03 お弁当と桜の大木
私は、机の上のお弁当を睨みつけていた。
お弁当に何か悪いところがあるわけではない。むしろ、母様の愛情が詰まったおいしいお弁当だ。
それをどうして睨みつけているのかと言うと。
「お昼、どうしよう……」
誰にも聞こえないよう、小さな声でつぶやく。
今の時間は、昼休みである。
姉様たちと食べたいと思ったのだが……。Cクラスへの行き方は、やっぱりわからないんだよね。
姉様はもしかしたら、私が友達と食べると思っているかもしれない。そう思っているとしたら、私のところには来てくれないだろう。
……一人で食べるのは嫌だし、姉様たちが来てくれることを願おう。
何となく、教室の中を見回してみる。
入学式は昨日だったというのに、皆もう友達ができているみたいだ。数人で集まってお弁当を食べている。この学院には食堂があるが、食堂が開くのは明日からだ。
誰か私のように一人の人はいないだろうか。そう思って探しても、一人なのはうさ俺様だけだった。うさ俺様と友達になるのは難しいだろうなぁ。意外といい人だというのは私を気遣ってくれたことからわかったが、こっちから近づいても意味はない気がする。そもそも、そういうことは苦手だし。
「あっ、セレネ!」
姉様の声が聞こえて、自分でもびっくりするほどの速さでその方向を見る。教室の入り口には、お弁当を片手に持った姉様がいた。……あれ? エリクがいない。
「姉様、エリクはどうしたのですか?」
「友達と食べるって言ってたよ」
む、エリクにも友達ができたんだ。何だか負けた感じがする。
というか、護衛なのに姉様から離れていいんだろうか。まあ、姉様が王女だと周囲に知られていない今、逆に一緒にいすぎるほうが怪しまれてしまうかもしれないけど。
「セレネは今日、一人で教室移動してたでしょ? だから、まだ友達できてないんじゃないかと思って。友達ができるまで、一緒に食べよ」
にっこりと微笑むその顔が、聖女……いや女神? 何と言えばいいんだろう。とにかく、神々しく見えた。あ、女神は姉様のような顔をしないし、聖女だろうか。
「ちょっと待っててくださいね」
急いでお弁当を持ってくる。
「どこで食べますか?」
「いい天気だし、中庭で食べようかなって」
「中庭……」
どこのことだろう。
首をかしげると、ふふっと笑われてしまった。
「綺麗なところだよ。案内するから、一緒に行こ?」
断る理由なんて何もないので、了承する。
中庭……この時期だと、どんな花が咲いているだろうか? 姉様が綺麗だと言うのだから、綺麗に違いない。
でも綺麗なところだったら、お弁当を食べる人が他にもいそうだ。
と、姉さまについていきながら考えて、はっとする。
これってもしかして、えーっと、いわゆる選択肢? お昼をどこで食べるかの選択によって、どの攻略対象と会うのか決まるんじゃ。
……中庭には、誰がいるんだろう? エリクじゃないのは確かだ。うさ俺様も教室にいたし、違うだろう。
あ、狐だったら嫌だな。姉様はまだ狐に会ってないから、会ったほうがいいのかもしれないけど……。
姉様には、あの人と仲良くなってほしくない。そう思うのはわがままだろうか。
* * *
「あれ、セルジュ先生?」
姉様の声に顔を上げると、確かにセルジュ先生がいた。いつの間にか中庭についていたようだ。辺りを見ると、大きな花壇に色とりどりの花が植えられている。セルジュ先生は、中庭にある椅子に座っていた。傍にはテーブルがあって、先生のものらしきお弁当が置かれている。
だがそれよりも、私の目はあるものに惹きつけられた。
……桜?
「ああ、ルーナか。……そっちは?」
「私の妹のセレネです」
姉様と先生の話も、耳を通り抜けていく。
中庭に一本だけ植えられた、桜の大木。もう散り始めているが、このくらいのほうが好きだ。満開よりも、そのほうが風情があるというか。……桜なんて、もう二度と見ることはできないと思っていた。
この国にいて、ここ以外では桜を見たことがない。どこかの国にはあるのかもしれないが、父様に「桜を見たい」とわがままを言うことはできなかった。
それが、こんなところで見れるなんて。
ほんの少しだけ、視界がにじむ。
駄目だ、と思った。この世界で生きていくと、そう決めたのだから。それでもやっぱり、時折寂しくなるのはどうにもならない。
「セレネ? どうかした?」
ぼーっとしている私の顔を、姉様が覗きこんでくる。そして、「泣いてるの?」と姉様のほうが泣きそうな顔になる。
「いえ、少しあくびが出てしまっただけです。なので、そんな顔をしないでください」
「……うん。じゃあ、お弁当食べよっか!」
そう言って、姉様はセルジュ先生の隣の椅子に座った。ということは、私は姉様と向かい合わせにならないと。
向かいの椅子に座って、お弁当を開け……って、まずは他にすることがあったんだ。
「セルジュ先生、初めまして。ディアナの妹の、セレネ・ヴィーヴァ・ルーナです」
座ったまま、ぺこりと頭を下げる。初めて話す人には、まず自己紹介をしないと。
「俺はセルジュ・シヴィード。知ってると思うが、ルーナ……ディアナ・ルーナの担任をしている」
「はい。次回からの魔法学の授業は、セルジュ先生が私たちの担当になるのですよね?」
「ああ、そのことか。ラウナに頼まれたよ。……あれが暴走したら、俺もすぐに止められるかは微妙だがな」
魔法学の担当であるセルジュ先生でもそうなのか。だとしたらあのとき、すぐに止められた父様は本当にすごい。そういえば最近仕事が忙しいみたいで、あまり父様の顔を見ていないなあ。今度会ったら、久しぶりに肩をもんであげよう。
話が一段落ついたので、お弁当を開けることにする。
この世界に生まれてから初めてのお弁当だ。……母様は、どんなお弁当を作るんだろう? 私とは違って何だかぽわぽわした方だから、料理ができるとは思いもしなかった。「セレネちゃんのために頑張って作るわねー」と言っていたので、ちゃんと母様自身が作っているんだろうけど。
さて、開けてみよう。
「わっ、いいなーセレネのお弁当!」
姉様が羨ましそうに見てくる。
……意外な中身だった。いや、母様が作ったと言われれば納得はするのだが。
お弁当箱の半分には白いご飯が詰められていて、その上にはふりかけがかけられている。……これは、手作りのかな?
もう半分にはおかず。小さめのハンバーグ、たこさんウインナー、卵焼き。そしてにんじんの炒め物。たらこと一緒に炒めたみたいだ。
何というか。とてもではないが、王妃が作るようなものには見えない。姉様が羨ましがったのは、姉様が庶民のような食事に憧れているからだろう。
つまりこれは、姉様の目から見ても庶民のようなお弁当なんですね。と少し思うものの、どんなお弁当でも、母様が作ってくれたのならそれで満足だ。それに何より、おいしそう。
「……姉様のお弁当は」
「うん、料理人さんたちが作ったのだね」
あっさりとした口調だが、その笑顔は寂しそうだった。
「姉様、たこさんあげます」
お弁当箱を差し出すと、姉様はびっくりしたような顔をした。……もしかして、たこさんじゃなくてハンバーグが欲しいのだろうか。
「好きなのを取っていいですよ。代わりに、私も姉様のお弁当から少しもらいますね」
姉様のお弁当は、城の料理人たちが作ったものだ。普段の食事も彼らが作っている。すごくおいしいから、毎日食事の時間が楽しみなんだよね。
母様のお弁当を、一人で全部食べてしまいたい気持ちもある。だけど姉様とお弁当の中身を交換することは、随分前からの憧れだ。
「……じゃあ、たこさんもらうね。はい、セレネも何か取って」
姉様が普通の笑みを浮かべたことに安心しながら、何をもらおうか考える。……あ、お花型のにんじんだ。
「お花のにんじんをもらってもいいですか?」
「ふふっ、そう言うと思った」
笑いながら、姉様は私のお弁当からたこさんウインナーを取る。私もにんじんをもらおう。
前はお肉が好きだったのに、今では野菜が大好きだ。兎の獣人になったからだろう。別に今でも、おいしいものなら何でも好きなんだけどね。
私たちの様子を見ていたセルジュ先生が、柔らかく微笑んだ。
「君たちは仲がいいな」
姉様と顔を見合わせる。たぶん私と姉様は今、同じことを考えている。
……セルジュ先生がいたこと、忘れてた、と。
そういえば、中庭の選択肢はセルジュ先生だったのか。
今更それを思い出して、そんなんでどうする、と自分を叱咤する。昨日、姉様を幸せにすると決めたばかりなのに。
ゲームと現実は違うから、姉様は攻略対象以外を好きになるかもしれない。それでも……攻略対象の人との時間を邪魔しちゃ駄目だよね。
でも、姉様との時間を邪魔されるのは嫌だ。ここはどんな行動を取るべきなんだろうか。
姉様は、先生の存在を忘れていたことを誤魔化すことにしたようだ。誤魔化す、というか、隠す、というか。気まずそうな顔をしているが、そのままセルジュ先生に言葉を返す。
「私とセレネは、小さいときからずっと一緒にいたから……自然と、仲良くなれました」
自然と? いや、まあ……自然と言えば自然かな。
ちょっと引っかかる言い方だったが、間違ってもいないので、口を挟まないことにしよう。
セルジュ先生は、姉様の気まずそうな様子に気づかなかったようだ。もしかしたら気づいていても、気づかないふりをしたのかもしれない。……そっちのほうが可能性は高そう。
「俺も兄がいるんだが、君たちの年では口も利いていなかったよ」
「私たちの年では、ってことは、今は話すようになったんですか?」
「たまにだけどな。兄は俺のことが今でもあまり……いや、悪い、生徒に話すような話じゃなかった」
二人の会話を聞きながら、もらったにんじんを口に運ぶ。
ああ、やっぱりにんじんは最高だ。この世界に生まれてよかった、と思えるのはこんなときである。前の私は、大好物と言えるものがなかったからね。今じゃ、にんじんを食べるだけで簡単に幸せを感じることができる。
セルジュ先生の言葉に、姉様がうつむいたのがわかった。
「……ちゃんと、話さなくちゃ駄目ですよ」
「うん?」
「いつか、『話さない』んじゃなくて『話せなく』なりますから」
「いや、でも兄は俺のことが嫌いで――」
「嫌われてても、話せなくなったときには絶対後悔します」
……会話に入れない。え、にんじん一つ食べただけで、ここまで入りづらい会話になるものなの?
「先生は、お兄さんのことが嫌いなんですか」
「だから、兄は俺が――」
「お兄さんの気持ちじゃなくて、先生の気持ちを訊いてるんです」
姉様が人の話を遮ることは、滅多にない。それも、二回連続なんて……片手、いやぎりぎり両手かな、で、数えられるほどだ。
どうやら姉様は、ちょっぴり怒っているらしい。本当にちょっぴりなので、全然怖くはないが。
……この会話って、セルジュ先生との『イベント』というものなんだろうか。
姉様は、じっとセルジュ先生の顔を見つめる。
「先生は、お兄さんが嫌いですか?」
戸惑ったように黙っていた先生は、しばらくして首を横に振った。
「俺は別に……嫌いじゃないが」
「なら」
姉様が笑顔を作る。……きっと先生には、普通の笑顔に見えているのだろう。先生じゃなくても、姉様のことをよく知らない人にはそう見えるはずだ。
この笑顔が作り物だとわかるのは、私とエリクくらいかな。
「今度、話してみてください。こんなことで後悔するのは……先生のような、頭のいい人がするようなことじゃありません」
先生は、ただ静かにうなずいた。
……今の会話が、ゲームとして作られたものなのか。それとも、現実のものなのか。
わからなかったけど、現実のものであってほしいと思った。姉様の言葉が、気持ちが、誰かに作られたものだとは考えたくない。
「姉様」
話に区切りがついたと判断して、姉様に声をかける。
「あ」
「……あ、って何ですか。忘れられているのは何となくわかっていましたが」
「わわわ、忘れてなんかっ」
拗ねたふりをしてみると、姉様は面白いほどうろたえた。
視線くらいは合わせましょうね、姉様。そんなうろたえていたら嘘だとすぐにわかるのに。さっきセルジュ先生を上手く誤魔化したのはどこの誰ですか。(いや、決して上手くはなかったけど)
姉様は少し落ち着いたらしく、どもりながらもちゃんと視線を合わせてきた。
「そ、それで、何?」
「お弁当、早く食べませんか? 昼休みがお弁当を食べるだけで終わってしまいます」
そう言うと、姉様は慌ててお弁当を食べ始める。
ちなみに私は、姉様とセルジュ先生が話している間に食べ終わっていた。食べるのが速いとよく言われるが、何か問題があるようには思えない。ので、これからも今までどおり、自分の好きなペースで食べるつもりだ。そのほうが食べものもおいしいし!
お弁当を食べる姉様を、じーっと見てみる。そんなに慌てなくても、まだ時間あるんだけど。お弁当を食べるだけで昼休みが終わるって、冗談のつもりだったんだけどな。
姉様を見ているのは飽きないし、ずっとしていてもいいのだが、姉様が食べづらそうにしていたのでやめることにした。
でもやめるとして……何をしよう?
ぐるり、と周囲を見回して、やっぱり目に付いたのは桜の木だった。
「あれが気になるのか?」
話しかけられたので、先生のほうを見る。
「サクラ、って言うらしいぞ」
知っています。
という言葉は飲み込んで、「そうなのですか」と無難な返事をする。姉様も口に入っていたものを飲み込んでから、私と同じ相槌を打った。
それに対し、先生も話を続ける。
「初代学院長が植えたって話だ。樹齢四百年弱ってとこかな。確か、東のほうの国の花だったか?」
四百年……。そっか、そんな昔から学院はあったんだ。桜の樹齢よりも、そっちのほうに驚く。
初代学院長は、桜が好きだったんだろうか。散っていく桜の花びらを見ながら、ふとそんな疑問がわく。わざわざ東の国の花である桜を、学院に植えたのだ。きっと好きだったんだろう。
椅子から立ち上がって、桜の下に歩いていく。
お弁当を食べ終わったらしく、姉様も私についてきた。そして、セルジュ先生も。……先生は別についてこなくてもいいんですが。
「綺麗だねー」
「……はい」
「俺も、初めて見たときはそう思ったよ」
桜を見上げながら、中庭までの道は絶対に覚えようと思った。この桜は、一人でもちゃんと見に来れるようになりたい。
「ルーナ、花びらがついてるぞ」
二人のほうに顔を向けると、セルジュ先生が姉様の頭に手をやっていた。桜の花びらが、頭についていたようだ。……下心とかは全くないみたいだし、こういうことをさらっとやれちゃう人ってすごいね。
姉様はお礼を言ってから、背伸びをした。
「先生もついてますよ」
……って姉様! 何てことをっ! いや、別に『何てこと』ってほどでもないかもしれないけど!
よし。落ち着こう。
ちょっと取り乱してしまったが、姉様もこういうことをさらっとやれちゃう人だった。相手が誰だとかは関係なく、相手の迷惑にならない限り、姉様はやりたいことを何でもやるからね。
うん、だからしょうがない。本人同士が全く照れていないのに、見ているだけの私が照れてどうする。
そうだ、微笑ましく思えばいいんだ。親子がお互いの頭についた花びらを取ってると思えば……あれ? それは何だか、色々とまずくはないだろうか。
改めて、セルジュ先生を失礼にならない程度に観察してみる。
藍色の髪と、黒っぽい目。藍色の髪は光の加減によっては黒に見えなくもないから、ラウナ先生ほどではないにしても、色だけを見れば日本人っぽい外見だ。彫りが深いので全く日本人に見えないが。
うん、やっぱり攻略対象だけあって、格好いい。よくできた彫刻のようで、無表情でいればきっと人間味がない容姿だろう。優しげな目と、同じく優しげな雰囲気のおかげで、ちゃんとした人間に見えるけど。
歳は、二十台半ば? 姉様とは十歳くらい歳が離れていることになる。姉様がもしセルジュ先生と恋人になったら……え、どうなんだろう。これを二人とも若返らせるとすると、幼稚園児といちゃいちゃする中学生ができあがる。
親子じゃなくて、歳の離れた兄妹か。いや、そっちでも色々と駄目な気がする。零歳児と十歳児だったら……あ、ただの微笑ましい光景かもしれない。妹のお世話できて偉いねー、みたいな。
「えーっと……セレネ・ルーナ? 俺の顔に何かついてるか?」
困惑したように、先生が頬をかく。
はっとして、変な想像を頭の中から追い出した。どんな人……どんな年齢の人が相手でも、姉様が好きになった人との恋は応援するのだ。それにまだ、姉様がセルジュ先生を好きになるとは限らないし!
「いえ、ついていません。ただ、その……いいえ、やっぱり何でもありません」
「そうか?」
納得していないようだったが、説明しようとは思わない。考えたことを何でも口に出していいわけじゃないからね。
「じゃあ、俺はそろそろ次の授業の準備をしてくる」
「あ、行ってらっしゃい……です」
姉様、行ってらっしゃいに『です』をつけるのはおかしいです。そもそもこの場面で、どうして行ってらっしゃい?
姉様の言葉に先生はおかしそうに笑い、「ああ、行ってきます」と答えて歩いていった。
先生の姿が見えなくなってから、私は姉様に話しかけた。
「セルジュ先生って、いい人ですね」
「うん、そうだねー」
「……まともな人ですね」
「うん? そうだね。そうじゃないと、先生にはなれないんじゃないかな?」
何だか、あれだ。今まで会った攻略対象らしき人に、まともな人は全然いなかったのに……セルジュ先生が案外普通のいい先生で、ちょっと拍子抜けだ。
まあエリクだって、まともと言えばまともなんだけどね。だけど美少女みたいな美少年って時点で、普通じゃない気もするのだ。
「あれ? セレネ、まだ授業まで二十分もあるよ」
校舎についている時計を見て、姉様が目を丸くする。
「……ごめんなさい。さっきのは冗談のつもりでした」
「え、そうだったの? まあでも、その分セレネといっぱい話せるしいっかー。セレネ、何かしたいことある?」
姉様といられるのなら何でも、と答えてもよかったが、少し行ってみたいところがある。
「図書室に行ってみたいのですが……」
おずおずと言ってみると、姉様は快くうなずいてくれた。
私は読書が好きだった。前の世界では毎日のように読んでいたのだが……こっちでは、あまり読んでいない。
城にも本はたくさんある。だけどその中に、小説は少ししかないのだ。歴史書や図鑑、専門書。そんなものばかり。
だからこの学院に入ったら、図書室には絶対に行くと決めていた。歴史書なんかももちろんあるけど、生徒が楽しめるように小説もたくさん置いてあると聞いたから。
「私も何か読んでみようかな」
絵本しかまともに読んだことがない姉様がつぶやく。難しい本が苦手なようだから、そうじゃなければ大丈夫のはずだ。
「姉様が面白いと思える本も、きっとありますよ」
「そうだよね。よし、それじゃ行こっか。セレネが行きたいって言うと思って、図書室の場所は覚えてあるから」
さすが姉様! 私のことをよくわかっています。
感動しながら、姉様についていく。
何だか図書室にも攻略対象の人がいそうだけど……まあ、いないと思っておこう。