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旧友、現る



 「やぁ、相も変わらず辛気臭い顔をしているなぁ君は」


 開口一番いわれたのはそんな言葉。


 「何だい何だい、この私がわざわざこんな片田舎までやってきたというんだからもっと嬉しそうな顔をしれくれてもいいじゃないか」


 「…何処から指摘すればいいのかわからんが、とりあえず玄関から入って来い」


 開け放たれた窓の枠に足をかけて入ってこようとするそれの頭をぐいっとおし返せば「いいじゃないか、ケチくさい」と唇を突き出し顔を顰めた。

 しょうがないなぁ、と渋々な様子で窓から離れたそれの様子に私は深く深くため息をつくと部屋を出る。

 

 「あれ?セリさん、お昼はまだですよ?」


 昼飯が出来上がるまで部屋から出ないぞ、と宣言していた私の言葉を覚えていたディオンが私の姿に首をかしげる。


 「客だ」


 「お客さんですか?」


 「あぁ、茶を入れてくれ」


 「…何だ、誰か来たのか?」


 ディオンとそんなやりとりをしていれば、居間の揺り椅子で(どうやら彼のお気に入りらしい)ウトウトとしていたレガリアがむくりと立ち上がり玄関へと足を進めた。

  

 彼も彼で"押しかけている"という自覚はあるらしくこと、ここへ来てから一週間何かすることはないかと模索していたようだが家事全般はディオンがやってしまっているし、私の研究を手伝うにも知識がほどほど足りない。

 じゃあさっさと海に戻れよ、とは思わないでもないが…まぁしかし私も鬼ではない。働く意欲があるのに何もすることがないのではあまりにも可哀想だと、薪割りと暖炉の火を(おこ)すのと、客の応対は彼に任せることにした。


 だから"客"という単語に素早く反応して転寝から起き上がった彼の与えられた仕事に対する義務欲には賞賛するものがあった…が、しまった。感心している内についうっかり止めるタイミングが遅くなってしまった。

 扉の前には立つなよ、と声をかける前に彼の手はドアノブに掛けられ木扉がわずかばかりに軋む音を立て外側に開かれる、前にー・・

 

 「はははははっ!空前絶後っ!!誰が呼んだか満を持して王都(カマンサ・レール)一の美少女登・場!愛に生きて、じゃなかった会いに来てあげたぞセリ君!熱烈な歓迎ありがとう!!君が出迎えてくれるなんて珍しいじゃないか!ん?何だかこの前よりも感触が違う気が…君、だいぶ筋肉質になったんじゃないか?」


 言っていることが相変わらず訳がわからない。 


 「マギナ、私はこっちだ」


 「んん?」


 勢いよく開かれた扉、そこから飛びつく…とは随分可愛らしい表現だ、どちらかといえば腹に突進してきたといっていいレガリアは床に背中を打ちつけ「ぐっ」と呻いている。

 その腹の上、細腕のどこにそんな力があるのか絞め殺さんばかりの勢いでぎゅうぎゅうと抱きついていた彼女は、私の言葉に我にかえると「おや」と上半身を起こし、改めて自分の下敷きになっている青年の姿を視認した。

 

 「何だ、人違いか。私とセリ君の輝かしい再会の抱擁を邪魔するとはいい度胸をしているじゃないか、いくら私が美少女だからといって待ち伏せするのはいかがなもんだと思うよ、んん?よく観れば美形じゃないか、君、その顔じゃなきゃただの性犯罪者として訴えられてもおかしくはないぞ。

 しかし何だい、私に跨られて苦悶の表情を浮かべるとは何とも許しがたいね、私はそんなに重いかい?失礼な、美少女に向かって実に失礼だよ君、紳士として如何なものかね?いいやそもそも男としてこの状況は実においしいだろう、もっと喜んでもいいはずだが……ところで誰だい、君は?」


 「それはこっちの台詞だ!」


 レガリアの上に跨っている訪問者は彼の言葉にふふん、とその胸を張って声高に名乗った。


 「私かい?私はマギナ。マギナ・ユグラ・テト・メリアッシュ。王都(カマンサ・レール)が誇る美少女の中の美少女!神の造りたもうた奇跡!金の妖精、幻想精錬師(ファーフュドピレ)のマギナとはこの私のことだよ!」


 …勿論、跨ったままだったが。


 「何だい、感動しすぎて声も出ないかい?しかし私が名乗ったのだから君も名乗るべきだと思うのだが…それとも私の魅力がたりないかい?こんな美少女を上に跨らせておいて君は何も言わないつもりかい?」


 すすすっとその細い指がレガリアの胸を撫でていく。

 いつの間にかドレスから白い太ももがのぞき、小さな顔が近づけば金の長髪がさらりとレガリアの顔に落ちた。

 …美少女と美青年で絵にはなるのだが、傍からみれば少女のほうが襲い掛かっているようにしか見えない、というか現にそうなのだから何とも危ない絵柄だ。レガリアは美少女に迫られて…というよりはそういった状況に慣れていないのか顔を青ざめさせている。


 「悪ふざけもそこまでにしてやってくれ、マギナ。彼はレガリアだ、そろそろやめないとお前が捕まるぞ」


 「おやおや、見た目と違って以外に初心なんだねこの色男君は。中々にいいギャップじゃないか」


 くすくすと楽しそうに笑うと少女はやっと立ち上がり、改めて私に向き合うとぎゅっと抱きついてきた。


 「やぁセリ、一ヶ月ぶりぐらいかい?」


 「本当に何しにきたんだ、お前は」


 「寂しいことを言うなよ。私は君が足りなくて会いにきたんだからー・・ところで」


 と、私の胸に顔をうずめていたマギナが上目遣いで尋ねてくる。


 「さっきから私のことを射殺さんばかりの目で見ているそっちの美形は誰だい?」


 …あぁ、疲れる。


 


 


 


またまたアクの強いキャラが出てきましたがとりあえずここで一旦きります。


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