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影女 三頁目


「影女……?」

「ぜったいそいつの仕業ですよ」


 男は間違いないとばかりに頷くと、何のことかよく理解できていない私をよそに、再び本を開いて読み始める。


「ちょ、ちょっと待ってください!何なんですか、影女って。やっぱり幽霊とか心霊現象とか、そういった類いのものなんでしょうか?私、一度お祓いとかしてもらった方がいいですか?」


 お祓いねえ、と相変わらず本を読みながら話す男。


「たしかにお祓いしてもらうっていうのも一つの選択肢ですよ。でも、俺はお祓いってあまり好きじゃないなあ」


あんたの好き嫌いを訊いているわけじゃないのよ!私は思わずそう叫びそうになったが、ぐっとこらえて話しの続きを待った。


「それと影女ですけど、幽霊ではないですね。鳥山石燕って浮世絵師って知ってます?その人、妖怪ばっかり描いてる人でね。その人の『今昔百鬼拾遺』ていう画集に出てきますよ、影女。あと山形に伝わる怪談だったかな、そこにも出てきますけど、障子越しに部屋の中を見ているだけ実害はないんですよ」


 それはつまり、私に憑いているのは……


「妖怪、てことですか……?」

「妖怪、ねえ」


 何故か歯切れが悪い。

 妖怪だなんて信じられないけど、でもよくよく考えたら幽霊とか心霊現象なんかの方がまだ幾分かマシだった気がする。だってお祓いしてもらえばいいんだもの。


「ところで秋川さん、心当たりはないんですか?」

「……何のですか」

「そりゃあもちろん、憑かれる理由ですよ」

「そんなの、ないに決まってるじゃないですか!」


 失礼な男だ。だいたいどうして私がこんな目に会わなくてはならいのか、こっちが訊きたいぐらいなのだ。早くお祓いでも何でもしてもらいたい。


「それで?こんな薄気味悪い所までわざわざ来てやったんです。影女だか何だか知りませんけど、あの気持ち悪い奴を何とかしてくれるんですよね?」

「それはできませんよ。俺、本屋ですもん」

「は!?」


 ケロッとした顔であっさり否定した。何を言っているんだ、この男は!幽霊じゃないとか、それはは妖怪だとか知ったような口をきいて、しかもこんな所にまで連れて来ておいて、最後は本屋だから何もできません、ていったい何なのよ!他人事だと思って馬鹿にしているの!?


 「あ、怒らないでください。別に見捨てたりはしませんよ。あんたにはこの本を買ってもらわなくちゃならないですからね」


 呆れた。人が困っているという時でも、この男は商売のことしか考えていないのか。


「だから訊いているですよ。人から恨まれたりするようなことはないんですか?」

「ないわよ!だいたい私ほど人に好かれるな女はいないわ。ていうか、妖怪の話しでしょ。人の恨みとか関係ないんじゃないの!?」

「だから、落ち着いてくださいって。本当に恨まれてる覚えはないんですか?例えば」


 面倒くさそうに手をひらひらさせたかと思うと、今度は確信に触れるような、答えを導きだしたようなそんな雰囲気ではっきりと名前を言った。


「哀川ケイコ」


 私はハッとした。

 そうだ、私を恨んでる女がいるとしたら景子しかいない!間違いない。


「その様子だと心当たりがあるようですね。どうですお客さん、その話し聞かせてくれませんか」


 男と目が合った。

 その瞳はどこまでも黒く、暗く、見つめているとその暗闇に吸い込まれそうだった。











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