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訪問者

少し短いですが。


村から自宅までの道は途中まで整備された一本道で繋がっており、そこから先は山肌のむき出しの山道へと変わっていく。

 だが私はいつものその道を行かずに山道へと入る手前で、あえて草木生い茂る獣道へと踏み入った。

 ただでさえ荷物が増えた中で歩きにくいことこの上ないが仕方がない。

 自宅に近づくにつれ極力物音をたてないようにと進めば自然と歩みが遅くなり、結果いつもの倍の時間をかけて自宅目前までたどり着く。


(あー、いるな)


 悪い予感ほど的中するというものだ。

 木陰から自宅の周囲をうかがえば家の前に佇む黒い影が見えるー・・奥方がいっていた黒ずくめのマントの男だ。

 長躯を頭の先から足の先まですっぽりと覆う黒いマント、今時の魔法師でさえそんな格好はしない。

 さも"怪しい"といわんばかり…いっておくがあんな知り合いは私の周りにはいない。

 当然、奥方に話したことは嘘だ。下手に不安を煽らせるのも得策とはいいがたい。


 周囲に目をやり暫くその男を観察してみるがー・・どうやら他に仲間はいないようだ。

 留守宅に侵入しようという素振りも見せないのを見ると物取りやらの輩ではないことは確かだ。


 ではなにが目的か。


 素早く動けるようにと荷物を全てその場に置く。

 殺される可能性は低いだろう-・・もし私の命を狙ってのことならあんな目立つ真似はしない。私ならもっとこっそりと、それこそ家の中で潜み待つ。

 だが害されないとは限らない、念のためにと小太刀を裾の中に忍ばせると私は木影から出た。


「そこの方、我が家に何か?」


 そろりと近づき後ろから声をかければ男が振り返った。

 物陰から観察していたときから長身だとは思ってはいたが近づいてみると更に背が高く見える。

 私も女の中では背が高いほうではあるがそれでも目の前の男を見上げる形となってしまっている。

 …しかしこれでもかというぐらいにすっぽりマンドと被っているためか、近づいても見えるのは口元だけだったが。


「―・・」


 その口元が動き何かを喋った-・・が、あまりにも微かな動きすぎたため何を言っているのかが聞こえない。


「何か用かと聞いているのだが?」


「………」


 男は応えない。応えないかわりに一歩こちらへと近づいてきた。


「おい」


 私も距離をとるように一歩後ずさる。

 危険か、と隠してあった小太刀をそっととりだすー・・そこで距離が更に縮まったことによって男の声が聞こえてきた。


「…た」


「ん?ー・・っ」


 それに気をとられてか少し反応が遅れてしまった。

 予想以上に機敏な動きで近づいてきた男に両肩をがっしりと掴まれてしまったのだー・・


(しまっー・・)


「やっと会えた」


「は?…って!」


 万事休すかと思われた矢先、そう呟いた男の体が大きく揺らめいた。

 明らかにその軌道はこちら側へー・・このままいけば下敷きになるのは目に見えていたので私は肩を握る手が緩んだその隙にさっと横にずれた。

 結果、男は顔面から地面と接触。鈍い音と土煙があがる。


「おい」


 その頭を足先でつついてみるが返事はない。気絶してしまっているようだ。

 私は思わず天を仰ぐ。


 勘弁してくれ、と大声で叫びだしたい気分だった。




                      *




 置きっ放しにしていた荷物を家の中に運びいれ家の中の空気の入れ替えをする。

 それから外に倒れたままの男をどうしようかと考えあぐねー・・


「全く、私の気分が良かったことに感謝するんだな」


 男をひきずり家の中へと運び入れ、そのまま半分物置と化していた客間の寝台へと放り込む。

 拾いグセはなかったつもりなんだがな、と思いつつも用心のために男の衣服を探る。

 まずはこの邪魔なマントからだと砂埃にまみれた黒のマントを剥ぎ取ってしまうと、


「………」


 怪しげなマントの下から出てきた色彩と容姿に私は一瞬目を奪われた。


 程よく引き締まった体躯は近隣国では見たことがない白一色の裾の長い服に包まれている。

 その白に映えるように流れる髪は青銀で、都の貴族の女たちよりも長く足元まであるのではないだろうか。


 そして何よりも目をひいたのはその顔立ち。

 整っているというにも程があるー・・左右対称すぎるのだ。

 世に言う美男美女というやつはその顔の造形もさながらその左右の対称性も高いといわれている、が、やはりどこかがズレて(・・・)いるもだ。

 この世に完璧な左右対称な顔をもつ人間など、生まれた直後の赤子ぐらいなものだろう。


 しかしこの男の顔は異常なまでに左右対称だ、ここに詩人がいたならば"神のつくりたもうし造形美(きせき)"とでもいい放つではないのだろうか。

 きっとこの容姿は老若男女を虜にするー・・だが私は"見惚れる"よりも不自然なまでの美しさに違和感を覚えた。


(この男、一体何者だ?)


 …全く、あぁ全くもって嫌な予感しかしない。

 厄介なものを拾ってしまったものだ。










謎男の服のイメージとしては漢服の深衣っぽいので、主人公たちの服は中世ヨーロッパ的な感じですかね。


人間の顔は脳の成長と共に左右非対称になるらしいですよ。

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