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第9話 ウイスキーがお好きですか?

 あれから一週間ほど経った。

 「あれ」とは、このまえのゆかりが自らの自殺未遂についたあの告白のことである。


 それから、草壁圭介と長瀬ゆかりの二人の関係が変わったかと言うと、特に変化はなかった。

 そもそもゆっくり話す機会がなかった。お互い友達というスタンスのまま、すれ違いの多い日常である。


 とは言え、草壁としては考えるのである。あんな話をただの友達に簡単に言えないんじゃないだろうか?と。

 酔った勢い、と言われればそれもそうかもしれないが。



 そんなことを大学の帰りに考えていると、いつものごとく、ひまわりが丘の商店街に差し掛かった。

 改めて見回すと、相変わらず閑散としたものだなあ、と思う。これが、場末にある小さな路地裏だったらまだしも、アーケードだけは中途半端に立派で、道幅も結構あるものだから、余計に人通りの少なさが目立つ。

 で、閉まっている商店も多い。

 生き残っている、と言った表現がぴったり来るようなお店は、あの仏壇屋みたいな、郊外の大型ショッピングセンターとか大手チェーンなんかと競合することのあんまりないお店ばっかりだ。

 他には、お年寄り専門、なんてことは一言も書いていないが、どうみても若者は着ない、って服ばっかり扱っているような服屋とか、小さな飲み屋とか、地元密着型の地味な不動産屋とか……。


 そんな商店街をぼんやり歩きながら、一度右手に折れ曲がってちょっと行くと、見えてくるのがゆかりのピアノ教室「ひまわりが丘音楽教室」。営業時間中は出ているゆかり手書きの小さな生徒募集告知の立て看板が出ていないということは、今は閉まっている様子。


 では、今日はその向かいの喫茶アネモネにでも、顔を出してみようか?


 ちょっと前までは、アネモネに真っ先に飛び込んで、その頃はロクに口も聞けなかった辻倉あやの顔でも見てこうなんて思ってたのが、気がつけば、気持ちが変わっていた。


 気が変わったのなら、狙いをゆかり1本に絞れば良さそうだが、別に諦めるとかそんなわけでもなかった。考えてみたら、どちらともただのお友達にすぎないのだし。

 かわいい女子とちょっと親しくなったのも、悪い気はしなかった。

 それに「馴染みの店」なんてものができたのは、自分の人生でこれが初めてで、それも嬉しかった。



 で、草壁がアネモネのドアを、カランコロン鳴るアナクロなドアベルを鳴らして入った。


「いらっしゃい!」

「いらっしゃいませ」


 客を迎える声が二つ。一つはマスター。もう一つは、辻倉あや……ではなく。


「えっ!!」

 白地に薄いブルーとピンクの花柄模様、胸元に赤い造花の飾りがある、ここでは初めてお目にかかるエプロンを着けて、カウンターの中でマスターと並んで立っていたのは……。


「ゆかりさん……なんで、ここで働いてるんですか?」




 いきさつは、大体こんなことだった――。


 その日、草壁がアネモネに顔を出す少し前に、彼女もここの客としてカウンターに座っていた。

 つまり、つい一時間ぐらい前までは、ゆかりはまだここのバイトではなかった。


 今日は教室はないの?ええ。じゃあ、ゆっくりできるの?ええ、まあ……などとカウンターのマスターと話していた。なぜ、この後の予定をこの人は気にするんだろう?とちょっと訝しがりながらも、ゆかりは先ほど本屋で買ってきた雑誌「バドミントンの友」をホットコーヒー片手に熱心に読んでいた。


「ゆかりちゃんは朝とかお昼ぐらいは空いていることが多いみたいだね?」

「レッスンは幼稚園や小学校が終わってからが多いので……」

「他にどこかで働いてたりする?」

「いいえ……ないです」


 マスターにそんなことを聞かれて、ゆかりが思わずちょっと噴き出した。

 そんなにしなくても、生活は大丈夫なんで……。そう思ったのだが、口には出さなかった。


「そうか……それはいいね、実にいい……」

 なぜかマスターが一人嬉しそうな顔をしながら、こう続けた。

「ちょっと協力してほしいことがあるんだよ」


 なんだろうと思ってると、店の奥からまだラッピングされたままの新しいエプロンを持ってきて、それをゆかりの目の前で広げ

「新しいエプロンを買ってみたんだけどさ、これ女性用だから、ゆかりちゃんの意見も聞かせてほしいんだ」

 そのエプロンを押し付けるようにゆかりに手渡した。


 そのエプロンっていうのが、先ほど草壁が目にしたあのエプロンなのだが。


「可愛いんじゃないですか?」

 そんなの、あやちゃんに聞いたらいいのに?あの子用なんでしょ?だって、ここに他のバイトなんかいないし……ひょっとしたら、もう一人誰か雇い入れるつもりなのかな?

 そのとき、ゆかりはそんなぐらいにしか思っていなかった。


「着けてみてよ」

「えっ?私が?」


 マスターにそう言われて驚いた。が、手渡されたので、とりあえず着けてみた。どこかの誰かと行動パターンが似ている。


「いいねえ、すごい似合ってるよ……家に帰ってこんな子に”おかえりなさい、ア・ナ・タ!”なんて出迎えられたら、旦那さんたまらないだろうねえ」


 おだてられてると分かっていても、褒め言葉はうれしいものだ。

 それよりも、マスターの”おかえりなさい、ア・ナ・タ!”と言いながら、目をキラキラさせて体をクネクネさせる様がおもしろかった。新婚若妻シミュレートなんだろうが、普通にちょっと気持ち悪かった。


「あ、ありがとうございます、フフフフッ……」

「そうだ!ついでだから、動いてみた感想ってのも知りたいから、あそこのお客さんにこれ持ってってあげて」

 調子よくお盆とコーヒーを手渡されると、なんとなく断りずらかった。さっきつけたばっかりのエプロンをものの30秒ほどで脱いでしまうのもなんだから、仕方ないか……。と思って、とりあえずゆかりは人生初のウエイトレス体験をした。


 で、急に出来上がったウエイトレスの存在にびっくりしてゆかりを凝視する客に「ご注文の品以上でよろしいでしょうか?ではごゆっくりどうぞ」って手馴れた調子で最初の接客もこなした。

 ”うわっ、なんか、一人ウエイトレスできちゃったよ!しかもこっちも美人!”


 戻ってくるとカウンターの中に招き入れられた。

「じゃあ、ちょっと、こっち入ってくれる?ここで動いてみた感想も知りたいから」

 招き入れられて、割とすんなりカウンターの中にはいった。実はちょっとカウンターに立つなんてことに興味があったからでもある。

「あのぉ……新しいバイト雇うつもりなんですか?」

 皿を洗ってみた感想はどうか?と言われたゆかりが、グラスをゴシゴシやりながらマスターに聞くと。

「うん、一人雇い入れようかな?って」


 じゃあ、次は苺とリンゴをカットした感想なんかも聞かせて……とか言われながら彼女はまだそのとき、マスターの言う「一人」とは一体誰のことなんだろう?もう決まってるのかな?いい子だったらいいなあ、あやちゃんみたいな。ぐらいにしか思っていなかった。

 おっ、ペティナイフ使うのも上手だね?ひょっとして飲食店の経験アリ?素人には見えないなあ……とかおだててくるマスターに乗せられて、もうその時点では半分、バイトみたいになっていた。


 そうこうしているうちに、客が一人やってきた。

「今度は、あちらの方の注文とってきて……」

「なんで、わたしが?!!」


「注文をとってみた感想も必要……」

「それ、エプロンとはあんまり関係ないと思いますけど!!」

 が、マスターが今ちょっと手が離せないとかなんとか言いながら、ゴネてグズりだしたので、仕方なしにゆかりがお盆片手にその客のところに行って


「いらっしゃいませ。ご注文……」

 とやっているところで、奥のマスターから声がかかった。

「ゆかりちゃん、お水!忘れてるっ!」


「すみません、うっかりしてて……」

 戻って、マスターから水の入ったグラスを受け取ると、マスターが笑顔でこう言った。


「いいんだよ!初日なんだし、徐々に慣れてったら……」


 あっ!新しいバイトって、私のことだったんだ……。そのとき、やっとゆかりは理解した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな事情をカウンターで一通り聞いた草壁が驚いた。


「で、引き受けたんですか?」

「まあ……」


 ゆかりがこっくり頷く。


「気楽にやってくれたらいいんだ。暇なときに気が向いたら、でいいから。あやちゃんもそうでさ、シフトなんてない自由出勤制なんだし」

 話を聞いて草壁が再び驚いた。いい加減だな……。


「うちなんか正直言って僕一人で切り盛りはできるから」

「じゃあ、なんで二人も雇うんですか?そんな余裕ないでしょ?」

 草壁がそう思うのも無理もないが、マスターの言葉を聞いてさらに驚いた。

「大きなお世話だよ!……まっ、あやちゃんもゆかりちゃんもはっきり言ってしまえば『客寄せパンダ』!」


「そんなんで、客来ますか?」

「君がそんなこと言うのか?」


 マスターはああは言うが、果たしてどれぐらい効果があるのかは謎だ。

 草壁自身の体たらくは置いとくとして、彼の知る限り、この店に客がいっぱい入ってたという記憶がない。

 知らないところで、それなりに流行っているのだろうか?


「あやちゃんが学校行ってる平日の午前からお昼にかけて、特にランチタイムなんかが、うちの弱点でさ……ゆかりちゃんが来てくれたら、勝負になるんだよ」


 マスターのそんな言葉にまたもや草壁が驚いた。

 勝負になる、って……味で勝負とかそういう発想はないんだ……。




 その後草壁が、「じゃあそろそろ行きます」と伝票片手に立ち上がると、ゆかりも「初日は、もうこれぐらいでいいでしょ?私も帰ります」とエプロンを脱ぎ、薄い色したボーダーシャツの上に白いジャケットを羽織った。

 肩にバックをかけながら、「伝票あずかります」って草壁の伝票を受け取り、私服のままレジ係をこなして、「じゃあ、これで」そうして草壁とともに、ゆかりは店を出た。


「ゆ、ゆかりちゃん……そりゃ、自由出勤って言ったけど、フリーダムすぎるだろ……」

 彼女の行動があまりに早かったので、店に取り残されたマスターが呆然としていた。



 驚いた、と言えば、隣を歩く草壁も同様だった。

 アレ以来の顔合わせ。

 しばらく二人は言葉もなく並んで歩いていると、前置きなしでいきなりゆかりが切り出した。


「別に、私、忘れてくれって言うつもりはありません」

 もちろんあの夜の告白のことだ。ちょうど商店街のアーケードを抜けようとしている時だった。

「全部、事実だし。けど、なんというか……あのことは、一応昔のことだから、あんまりそっちに意識してほしくないな……って」

 なにか探り探り喋っているようなゆかりの言葉。仕方ない、話題が話題だし、それに昔のことと口では言ってるが、まだ彼女にとっては生々しい記憶だった。


 強引に喫茶店のバイトのシフトをぶっちぎって、こうやって二人きりになりたがったのは、そんな言い訳めいた言葉を伝えたかったのか?と草壁が思って聞いていると……。


「せっかくこうやって、友達になったのに、私の話でそれが壊れてしまうのはなんだか……嫌だなあ……とか思って」


 聞いている草壁が思わず「?」と頭の中に大きなクエスチョンマークが出るようなことを言い出すゆかり。


 な、何を言ってるんだこの人は?この人、時々謎だけど、この話もよくわからない話だった。

 聞いてるとどうも「友達」というキーワードを強調したいようだ。

 つまり、あんなうち明け話をしたからと言って、別にこっちに気があるわけではないので勘違いしないで欲しい。みたいなことか?

 でも、話のトーンは微妙に甘えてるみたいな感じだし。『嫌だなあ』って、何が嫌なんだ?二人が疎遠になることか?別にそんなことはないだろう?恋人同士というならまだしも、ただの友達、というのなら、その友達の過去の失恋話が、二人の関係にどんな影響を与えると言うのだ?

 そういうことのすべてが、謎。というか、この人の話がややこしいのだ。



 そのとき、ゆかりの携帯が鳴った。

 あっ、ごめんなさい、ちょっと……と言いながら、話の途中で携帯に出るゆかり。

 ”あっ、公ちゃん”

 うわっ!相手は藤阪か……。耳に入ってきたいやな名前に、草壁が微かに眉をひそめた。

 ”……うん……あ、ごめんなさい、私、その日ちょっと用事があって……本当にごめんなさい。……えっ、その日も無理。……それも遅くからピアノの臨時出張レッスンが入ってて無理。あっ、今、駅なの、電車が来たからこれで……”


 また、この人はこんなウソを平気な顔して言う!

 いつぞやのことでゆかりのそういう一面を知っている草壁が、隣で聞き耳を立てながら言葉を失っていた。


 しかし、どうみても、このゆかりの藤阪への扱いを見ると……。

 ゆかりの言うとおり、向こうの気持ちはどうであれ彼女自身は藤阪のことを友達としか考えていない様子。


 そのとき、草壁は思った。

 ”これはきちんとこっちの気持ちを伝えなきゃ”、と。


 涼しい顔で、バックに携帯をもどすゆかりの様子を見ながら、草壁が何気ない調子で言葉を発した。

 もちろん心臓バクバクなのだが……。



「でも、あの晩ぼくは、楽しかったです。なんていうか、ふたりでただブラブラ夜の町を歩いただけだったけど……楽しいなんて言ったら、怒られるかもしれないけど」

「いえ、そんなことないです」

「あと、その前にファミレスで晩飯食べたときとか……」

「そうですか……」

 チラッとゆかりを見ると、無表情。

 あっ、感想はそれで終わり?と思う草壁。わたしも楽しかったです。とかお世辞でも言ってくれないんだなあ、ちょっと心が挫けそうになっていたりする。


「それで、もし、よかったら、また……あんな感じでご飯食べたり……」

 言いながら、隣の気配が草壁にはなんとなく伝わってくる。いや、伝わってこない。無反応で、無表情なのだ。なんだ、この能面みたいなのは……。


「それとか、時々二人でどっか出かけたり……またラパンのハンドル握れたらなあ……」

 我ながらトロくさいことを話していると思ってしまう。

 そして、隣の彼女はますます無反応。

 だんだん居たたまれなくなりつつある草壁。うわあ、いやな間の空き方だ……。

 そのうち、ゆかりの無反応っぷりも手伝って、自分の煮え切らない言葉に腹が立ってきた。


 よせっ!やめとけ!つまらない迂回路を選ぶな!それじゃあ、まるでちょっと仲の良い異性の友達で良いって言ってるみたいじゃないか!藤阪と同じでいいって言うのか?そうじゃない!ストレートで行け!


「あの!」


 夕日に赤く染まる、静かな住宅街の真ん中に立ち止まった草壁。

 ゆかりの足もそこでピタッと止まった。

 目の前で朱け色に輝く彼女の顔は、わずかに微笑んでいるように見えた。

 草壁はその笑顔のゆかりに、こう告げた。


「好きです。だから付き……」

 ゆかりが微笑んでいたのは見間違いだったのかもしれない。気がつくと彼女の表情は再び能面みたいになっていた。そういえば、こんな顔、入院しているころに見たな。

「ダメです。私、草壁さんのこと、友達以上には思えませんから」

 ゆかりは草壁の言葉を最後までいわせず、冷たい言葉でぶった切った。

 呆然となる草壁。

 彼女はこっちへのいたわりとかゼロか?

 こっちは覚悟決めて、生涯初の告白の言おうとしてるのに、そ、それはないんじゃない?

 性格悪すぎじゃないの?



 だが、最悪なのはそのあとだ。

 これが学校の校舎裏なんかだったら、どっちかが走ってどっか行っちゃえばそれでおしまいなんだが、二人とも、同じマンションに住むもの同志。

 帰る道がいっしょ。

 草壁のほうは、もう走って帰るみたいな力が抜けてしまっていた。

 むしろ、ここで逃げるほうがもっとミジメだと思った。

 ゆかりのほうは、それまでとかわらない淡々とした様子で歩いている。


 それどころか、つい今しがた袖にした男に笑顔で話しかけてきた

「大体、それ言う相手が違っているでしょ?あやちゃんにちゃんと告白したの?」

 傷口に塩をすりつけてくる。怒ってるような表情になって草壁は首を振った。

「せっかく応援してあげようと思ってるのに、そんなにグズグズしてたらダメじゃない。」


 夕暮れの道に、長い影を引きずりながら歩く草壁には、もう言葉はなかった。

 応援なんて、いつしてくれました?と突っ込む気にもなれなかった。


 このまえの唐揚げおいしかったです、また作ってくださいね、って言いながらいつの間にか完全に普通の世間話を笑顔で続けるゆかりを見ていると、相手を振ったという意識すらもっていないのかもしれない、と草壁は考えるのだった。最初から完全に眼中にはなかった、ということか……。



 やっぱ、狙い、あやさんに変えようかな?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんなことがあって草壁の日々の生活が変った……わけではなかった。


 ゆかりが時折、喫茶アネモネのウエイトレスのバイトをしているせいもあってか、彼はそれまで以上に足しげくこの喫茶店に顔を出すようになった。



 友達のままでいようって言うのなら、居てやろうじゃないか。

 振られたショックがへんなふうに彼を開き直らせた。もういいや、友達で!こんな綺麗な人と仲良くなったんだし。


 そのうち、なんかの弾みでお付き合いすることもあるかもしれないもんな。


 基本的にかなりプラス思考な男だった。草壁というヤツは。




「あやちゃん、草壁さんの唐揚げ食べたことないんだよね」

「その話聞くと、一度食べてみたい」

「草壁クン、見かけに寄らず器用なんだね。一度、ここで作ってみる?」

「そんなこと言って、僕までバイトに引きずり込むつもりじゃないんでしょうね?」

「君みたいなの雇っても、バイト代の無駄」



 二人しかいないバイトがシフト無視の完全自由出勤制……その結果、カウンターが5席にテーブル席が4つという規模の、小さな個人経営の喫茶店にウエイトレスが二人同時出勤というような日がちょくちょくあった。

 もともと、店主一人で切り盛り可能であるにも関わらずである。

 で、店主はそれを許した。

 実にいい加減な喫茶店だった。


 そんなわけで、今日みたいに、客はカウンターの草壁一人だというのに、あやとゆかりがエプロン着けて片隅に二人並んで突っ立って、店主交えて雑談に花が咲く。

 普通だったら、店じまい直前の末期症状だと思えるが、それでやっていけている不思議。



 そんな中、一人の客が例のカランコロンのドアベル鳴らして入ってきた。


「あっ、ママ!いらっしゃい!」

 マスターが軽い調子でそう迎え入れたところを見ると、どうもここの馴染み客のようだった。草壁には初めてお目にかかる人だったが。


 その、ママなる人、年恰好は30代半ばぐらいと言ったところだろうか?大体この喫茶アネモネのマスターと似たような年だと思えた。


 薄手のカットソーの上に、かなりゆったりとしたヒョウ柄みたいな白いストールを巻いた、ほっそりとしたなかなかの小奇麗な女の人だった。指先にちょっと派手な花のネイルアートを覗かせているのを見ると、子持ちのママさんではなく、水商売のママさんのような印象。

 目元の化粧は少しキツめに見えるが、近づくだけで化粧品の匂いがプンプンするほど派手ではなし。


「久しぶり……あらっ!」

 そのママなる女性が、店の中に入ってくると同時に、草壁の近くの壁にもたれるようにして並んでいるあやとゆかりを見て、急に声の調子を上げた。


 隣であやが、「アッ!」と、ゆかりにだけ分かるぐらいの小さな声をあげた。

「どうしたの?あやちゃん」

 囁くように聞くゆかりに、あやが耳打ちした。

「アノ人、商店街にあるスナックのママさん。私をみると、お店でバイトしないかって、しつこくて」



 あやとゆかりの様子をニヤニヤと見ながらママがカウンターにまでやってくると、草壁の席から一つ空けた椅子に着座した。

「ママ、お久しぶり、ここのところ顔を見せなかったね」

「不景気でお茶飲む余裕もないのよ……それより……」

 傍らに並んで突っ立っているあやとゆかりのほうをチラッと見ながら

「この店、どうなってんの?あんなかわいい子二人もバイトに雇って……どうしたの、あやちゃんの隣の子?」

「ん?うちの店にはそういう魅力があるんだろうねぇ……まっ、僕の人徳というか、さ」

 あの騙し討ちのどこが人徳よ!ゆかりは密かに思うのだった。


 席に着くなり目の前のマスターの姿なんかどうでもいいみたいに、ゆかりに向かって話しかけるママ

「あなた、学生さん?」

「いいえ、ピアノの先生をしています」

 その言葉を聞くと、パンッって手を打って大きな声で

「ああっ!!あなたのこと!ここのピアノの先生が、えらい美人だってうち客が噂してたのは……」


 左にいるママさんと右ナナメ後ろぐらいのところに立っているゆかりのやりとりに首をアッチこっちに振って聞いていた草壁。

(そうなのか……噂になってたのか……)

 と、ちょっと驚いた。


 そしてその人、マスターに注文を聞かれても、なにやら上の空のような様子なので、注文に悩んでいるのか?と思っていたが、その時実は彼女は別ことを考えていた。


 自分のカバンをガサゴソやりだしたと思ったら、マスターの「ご注文決まった?」の言葉を無視して自分の名刺を片手に立ち上がり、ゆかりの元へ歩み寄った。

「わたし、この商店街のスナック「momo」のママのミミっていうんだけど……あなた、うちのお店でピアノ弾いてみない?」


 ミミの名刺を片手に、急な申し出を受けてキョトンとなるゆかり。

「え、演奏ですか……」

 ここで一気に寄り切るつもりのミミの口が動く動く、

「あんまり堅苦しく考えてもらわなくてもいいの。何しろ小さなお店だから。でもこじんまりとしたいい店なのよ。常連さんはみんな商店街の人とか近くの人ばっかりで、へんな酔っ払いなんていないから。自分で言うのもなんだけど、客筋はとてもいいの。あんまり遅い時間じゃなくて良いから、軽い気持ちでちょっと演奏してくれたらいいから……うちにも一応、グランドピアノがあるのよ。ね、お礼も弾むし……」


 どうなるんだろうか?と見ていると、ゆかりはちょっと考えながら。

「しばらく人前で演奏してないんですけど……一度、試しに、私の演奏を聞いてもらって……」

 その言葉を聞いたミミは手を振りながら

「いいの、いいの、あなたなら、来てくれるだけでいいんだから!」

 ミミにしてみたら、キタキタキタっ!である。ゆかりのピアノの腕なんかどうでもよかった。じゃあ、いつがいい?明後日なんかどう?常連さんに連絡入れて演奏楽しみに待ってるわ。って感じで、スケジュールをさっさと決めてしまった。


 店に入ってきて、ものの3分も経つか経たぬうちの出来事に、一番びっくりしていたのは、ゆかりではなくあやだった。

「す、すんなり決めちゃうんですね……」

 ゆかりは、ぽつりと呟いた

「うん……なんか、この前からこんなのばっかりで感覚が麻痺しちゃったのかな……」



 ミミにしたら、シメシメ、ってところだった。

 そしてゆかりの隣に並んで立って「あなたお酒いけるクチ?あらそうなの。日本酒党?じゃあ、お礼においしいの用意しといてあげるわ」っていいながら、彼女のホステスとしての適正をさりげなくチェック。そして途中で気が変わらないうちに、話をどんどん煮詰めて置こうという作戦。

 そうしていると、あやがこんなことを言い出した。


「そういえば、わたしゆかりさんの演奏聞いたことなかったんですよねえ……」


 釣り上げた魚をクーラーボックスに放り込みながら、何気なく垂らしておいた釣竿にも二匹目の手ごたえ!今日は大漁じゃないのっ!!


「だったらお店に遊びにいらっしゃいな。学生さんなら、お安くしとくわよ」

 グイッと引いた釣竿の先の感触は悪くはないが、無理に引張ったらリリースしてしまいそうだ。一気に引き上げるのはまだ早いか?


「あ、うちみたいなスナックにあやちゃん一人で来るのちょっと抵抗ある?じゃあ、お友達もいっしょに連れてきたらどう?」

 この流れで、あやちゃんがまたかわいい女子を連れてきたりして。うわっすごいわ、これ入れ食いじゃないの?!



 寂れた商店街にひっそりと店を開けているこの「momo」というスナックだって、他の店と事情は似ている。小さいとは言え客はそれなりに必要だ。スナックmomoの雇われママのミミの場合だってそうだった、売り上げに応じて給料が違ってくる。収入アップには、いいホステスを確保するのが一番の近道だった。

 ミミには上玉のホステスが福沢諭吉に見えている。



 この子たち二人と、あとひょっとしたらもう一人ぐらいかわいい子引きずり込んで……とか、うっとりとミミが捕らぬタヌキのなんとかみたいになっていると、あやが

「あっ、そうですか?じゃあ、いっしょに行きますか……」

 と言い出したので、ミミが「ん?」と思いながらあやの視線を辿ると――。

 草壁が元気に右手を挙げていた。




 学生には安くすると言った手前、こいつにもサービスしなきゃいけないの?嫌よ、こんないかにもカネ持ってなさそうな学生なんて……。

 「なんであんたが来るのよ……大体、あんた誰?」

 かなり露骨にミミが嫌そうな顔をした。



「よかったね、草壁くん、オメデトウ」

 と、マスターがそんなことを言い出したので、草壁がキョトンとなった。

「とうとうあやちゃんと初デートじゃないか」

「あっ、なるほど確かに……」

「デートってそんな大げさな……」

「あやちゃん、そんな顔しないでも……細かいことは気にしなくてもいいんじゃない?たまには彼に付き合ってあげたら。あやちゃんはそういう方面、妙に固いから……」

「なになに?私は急なことで知らなかったけど、あなたあやちゃんの彼だったの?」

「あっ、まあ……」

「君、なにちょっと、『まあそんなとこです』みたいな照れ笑いしてるんだよ!どうみてもまだそこまで行ってないんだろ?」

「えっそう思ってました?」

「その気持ち悪い照れ笑いしながら『まだ、何も言ってませんでしたか?僕達実は……』みたいな……その顔芸やめろって!分かるから、こっちは!!」


 そんなやりとりの間、草壁が一連の会話の輪に一切入って来ようとしないゆかりをチラッと見て思うのだった。


 どうして彼女は、あんなに詰まらなさそうな拗ねた顔をしているんだろう?

 この前の様子からしても、妬いてるとは思えないが。

 ……謎だ。と。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 小さなスナックでちょっとピアノ演奏。それだって演奏会には違いないわけで、ゆかりは当日何を弾いたらいいか選曲をあれこれ考えた。

 どう考えてもクラシックバリバリの曲目よりは、お酒の場にふさわしく軽快な音楽がいいに決まっている。

 なら、最初はジャズで行こうかな?「枯葉」!ビルエバンスっぽく、お洒落で軽めにさらっとやって。

 二曲目もジャズ。テンポのいいところで「A列車で行こう」。

 その次、どうしよう?ポップスも悪くないよね?お客さんの年齢層よくわからないけど、80'sよりは70'sかな?ビートルズでもいい?うーん。ここはカーペンターズ「Top of the world」。かわいいし、これ弾いたこともあるし。

 最後の締めは、クラシック。有名どころのショパンのノクターン2番でしっとりと幕。

 あとアンコールがあったとしても、演奏会っていうより、BGMっぽく、お客さんの会話の邪魔にならないような静かなのをサラッとやって引き上げよう。

 これぐらいなら、楽譜なしのアドリブでも大丈夫。



 そんなことを考えながら、長い髪が演奏中にあんまり乱れないように、両サイドの髪を後ろで軽く纏め上げて、ワンポイントに薄茶色した花のヘアアクセサリをポンっと留める頃には、約束の時間の8時にあと30分。

 そろそろ行こう。


 微かに肩先が隠れる短い袖丈の白いブラウスに、ふわっと裾の広い紺色のロングスカート。コーディネイトはホステスっぽくなく。あんまりカジュアルすぎず。

 だいたい普段教室に出向くときみたいな格好。

 大粒パールの連なったロングネックレスを首元にゆらゆらさせているぐらいが、ちょっと夜のお仕事を意識したポイント。



 そんなふうにしながら、商店街のスナック「momo」の場所にまでやって来た。


 ミミから場所を聞いたところで最初はピンとこなかった。

 そんなお店あったっけ?と本当に思った。

 駅側の出入り口にほど近いところにあって、隣がシャッター下りたままの空き店舗。

 もう片方の脇は狭い路地になっていて、アーケードに面した間口が狭いので、昼間に看板を引っ込めていたら、目立たなかった。


 そして、夜のアーケードに青く光る「スナックmomo」の看板に足元を照らされながら、その店のドアを潜り抜けると。いきなりの破裂音!



 PAN! PAN! PAN!!!



 ゆかりの到着を待ち構えていた常連一同のクラッカーでの出迎えだった。


「いらっしゃい、ゆかりちゃん!!」

 ミミが嬉しそうにカウンターから大きな声をかけた。

「うわっ!本当だっ!!あのピアノの先生が来るって聞いて飛んできたんだよ!」

「いいねえ、近くで見ると、やっぱり別嬪さんだなあ!」

 店内の一同からもそんなふうに歓声があがる。


 ただちょっとピアノを弾くだけに来たというのに、思いもかけない大歓迎。


「いきなりで、おどろいちゃいました。今日はよろしくお願いします」

 ゆかりは照れたように笑いながら軽く頭を下げた。


 店内は長細いL字型した7人がけのカウンター席と、コの字型にソファーが連なるボックス席が一つ。そしてグランドピアノに、カラオケの機械が置いてあるだけの小さな店だった。

 表は地味な様子だったが、中に入ってみると、店内は最近改装でもされたみたいで、明るくて綺麗だった。

 カウンターテーブルの濃い臙脂色した木目が、天井の照明にキラキラ光っていた。

 シックなナイトラウンジっていうより、近所のオジサン方が気楽に飲める、明るい雰囲気のお店だった。

 店の大きさはママ一人でも充分切り盛りできそうだ。

 けど、アネモネほど店内に座席がびっしりと配置されていないので、わりとゆったりとしていた。

 グランドピアノがなければ、ボックス席がもう一つ配置できただろうが、なぜ、そのかわりに普段弾かれることのないこんなものが置いてあるのかは謎だった。


 本日は噂の美人ピアノ教師の登場に、カウンターもボックス席も全部埋まっていた。

 momoのママのミミの手回しの良さが伺える。


 見るとカウンター席の一番端にはちゃっかりと草壁が、口の開いたクラッカー片手に、あやと並んで座っていた。なんかアネモネのカウンターにでもいるみたいに、常連然として収まっているじゃないの。

 待ってました、ゆかりさんっ!ニコニコとゆかりを振り返りながら、草壁の隣でペチペチ拍手しているあやのほうも初めてのスナック体験をすっかり楽しんでいるご様子で。

 へえ……そうですか。

 ま、私は今日は演奏に来ただけですから、そんなことはどうでもいいけど。


 ママのミミが「どう、とりあえず、一杯いっとく?」なんていいながら、グラスを差し上げているほうへ、軽く首を振って真っ直ぐにピアノの前に座り、カバーをあける。

 足元にバックを置きながら、片手でバッハや美空ひばりとかマドンナなんかの簡単な旋律をポオロンポロンとしながら、調律を確認。あっ、けっこうしっかり音は出るみたい。



 鍵盤の上に両手を添えると、こちらを注視する中年男だらけのカウンターとボックス席のオーディエンスに軽く会釈し、タッタタララーン!

 用意の「枯葉」の演奏が始まった。


 軽快な音楽だが、一応演奏会、お客さんを最初から掴んでおかないと。少し強めの打鍵にはプロ崩れとはいえしっかりとした技術の裏づけがある。

 音楽には素人ばかりの客も、のっけから「オオッ!」と思わず歓声があがった。


 うわっ、普通にウマイ。

 演奏の腕なんかどうでもいいと思ったミミも思わずうなった。



 そんな調子で始まった演奏会。

 演奏は順調だった。。

 ただ、なんとなくモヤモヤを感じないわけでもなかった。

 それは、仕方ないこと。

 だって、ここは飲み屋で、客は別に自分のリサイタルに来たわけじゃない。

 楽しくお酒を飲みに来ただけ。自分の演奏はあくまで、飾りものの余興。それも承知している。


 けど、入店したときの派手な歓迎から、ピアノの前に座るまでの間の注目の浴び方となんか、まるで本日の主役のような扱いだったのに。

 演奏が始まるとだんだんと客は、めいめい好きに話してお酒飲んで……そういうものだとは分かっているが、なんかちょっと空しい感じがするのも事実だった。


 とくに、カウンターの隅の方のあちらさん。


 あやと並んで、カウンターの一番隅っこに収まっている草壁。

 カウンターの常連さんから、なにか言われて、自分とあやをチラチラ指差しながらニヤニヤ。

 大方「お二人カップル?」「わかりますか?」そんなところね。

 で、そのあと、あやちゃんに肘で小突かれて。

 わざと痛そうみたいな顔しながらも、二人とも楽しそうじゃない。別にいいけど。

 時折、二人そろってこっち振り返って拍手なんかして、まあ、お揃いで嬉しそうにニコニコしちゃって。


「ゆかりさんって、演奏しながら、どんどん無表情になっていくんですね?」

「うーん、僕もあんまり彼女の演奏するとこ見たことないからよくわかんないけど、集中してるんじゃない?」

「テンポちょっと速すぎると思いませんか?」

「そう思った?カーペンターズやりだしたあたりから、やっつけっぽく聞こえたの僕だけじゃないんだ……」


 草壁とあやがそんなことをコソコソと話している。

 ほおーっぉ!二人でヒソヒソ話ですか?随分と仲がよろしいことで。


「なんか、こっち睨んでませんでした?ゆかりさん」

「き、気のせいでしょ……まさか……」

 まさか、だって、ただの友達なんだろ……。あやさんと二人で楽しく談笑してるだけで、何が気にいらないって言うの?



 あやと草壁だけは友達ということもあって、割とキチンとゆかりの演奏を聞いていたが、他の客にはあまりそんな異変は気づかれなかった様子。

 みんなピアノの音色より、弾いているゆかりの顔を見ているほうが全然いいって客ばっかりだった。

 で、最終的に、ショパンのノクターンをまるで安物のオルゴールみたいに弾き終わり、演奏会は終了。


 アンコールはなかった。

 ゆかりは拍子抜けしたが、別に彼女の演奏の評判が悪かったわけではない。

 それよりも、早くこっちおいで!ということだった。

 ミミが常連達を集めるにあたって、今夜のゆかりのことをなんと言っていたか、そのことを彼女自身が知るのは大分と経ってからのことだった。



 演奏が終わって、では、さよなら。

 彼女は一応そのつもりだった。が、「お疲れ様。席が一杯で座ってもらうこともできないけど、せっかくだから、ご馳走させてよ。今日はよかったわ、本当にどうもありがとうね」ってミミからビールのお酌をされると、ゆかりはカウンターの中でそれを受けた。


「また今日みたいなのお願いするよ!ゆかりちゃんがいるんだったら、毎日でも通っちゃうから」

「あっ、お上手言って」

「いや、ホントホント、先生をこんなに間近で見られるだけでも、金払う価値があるよ」

「人をパンダみたいに……あっ、一杯どうぞ」


 カウンターに立っていると、ぼおっと客みたいに納まっていては悪いんじゃないかって気が不思議とするものだった。気がつけば自分の父親みたいなお客相手にお酌なんかしながら談笑している。律儀というかノリが良いというか。


 目の前で、そんな自分に目を丸くしている草壁のことは、しばらく無視してやる方針。


 もちろん、ゆかりはここのホステスをするつもりなんかなかった。

 けど、ミミが作った水割りのグラスをゆかりに手渡すと、自然とそれを受け取って、客のところに持っていって、雑談の一つも交わし。

 ミミがボックス席に行っている間、カウンターのほうで簡単なおつまみの注文が入ると、「あ、その棚にパンあるでしょ?ハムが冷蔵庫の2段目にあるのわかる?マヨネーズは、そのポケット」「あ、はい。レタスも、ですね……」なんていいながら、いつの間にかハムサンドをカットしている自分に気がついた。


 そのうち、ミミに呼ばれてボックス席のほうにも挨拶がてら顔を出したゆかりが、日本酒を客たちに煽てられながら、クイクイあおりながら思った。


 あ、これ、なんか、デジャブ……。



 一連の流れを草壁は驚いてみているより他なかった。なぜなら、彼女、自分以外の客には愛想よく挨拶したり雑談を交わす。あやとも「そういやあやちゃんとお酒飲むのも、2度目だったっけ」なんて笑っているのだが、草壁は無視するのだから。

 しかし、それとは別に草壁も思っていた。


 あれ、この人、喫茶店のウエイトレスした時もこんなんだったんじゃなかったっけ?



 実は、もう一人驚いていた人物がいた。

 ミミである。


 もうちょっと酔わしてから、うやむやにして引き込もうと思ったけど、ビール一口飲んだだけで、随分ノリ良くホステスになっちゃったわね……。




「お兄ちゃん、若いのにいけるね」

「いや、そんなには」

「草壁クンだっけ?若いのに、こういうスナックとか慣れてたりするの?」

「いいえ、あんまり外に飲みに行きません」

「案外、水商売向いてるんじゃない?」

「僕ですか?ママさん、まさか僕まで引きずり込もうとしてるんじゃないんでしょうね」

「あんたなんか雇ってもバイト代の無駄」


 ゆかりがカラオケを前に「雨の慕情」を熱唱している間、カウンターではママを交えてこんなふうに盛り上がっていた。

 お嬢様のほうも、久しぶりに、魚肉ソーセージとかポン酢じゃなくて本物のマイクを握って歌うのが楽しいご様子。客から「歌って」と言われると、遠慮なんかする様子もなく、ピアノの隣のカラオケの機械の前に立ったのだった。


「ゆかりさんって、飲んだらいつも?」

「まあ、だいたい、あんなの……」

 あやと草壁がそんなことを話していると、青いスーツの下に黒い色したインナーを覗かせて、ミミがあやのもとにやってきて話しかけてきた。


「ところで、あやちゃん、背結構高いけど何センチあるの?」

 いつまでたっても、薄い水割り一杯だけで粘りつづける草壁を横目で見ながら、あやにだけは、今日は特別に私からのおごりだから遠慮なく飲んで、とお酒を勧めてきたミミ。隣で、僕は?と言いたげに、ジッと見つめてくる草壁は無視だ。見るとあやちゃん、結構顔も赤いし、最初は草壁とばっかり話していたのが今では他の客とも気軽に口を聞いている。いい感じに出来上がってるみたい。


「あ、私ですか?172センチです」

 実を言うと、彼女、本当の身長は173センチだった。だが、聞かれると1センチ鯖をよんだ。今となっては自分の長身にそれほど強烈なコンプレックスはないが彼女の場合、小学生の時に女子であるにもかかわらず、クラスで一番背が高かった。そのときは背が高いのがコンプレックスだった。その名残が彼女に1センチの鯖を読ませた。――どうでもいい話だが。


「背も高いし、何着ても似合うでしょうね……」

 うらやましそうな顔でミミに見つめられたあや、酔いのせいもあるのだが、真っ赤になって照れた。

「そ、そんなことないです……」

 お世辞も本気の言葉なら効果はあるものだ。言われたあや、まんざらでもない様子。


「ねえ、あやちゃん、ドレスなんて持ってる?お呼ばれに着てくようなパーディドレスじゃなくて、ロングドレス」


「ロングドレス?……」

「夜会とか演奏会で着るようなのよ」

「あれか?キャバクラのホス……」

「あんた、黙ってなさい!」


 途中で話に割り込んできた客をミミが怒鳴りつけた。こっちは上品な表現してるっていうのに、うっかりとこっちの意図がばれるようなこと言うんじゃないわよ。

 水商売のママやってるだけあって、そういうときは男勝りの怖さというか、凄みがあった。


「そんなのは持ってないです」

「興味ない?あなただったら似合うと思うわ……。ちょっと待ってて!」


 あやの返事なんかお構いなしである。

 で、ミミが店の奥に引っ込んだと思ったら、ピンポン玉みたいにすぐに戻ってきた。

 どう考えても、クローゼットかなんかにしまってあったのを、今思い出して引っ張り出してきたとかじゃない。絶対扉の向こうにいつでも取り出せるようにセッティングしてあったに違いない。

 と、まだ水割り一杯の草壁は冷静な判断ができたが、他の客、とくにあやは酔っているせいか、そんな疑問は抱かなかった。


 ほら、ちょっと立ってみてよ。そうそうちょっとこうやってね。ね、どう、絶対似合うと思うでしょ?

 ミミは立ち上がったあやの前に、ハンガーに掛かったままの純白のロングドレスをあてがってみながら、カウンターの客にむかって、けしかけるようにして言葉をかけた。

 草壁以外、全員いい年たオッサン、しかも酔っている。それはもう

「いいよ!」

「ぜひ着てみてよ!」

 と、計算どおりの大盛り上がり。

 そのまま、あやをボックス席のほうに向けると、そちらからも大拍手。


 悪くはない。目の前のあやちゃんもまんざらでもなさそう。しかし、どうもこの子、ちょっとウブなところがあるわ。ゆかりちゃんよりは、まだ子供ね。ビール一杯でホステスやってしまうようなノリの軽さを期待すると、ここで逃しちゃう可能性がある。今だって、照れてるばっかりだし。

 なにかないか……。


 黒っぽいシャツの上にトマト色した袖口の大きなセーターをふんわりと羽織ったあやが、そのセーターみたいな顔色で、ちょっと俯き加減で照れている様子を見ながらミミは、まだ押しが足りないことに気づいていた。

 が、モタモタもできない。

 どうなるか、イチかバチか……。


「ねえ、ゆかりちゃんも似合うと思うでしょ」

 ミミがカウンターでニコニコしながらこっちを見ているゆかりに声をかけた。

 この子がどうでるか?親友の押しがあれば、なんとかなる!


 ゆかりのほうも、それまでに結構飲んでいた。

 みんなから、チヤホヤもされて、好きな歌もしっかり歌って……ホステスとして働く、ではなくホステスとしてしっかり楽しんで、上機嫌だった。しかも立っている位置が客ではなく、いつの間にかお店側の人間なものだから、ミミが心配するまでもなく、自然とこう言った。


「ぜったいピッタリ!よ……ね、着てみるだけでも、着てみたら?私も演奏会なんかでそんな服着ることあるけど、経験があるとないとでは、いざというときの着こなしが全然違うから」


 いまだに水割り一杯しか飲んでいない草壁だけが一人驚いた。

(うわっ、ゆかりさん、いつのまにかママのほうに付いた!)




「こんなの銀座や六本木の最高級クラブ行ったて居ないな」

「むしろ、ここはモデルのプロダクションか?って言いたくなるな」


 そんなわけで、ミミとともに一旦店の奥に引っ込んだあと、あのドレスをつけてカウンターに出てきてあやがゆかりと並ぶと、客たちから歓声というか、嘆息が洩れた。


 片っ方は、さっきの演奏会の服のままだけど、このあたりでも噂のお嬢様。

 黙っていると、キツくみられないこともない目元の涼やかなモデル風美人。それがお酒のせいもあって雰囲気もお喋りも軽い。ゆかりのことである。

 そのとなりには、優雅に広がるドレープも鮮やかな純白のロングドレスを着た、長身のアイドル風。辻倉あやだって、商店街の中では、最近綺麗になったね、という噂が彼女が小学校5年生になったあたりから立ち始めたぐらいの子だった。元々は内気なところがあるせいで、弾けるような笑顔を人前で見せることはこれまであんまりなかったが、ちょっと華やかになると、タレント即戦力級に一気に変るものだった。

 因みに言っておくと、ゆかりはあやより5センチほど背が低い。だいたい168センチぐらい。



 これで二人そろってこの店のホステスができた……のか?

 だって、あやさんって、ゆかりさんほどこういう仕事得意そうじゃないけど……。服を着てちやほやされただけで、どうなるものでもないだろ。

 現在この店で唯一のシラフだった草壁が、そんなことを思いながら次の展開を観察していると、驚いたことに、それなりにホステスをこなすあや。


「あやちゃんももう、お酒飲むような年になったんだね」

「いい女になったよ」


 ボックス席に陣取っているのは、商店街の人たちのようで、あやにとってはちょっとした顔見知りでもあるせいか、そっちに顔だしたら、昔話も交えて盛り上がる。

 最初のころこそミミがそばについていたが、そのうち心配もなさそうということで、ボックス席の応対はあやに任せて、カウンターに戻ってきた。


 

 実は、密かにこっちのほうが心配だった。

 というのも、ゆかりの様子である。

 いい子。お酒はいけるし、明るくて、よく気がつくし。言わなくても勘で、グラスやお酒や食器の場所なんかいつの間にか理解しているし。客あしらいもいい。

 ただ、どうして、草壁って子を無視するんだろう?彼女と彼とが微妙な感じだから、カウンターもいまひとつ盛り上がり切れないのよね。

 付き合ってるとは思えないけど、ケンカしてるの?みたいなことを聞くのも野暮だし……。


 まっ、いいわ……。

 これだけやってくれたんだから、あとは私がフォローしてあげれば。


 ということで、ゆかりの隣に立ったミミが、サッとウイスキーのロックを作ると、それをゆかりに手渡した。

「今日はごくろうさん。これ、わたしからのおごり。好みとか聞かなかったけど、あなたなら、ロックで行けちゃうんじゃないかって思って。どっかの誰かみたいな薄ーい、水割りじゃなしに」


 草壁をチラッとみながら、グラスをゆかりに手渡した。

 そう言われたゆかり、ここでやっと微かに笑って草壁を見た。

 あら?彼のこと笑ってみたわ、そう、別に嫌ってるとかじゃないのか?


 ところが、ゆかり、手渡されたウイスキーをしばらくジッと見つめるだけで口をつけようとはしなかった。


「どうしたの?ウイスキーはお嫌い?」


 何か考えごとに沈んでいるような表情でそのまま固まったようになったゆかり

「はい、ウイスキーだけは……あんまり」


 ミミはそのとき、単にお酒の好き嫌いのことを言っていると受け取った。

「こういうお仕事するのに、お酒の好き嫌いはないほうがいいと思うけど。ま、嫌なら無理強いはしないわよ。他のお酒のほうがいいなら、そうする?」

 そういうミミの言葉が聞こえないかのように、しばらく琥珀色の液体を見ていたと思ったら、そのとき、ゆかりはチラッと草壁を見た。

 その視線に草壁だけが気づいた。

 しかし、なぜそのとき、なにか言いたげにウイスキー片手にこっちを見たか?草壁には分からなかった。

 やがて、ゆかりはグラスを静かに傾けた。

 舐める、というより舌先にウイスキーを乗せた程度である。

 そして、ポソッとこう呟いて、グラスを置いた。


「まだ……やっぱり、にがい……」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 



 今夜の前半の主役がゆかりなら、後半の主役はあやだった。

 純白のドレスは、このお店にはちょっと派手すぎた。しかし、だから余計に彼女の魅力を引き立たせたし、やって来た客にしてみれば、ホステスが綺麗過ぎて困ることなんか何もないわけだし。


 しかし、と草壁は思った。

 結局、似たもの同志が親友になったということのようだ。


 あやちゃんもなんか歌ってといわれると、案外あっさりと肩の羽飾りをゆらして、スッと立ち上がった、じゃあ一曲だけ。なんていいながら、純白の裳裾をヒラヒラゆらしながら体を右に左に、結構ノリノリの様子でマイクを握った。

 そして歌えば上手だった。

 なんだ、こっちの歌姫も上手だね。とあちこちから歓声があがる。

 ていうか、慣れてる?

 マイクを握ると元気良く声が伸びる。

 後に聞いたところ、家族でカラオケにはちょくちょく出かけるそうである。


 ところで、このあやのカラオケ熱唱に関して、ちょっとした事件があった。いや、事件というほどのことではない。草壁一人が”へえ……”と思ったにすぎないようなちょっとしたことに過ぎないのだから。



 客のリクエストに応じて何か歌うべく通信カラオケをピコピコ操作しながら、あやがちょっとニヤニヤしながら「じゃあ、今日の日にちなんで、こんな曲を歌ってみようかな?」と言って、ゆかりとチラッと見た。

 ねえ、ねえ、ゆかりさん、どうこの曲?ピッタリでしょ?とちょっと得意げな様子。

 そのときはどんな選曲をするのかわからなかったが、イントロを聞いて草壁が小さく「うわっ!」と驚いてゆかりを見た。


 あやの選曲は、懐かしいナンバーで「私はピアノ」


 ピアノの曲……は、いい。けど、これ失恋の曲だよ……。ピアノと失恋の曲。

 あやにしてみれば、本日のゆかりのピアノ演奏に敬意を表して、みたいな軽い気持ちで選んだ。客たちも「なるほど、そう来たか……」って感じである。


 しかし、どうだ?これ?

 そして、思わず草壁の発した軽い驚きの声を、彼の目の前に立っていたゆかりだけが聞き取った。その瞬間二人の視線がぶつかった。そして、ちょっと怖い顔で草壁を見た。

「何?何かあるの?」

 怒ってるというわけではない。ただ、自分だけが気づいている、ある連想に彼女も気づいた。余計なこと言わないでね。ってことだろう。



 その後、すかさず客からあやにアンコールが入った。

 今日は、あやちゃんのお披露目でもあるから、名刺代わりにその可愛らしい声、もっと聞かせてよ!と声が掛かった。


 あやの歌の間、チラチラと二人の視線が合っていた。

 お互い何かいいたげだったが、あえて会話を交わさなかった。ゆかりはもうちょっと草壁をほったらかしにするつもりである。

 しょうがないから、水割りのおかわり作ってあげよう。いつまでもあの一杯のままじゃ可愛そうだしね。お勘定は私につけてもらってもいいし。けど、黙って出して、「えっ、お金あんまりないんですけど」みたいな顔の一つもさせてやろう。


 なんて考えながら、ミミがいない間にちょっと濃い目に水割りを作っていると。

 あやの2曲目が始まった。


 曲名は「恋におちて」


 草壁、飲んでいた水割りを吹き出した。いけね!大事に飲んでたのに、これでグラスの残りがなくなった。


 そんなことより、この選曲……。不倫の歌……。


 またもや、二人の視線がぶつかる。

「何?言いたいことがあったら言ったらどうですか?」

「い、いいえ……」


 あやさんは、彼女の自殺未遂の話は知らないのか……。そりゃそうか、いくら親友にだって簡単に言えるような話じゃない。

 そう思うと、改めてなぜあんな話を自分にしたのか?という疑問が頭をよぎる。

 こっちだって「友達」だと言ってるのに。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんなこんなしながら時間も経ち、客も一人二人と帰っていった。

 あやも、これぐらいでお暇させてくださいと、帰ってしまう。

 残ったのはボックス席に3人。そしてカウンターも草壁を含め3人となった。

 そしてミミはボックス席の客の相手に、随分と長い間真剣に話し込んでいた。聞いていると、商売のグチばっかり。お相手の方々も職種は違うとは言え同じ客商売同士、酒が入ると腹を割って話したいこともある様子だ。

 その間、カウンターにいる、本日飲み屋商売初体験のゆかりはほったらかし。

 しかし、目の前で客から、なんか小腹にたまるようなもの作ってよのリクエストに、もはやミミの指示なんかなしに一人で勝手に作り出したゆかり。もうこっちのほうがママじゃないの?


 そんなことを本日2杯目となる、ちょっと濃い目の水割りを飲みながら草壁が驚いていた。


 じゃあ、これどうぞ。ご注文の品でしょ?

 そう言ってゆかりが先ほど草壁の目の前に差し出したものである。なんのつもりかは分からないが、笑ってるよこの人。絶対、あとでたかってやる、その手には乗らない。


 それにしても、今日はあんまり相手にしてくれないのは、機嫌が悪いからというわけでもないのか?こうやってわざとこっちにイタズラしてくるってことは、怒ってるというわけでもなさそうだけど……。

 とにかく、謎だ、この人は。



 草壁がそんなことを考えながら、チビチビやっているとカウンターの客が、ゆかりにこんなことを言い出した。


「ゆかりちゃんは、絶対年上ごのみでしょ?」

「えーっ?……どうかな……」

 もちろん、こんな簡単な質問にうろたえるようなタマじゃない。笑顔で軽くいなした。草壁だけがまたもや複雑な表情でそれを聞いていた。


 カウンターのもう一人の客からもこんな言葉が

「俺もそう思った、なんか年上顔だよ」

 なんだ?その「年上顔」って、そんな言葉あるのか?と思うが、酔っ払いの言うことなんかまともに相手にしてもしょうがない。


「年上の男を好きになりそうな顔だってことだよ」

 知らないというのは怖いもので、聞いている草壁だけがなんとも言えない気持ちになる会話だった。

「ゆかりちゃんみたいな子の場合、同年代とかさ、年下なんか頼りなく見えたりしないの?」

 そう言われて、ゆかりがチラッと草壁を見た。頼りなくてすみませんねえ。

「別に、そんなこと思ったりしませんが」

「男のほうもさ、それなりに経験をつんで心の余裕がないと、マトモにぶつかっても玉砕しそうに思うかもな。ちょっと近寄りがたい雰囲気あるもん」

 っていうか、実際、玉砕しました。


「ねえ、ゆかりちゃん、実際のところどうなの?」

 興味津々でそんなことを聞いている中年の常連客。ゆかりはちょっと考え込んだ。

 実際どうなのか、知ったらビックリするだろうな……。さすがにこの会話の中に入る気になれない草壁が黙ってみていると、ゆかりはニッコリ笑って、草壁を見た。

 な、なんだ?その笑いは?

 ゆかりは微笑みながら、軽く首をかしげて、こう言った。


「ほんとうは、年下が好きだったのかな……」


 ん?ん?ん?

 それから、ゆかりがどんなつもりでそんなことをこっちを見ながら言ったのか理解しかねて、一人混乱している草壁の表情をちょっと確認してから


「なーんて!!」

 ゆかりがそうやっておどけると、草壁以外のカウンターの客たちが手を叩きながら声を上げた。

「あった!あった!そんなCM!うまい!」

「その笑顔は、絶対年上キラーだなっ!」


 アハハハッ!似てました?あのCMそのあと、こうやって後ろに足をあげて、ヨッってやるんでしたよね?そうそう、でもあれ、セリフ違わなかった?”本当は年下が好きだったのにな”じゃなかったっけ?あっそうでした。

 なんてやりながら、ちょっと呆然としている草壁を尻目に、カウンターの客と盛り上がっているゆかりの笑顔を見ながら草壁は改めて思うのだった。



 ホントウに、謎な人だ、と。




第9話 おわり

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