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世間体

人魚とはじまる同棲生活一日目。




あのまま放置すること一晩とちょっと。

翌朝目覚めれば客間からは尚も聞こえるすすり泣き声ー・・本当に微かに聞こえてくるものだから不気味加減に拍車がかかる。

このまま放置し続けてしまうのも色々と宜しくないので、私は実力行使に出ることにした。

扉を開け(私が部屋に入った瞬間泣き止み顔を明るくした奴は完璧無視だ)素早く人魚の縄を解く。


「あぁ恩人さんっ漸くー・・」


なにやら嬉々として呟くそれの襟首を掴みそのまま引きずっていく。

人魚は文句もいいもせずただにこにことされるがままについてきたー・・どうやら私に構ってもらえているのが嬉しいらしい。

が、玄関を開け


「さっさと海に帰れ」


外へぺいっと放り出されと途端その顔は悲嘆に染まった。


「そんなぁっ」


「恩返しも何もいらない。しいていうならお前が帰ってくれるのが私にとっての恩返しだ」


冷たく言い放ち、じゃあなと家の中へ戻ろうとすればー・・がっちりと人魚が足にしがみついてきた。


「放せ!」


「お願いです!見捨てないでください!!」


「人聞きの悪いことを言うなっ!!」


無事な片足でその頭を踏み閉める。

水分を消耗して体力が弱まっているはずなのに中々離れないー・・人魚じゃなくて蛸じゃないのかっ!?


この上なく面倒くさいー・・いっそのこと薬で眠らせて強制的に海に還してしまおうか、と考え始めたときだ。


「あら、まぁ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜこういうときに限ってこうもタイミングが悪いのか。


声をしたほうを向けばたんまりと野菜をカゴにもった村長の奥方と目が合った。

あからさまにその目は「ふふふ、若いっていいわねぇ」の目だ。

・・・彼女の目にはこれが痴話喧嘩をしているように見えているのではないだろうか。


「あっいやこれはっ・・・」


なんとか弁解しようと口を開くが


「ー・・私にはもう貴女しかいないんですっ!!」


・・・足元の空気の読めない阿呆の存在を忘れていた。


「お前はもう喋るな!!」


「ぎゃっ」


渾身の一撃を食らわせ何とかその束縛から脱出する。


「あらあら」


「ちょっ奥方、違うんですこれは」


「あらいいのよ若いうちは色々あるものよね、はいコレ村の皆から昨日のお礼にって」


問答無用、聞く耳持たずでカゴを渡された。

にこにことまぶしいほどの奥方の笑顔が痛い。


「疲れてるとつい苛々しちゃうのよね、わかるわよ。でもねあまり冷たくしちゃ駄目よ?セリレイネウスさん」


「だから奥方!!」


そのままふふふふふと、笑いながらすすすっと去っていく奥方。


・・・所在無さげに宙に浮いたままの私のこの右手はどうしたらいいのだろう。


「恩人さん?」


ただでさえ小さい村だ、噂なんてものはあっという間に広まってしまう。


「恩人さ~ん?」


あの様子から察するにー・・奥方の脳内でほどよくいい感じに捏造された"噂"はきっと昼をまわる頃には村中が知ることとなっていることだろう。


「もしも~し」


何てことだ。もしこのまま人魚(コレ)を無理矢理海にでも帰そうものなら間違いなく私に貼られるレッテルは男を捨てた"悪女"ー・・もしくは"遊び女"


「あぁ、いい匂」


「暑苦しいっ」


「ぐっ!?」


いつの間にか復活して背後から勝手に抱きついていた人魚の鳩尾に肘鉄をくらわせる。


元々人付き合いは苦手だ。悪い噂が広まったのなら引っ越してしまえばいいー・・のだが、生憎と私は今のこの生活と環境がとても気に入っている。


人魚を海に帰して不名誉な噂にまみれ住み心地が悪くなる前に引っ越してしまいたい!!・・・そういしたいのは山々だが、中々ないこの高物件!!みすみす手放すには惜しいっ


つまりー・・私はほとぼりが覚めるまでこの人魚を家に置いておかなければいけないということ。


「最悪だ!!」


そう空に向かって声高に叫ぶ。

久々に腹の底から声を出したきがする、がすっきりするはずもない。


(厄日か・・・)


腹を押さえ悶絶する人魚は無視して私は家の中へ戻ったー・・とにかくどこにもぶつけようがないこの苛立ちをどうにかしたかった。








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