろうか?

 とも言えた。

 しかし、こうとも言える――


 ――虚ろなものほど、よく響く


 と。



 草壁の言葉に彼女が、無感動のせいではなく、むしろ心の中の得体の知れない感情のために


「はあ……」

 と、曖昧に言葉を詰まらせていると、さらに彼は


「心配いりませんよ、あなたは」


 相変わらず、ゆかりを不思議そうに見て、なんともなさそうにそんな言葉を繰り返した。




 虚ろなものほど、よく響く。


 そのとき、院内放送のスピーカーからチャイム音が小さく鳴った。

 続いて昼食時間が始まったことを告げる短いアナウンスがロビーに響いた。




 昼食へ向かおうと草壁が松葉杖にしがみつくようにしながら立ち上がった。

 そうしながら、今度こそ、再会の約束をちゃんと取り付けておかないといけないと考えていたら、驚いたことに彼女のほうから


「午後、何か用事あるんですか?」

 と聞いてきた。


「いえ、いつもと同じで特になにも」

 と言って草壁が笑うと


「私も暇だから、またお散歩でもしましょうか?」


 相変わらず、表情は乏しかったが彼女からそう言われて、草壁は驚いた。

 マジですか?ぜんぜんこっちはオーケーです!

 草壁が首を何度もオーバーに振って頷くので、松葉杖から転げそうになっているのを、彼女はちょっと可笑しそうな顔で見ていた。




 お昼のために病室に戻った二人。草壁が普通の病院食を食べていたそのとき、ゆかりは昨日弟が持参したアイスクリームを半分ほど口に運んだ。



 その後再会した二人は、午後の散歩、と言っても、草壁の足のことがあるので外出は避けた。

 草壁はゆかりと話していてちょっと驚いたのだが、彼女は病院のことをほとんど知らないのだった。どうも個室の中でじっとしていることが多いらしい。


 やはり、「なぜ?」はこの際は聞くのを避けた。

 とりあえず、其の手の話題は向こうが話してくれるまでは自分から聞かないことにしていた。



 彼女が知らないという売店の場所や、一階喫茶店、そして一般の利用者も多い味自慢のレストラン……。

 へえ……。ここ結構大きな病院ですね。なんて、ものめずらしそうにそう彼女が言うので、同じ入院患者としては驚くしかない。



 ずっと病室にいて退屈じゃありませんか?と聞いたら、彼女は「別に」という。やっぱりぼんやりした様子は相変わらずだったが、それに続けて

「じゃあ、草壁さんはいつもどこで過ごしてるんですか?」

 というふうにして、答えのあとに向こうから質問が続くようになったのは、またさらにちょっとした進歩だったかもしれない。


「デイルームかな?」

「デイルーム?」


 草壁の言葉にゆかりが首をかしげるので、手近なところへ案内した。

 本当に彼女は病院のことを何にも知らない。



 草壁はデイルームという言葉をいきなり使ったが、「休憩室」とか「談話室」と言えばもう少し彼女にも分かりやすかったかもしれない。

 フロアの一角を仕切って、その中で見舞い客と話したり、手術の間、付き添いの家族が待機したりする場所である。

 もちろん大きな病院だから、そんな場所はいくつも存在していた。

 二人はその中のとある一室に入った。

 薄い壁とガラス窓で四辺を囲った小さなスペースである。イメージとしては居酒屋の個室を思わせる。もちろん、もっと素っ気無いつくりのものではあるが。

 壁際に長いすが並んであって、小さなテーブル、そして消しあとで少し汚れたホワイトボード。


 午後の陽光の差し込むその部屋がちょうど先客もなく空いていたので、二人はそこに入ってしばらく休憩することにした。



 彼女の様子を「平気そう」と見ることもできたし「無関心」とも見ることもできたし、また、相変わらずの「無感動」とも見えた。

 部屋に入ってから、相変わらず無口だったからである。そうして、窓の外に広がる街並みをぼんやりと見ているゆかりの横顔は草壁にはどうともとりかねた。

 昨日知り合ったばかりの、ロクに知らない異性と同じ部屋でじっとしていて、これほど平気なものだろうか?

 と、草壁は思った。彼自身はどうも、少し息が詰まるような気がしていたから。

 静かな室内にいると、余計そう思えた。



 そんなわけで、またもや草壁は目の前で寛いでるんだか、無視しているんだかよくわからない、彼女の前で自分の話題を喋るという独演会を開くことになった。



 昨日の演奏、あれそんなに上手でしたか?ほんとうですか?まあ、ちょっとは練習したんですけど、僕、別にピアノをちゃんと習ったんじゃないんです。近くに従兄弟が住んでいたんですけど、その人のうちによく遊びに行くたびに、あの曲弾いてたんです。小学生の時から何年も。すごいでしょ?



「でも、あればっかりだから、従兄弟には笑われてました。雨だれが遊びに来た、とか言われて」



 ゆかりのことをはっきり意識しているからこそ、あんまり彼女のほうを見ないようにして草壁は話していた。うっかり目を合わせるとこっちの下心が読まれそうに思えたから。

 だから、二人はそろって向かい合いながらも、両方とも開け放したカーテンの向こうに広がる白い雲がまぶしげに輝いているのをじっと見ているばかりだった。


 そのうち、草壁が目の前の彼女の様子をチラッと確認してみた。

 ずっとこっちの話に相槌も打たずに黙って聞いているけど、彼女どうしてるんだろう。



 一方のゆかりである。

 ここのところ栄養の摂取が点滴ばかり、眠りも薬の力に頼る日々が続いているせいだろう。体力は落ちていたし、疲労も重なっていた。

 暖かなガラス張りのその部屋の中で、窓から差す陽光をいっぱいに浴びながら草壁の言葉を聞いているうちに、やがて久しぶりの陶酔感のようなものを感じながら、瞼が重く閉じてゆくのを感じた。

 まるで彼の声が子守唄代わりに作用したみたいになった。

 あっ、こんな感じ久しぶり。

 目の前から彼の言葉が響いてくるたびに、眠気が体全体にのしかかるように襲い掛かってきて、落ちるような感覚に体が微かに揺れるのを感じた。

 その陶酔感にしばらく身を任せているうちに、彼女の瞼はしっかりと閉じられていた。


 

(ね、寝てる……)


 静かになったと思ったら、これである。俺、彼女からは本当になんとも思われていないのかもしれない。

 草壁は本当に苦笑してしまった。



 右手から差す強い午後の陽光をかわす様にして、頭を右に深く傾げて目を閉じているゆかりであった。

 あどけなく緩んだ小さな口元から、微かな寝息が洩れていた。

 やつれのせいと、感情の表出が少なかったせいもあって、冷たげな印象が時々する彼女だったが、こうしていると、子供のような幼さを感じられた。



 しばらく草壁はそんな彼女の様子を黙って見とれていた。

 やがて、彼女の瞼が、強い光をうけてまぶしげに軽く震えた。


 そうだ。カーテン閉めてあげよう。



 草壁が、松葉杖を付きながらゆっくりと立ち上がった。


 ウタタネのゆかりはその気配を感じながら、まだ重い瞼をそうっと開けてみた。

 コツコツと松葉杖の音を不規則に鳴らしながらゆっくりとこちらに近づいてくるのは、きっと草壁に違いない。それぐらいは分かった。

 まだ眠りの淵から完全に抜け出せていない、まどろみの中、薄く開いた視界には、自分の影が白い床の上にすっと伸びている様子が確認できた。

 そこに、彼の影も並ぶようにやってきた。



 ソファーの上に腰掛けているゆかりの影と、窓際近くで杖を突いて立っている草壁の影は、お互いの窓からの距離の差と二人の位置の高低差によって、ちょうど頭の影の部分が並ぶように伸びていた。


 まるで微酔のような軽い眠気の中で、ぼんやりとその様子だけがゆかりの目に映っていた。


 やがて、窓際に掛かるカーテンのほうへ少し伸び上がるようにして草壁が腕を伸ばすと、二つの影は、鼻先を互いの影の中に埋めていくようにして少し重なった。


 そして、その影絵は彼の引いたカーテンによって、すぐに掻き消えていった。


 ゆかりは、その幕切れを確認すると、微かに口元を緩めるようにしながら、再び眠りに落ちた。




 その晩、ゆかりがベッドの上で、冷える指先に息を吹きかけていた。相変わらずずっと付きっ切りの母はそのときも、ゆかりの隣でその様子を見ていた。


「ゆかり、冷えるの?」

「うん」

「ちょっと、貸しなさい」

「ありがとう」

「ほんと、あなたの指冷たいわ。カイロ持ってこようか?」

「ううん、このままでいい」

「そう」

「それより、ごめんなさい」

「何を改まって……」

「だって、お母さんこそ、ここであの小さな折り畳みベッドに毎晩寝てて、寒いでしょ?」

「そんなことないわよ」

「寝心地もあんまりよくなさそうだし」

「ゆかりと一緒に寝るなんて久しぶりで面白いわ」

「面白い?」

「大きくなっても、寝顔は、子供ときとあんまり変わってないなあって思ってね」


 指先に母の手のひらのぬくもりを感じながら、ゆかりは恥ずかしそうに俯いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 別に待ち合わせをしていたわけではなかったが、最初に出会ったそのロビーのソファーに行くとどちらかが人待ち顔に座っているのが、そのころの日常だった

 日常、と言ってもそんなに何日も一緒だったわけではなかったが。



 やがてゆかりは流動食を少量食べるようになり、普通の病院食も少量ながら口にするようになった。

 食欲自体が普段どおりに戻ったわけではないものの、医者からは、もうそろそろ、と言われるようにはなっていた。



 母はもちろん喜んだ。しかし、いくらか人並みに食事をするようになってからもゆかりは、いつも病院食のトレーを目の前にすると、しばらくはぼんやりとそれを見ているだけ、という最初の頃とあまり変らない様子だけはなかなか抜けなかった。

「どうしたの?やっぱり食べたくない?」 

 そう母親が聞くと

「ううん、そうじゃないの」

 ゆかりは軽く笑って頭を振る。


 普通に食事がとれるようになる。それは、彼女の退院の日が近づきつつあるということだった。



 ゆかりは自分の退院がせまっていることを草壁に話すことはなかった。



 その日、退院予定を明後日に控えたゆかりが、いつものように草壁と一緒に過ごしていたのはとあるロビーである。

 自販機と長細いソファーに囲まれたそのロビーには、ちょうど草壁と同じような病院のパジャマを来た患者が4、5名、互いにあまり顔見知りでもないらしく、本や雑誌を読んだりスマホをいじったりしながら言葉少なく掛けていた。

 そんな中に混じって、やはりみんなとおそろいのパジャマを着た小さな女の子が一人で、絵本を広げて静かに読みふけっていた。

 ソファによっこいしょっと腰を下ろすと、足がまだ床には着かない其の子が黙ってページをめくっては、足だけはちょいちょいパタパタと前後にゆすっている。

 見ていると、どこかが悪いようにも見えないが、なにかの病気なんだろうか?


 頭上のテレビから流れるニュースの天気予報だけがあたりによく響いていた。



 草壁とゆかりはそんな患者たちに混じりながら、いつものごとくどうでもないような雑談を交わしていた。

 そのころには、ゆかりの様子は最初の頃とは随分と変っていた。

 と言っても、それは出会いからほんの数日のことに過ぎないのであったが。

 もちろん、草壁はその変化がなぜなのかはわからなかった。相変わらず彼女のほうから、自分のことをあまり詳しくは話してくれないので、彼女がどんな病気、あるいは怪我で入院しているのかも彼は知ることがなかった。


「ほら、お年寄りって病気自慢するでしょ?」

「ああ、そうなんですか?」

「はい、大部屋に居ると、聞こえてくるのはそんな話ばっかりですから、部屋にいるだけで気ぶっせいで……」

「耳栓したぐらいじゃ防げないでしょうしね」

「もう、聞いてるこっちが怖くなってきます」

「大病したほうがエライみたいな?」



 二人がそんなやりとりをしていると、ずっと絵本に夢中だと思っていたその女の子がふと顔をあげて草壁たちを見た。

 そして、真っ赤なほっぺをしたその子が、絵本を脇に置くと、彼女にとっては少し高いソファーからずり落ちるようにしながらゆっくりと下りると、草壁たちの目の前まで駆け寄ってきた。

 ん?と思って草壁とゆかりがその子を見たら、その子が元気で大きな声で


「マキは、元気になったから、明日退院するよ!」


 得意満面、とでも言えそうな笑顔を弾けさせた。



 ロビーに居た草壁たちを含めた一同、その大きな声に一瞬みんながびっくりしてマキちゃんを見たあと、全員が声をそろえてマキちゃんにこう言った。



「よかったね、マキちゃん!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 やがて、頭上のテレビでは陽気なバラエティー番組が始まった。

 昼にしては、豪華なメンバーぞろいのお笑いタレントたちのやりとりが賑やかになるとそれまで、大人しかったロビーの患者達はいつの間にか、その番組が良く見えるような場所に座りなおして、頭上のテレビを見上げていた。



 草壁とゆかりの二人とも、その番組が特別好きと言うわけではなかったが、他にやることもないし、みんなが割りと熱心に見ている邪魔もしたくなかったので、同じようにテレビのほうを揃ってみていた。



 互いにあまり深く知らない者同士らしいが、ゲストが思った以上に豪華だったりすると

「今日は、この人出てるのか」

「最近、あんまり見てなかったから知らなかった」

 とか、簡単な一言二言をもらしながら、和やかに鑑賞している。

 そして、時折、フフフフッという笑い声をもらしながら。


 一方の草壁もまあ大爆笑とは行かないが、時折、彼の笑いのツボに触れるようなトークには思わず笑みを漏らしたりしていた。

 そういえば、この番組、自分も久しぶりに見るけど、たまに見ると面白いな、とか思いながら案外退屈も感じなかった。

 隣ではゆかりもその番組を楽しんでいる模様だった。ずっと視線を上げっぱなしで画面を見上げていたのだから。



 そんな時である、あのマキちゃんが再び二人の下へやって来た。

 彼女は先ほどの全快宣言を元気良くやったあと、よじ登るようにしてソファーに戻ると再び絵本を熱心に読んでいたのだが、今度はなんだろうと思っていると、マキちゃんが不思議そうな顔をして二人を見上げていた。


「どうしたの?」

 ゆかりが聞くと、マキちゃんがこう答えた。


「二人とも変なの……みんなが笑わない時笑って、笑うところで笑わない」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ゆかりの様子は一応順調に回復してゆき、医者からも予定どおり、明日退院ということでいいでしょうという最終判断も下ったその日のことである。


 やはり、ゆかりは自分の退院予定を彼に話すことはなかった。そして、互いに連絡先の交換などもすることなくその日を迎えた。



 もちろん草壁はゆかりがそんな隠しごとをしているとは気づいていない。後になって連絡先ぐらい聞いておくべきだったと悔やんだが、彼は少しだけ錯覚をしていたのだった。もう改めてそんなことを聞く必要はないような変な気分に。まるでそんなものはずっと前から知っているような気がしていたのだ。随分とうっかりな話だが。



 延べ床面積だとか、病床数とかの規模から言ってこのあたりでも指折りの大病院の中であった。暇な入院患者同士が顔を合わせて雑談するような場所なら、そこここに至るところにあった。

 だから、その最後の日に、草壁は一体自分たちがどこにいたのか、という詳しい記憶がちょっと曖昧だった。

 ただ、そのロビーでゆかりと話をしていたのは始めてだったはずである。



 二人が並んで腰掛けていた長いソファが何色していたのか、とか、まわりに他に人がいたかとか、そのときの詳しい状況がかなりぼやけているのは、そこで出くわした、ちょっと変った人の印象のほうが強くてそれ以外が、みごとにぼやけているせいだと思われる。



「あなたたち!今日はこんなところにジッとしてちゃいけないわよ!」


 突然二人に向けて随分と大きな声で話しかけてくるものがいたのだ。

 まるで、立ち入り禁止の場所に勝手に入っているのを見つけた警備員かなにかのようだった。

 えっ、自分たちそんな悪いところに居た?


 驚いて見上げるとそこには、やはり草壁と同じ形で色だけ女性向けらしいピンク色の病院着をつけた女がトートバッグを肩からかけて立っていた。


 患者?それが僕たちに何を注意しているんだろう?


 良く見ると、その女、大きなマスクをしている。

 そして、オデコのあたりを包帯でグルグル巻きにしているせいもあって、目ぐらいしか顔の印象が分からない。

 動物に例えるとタヌキ。

 わりと分かりやすい垂れ目だった。マスク姿というのは表情が隠れる分ちょっと冷たい印象がするものだが、目だけ見てても、はっきりタヌキ、と言っていいような愛嬌が感じられた。


 そして、トートバッグを下げているほうの手も袖口の向こうまで包帯を巻いていたりする。

 病院だから、包帯の人は珍しくないが、なんとなく、目の印象と相まって間抜けな印象がパッと見で感じた。




 今ここで、この女の詳しいプロフィールは控えておくが、名前を武内奈保美という。若そうには見えるがそのとき30である。



 突然、わけの分からない言葉を掛けられた二人が呆然としていると、この武内、二人の手を取って

「ちょっと!あなたたち、こっちに来て!」

 と言って、すぐにでも二人を立ち上がらそうとした。


「ちょ、ちょっと何するんですか?」

 ゆかりが驚く。が、ゆかりはまだいいとして、隣の草壁は足を骨折しているのである。


「や、やめてくださいよ!今こけたら、こっちは大変なんだから!!あっ、杖が……」

 武内が無理にでも立ち上がらせようとするので、訳がわからずに、とりあえず片杖だけ突きながら腰を浮かしかけると、もう片方の杖が床に転がったりして、草壁にはちょっとした騒ぎである。



 とりあえず武内に促されるままに、よっこらせっと立ち上がったあと、ゆかりが拾い上げてくれた杖を受け取った草壁。相変わらず自分の袖口をつまんでひっぱる武内に引張られながら今まで座っていたソファーから数歩ほど進んだあと、目の前のタヌキ目に向かって


「急に一体、どうしたんですか?!」


 と声を上げた。


 目だけでは表情はよくわからないが、マスクの下からはやけに決然とした口調で武内が先ほどまで草壁たちが座っていたソファーを指差してこういった。


「今日のあそこは大凶の場所よ!そういうところは避けるものなのっ!」



 いきなりやってきてそんなこと言われても……。武内を目の前にして、ゆかりと草壁はこの変な女の言うことを聞いて顔を見合わせていた。


 で、そのときである。


 別の入院患者が、ついさっき自販機から注がれたばかりの熱々のコーヒーが入った湯気の立つ紙コップを4つトレーの上に乗せて二人の横を横を通りすぎた。


「悪いね!使いっぱしり頼んじゃって」

「いいよ。みなさんその足じゃコーヒー買うのも大変だろう?こっちは腹切っただけだから、これぐらいお安い御用」


 トレーを持った男性患者がロビーの奥に陣取る、車椅子や草壁と同じ松葉杖姿のたむろするほうを見てそんな会話を交わしていた。

 彼は、さきほどゆかりと草壁が座っていたソファーの前を通ってその向こうにいるお仲間たちのほうへ向かおうとしたのだが……。


 彼がそう言った直後である。ソファーの前にあった小さなテーブルの足に自分の足をひっかけた。


「うわっ!!」



 トレーを持った患者の大きな声に驚いた二人が、そちらを振り返ると、ちょうど自分たちが座っていたその真上にまで飛んだ紙コップの中から熱々のホットコーヒーが下に降り注ぐ様がストップモーションのようにして見えた。



 タヌキ目の言うとおりになった……。

 ぎょっとして、ソファーの上で熱々の湯気を立てる琥珀の水溜りに草壁とゆかりが目を丸くしていると、


「スゴイ……私の占いって、当たることがあるんだ……こんなの初めてだけど」


 タヌキ目も二人以上に実は驚いていたりしていた。




 どういう訳かはよく覚えていないが、その後草壁とゆかりは武内とともに喫茶室でお茶を飲んでいた。


「すごいでしょ?私」

「まさか、本当に当たるとは思わなかったけど」


 まさかの展開にゆかりと草壁も驚いていたが、武内のほうがさらに驚いていたのには、二人ともちょっと呆れた。


「私ね、占いをしてるの」


 素顔のほうはよくわからないが、初対面の二人を目の前にして割りとよく喋るひとだった。

 占いの人と言ったら、もう少し貫禄とか重みとかがあったほうがいいと思えるのだが、そのようなものを全く感じさせない気さくな人柄。

 人としてはいいが、商売としてそれでいいのか?とも思えた。


 しかも自分のことをよく喋る。



「それでね、今日はたまたま大当たりした記念に――」

 今、この人『たまたま』って言葉をサラッと使った……。

「あなたたちのこと占ってあげるわ。私ね、なにがあってもいいように占い道具を持ち歩いてるの」

「占い道具を持ち歩く必要のある、とっさの「何か」ってなんなんですか?」

 草壁が思わず聞いてしまったが、そんなことおかまいもなく、武内はバッグの中をごそごそとまさぐったあとあるものを取り出して、二人に見せた。


「これわかる?パスタじゃないわよ」

「見ればわかりますよ。筮竹ってやつでしょ?」

「ご名答!じゃあ、こんどのこれわかる。金魚すくいのポイじゃないわよ」

「それも見たらもっと分かりやすいです。虫眼鏡でしょ?」

「そうそう!これで占ってあげるわね」


 竹内は、そういうとカバンから取り出した筮竹と、本人の顔ほどもあるような大きな虫眼鏡を机の上に置いた。


 筮竹にルーペ?

 二つとも占いの方法としては共通しない別物のようだけど、この二つを使ってどうやって占うのだろう?と思っていたら。


「だから、誕生日教えて」


「ええっ!筮竹とルーペ出してきて、生年月日聞くんですか?」

 驚く草壁。

「そんな占い始めてです……」

 草壁のとなりで、ゆかりも目を丸くした。


 すると目の前の武内が手を振ってこういう。

「生年月日じゃなくて、誕生日。年はあんまり関係ないのよ、私の場合」


 本当かよ……。それじゃ雑誌の星座占いに毛が生えた程度じゃないのか?

 思わず、草壁が不審の目で彼女を見たのも仕方ない。

 だんだんと、さっきのまぐれ大当たりがうそ臭く見えてきた。

 この人、話をすればするほどどんどん胡散くさくなってくるなあ……。


「私の占いはね、いろんな要素を独自の配合で取り入れて作ったまったくのオリジナルだから、そこらのとは一味も二味も違うの」


 すぐに潰れそうなラーメン屋みたいなことを自慢げに言った。

 占いにそれは却ってまずいんじゃないのか?要は、体系だった占いのノウハウが全くないようにも見える。


「さあ、じゃあ、まずは彼女から教えてくる?」


 武内に言われたゆかり、チラっと草壁のほうを見て、ヒソヒソと囁いた。

「どうしましょう?」

 彼女にしても、そのころにはすでにこの武内のことを相当怪しいと感じていたのだ。

「まあ、見てもらうだけならタダですし」

 まさかこんなところで悪質なキャッチセールスみたいな目に会うことはないだろうと草壁は思ったので、軽くそう答えた。

 見ていると、メチャクチャに占い師としての素質に疑問を感じたが、なんとなく悪い人ではないような気がしたのも確かだった。



「私は11月10日です」




 ゆかりが自分の誕生日を答えると、占いのアンチョコでも書いてあるらしい大学ノートを広げてパラパラとめくっていた武内が顔を上げた。


「あらっ!」


 すごくいい占いの結果でも出たみたいな顔をしたが、誰しもが366分の1で持っている誕生日の数字の一つがすごく大吉だったり、大凶だったりするものか?

 草壁は最初、なぜ武内が嬉しそうな顔をしたのか分からなかった。


「あなた、自分の誕生花知ってる?」

「はい、グラジオラスです」

「そうよ!そのとおり!!」


 ん?誕生日聞いたのは誕生花が関係してくるのか?

 そう思っていると、このタヌキ目、ゆかりの誕生日と誕生花を知ったとたん、またもや自分のカバンをごそごそと漁りだしたあと、とある雑誌を取り出した。


 「TOKYO クルーズ」。といえば、隔週発売の有名情報誌である。

 本屋、コンビニ、駅売店の情報誌コーナーのおそらく一番目立つところで平積みになっているその雑誌のことは、誰でも知っているだろうし、購入したことなくてもページをパラパラめくった経験も誰にでもあると思われる。


 武内が取り出したのはそれである。

 表紙で笑う女性タレントはその春公開の映画のヒロインだったりもする。



「これこれ!この東京クルーズ、最新号なんだけど、あなた読んだ?」

 まるで友達に話しかけるような調子でゆかりに聞く武内。草壁はその武内の楽しそうな様子を不思議そうにタダ見ているだけだった。


「いいえ、読んでません……」


「あっ、そう。それなら、いいところ教えてあげるわ……えっと、どこだっけ。ここじゃなくて、もう少し後ろだったかな……あっ、あった!ここよ、ここ!」


 武内が雑誌のとあるページをゆかりとその隣に並ぶ草壁に向けて広げて見せた。

 いくつかの写真と記事がレイアウトされているそのページの中で、ひときわ大きく掲載されている写真には、綺麗に咲いたグラジオラスの花畑が青空の下に広がっている様子が映っていた。


「綺麗でしょ、これ、このフラワーパークはグラジオラスの群生で有名なんだって」

 営業社員が客にパンフレットを見せるように、机の上でゆかりたちに向けてその雑誌を広げる武内。

 それが、だからどうしたの?

 そんなこと言われても二人には、突然の展開にキョトンとなるばかりである。



「あなたたち、カップルで行って見たら?」


 武内にはそう見えていたらしい。言われた二人は思わず同時に顔を見合わせた。

 そのとき、ゆかりがとても無防備な顔をして驚いていたのが草壁には印象に残った。

 そのころでは、ほとんど見ることのできなかったような無邪気な顔だった。


 しかし、目の前の武内は二人の様子なんかちっともわからなった。一人で悦に入りながら

「彼女の誕生花が咲き乱れる場所でデートなんて、きっとムード満点だろうなあ……うらやましいなあ……私もそういうデートしてみたい」


 うっとりしながら一人で喋っている。

 別は二人は恋人ではないし、そこに行くと言っているわけでもないのだが、いつの間にか彼女の頭の中では二人がそうすると思っているらしい。


 呆気に取られて目の前の武内を見ているしかない草壁だった。

 そして、武内は占いなんかほったらかしにして、二人に向けて広げた情報誌を勝手にパラパラとめくっては

「そのあと、ディナーは、こういう夜景の見えるレストランで食事……ね、ここ、いいと思うでしょ?見て!この夜景」


 仕方ないので二人とも、なんとなくウンウンと相槌を打つしかない。


「それから、この、ここ!こんな大人の隠れ家的なこんなバーで軽く飲むの」

 何が楽しいか分からないが、二人にそんな場所の掲載されているページを開いて見せながら、すっかり自分の世界に浸ってしまっている。


「あの……」

 その武内に草壁が聞いた。

「さっきから、ずっと開いてるページには雑誌の角を折って印をつけてますけど、彼と行く予定なんですか?」


 武内はあっさりと答えた。

「ううん。いないから、こうして想像して楽しんでるの」



「……」

「ゴホッゴホッ」

「あの、マスクされますけど風邪でもこじらせて入院されるとか?」

「これ?ううん。ただの風邪。玉子酒飲んだら熱もひいたわ……まだちょっと喉がいがらっぽいだけ」

「ひょっとして、その包帯の怪我で入院を?」

「この怪我?違う、違う!これは、玉子酒飲みすぎて、階段を転げ落ちただけのただの打撲」

「そうですか……」

「あっ、私がなんで入院してるか知りたい?私、生牡蠣にあたって死にそうになったの!」

「生牡蠣ですか……」

「そうよ!牡蠣って怖いって本当ね!」


(こんな人の占い、あてになるのか……)



 驚いたことに、草壁がそんなことを思っていると、この武内、

「じゃあ、私はもう行くわね、楽しみにしてるドラマの時間があるから!」


 そう言ってどっかに消えていってしまったのである。



「結局、アノ人、長瀬さんのこと占ってくれましたっけ?」

「自分の行きたいところの話しをして、終わりましたね……」




 武内を見送ったあとである。

 取り残された二人が並んで喫茶室に座っていると、ゆかりがポツリと呟いた。

「グラジオラスの群生か……私、花屋さんで売っているのしか知らないから見てみたいな……」


 草壁がその言葉を聞いて、こう彼女に言葉を掛けたその様子は、まるでこの病院の喫茶店か食堂にでも彼女を散歩ついでに誘うみたいな、とても自然な調子をしていた。

「いつか、ふたりで行って見ませんか?その場所に」



 そうして、何気なく隣の彼女を見た。

 ゆかりはそう言われて、目を白黒させるようにキョロキョロと泳がせながら、泣き顔を彷彿とさせるような少し取り乱したような表情で、彼の誘いに困ったようにこう答えた。


「いつか、機会があれば……」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日の午前中には大きな荷物も宅配業者に引き取りに来てもらいゆかりが滞在していた個室もすっかり片付いた。

 簡単な手荷物だけを抱えたゆかりは、お世話になった看護師に挨拶を済ませると、母とともに、病院の廊下を帰宅のために歩いていた。



「しばらく、実家うちでゆっくりするといいわ」

「うん、ねえ、ところでお父さんだけど……」

「あなたの顔見せてあげたら、それでいいのよ、余計な心配しないの!」


 そんなことを母と話ながらも、ゆかりは時折、あたりの様子をキョロキョロと伺った。


「どうしたの?」


 不思議に思った母が娘にそう声をかけても、ゆかりはなんでもないと言うだけだった。



 正面入り口の車寄せには、すでに手配のタクシーがドアを開けて待っていた。

 母と娘が乗り込むと、車はスッと病院を離れていった。


 背後にそびえる病院の建物がリアウインドウから消えて見えなくなるまで、ゆかりは何度となく、後ろを振り返った。

 母にどうしたの?と聞かれるたびに、彼女は固い表情で


「なんでもない」


 と首を振った。




第20話 おわり

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