第14話 かわいい彼女
お話は前回のちょうど数日後ぐらいから始まる。つまり1年目7月上旬。梅雨明け宣言がそろそろ出そうでもあり、出なさそうでもある時期。
このところ、長瀬亮作はアレッ?と思うことがあった。
同居しているルームメイト、草壁圭介の様子が少し変なのである。
どう変かというと、顔を合わすとぼんやりとしていることが多い。家にいても自分の部屋に篭ってばかりだ。
今までは、割と頻繁にリビングダイニングに顔出して、亮作と雑談の一つでもしながら、飯を食べたり、時には酒を飲んだりよくしていたのが、ぱったり少なくなった。
別に本人、忙しいわけではなさそう。
あと、それと、あんまりご飯を食べていないようでもある。
最近、マメに自炊する姿を目にしなくなったが、外食をしている様子もない。
晩飯時だっていうのに、部屋に篭っている。
顔を合わしても、ぼんやりと一人で考え込んでいるみたいな雰囲気。
まあ、別にルームメイトの私生活にそれほどクチバシを突っ込む必要もないのだが、ここ数日、そんな様子なのはちょっと気になった。
そんなある日のこと、亮作が風呂あがりにリビングダイニングに顔を出すと、ここのところ部屋に篭ってばっかりだった草壁がテーブルに座って部屋のテレビをぼんやりと見ていた。
「ふう……いい湯だった。風呂上りの一杯っと……。草壁クンも何か飲む?」
「俺?いいわ」
「そう……なんか、最近元気ないけど、体の調子でも悪いの?」
草壁が酒を断るのは珍しい。
ついでだから、何気ない様子で探りを入れる亮作。
テーブルでは草壁がぼおっとした顔で、コンビニオニギリをパクついていた。自宅に居てこの時間にこんなものを食べている草壁は珍しい。
自炊派の彼の場合、メンドクサくても、自分でご飯炊いてあり合わせのものでも食べているはず。そのほうが安上がりだ。
それが、コンビニオニギリ食べている。それも、なんでかしらないが梅シソおにぎりばっかり3つも買ってきて……。冷蔵庫みたら、そろそろ食べておいたほうがいい食材いくつかあるのに。
相手が酒を飲まないっていうのは、調子が狂うが、もうちょっと草壁の様子を見てやろうと思って、自分だけ発泡酒を飲みながら草壁の目の前に座った。
すると、草壁、自分の胸の当たりを指差して亮作にこう聞いた。
「なあ、お前、これどう思う?」
「胸がどうしたの?」
「違うよ!このTシャツだよ」
お互い部屋着のラフな格好をしている二人。亮作は適当な英語のつづり書いてある、ありきたりなTシャツに半パン。
ところが、草壁はというと、アンダーに履いているグレー色したジャージのズボンはいいとして、上に着ているTシャツが少し問題だった。
半袖Tシャツの胴の部分一杯にミッキーマウスの顔がでっかくプリントしてある白いTシャツなのだ。
因みに背中には、同じようにミッキーの後頭部のプリントがある。
「それがどうしたの?」
「お前の目から見て、このTシャツ、俺に似合ってると思う?」
「全然。違和感ありまくり」
「やっぱりそうか……」
そういえば、草壁クンちょっと前からこのTシャツ着てたんだよなあ。
って言うか、自分で似合ってると思ってたんだろうか?
草壁クンとミッキーって、繋がらないんだよなあ。そういう趣味の人じゃないっぽいとずっと思ってたから、それを着て部屋をウロウロするようになって、ちょっと驚いていたんだけど。
「どうしたの?それ」
「これ?友達がディズニーランド土産にくれた」
「へえ……」
なるほど、お土産か。けど、その友人もどうだ?草壁クンのキャラ理解してそんなもん買って来るか?
「ソレ着て、大学に来たら、昼飯おごってやるって言ってさ」
「ちょっと待ってよ!まさか草壁クン……」
「着てったさ」
目の前でサラッと草壁が言った。他人事ではあるが、もし事前に聞かされていたら多分止めたな、と亮作は思った。
「マジ?相当痛いファッションだよ?それただの部屋着だと思って見てても、時々草壁クンのセンス疑うことあったもん」
「もう、外出たところから、みんなにジロジロ見られてさ、大学行ったら、女子に指差されて笑われて。おまけに、普段あんまり生徒を当てないって先生の講義でも『そこのミッキーマウス、どう?』とか言ってきて、そのたびに室内大爆笑」
草壁は本気で愚痴ってるみたいだが、亮作も思わず噴き出してしまった。
「そりゃそうだよ」
「けど、そうなると、なんか腹立たない?」
真顔の草壁。
「まあ、いくら友達との賭けって言っても、笑われたらムッとくるだろうけど……」
相変わらず、真面目な様子で草壁は続けた。
「そうじゃなくて、なんで似合わないんだって……」
「いや、二十歳超えた男で、そのミッキーマウスのドアップがでっかくプリントしてあるTシャツ似合うほうがおかしいよ?」
「そうかもしれないが、笑われずに自然に着こなす方法ってないかな?」
そう言って腕を組んで考え込む草壁。
呆気にとられながら、亮作も少し考えることにしてみた。
「……なんでそんなことを真剣な顔して考えているか知らないけどさ、どうしてもって言うなら、とりあえず自分のキャラ変えてみるっていうのはいいんじゃない?」
「キャラ変える?」
「そうそう、そんなにワンパクな服を着こなすには、もっとヤンチャでないと。草壁クン、髪の毛染めてるわけでもないし、髪型だって、自然に流しているだけの普通な感じでしょ?」
「まあ、それでいいと思ってるから」
「服だってさ、正直地味。よく着てるチェックの柄のシャツと黒のジーパンみたいなのばっかりだし」
「お前の言う”ヤンチャ”ってどうしろっていうの?」
草壁にそう言われて、しばらく考え込む亮作。
「まず、髪は金髪……じゃなくて赤とかかかな?ベリーショートで髪の毛ツンツンたてて。ピアスにサンダル履き。ズボンは、完全に腰で履いて、もうパンツが見えてるぐらいにして……」
「やだよ!!なんでミッキーTシャツのためにそこまでしなきゃならないんだよ!」
じゃあ、なんで、ミッキーのTシャツのためにそんなに悩んでいるの?と突っ込もうと思ったがやめた。
「それぐらいヤンチャな人だったら、そのアグレッシブなミッキーTシャツも、似合うと思うよ?」
まあ、お前の言うことにも一理はあると思うけどさ。とか言いながら、まだ考え込んでいる草壁。
やっぱり、この人、変な人だなあと思いながらも、亮作もしっかりお付き合いしてたりする。
「そこまでしたくないなら、つま先から頭までミッキーマウスずくめってのは?」
「ミッキーずくめ?」
「そ、ミッキーの靴に、ミッキー柄の靴下。お尻に大きなミッキーの刺繍のあるショートパンツをはいて、頭にあの耳がくっついている帽子を被ってさ。それで、そのTシャツを着たら、似合うと思う」
なんか、いいアイデア見っけた。みたいなふうな亮作。
しかし、草壁には気にいらないらしい。
「いや、余計ひどいファッションになってないか?それが許されるのは小学生までだろ?」
「……僕は幼稚園までだと思うけど……けどさ、そうしたら、ただのミッキー好きの人がミッキーの服を着てるということだから、すごく自然になるでしょ?」
「『自然』のニュアンスが、ちょっとずれてるぞ!」
「それに、絶対人からジロジロ見られたり、笑われたりしないはず」
「似合ってる、っていうことと、見てみぬ振りされるってことの間には、ファッション的にも人としても、天と地ほどの差があると思うがなっ!!」
っていうか、なんで草壁クン、そんなにそのTシャツにご執心なんだろう?
「そんなにまでして、ミッキーのTシャツ着たいの?」
最初は半分冗談だろうと思いながら草壁にお付き合いしていた亮作が、最終的には驚いていた。
この人、普通そうに見えて、すんごい変っているところあるよな……。
つまり、この前からの変な様子って……。
「草壁クン、最近、ずっとぼんやりしてるみたいだけど、ひょっとして、これで悩んでたの?」
唖然となった亮作。
「違うよっ!!!」
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酔っ払ったゆかりをお姫様抱っこして階段を登ったあの夜のあと、ゆかりの不機嫌も直った様子なのはいいが、かと言って、草壁とゆかりの距離が特別縮まったというわけではなかった。
その後、マンション近くでゆかりと鉢合わせになったとき、あの夜のことを覚えているか聞いたところ。「ごめんなさい、私酔っ払ってて全然記憶ないんです?なにかご迷惑でもかけました?」と真顔で言われて、草壁は絶句した。
本当に覚えていないのか、とぼけているのか、よくわからないが、これまでみたいに友達でいましょうね、という空気をビンビンに出している。
うっかり踏み込んでもやっぱり撥ね付けられそうにしか思えない。
言わば、元通りに戻ったというわけだった。
そして、ゆかりは再び喫茶店のウエイトレスとして時々働くようになり、草壁は草壁で何が目的かはよくわからないが、とりあえず顔を見せるようになった。
それまでと同じように。
そんな中で変ったことと言ったら、草壁のおかげで、新しい客が一人、喫茶アネモネにやってきたことぐらいだろう。
その客というのは――。
「あの、ご注文いかがいたしましょうか……」
「うるさいわね!聞かれなくても注文してやるわよ!この柴漬けがっ!!!」
「し、柴漬け……?」
オモテのガラス越しに草壁の姿を通りがかりに確認して、いきなり飛び込んできた、あのショットバーの店主、オカマのジローである。
「あらあ、草壁ちゃん、こんなところに居たの?またお店に来てよ」
入ってくるなり、後ろから草壁を抱きしめて、店の一同を驚嘆させてから、草壁の隣に座ると、注文を聞きに来た辻倉あやに向かって、いきなりそういって毒づいていた。
ちなみに、本日もウエイトレスは、あやとゆかりのダブル出勤。
もちろん、ジローさん並んで立っている二人を見て
「うわっ、何この店!ブッ細工なウエイトレス二人も雇って!……それに、握り飯!なんであんが居るのよ?邪魔よ!」
ぐらいのセリフは平気で吐いた。
注文をとりに行ったら、突然「柴漬け!」と怒鳴りつけられたあやが驚いた顔で、ゆかりのソバに戻って来ると、ゆかりがソッとあやに耳打ちした
「多分、私が握り飯で、その添え物のお漬物ってぐらいの意味だと思う」
「私、ゲイの人ってもっと女には気さくだと思ってました……」
「アノ人はね『女の敵』っていうか。『女が敵』っていう人だから」
そして喫茶店のマスターはというと
(なんか、最近ここの客筋が荒れだしたような気がするんだけど……)
と思いながら、噂どおりのオカマだったショットバーのバーテンが草壁に擦り寄っている様子を黙って観察しているしかなかった。
ところでここ最近の草壁なのだが。
ルームメイトの長瀬亮作が気づいていたとおり、ちょっと様子が変だった。
別にミッキーマウスのTシャツに悩んでいた訳ではない。
もちろん、悩みの原因は、彼の憧れの存在である、お隣に住む長瀬ゆかりである。
あの晩、彼女をお姫様抱っこしながら、階段を上りきったあと、腕の中であの人が言った一言――
”ねえ、どこまで、連れてってくれるの?”
――という言葉は強烈なインパクトとなって何時までも残っていた。
最近、と言ってもちょうどひまわりが丘に転居したころぐらいから、大学の友人たちから「お前、付き合い悪くなったよな?」と言われるようになっていた草壁。
というのも、授業が終わると特別に用事でもない限り、まっすぐひまわりが丘に帰ってしまうし、また、たまに合コンなんかに誘われても、顔を出さないようになっていたからである。
近くに女性がいたとしても、頭の中ではどうしてもゆかりと比べてしまう。
そうなると、大抵の子がつまらなかった。
しかし、肝心のゆかりは、草壁を友達扱い。
好きな人がいるというのは、たとえ片思いだとしても、悪いものじゃないかもしれない。けど、完全な片思いとも思えない中途半端な状態、というのが現状。
ドッグフードを目の前に、長いこと「待て」の指示を食っている犬みたいなのが現在の彼のポジションだ。
完全に友達として、ほっとかれているほうがまだ耐えやすい。
しかも、そこへ持ってきて、先日の「ねえ、どこまで連れて言ってくれるの?」だった。
どうして、もっと素直になってくれないのか?と、煩悶ばかりが募る毎日。
と、同時に、やっぱり、彼女は自分のことを本当に好きなんだろうか?という疑問は相変わらず付きまとう。事実、先日のことだって「覚えていない」とあっさりと言い切った。
ここのところ、そんなことを考えながらぼんやりする日が続いていたのだった。
今度は、ちゃんとシラフの時に気持ちを確かめたい。
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そんなとき、草壁とゆかりの元にとある依頼が舞い込んだ。
依頼主はいつぞやの商店街組合の組合長である。
その依頼というのが、話を聞くと実にいい加減な話なのだった。
「商店街の事務局会議室で開催される、小学生将棋大会の会場設営」
というものだった。
その話がどういい加減かというと。
「実は、今度の日曜日に開催の予定なんだが、準備のための人の手配をすっかり忘れてた」
「ええっ!明後日ですよ!」
草壁とゆかりが二人そろってたまたま喫茶店に居たときだった。マスターが「君たち、これから予定あるの?」と聞かれた二人が、「別に、もう帰るだけですけど」と揃って答えたところ、どこからか湧いてきたこの組合長から、そんなことを言われて二人はたまげた。
「準備と言っても、机と椅子をならべて、看板をかけるだけなんだけど、机と椅子は町の公民館に行って借りてこなくちゃいけない。これ、結構力仕事だろ?わたしみたいな年寄りでは手に負いかねる」
平気な顔でそんなことを言う商店街の仏壇屋。つまりこの商店街組合長。確かに矍鑠としてはいるが、どう見ても65、いや70は超えている。こんなジイサンには確かに無理な仕事だろう。
しかし……何で、自分たちが?と思っていると、組合長だけでなく、アネモネのマスターまでもが
「このとおり!この商店街の者で今、手が空いている若い者は君たちしかいないんだ!助けると思って」
と拝み倒してきた。
「よく、そんな行き当たりばったりで、イベントなんか開催できますね!」
ゆかりが話を聞いて驚いていたそばで、さらに驚いていたのは草壁だった。
「ぼくは、別にこの商店街の関係者じゃないんですけど!」
道具屋の手伝いをしてたら、いつの間にかそんなふうに思われてしまっているらしい。
お断りする。……という選択肢が初めからゆかりにも草壁に用意されていないみたいにして、二人の返事なんか確かめもせずに、なし崩し的に仕事を押し付けられた。
だが、ここで驚くにはまだ早すぎた。
なんとなく、頷くような頷かないような様子で「私達しか人居ないんですか?」とかゆかりが言っているそばから、この組合長がこんなことを言い出した。
「じゃあ、まず、机と椅子を運ぶための車なんだけど、先生、たしか車持ってたね?」
「ええっ!わたしの車って軽乗用車だから、椅子とか机をいくつも積むなんて無理ですよ!」
どこまでも行き当たりばったり。
人手どころじゃない、会場設営に必要な車の手配までしていない。
仕方ないから、ゆかりが辻倉あやに電話して頼んで、あやの家の軽トラックを借りる手はずを整えた。
で、その後も話は簡単には進まない。
二人して、あやの家で軽トラックを借りてそれに乗って公民館へ……行く前に、公民館の鍵を入手するために町内会長のところへ行ってくれと言われて行ったところ、うちに鍵はない、たしか副会長が持っているといわれて、そちらの家へ、そこでもないと言われて、こんどは会計さんが持っているとか言われ……。
そんなことを繰り返して、やっと鍵を入手。二人で公民館の倉庫から、折りたたみの机と椅子を何十脚と運び出して荷台に乗せたあと、しっかりとロープで固定。しかし、二人ともそんな仕事の経験がないから、軽トラの荷台にどうやってロープで固定するかもよくわからない。ロープを結ぶだけでも、ああでもない、こうでもないと一苦労。その後、鍵を返却して、商店街の事務局に戻ってきたところ、事務局が閉まっている。そこで、ゆかりを車に待たせて、アーケードをひとっ走りし、仏壇屋に顔を出して「事務局、閉まってるんですけどね!」と言ったときの草壁の顔は怒りに引きつっていたが、その彼に向かって「事務局の鍵?ああ!あれ、今たしか理事の靴屋のところにあるよ」と仏壇屋は言い放った。そこで草壁は、また来た道を引き返して、事務局の前を通り過ぎて、靴屋に顔を出して鍵を要求。「あれっ!草壁クン、どうしたの?うちの事務局でなんか用事でもあるの?またチラシ配りでもあったっけ?」という商店街理事の靴屋の言葉をムッとした顔で無視して、さっさと立ち去って……。
それで、ようやくこれから、本当の仕事である「将棋大会の会場設営」にとりかかれるということになった。
ところで、この商店街事務局なる施設だが、以前草壁が商店街のチラシ配りのために不気味な大黒様の着ぐるみに着替えたところである。
改めて説明すると、1階が元パチンコ屋だったのが閉店してから何年もシャッターが下りたままになっているその2階。もと英語教室だった場所である。
駅前出入り口から商店街に入って一度右手に折れ曲がったその突き当りに存在している。
そこの会議室と書かれたフロアの鍵を開けた二人は唖然となった。
本当になんの準備もされていない。
長机が2脚と椅子が数脚出してあるその前にホワイトボード。どうも会議でもやった後そのまんまの状態でほったらかしになっているようなのだが、そのホワイトボードに書かれた議題にはこう書いてある。
”商店街の現状と展望、さらなる集客力アップを目指して”
そのホワイトボードをジッと見ながら、おもわずゆかりが呟いた。
「そんなこと話し会う前に、自分たちで主催するイベントの準備ぐらいちゃんとやってほしいわ」
「今の時代、ここみたいな商店街は厳しい、なんて言ってますけど、こういうところにも、原因の一端はあると思います」
しかもこの会議室、邪魔なものがいっぱいあった。
まずはそういうものを片付ける。
ホワイトボードやら、こんなの使うのか?と思うぐらい立派な多機能コピー機。あと、何に使うかわからない大きなカゴとか、いつか草壁が着た大黒様の着ぐるみ。それから、カラのビール瓶が詰まったビールケース。等々……。
それから、やっと机と椅子の運び込みという段取りになるのだが、またここでも分からないことだらけ。
まず、余計なものは倉庫にしまっておくということは聞いていた。が、今度は倉庫の鍵がない。とにかく勝手のわからない場所に二人を送り込んで、ざっくりとした説明をしただけで、仕事を丸投げしてくるここの組合の連中のいい加減さに怒る気もなくした草壁が、組合長のところに電話を入れると「鍵は会議室の隅に鍵箱があるだろ?その中にあるから」と、またもや、そんなこと先に言っといてくれ的な段取りの悪さを遺憾なく発揮する。この鍵箱も開けてみると、「なんで、こんなに鍵があるんだ?ていうか、これどこの鍵だよ?」みたいなのが、鍵箱いっぱいに鈴なりになって掛かっている。一応プレートは着いているから「倉庫」と書かれた鍵を探すが、この「倉庫」って書いてあるのが、いくつかある。どれも形が違う。なんでも、使うこともない鍵まで、ほったらかしになっているのだそうだ。とにかくすべてのことがメンドクサイ。
「多分、これだと思いますよ。この一番使いやすいところに掛かっている」と、ゆかりの機転で、そこはあっさりとクリア。けど、本当にいい加減にしてほしい。と二人とも力仕事に取り掛かるまえから、もううんざりしていた。
やっとそれからである。二人して、椅子と長机をせっせと階段を使って2階の会議室にまで持ってきて、指示のとおり、机を並べたあと、倉庫から、白いテーブルクロスを持ってきて、それを掛けて、椅子を並べて、それから、倉庫の中に林立しているスチールラックの中から将棋版とコマの入っているダンボールを探し当てて、それを机の上に並べて……。相当な仕事量だった。
そんなことしているうちに、あやの実家、辻倉電気店に車を取りに行ったのが4時ちょっと前だったのが、気がつけばもう8時を回っていた。
「やっと終わった」
「これ、結構キツイ仕事ですよね?」
あらかた作業が終わった二人が、やっと一息つけるようになったところをまるでどこかから見ていたような絶妙なタイミングで、仏壇屋のじいさんが姿を現した。
っていうか、じいさん、あんたのところの店、もっと早くに閉まっちゃってるはずなのに、今の今までなにしてた?
「いやあ、助かったよ。これで明後日の将棋大会も無事に開けるね。君たちのおかげだよ」
じいさん、一人ご機嫌だったが、草壁とゆかりの二人が言葉をなくして返事をしないことなんかあまり気がつなかい様子。
「今日はごくろうさん、これ、お詫びがわりと言っちゃなんだけど、二人で食べて」
組合長は、そこそこ高そうな弁当二つと缶ビールを会議室のテーブルの片隅に置くと「じゃあ、あとよろしく。鍵は明日、靴屋さんにでも返却しといてくれたらいいから」と言い残して、さっさと帰っていった。
二人の奮闘のおかげで将棋大会の設営も終わった会議室。今はガランとした室内だが、将棋大会当日は40名ほどの小学生が参加して大会が行われるそうである。
その人数に合わせて、机と椅子を並べると、だだっ広いと思った室内も案外と狭く感じるものだった。
机の配置は、正面の壁際に主催者及び関係者席が長細く並んだところから、数列の対局者席が、会議室の奥まで真っ直ぐ伸びている状態。ちょうど「冊」って言う字の真ん中の横棒がなくなったみたいな形の配置である。
もうすっかりお腹もペコペコな二人は、関係者席の真ん中に並んで座って、差し入れの弁当を広げた。
「それにしても、組合長、何考えてビールなんか差し入れしたんでしょうか?」
「ですよね。軽トラ、先にあやちゃんちに返しといたからいいけど、車の運転する仕事押し付けて、ビールって……多分、何にも考えてないでしょうね……」
ステッカーシールの剥がし跡がくっきりと残る大きな窓ガラスの向こうは、アーケードの明かりがまぶしい。しかしこんな時間である、二人のいるところからは正面の建物の2階ぐらいしか見えないが、アーケードの人通りは少ないのだろう。
じっとしていると物音一つしない室内には、二人の声だけがよく響いた。
弁当のほうは、さすがに気を使っている様子の、ちょっと豪華な中身。
ハンバーグとか唐揚げみたいなのはなくて、代わりにエビの天ぷらがついていたり、牛肉のしぐれ煮だったり、煮物の野菜にもちょっと凝った飾り切りがほどこしてあったり。
お味もそこそこ。
焼き魚の鯛の身をほぐして、ひょいと口に放り込みながら、草壁が言葉を続けた。
「けど、お酒持ってくるって、ひょっとしたら、ゆかりさんへのサービスだったりして」
レンコンの酢の物をサクッと噛みながらゆかりが草壁を見る。
「なんで、私へ、なんですか?」
「すっかりゆかりさんがノンベエというが商店街の人たちにも定着してたりして」
「”も”ってなんですか!それに、なんでそんな評判立てられなきゃいけないんです?」
「だって、スナックでバイトしてたり、この前だってジローさんとこのショットバーでしこたま飲んで、フラフラしながら商店街歩いていたりして……」
「ショットバーでそんなに飲むわけないでしょ!……」
思わずそう口走ったあと、ゆかりはハッとした顔でしばらく固まった。
その言葉に草壁も反応した。
その瞬間、カチッとぶつかった視線をゆかりのほうがサッと交わして、あわてて取り繕った。
「けど……わたし、あの晩、そんなに飲んでました?良く覚えてないんですよねえ……おかしいなあ。草壁さんがそう言うんなら、あのときはそうだったかもしれませんけど」
右手で白く光る夜の商店街アーケード屋根を見るようにしながら、草壁とは視線を合わせずにゆかりは言った。
「どの辺から記憶がないんですか?」
「……お店を出たか出ないか、そのあたりかな?」
草壁の凝視を左頬あたりに感じながら、ゆかりはずっと視線を合わせようとはせずに、淡々と答える。
二人の言葉が途切れるたびに、シーンとなる室内。
「夜道で酔って僕にわざとぶつかってきたこととかは?」
「覚えてません。すみません、ご迷惑をかけて」
「あの晩、エレベーターが壊れていたことは?」
「そうなんですか?さっぱり」
ずっと、視線を合わさずに、モクモクとお弁当を食べながらゆかりがそっけなく答える。
「僕がジローさんに手を握り締められたとき、それを振り払ったことは?」
「私、そんなことしました?そんな乱暴なことしたんだ……これからは気をつけなきゃ」
「言っときますけど、これ、お店出るまえのことですよ。そこまでは記憶あるんじゃなかったでしたっけ?」
じっとこっちを見たまままるで尋問でもするみたいに詰め寄ってくる草壁に、ゆかりもついには反発した。
「別に覚えていようがいまいがどうでもいいでしょ!……」
少しキツメに張り上げたゆかりの言葉が、会議室に響いた。言った本人が少し驚いたほどに。
草壁もその言葉の調子に一瞬、ギョッとなったが、相変わらず追求の手を緩めない。彼のほうは、尋問とか詰問とかそんなつもりはなかった。本当にあの夜のことを覚えていないのかどうか、きちんと確かめたくてしつこく食い下がっているだけである。
「心配なんですよ……」
だから、そんな一言を口に出したときも、そこに罠を張ったわけではなかったが……
「何がです?」
少し予想外の草壁の言葉に、ゆかりもようやく彼のほうに視線を向けて聞いた。
「酔った勢いで誰にでも『抱いて』みたいなことを言っちゃう人なのかなって……」
両手を机に叩きつけながら乱暴な音を立てて、ゆかりが立ち上がった。
「そんなこと言ってないでしょっ!?あれは、ただ、もうちょっと部屋の近くまで連れていってほしい!!!」
咄嗟に自分の大失態に気づいたゆかり
「……って、いうつもり……」
呆然と立ちすくみながら、声が徐々に小さくなっていってしまった。
驚いて隣に立ちつくしているゆかりを草壁が見上げると、そこには、洗い物の最中に皿でも割っちゃったみたいな顔のまま固まるゆかりの姿。
やっぱり、覚えていたんだ。
クラリネット、どっかに隠そうとしてたら見つかっちゃった!
どうしようかなぁ……
Au pas,camarade,Au pas,camarade,
Au pas,au pas,au pas Au pas,au pas. . . ,
草壁が見ていると、急にうつろな顔になったゆかり、立ち上がった時の勢いもどこへやら、再び席に座りなおすと、しばらく宙を見つめるようにしながら、何か考えてるのか瞑想でもしているのかそんな様子。
「ワ、ワ、ワ……」
「わ?」
なにか言いたそうにしばらく、どもるように口を濁したかと思うと
「忘れていたと思っていた……記憶が、今、急によみがえりました」
「そうですか」
ゆかりの不思議な様子に、草壁もじっと彼女を見守るようにしながら、その言葉に耳を傾けた。
「あれは、お酒の勢いで言ったただのジョークなんです」
「はあ……」
そういえば、この人、前に公園で踊っているところを見つかったときも似たような感じだったなあ。
目だけがキョロキョロ泳いでいる。
言っていることが口から出任せのウソ、とも言えない、たわごと。
「そちらもそのつもりで、どうかこの場は丸く収めていただければ、私としてもとてもありがたく……」
なんだ?その言葉は?ありがたいってどういう意味だ?
そのうち、泣きべそかくようになりながら必死にいい訳をしようと焦りだした。
「だ、だから……それは……ほんとうに……」
しかし、真っ白の頭では、碌ないい訳も見つからずにただオロオロとしているだけである。
ゆかりの様子を初めはポカンと見ていた草壁だったが、やがて彼の顔は笑顔に変っていった。
年上のくせに、子供じゃないかこの人。何、必死になっているんだろう。
(このひと……かわいい!)
「お酒の勢いで言って、それでお酒のせいで忘れてて……だから、全部お酒が悪いので……」
相変わらず、混線したラジオみたいになって支離滅裂なことを口走っていると、草壁の大きな声が彼女の言葉を遮った。
「あのっ!」
驚いて見つめた先で、草壁が笑っていた。
「初めて会ったときから、それほど気にはされてないと思ってたし、一度、付き合って欲しいって言ったときも、断られて、半分はあきらめてたけど」
草壁の元気な声が、選手宣誓でもしているみたいに室内に響きわたった。
「でも、あなたは、とても可愛い人で」
ありきたりな言葉がゆかりの胸にジンと響いた。
「――だから、好きです!」
選手代表、草壁圭介っ!
2度目の告白にはまったく気後れを感じることはなかった。言うべきことをきちんと言い切ったつもりで、それだけで少し気分が晴れた。
これほど、簡単に誰かに告白なんてできるものなんだ、と思って、ちょっと爽快な気分の草壁だったが、彼の立派な選手宣誓は、お隣の関係者席中央に座る、主賓の心を動かすことはできなかった。
草壁に見つめられながらゆかりは、食べかけのお弁当の蓋を静かに閉じると、今度はゆっくりと立ち上がった。
わざと草壁から距離をとるようにして、窓際まで歩いてゆくと、彼のほうに向かって静かにこう言った。
「ごめんなさい。わたし、その気持ちには応えられえません」
彼女のいる壁には、ガラス一枚ごとに一文字ずつ大きく残る「英会話教室」という五文字のステッカーシールの貼り跡のあるサッシ窓が連なっていた。
そしてその次のサッシガラスには「生徒募集中」の貼り跡もくっきり残っている。
彼女の背中は「生徒」の二文字だけ隠しながら、窓の外の商店街アーケードの明かりを受けて光っていた。
「前にも話したとおり、私、そのうち婿養子をとらなきゃいけない身」
草壁をジッと見つめるゆかり。彼の顔にもいつのまにか笑みは消えていた。
黙ってゆかりの言葉を待った。
「その人はまず、うちの両親に認めてもらわないとダメで……次期社長なんですもの……」
目の前の男にその資格はない。とでも言いたげな言葉に気がついて、少し言葉に詰まった。
ただ、資格、という意味では無条件に承諾が受けられるとも思えなかった。
なにより、その選択を彼女自身が自らに認めていなかった。
「好きとか嫌いとか、恋愛と結婚は別とか、こんな中で、私自身は気楽に考えられません。だって相手の人にも失礼じゃないですか?まるで遊びですよ、って最初っから言ってるようなものだし。それに、いつか一緒になる人とも、そんなことでうまくやってゆけるか……私、それぐらいの覚悟で婿養子を取る話を承知したんです。」
草壁から逃げようとすれば脆いところもあったゆかりだが、正面切ってそこまで言い切ってしまうと今度は簡単に攻守が逆転した。
草壁は、静かに彼女から視線を下ろした。
しばらくの沈黙のあと、優しい口調でまるで目の前の彼をなだめるようにしてゆかりはこう言った。
「私だけ、自分勝手にしあわせにはなれないの」
今度は、彼女が微笑む番だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゆかりは、そのあと彼に向かって静かに言った。
「一つ、お願いがあります」
「なんですか?」
「あの夜のことは忘れてください」
そう言って、ちょっとはにかんだ笑いを浮かべた。軽い失敗なんです、恥ずかしいからもうそのことに触れないで、とでも言いたげに。
「忘れなきゃダメですか?」
感情の波がサッと引いてゆくのを感じながら草壁が聞き返した。ゆかりの笑みはどちらかというと彼の心を冷やした。
ジッと窓際に立ちすくんだままのゆかりが、今度は厳しい顔つきに変った。それは今まで何度か見た能面のようなのっぺりとした冷ややかな表情だった。
「そうしないと、あなたと友達ですらいられなくなります」
こうして、二度目の告白でも見事に撃沈となった草壁だった。
その後、ゆかりは再び草壁の隣に着くと、二人は食べさしになっていた弁当の残りを言葉少なく、モクモクと食べた。
そういえば、前も撃沈したあと二人でしばらく歩いていたが、そのときにはなんとも言えない気まずさというか居心地の悪さを感じていた草壁だったが、今度は不思議とそんなふうに感じなかった。
多分、彼女の気持ちについて、少なくとも以前とは違う手ごたえを感じることができたからなのだろう。
そして、隣の彼女も、自分と同じようにさっきのことをあんまり気に病んでくれてなけれさえいれば、とりあえずそれで嬉しいと思った。
時々、彼女といると、ちょっと不思議な気持ちがしてくることがある。
ちょうど今感じているみたいな。
恋、というのともちょっと違うような、ほのあたたかい気持ち。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、二人の関係はスタートラインから一歩も進むこともなく日々が過ぎた。
あの2度目の告白の失敗によって草壁には分かったことがあった。
自分たちは今スタートラインにいる、と言えば言えるのだが、彼女はそこから一歩も進むつもりがない。
ということだ。
彼女はそれを「ただの友達」の一言で片付けようとする。
問題は、そこから一歩でもいいから、前に踏み出させるか?
はっきり言って、どうしていいかなんてさっぱり分からない。
だって、こっちの気持ちはしっかり理解していて、そして、向こうも悪くは思っていないが、それでこっちをシャットアウトするのだ。どうしろって言うのか?
仕方ないから、必要なら、3度でも4度でもアタックしてみようか?ぐらいに開き直るしかなかった。
で、3度目のアタックなのだが、その機会は案外早く訪れた。
その日、ゆかりのピアノ教室「ひまわりが丘ピアノ教室」でのレッスンに訪れた生徒は小学2年生の女の子。ゆかりの受け持ちの生徒の中では比較的年長さんなその女の子が、何が嬉しいのかニコニコしながら教室のドアをくぐった。
いつものようにお互い挨拶を交わしたあと、その女の子が楽しそうに「今日、公園にお姉ちゃんたちといっしょに遊びに行って来た」なんて話をいきなりしだすので、ゆかりも「へえ、楽しかった?」と聞くと、楽しげ、というよりも自慢げな顔で「うん、すっごい楽しかった」と胸を張る。
「そこで、お姉ちゃん達とこれ作ったの!」
と言いながら持参のカバンの中から取り出したものは、というと。
「あっ!綺麗、花の髪飾り!!」
それは天使の輪っかみたいなリングの中に、薄紫のナデシコや黄色いツルキンバイ、細い花弁を丸く広げた白いヒメジョオシなどの小さな花たちをぐるっとちりばめて、色彩のグラデーションが鮮やかな大粒ガーベラのあしらいをアクセントとして、シロツメクサの弦で編みこんだ、花のティアラだった。
色とりどりの花を上手に編みこみながらこの花のティアラを今日はずっと、姉達と一緒に一生懸命作ったそうなのである。
「きれいね!」
「うん」
生徒の差し出したその花の王冠をゆかりが褒めると女の子は嬉しそうに笑った。そして言った。
「これ、先生にあげる!」
「えっ、いいの?」
「うん、自分のは別に作ったし、これは先生にあげようと思って作ったものだから!」
その日、学校帰りの草壁圭介が、ゆかりの教室の前を通りがかったときに、レッスンを終えたゆかりが一人ピアノを弾いている姿があったのは、よくあることだった。
けど、そんな彼女の頭の上に、あの可憐な花冠が乗っているのは特別なことだった。
シンプルな白いブラウスの下で、ペダルを踏むたびに白樺の樹皮のような生成りのロングスカートを軽く揺らしながら、あのティアラを頭に頂いて陶然と演奏する姿を見て、ガラス越しに見とれる草壁。
彼女はすぐに、窓の外で嬉しそうな顔してニコニコしながら突っ立っている彼の存在に気づいた。
なんで彼がそんなに笑いながらこっちを見て突っ立っているのか、よくわからなかったのでとりあえず外に出てみることにした。
スッと、立ち上がって、足取りも早くオモテに出てきたが、その間、ゆかりの姿勢に乱れがなかったせいか、ティアラは彼女の頭の上におとなしく乗っかっていた。
「どうかしました?」
「すごく、かわいいです!!!とても似合ってます!!!」
先日の選手宣誓みたいなあの告白のときよりも、もうちょっと大きな声だった。
間髪入れずに草壁がそう言い放つと、ゆかりのほうは最初、キョトンとしたあと、本気で照れた。
「こんな道端で、まわり人が通ってるのに、そんな大きな声で、そんなこと……」
ニヤけるような、驚くような様子で、唇をヘナヘナさせていると、心の乱れが姿勢に影響を及ぼしたのか、頭上の天使の輪が、ポトッと落ちた。
ああ!大変!落としちゃった。あ!花が取れちゃった!あーあ、せっかくもらったのにぃ……
目の前でそういって、ベソを掻きそうな顔をしているゆかり。
やっぱり、この人はかわいい……。
「あの……」
ずっと笑顔の草壁が言葉をかけると、ティアラについたホコリを軽く手で払いながらゆかりが彼のほうへ顔を向けた。落としちゃった宝物が心配でしょうがない顔をしている。
「はい?」
「付き合ってください!」
3度目のアタック。
ティアラ片手のお嬢様、急に真顔に戻ると一言。
「却下!」
彼女はかわいい。しかし、彼女は手ごわい。
第14話 おわり




