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14 練習と思わぬグループ

 ……よりによって、一時間目に体育の授業なんて。


 私はそっとため息をついた。

 普段の時間割なら、体育は五時間目のはずだった。しかし、こういうときに限って時間割が変更。本来一時間目のはずだった物理と交換になったのだ。


 校庭をぐるりと見回すと、皆自分がやる種目の練習をしている。授業が始まり、先生にそれぞれ練習するようにと言われてから、もう五分が経過したのだから当たり前のことだろう。

 エルザちゃんとニーナちゃん、男子二人もすでに二人三脚の練習を始めていた。……あっ、エルザちゃんたちが転んだ。痛そうだなぁ、やだなぁ。やりたくないなぁ。


 なんて、やりたくない理由をつけてはみたが。

 別にやりたくないわけではないのだ。二人三脚のようなのをやるのは嫌いじゃない、というかむしろ好きだから。うさ俺様が相手でも問題はないし。


「……あのー」


 意を決して、黙り込んだままのうさ俺様に紐を振ってみせる。ぴくっと揺れたこげ茶の耳が可愛い。ベラちゃんが獣人の耳を好きなのもわかる……って違う違う。


「そろそろ練習を始めませんか? ほら、エルザちゃんたちも練習し始めていますし」


 そう、私たちだけはまだ練習を始めていないのだ。

 二人三脚用の紐を先生からもらって、それ以降(いや、それ以前からか)うさ俺様は口を開こうとしない。

 話しかけちゃ駄目なのかな? としばらく待ってみたものの、どうやら無駄らしいと気づいて、こうして話しかけた。このまま待っていたら、授業が終わってしまいそうだったし。


「……」

「……」


 何か返してくれないと、気まずい。いたたまれなくなって、うさ俺様の顔から目を逸らした。

 うぅ、どうして何も言ってくれないんだろう。お前でいいって言ってくれたくせに!

 しかしこのままでは、本当に何もしないで授業が終わってしまう。そーっとうさ俺様の顔に視線を戻せば、何だ、とでも言いたげに彼の片眉が上がった。


「えーっと、この間は」


 すみませんでした? 申し訳ありませんでした? それとも気安く、ごめんなさいか。

 いやいや、思えば私は一度謝っているのだ。何度も謝ったらしつこいと思われてしまうかもしれない。だとすれば何を言うべきか……。


「……ありがとうございました?」

「は?」

「い、いえ! 何でもありません!」


 私が自分自身に「は?」と訊きたいくらいだ。慌ててぶんぶんと首を振る。

 今日初めて聞いたうさ俺様の言葉が「は?」って、結構悲しい。意味がわからないことを言った私が悪いんだけどさ。


「気にしないでくださいね! その、本当は謝りたかったのですが、何度も謝るのもあれかなと思いまして!」


 あれかなってどれだ。


「……この調子だと、他の人たちに勝てそうにないな、と思ったんです。いえ、すみません。もう黙ってます」


 私、これ以上何も言わないほうがいい気がする。

 はあ、と思わずとため息をついてしまって、私ははっと口を手で押さえた。このタイミングでこの大きさでため息って、相当感じ悪いだろう。

 怒っていないかな、とうさ俺様の顔を見ると、ため息をつかれる。……それは仕返しですか。


「始めるか」

「へ」

「貸せ」


 目の前に出された手に、反射的に紐を差し出す。

 それをやや強引に奪ったうさ俺様は、私の右足と自分の左足を結び始めた。え、えっと? 何で急にやる気になったんだろうか。

 あ、もしかして私が緊張してると思った? ベラちゃんが言ってたとおり、協力してくれようとしてる? ……のは、たぶん違う気がするんだよね。


 しかし、何だろうこの恥ずかしさ。男の子に結んでもらうって、こんな恥ずかしいのか。足を結ぶためとは言え、こんなに傍でしゃがまれちゃうと……。毛深いな、とか思われたら嫌なんだけど。変な臭いがしたりとかはないよね?(ないと思いたい)

 居心地が悪くて、意味もなく視線をあちこちにさまよわせてしまう。恥ずかしがるな、私! うさ俺様は絶対、今のこと状況を何も思っていないはずなんだから。

 って、いくら何でも遅すぎないか?


「……私が結びましょうか?」

「遅いとでも言いたいのか」


 睨まれては、はいとうなずけるはずもない。大人しく待つことにした。

 でも、うさ俺様は一体何結びをしようとしているんだろう? そして何回結んでるんだ。これ、ほどくのがかなり難しそうだぞ? 何かぐちゃぐちゃしてるし。あー、そんなぎゅっぎゅっと結ばなくても!

 結び目は固いのに、どうして緩く結んでるんだろうか。というのはつまり、わっかにしている紐が大きくて、足と足の間に隙間がある状態、ってことだ。

 次の練習からは、何を言われても私が結んだほうがいいのかもしれない。


 結び終えたのか、うさ俺様は結び目をじーっと見つめている。その眉間に皺が寄っているところを見ると、やりたかった結び方と違ったんだろう。

 そっか、うさ俺様は不器用さんだったのか。何でも器用にこなしそうなイメージだっただけに、意外である。

 私がまじまじと見ていることに気づいたのか、うさ俺様は更に不機嫌そうな顔になった。


「何だその目は」

「いえ! さ、さあ、練習を始めましょう!」


 これ以上怒らせてはいけない。せっかくやる気になってくれているのだから、そのやる気が消える前に練習をしなければ。


 ――と思ったのだが、早速問題が発生した。


「……背、高いですね」

「お前が低いんだろう」

「うっ、私だって女子の中では高いほうなのに……!」


 身長差、というものを全く考えていなかった。

 うさ俺様の肩に手を回すのは、できることにはできるが。正直、この状態で走るのは辛い。

 さてどうしよう、と考えながら、うさ俺様の顔を見上げる。私の身長は、大体百六十センチ。女子の平均よりは少し高めかな、という身長だ。

 なのに、うさ俺様との身長差は頭一つ……いや、悔しいけど一つ以上はある。うー、高一男子のくせに! 前の世界でもこの高さの高一はいないわけじゃなかったけどさ。

 流石は外国……というわけか。この世界で言うなら外国ではないんだけど、まあ前世日本人である私からするとそんな感じだ。


「腰に手を回せ。肩よりそっちのほうがいいだろう」

「え、あ、こうですか?」


 うさ俺様の腰におそるおそる手を回してみる。えっと、これは服をつかんでもいいんだろうか。そうしないとちょっとやりづらい。

 服をつかんでうさ俺様を見上げると、嫌そうな顔はしていないのでほっとする。


 でも。これは……。

 あ、足を結んでもらう以上に恥ずかしいっ! エリクが言ってた問題っていうのはこれか。予想以上の恥ずかしさ! 男子と体をくっつけるっていつぶりだろう。汗臭いと思われないかな、というか、緊張で汗がダラダラ流れてるんだけど。もし引かれたらショックだ。

 かちこちになった私の肩に、うさ俺様が手を回す。よ、よかった腰じゃなくて……!(ほっ)


「行くぞ」

「ひゃい!」

「……どうした?」


 怪訝そうな顔で見下ろされると、視線をさまよわせることしかできない。

 ……あ。怪訝そう、ってことは、何で私がこんなになってるかわかってないってことで。つまり、私は全然意識されてない。

 だとしたら、私も意識する必要はないのか。緊張して損した気分だ。


「何でもありません。やりましょうか」


 急に普通に戻った私に、うさ俺様は不審者でも見るような目で見てくる。うぅ、そんな目で見ないでください。というか、意識されてないって何か悲しい。

 別に意識されたいというわけではないし、むしろ意識されないほうがやりやすいのだが。それでも何か、こう、何と言うか……!

 ……いいや、もう。


「あ、掛け声はどうしましょうか? 皆さんは『いっちにっ』でやっているようですが……。私たちもそうしますか?」

「そうだな」


 うさ俺様がうなずいたので、早速始めることにする。


「えーっと、まず結んでいるほうの足から出しましょう。せーの、ではじ――きゃっ!?」


 せーの、と言った途端に足が勝手に持ち上がって、バランスを崩しそうになる――が、うさ俺様が私をぐいっと引き寄せてくれたので、転びはしなかった。

 ……今の『せーの』が合図だと思ったんだろうね、うさ俺様は。結んでいるほうの足を上げたから、私の足も勝手に持ち上がったのだ。

 私の言い方も悪かったし、うさ俺様だけが悪いわけではない。彼のおかげで転ばなかったのだし。

 しかし、だ。


「……う、あぅ、すみません!」


 思わず謝って、慌ててうさ俺様から体を離す。

 うさ俺様の腕は、私の肩に回されていた。その状態から反射的に私を引き寄せたということが、どういうことだかわかるだろうか。

 つまり、だ。えーっと……引き寄せられた、イコール抱き寄せられたというわけである。


 というか、うさ俺様は何でバランスを崩さなかったんだ! 私だけ転びそうになって引き寄せられるなんて、何だか不公平だ!

 などと理不尽な文句を心の中で言っていると、うさ俺様は一度口を開き、ためらったように閉める。……うさ俺様、言葉を発するときにためらうことが多い気がする。

 そして彼は眉をひそめると、もう一度口を開いた。


「わかりにくい。合図じゃないのなら先に言え」

「はいっ、すみません!」


 何かこっちも理不尽な気がする!

 私の言い方がわかりづらかったのもわかるが……うぅ。

 言い争うのは嫌だし、授業の終わりもそろそろ近づいてきている。流石にもう練習しなければ駄目だろう。気を取り直して、今度こそ練習を開始することにした。


「では、今度のは合図です。せーのっ」


 私もうさ俺様も、ちゃんと結んでいるほうの足を上げて、一歩踏み出した。

 ……のだが。


「わわっ」


 予想外に一歩が大きく、また転びそうになってしまう。今度は助けてもらわずとも、自分で何とか体勢を保てたが……。

 そっか。背が高いってことは、脚の長さも違うんだね。しかもうさ俺様、脚がすごく長いし……くっ、羨ましい。いや、別に羨ましくなんかないけど! これは単に、もうちょっと私のことを気遣ってよ、ということであって。長い脚が羨ましいなんてことはないのである。

 心の中でそう言いわけをしてから、私はうさ俺様に謝った。


「すみません。あの……もう少し、一歩を小さくしてくださると助かります」


 こっちは貴方みたいに脚が長くないんですよーっだ。

 ……若干妬みが入ってしまった気がしないでもないが、気のせいだと思っておく。


「……わかった」


 ちゃんと了承してくれたので、ほっとする。

 これで、お前がもっと一歩を大きくすればいいんだろう、とか言われたらどうしようかと思った。やっぱりうさ俺様は偉そうであっても、自分勝手なわけではないんだね。


「じゃあ、もう一度です」


 せーのっ、と始めるが、また失敗。

 今度はうさ俺様が歩幅を小さくしすぎた。……嫌味か、それは。私の脚はそんなに短くない。

 ちょっぴり顔を引き攣らせながらも、もう一度挑戦。が、やはり歩幅が合わない。何度かやってみるが、ぜんっぜん上手くいかなかった。


「……フィーランドさん?」


 思ったよりも低い声が出て、自分でも驚く。うさ俺様もびっくりしたようで、耳がぴくっと反応した。


「何だ?」


 しかし顔は平然としている。驚いたことを隠せているつもりなのだろうが……って、そうか。私の耳も、こういうふうに動いてしまっているのだろう。姉様とエリクににやにやされるわけだ。

 ……でもなぁ。うさ俺様も耳を動かしてしまっているなら、動かさないのは私には無理な気がする。特に理由はないが、何となく。

 ショックを受けながらも、とりあえず言葉を続ける。


「私の歩幅に、合わせてもらえないですかね?」


 体は全然だが精神的に疲れてきて、適当な敬語になってしまった。うさ俺様の顔を見上げてみたが、気にしていないようなのでまあいいか。


「合わせているだろう?」

「……合わせてるんなら、何で失敗するんですか」

「お前が合わせていないんだろう」

「合わせてますよ!」


 むかっとしてつい大声を出してしまった。

 私だって合わせようと必死になっているのだ。エルザちゃんたちも結構上手くなってきているし、私たちだけがいつまでこうしているんだと、焦ってもいる。

 ……落ち着け、私。私だってうさ俺様に合わせているのに、失敗するのだ。ということは、うさ俺様の私に合わせているという言葉に嘘はないんだろう。

 たぶん、あれだ。私たちは相性が悪いだけだ。


「私も合わせているつもりなんです。フィーランドさんだって、私に合わせているんでしょう? それで上手くいかないのだとしたら、ひたすら練習する他ありません」


 お互い協力し合っているのだとしたら、練習していればいつかはできるようになる。……はずだ。相手がうさ俺様なのでちょっと自信はないが、そう信じたい。


「ああ。他の奴らに負けるわけにはいかないからな」


 ……ん?

 思わず目を瞬かせると、嫌そうな顔で「何だ」と尋ねられた。また怒らせてはいけないと思い、慌てて首を振ったが。

 もしかして、うさ俺様がやる気になったのって、私が「他の人たちに勝てそうにない」って言ったからなんだろうか?

 負けず嫌い、とか……。何だか意外で、つい笑いそうになるがこらえる。公爵家の長男で、そして毛の色にコンプレックスを抱えているのなら、別に負けず嫌いでもおかしくはない。


「……何だその顔は」

「い、いえ? 頑張りましょうね!」


 眉を寄せられてしまったので、急いで誤魔化す。そんなふうに言われるほど変な顔をしていただろうか。

 私の返事に満足げにうなずくうさ俺様が、なぜか可愛く見えた。

 ……いやいや、本当に可愛いわけじゃないよ? ただ、子供が精一杯頑張っているのを見ているような、微笑ましい感じなのだ。


「じゃあ、もう一度!」


 そう言った途端、チャイムの音が響く。

 二人してぴたっと動きを止めると、体育の先生の声が聞こえてきた。


「キリがよくなった奴らから解散!」


 ……キリは、いいけど。うん、いいんだけどさ。


「どうしますか?」

「……もういい」


 もう終わろう、ということだろう。

 うーん、嫌なタイミングでチャイムが鳴っちゃったなぁ。せっかく二人でやる気を出して、これからってときだったのに。始めるのが遅かった私たちが悪いんだけども。

 うさ俺様はさっさと戻ってしまったので、一人しょんぼりと帰ることにする。男女の更衣室は隣だから、一緒に戻ってもいいのに。何で一人でさっさと行っちゃうんだ、うさ俺様……。(ひどい)


「ルーナさん、一緒に帰ろう?」


 あ、マリーちゃんも練習終わったんだ。そういえばベラちゃんとナタリーちゃんはどうなんだろう、とちらっと見てみたが、二人ともまだ練習しているようだった。ナタリーちゃんは騎馬戦で……ベラちゃんは短距離か。

 二人と一緒に戻れないことは少し残念だが、誰かと一緒なだけでも十分だ。


「はい。……借り物競争って、どんな練習をしたんですか?」


 歩き始めながら訊くと、マリーちゃんは苦笑いした。


「ははっ、ただ皆何か持って走っただけだよ。お題に沿った練習ができればよかったんだけど……ベラがそれはズルいって」

「ベラちゃんにお題を訊いたんですか?」

「まあ、お題そのものじゃなくてさ。どんなものが多いのか、って訊いてみたんだよ。人なのか、大きいものなのか、小さいのなのか。それくらいなら教えてくれないかなーって」


 ベラなら教えてくれると思ったんだけど、とマリーちゃんは残念そうに言う。

 しかし、急に暗い表情になって遠い目をした。


「でも、ベラのことだからズルいって理由だけじゃないんだよね、たぶん。どんなお題が出されるのかなー」


 乾いた笑みを漏らすマリーちゃんに、同情してしまう。いや、正直マリーちゃんより、姉様のほうが心配なんだけどね? でも性格的に、マリーちゃんのほうが辛いだろうし。

 ……まあ、マリーちゃんがどんなお題を引くのか楽しみではある。お題を引いたときのマリーちゃんの反応が、ね。何となく想像できてしまうが、それでも実際に見るのが楽しみなのだ。


「そっちはどんな感じ? フィーランド様、ちゃんとやってる?」


 なぜかこそこそと小さな声で訊いてくるマリーちゃん。


「……大丈夫です! 私たち、絶対に優勝してみせますから!」

「へ? えーっと、うん、まあ。やる気があるならいいね」


 マリーちゃんの言葉に力強くうなずく。

 私のせいで負けたって言われるのは嫌だからね。ちゃんとやる気を出して、うさ俺様と協力しなくてはいけない。


「そういえば、魔法実技のグループ発表っていつだっけ?」


 うさ俺様との練習でつい忘れていたが、そういえばグループ発表は今日だった。


「確か、昼休みに紙が配られるんですよね」

「あ、そっか。知り合いがいたらいいんだけど……」


 どうかな、とマリーちゃんは不安そうにつぶやく。

 不安なのは皆同じだろう。特に一年生は、まだ同じ学年にも知り合いが少ないし。私なんか同じクラスの人だってわからないくらいだ。……女子は何とかわかるけど、男子が。(ちょっとだよ、ちょっと!)


「可能性は結構低いですよね」

「だよね。……あー、やだなぁ」


 マリーちゃんなら、知らない人とでもすぐに仲良くなってしまいそうだが。どうしてそこまで知り合いがいないことを嫌がるのかわからなくて、心の中で首をかしげる。

 まあ、人と仲良くなることが得意でも、グループの全員を知らないという状況を嫌だと思うのは、普通なんだろう。


 私のグループはどうなるだろうか。

 魔法実技の授業について話しながら、私たちは更衣室に向かったのだった。


     * * *


『3-A シャルル・マルスラン・ラベー

 2-C ミミル・エマール

 1-A セレネ・ヴィーヴァ・ルーナ

 1-C エリク・ノエ・オリオール

 1-C ディアナ・ハーヴァ・ルーナ』




「――え?」


 思わず、口から声を漏らしてしまった。

 信じられなくて、もらった紙を何度も見返す。

 ……何度見たって、書かれている名前は変わらない。


「おい、席に戻ってから見ろって言ったろ。他の奴らの邪魔だ、とっとと席に戻れ」


 面倒くさげなニルス先生に言われ、慌てて席に戻ってからもう一度紙を見る。……が、うん。変わらない。いつまで経っても変わらない。

 一言言わせてもらおう。


「……何このメンバー」


「ん? ルーナさん、どうだったの?」

「見せてー」

「うわ、濃いメンバーね」


 呆然としている間に、ベラちゃんに紙を取られてしまった。紙を覗き込んだ三人は、うわー、と言いたげな顔をする。というか、実際ナタリーちゃんは言ったし。

 このグループ、全てがおかしいと思う。

 姉様とエリクが一緒なのは嬉しい。とても嬉しい。しかし、だ。

 姉様とエリクが()()()()一緒、なんて有り得ないのではないだろうか。


 私だって、二人と一緒になりたかった。

 だがあくまでそれは、そうなればいいなー、という希望だったのだ。実際にこんなことになるとは思っていなかった。

 エリクとだけなら、まだ有り得る。

 でも姉様と私は、魔法学の授業でも同じグループだ。姉妹だということは学院もわかっているだろうし、魔法実技でも同じグループにするなんて可能性はほぼないだろう、って思ってたのに。


 エリクと一緒の上、姉様とも一緒。

 ……何だろう。絶対誰か……父様か母様が関わっている気がするんだけど。


「でもよかったね、ルーナさん。姫と騎士(ナイト)が一緒で。……というか、いいなぁシャルル様と一緒で」

「ほんっとセレネちゃんって運がいいよねー」

「何かズルでもしてんじゃないのか、って疑いたくなるんだけど」


 三人に引き攣った笑みを返し、紙の一番上に書かれた名前を見る。

 ……狐が一緒。考えるだけで気が重い。何だか私たちの正体が勘付かれているようだし、もしばれてしまったらどうしよう。

 父様か母様、どうせなら狐とグループを変えてくだされば……なんて思うのは贅沢なので、ため息一つで我慢することにする。


 で、ミミル・エマールさんって誰だっけ?

 エリクも狐も攻略対象なのだから、ミミルさんも攻略対象なのではないか、と思ったのだが。

 ……まあ、一人くらい攻略対象じゃない人がいたっていいよね! むしろそのほうがいい。

 でも、ミミルさん以外は皆貴族……。一人だけ違うって、きつくないだろうか。グループを考えた人に、そういうところももっと考えろと言ってやりたい。

 そもそも姉妹が一緒なだけで十分おかしいし。


「ズル、なんでしょうか」

「え、ほんとにズルしたのー?」

「まさかセレネが?」

「違うよね?」


 ぽつりと言ったことに反応されてしまい、慌てて首を振る。


「違いますよ!」


 ……たぶん。

 帰ったら、まずは母様に確認してみよう。

 姉様ともエリクとも一緒……もしかしたらそれは、ズルをした結果なのかもしれないが。


 やっぱり嬉しい、と思ってしまうのだった。






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