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旧友、現る3

 落鋼石(ラッコウセキ)


 その名は世間一般にはあまり知れ渡ってはいない。

 何故ならば数々の輝かしい宝石と違い、ただ一見すればそこらの岩石となんら変わりのない色形をしているからだ。だからか、知識のないものがそれを手にしたとしても見向きもしないで捨ててしまうだろう。


 だが、それは一部の限られた者にとっては喉から手が出るほど欲しい、と言わす価値を持つ石の名前でもある。


 主に製鉄原料となる鉱石である鉄鉱石(テッコウセキ)などを採掘する鉱山などで採れるというが、その頻度は極端に少ない。正に"万に一つ"といっていい確率でしか採掘できないのだ。


 色合いはくすんだ灰色で、子供の握りこぶし程度の大きさのモノが多い。ただのクズ石(・・・)と似たり寄ったりのそれを落鋼石だと判別するには、長年"石"を見続けてきた玄人の目か、もしくは力のある魔術師の手を借りなければいけない。


 落鋼石の特徴はまずその硬度にある。


 職人が時間を掛けて精鉄した鋼よりも硬く、強い。だが、武器にするには実に扱いにくいためか"鋼以上の鋼だが、鋼に成り代われない"という意味合いを込めてこの名前がつけられたという。


 そしてもうひとつの特徴、これが何よりも"一部の限られた者"に重宝される所以でもある。


 鋼よりも硬い落鋼石の中には純度の高い"地脈"の結晶があるのだ。

 地脈とは主に地下水の通路などを指すときに用いられる言葉ではあるが、この場合はもっと別の意味合いを持つー・・この世界に生きる全ての命が放つ力は大地を巡り巡っており、その流れが"地脈"を作っているという。魔術師や幻想種(レジンヴァラ)が使役する魔法の力とは少し違った、強大な力の流れ。


 それが何らかの偶然が重なり一箇所に滞留してしまったことによりできるのが落鋼石の中の結晶なのだ。

 いわば"命"の結晶であるそれは、どんなに優れた魔具にも劣らないほどの価値がある。

 魔術師は勿論、普通の人間だって所持しているだけで潜在能力以上のものを引き出すことが可能だ。


 そして何よりー・・生態錬術師(エルヒミーク)である私にとって、生涯のうち一度は手にして研究してみたいもの断トツ一位の代物でもある。



 その名前を聞くだけでそわそわするし、それが「興味がある?」などと聞かれでもしたならば「あるに決まっている!」と即答する。

 勿論、続いて「欲しくない?」と問われれば「欲しい」と答えるし、「じゃあ、とりに行こうか」といわれれば「行く!」と答え…


 「…るわけがないだろう」


 いや、本当は「行く」の「い」の字が半分まで出掛かったのだがぐっとそれを無理やりに飲み込んだのだ。危ない危ない。


 「おや、我慢は良くないよ。溜め込むのは感心しないな、自らの欲求に正直になろうじゃないか」


 マギナが再度催促してくる。が、にやにやと笑っているその顔が胡散臭くてしょうがない。


 「近所に散歩しに行くわけじゃないんだぞ、そんな軽いノリで手に入るものならとっくに手にしている」


 大体このあたりに鉱山はないし、落鋼石が採掘できる鉱山も限られていて、体外そういうところは国に管理されている。

 ちなみにここから一番近い鉱山でも王都(カマンサ・レール)のさらに向こう側、ゆうに片道一ヶ月はかかる場所だ。


 それに例え奇跡的に採掘の許可が下りたとしても掘り当てれるかどうかは運次第。残念ながら私にはそこまでの忍耐はないし、確率の低い奇跡に縋るほどの賭けはしない。


 「何を企んでいる?隠してないでさっさと話せ」


 「企むとは人聞きの悪い。乙女は秘密の一つや二つもってこそ輝くというものだよ」


 「…私とそう対して年も違わぬくせに何が乙女だ、外見詐欺娘」


 私の言葉になにやら外野二人がざわついたが(何かしら言おうとしたレガリアの口をディオンががばり、と手で押さえつけていた)一睨みして黙らせる。

 聞き取れはしなかったが失礼な発言をした気がするので後で一発殴ることは決定済みだ。


 「誉め言葉として受け取っておくよ。ふふっいいね、君に嫉妬されるのも実に心地いい」


 「変態か」


 「何とでも言ってくれたまえ。さて、そうだな…出来れば現地に着くまで内緒にしていたほうがわくわくどきどき感があって実に楽しそうだと思っての配慮だったんだが」


 「そんな配慮はいらん」


 「えぇっ!何でだい?ピクニックみたいで楽しそうじゃな…あぁごめんごめん、わかった。話すからそう射殺すような目で見るのはやめてくれないかな?」


 無言で先を促せば「やれやれ、いい加減その堅物さを直して欲しいものだね」と肩をすくめながらマギナは改めて元いた席に腰を落ち着けた。


 「実は、ここ最近王都(カマンサ・レール)へ出入りする商隊が盗賊に襲われる回数が増えていてね」


 「こないだの道中では何もなかったように感じたけど?」


 門での検閲も手軽に済んでいた記憶がある。


 「こちらの方面では被害報告は少ないからね、今もっとも被害を受けているのは北側さ」


 「騎士団は何をやっている。無駄な血税を使って訓練しているんじゃないのか」


 「そう思う気持ちもわからないでもないけどね、ただ、どうにも盗賊たち(彼ら)はひどく鼻が効く上に、頭もまわるようで彼らも手を焼いているといのが現状なのさ。

 まぁ幸いなことに今回問題となっている盗賊は"盗み"はするが"殺し"はしない主義らしい。怪我人は出ているが死者はいない、その上襲われる商隊のほとんどが"いかがわしい"商売に手を出しているともっぱら噂の輩ばかりでね、ゴシップ記事なんかはこぞって彼らを"義賊"とまで書き出す始末さ」


 「大方、上も目をつけてた輩ばかりなんだろう?都の膿を取り除けて清々しているか…はたまた自分たちの手柄にならずにやきもきしているか。耄碌爺たちの考えるのはそんなことばかりだ」


 「困ったものだね」


 他人事のように肩をすくめるマギナは「さて」とそこでいったん言葉をきった。


「君が王都(カマンサ・レール)を立った直後にも一つ商隊が襲われてね、まぁいつものとおりに積荷を奪われていったわけだが、どうやらその中に闇市で売りさばこうとしていた落鋼石(ラッコウセキ)があったみたいでね」


 「…ほぉ?」


 「これは私の情報網から仕入れた話なんだが、盗賊たち(彼ら)が現時点で逗留先としているのがここから西に5つほど山を越えたところにあるとわかったらしい。そしてちょうど今日から4日後にそこに騎士団の捕り物が入る予定なんだよ」


 きらりとマギナの目が光った。それはもう悪戯を仕掛ける子供のような無邪気な瞳で、ただし腹の中はドス黒いほどに淀みきっているが、というのを付け足すのを忘れないでおこう。


 「散々煮え湯を飲まされてきた騎士団だ、相当躍起になってしまっているみたいでね。奪われた荷が没収されて彼らが捕まってしまう前に是非とも噂の義賊を目にしたいと思い立ってね、私の可愛い相棒の足を持ってすればここからなら一晩でつく距離なんだが…いかんせんか弱い女の身だ、私一人では心持たない。是非とも同行者を募りたいのだがいかがかな?」

 

 「よし行こう」


 差し出されたマギナの小さな手をぎゅっと握った。

 すぐ後ろでディオンの驚いた声が上がる。


 「即答ですか!?」


 「私も少し興味があるからな、その盗賊に」


 にまりと口角が上がる、きっとマギナにも負けない黒い笑みが浮かんでいることだろう。


 「すぐに支度を-・・あぁ、お前らは別に留守番でもいいが、どうする?」


 聞けば「行きます!」とディオンが応え、レガリアも(まだマギナを警戒していたが)頷いた。

  

 「そんな危ないところにセリさんを行かせるわけがないじゃないですか!…ところでセリさん」


 「何だ?」


 「今のお話を聞いてると…騎士団の方が来る前に盗賊の方から落鋼石(ラッコウセキ)を手に入れようってことです、よね?」


 「む、それは確か人の言葉で"ねこばば"するという行為に近」


 「やかましい」


 レガリアの後頭部に一発かまして黙らせる。全く、人聞きの悪い。

 蹲り悶える彼のことはほうっておいて私はディオンに向き直ると優しく諭した(・・・・・・)


 「いいか、ディオン。私たちはあくまで興味本位で盗賊を見に行くだけだ。まぁ仮に彼らに見つかってしまって、ついうっかり反撃してしまったとしてもそれは正当防衛だし、その騒ぎの間についうっかり彼らの盗んだ品物の一つや二つ、私たちの荷物に紛れ込んでしまってもそれは全て偶然にすぎないんだよ。…な?」


 「は、はい!」


 「結構。じゃあ支度をしよう」


 その横で、蹲るレガリアの横に座り込んだマギナが「何だ、しっかり調教済みじゃないか。いいねぇ」と、にまにまして呟いていたが聞かなかったことにしようと思う。







話が、進まない…。

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