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閑話休題ーセリさん

セリさんのことについて。

なのでちょっと説明くさいかも。



とりあえず放れないと教えてやらん、といえば渋々ディオンがその身を離した。

 …服の裾は掴まれたままだったが。


(まぁいいか)


 互いに椅子に座り直したのを見計らいさて、と話を切り出した。


「まず何が知りたい?」


「えっ!?あ…うー・・」


 途端頭を抱えるディオン。


 ……考えていなかったのか。


「悩むな」


「うぅっ、聞きたいことが多すぎて…」


 ー・・この調子では夜が更けきってしまうのではないだろうか。

 思わず溜息が漏れてしまったことはいたし方がないだろう。


「…わかった、じゃあまずお前が一番気になっているところからにしなさい」


 つい出来の悪い教え子を諭すような口調になってしまう。


「はっはい…では、セリさんとあの人…ヴィレルさんとの関係を教えてください」


 関係も何もないただの赤の他人ー・・では納得しないだろうな、こいつは。

 出来れば本当に同じ空気すら吸っていたくないほどのいわば害虫、なのだが…仕方ない。


(アレ)とは学院(インシティット)時代同期だった」


学院(インシティット)?」


王都(カマンサ・レール)にある貴族の子息女が集まる哲学する英知の学院インシティット・ムドゥルスティイルソニアのことさ」


 ご大層な名前がつけられているものだが、そこで学ぶ生徒の半数以上は箔付けのために金と地位にモノを言わせて入学したに過ぎないボンクラ集団の塊ばかりだ。


「ではセリさんも"貴族"なのですか?」


 …ぼぉっとしてるようで以外に目ざとく拾う奴だな。


「そうだー・・私の貴族としての名は、コールディーン・ユグラ・ティティール・ファンフォーン」


 最初に来るのは姓、ユグラは貴族の女だという意味で(男だとセド)、三番目に名がきて、最後に家名が入る。

 つまり私の場合、ファンフォーン家の娘コールディン・ティティールである、ということ。

 これが当主などになればさらにその後に爵位やら職名やらついたりするが、まぁそこは割愛だ。


 人魚の世界とは違う名前の作りを説明すればディオンは「長いですね」と感心したように息を洩らした。

 そこで「人魚はどうなんだ?」と聞き返せばこれまた妙なもので、成人してから個人としての名をつけるのだがそれまでは"珊瑚礁の近くの子"やら"誰々の息子"などと呼ばれるらしい。


「それではセリさんのその名前は"嘘"なのですか?」


 少し悲しそうに聞いてくるディオンに、いや、と肩をすくめて見せた。


「これは間違いなく私の名だよ」


 "セリレイネウス"は私が"コールディーン・ユグラ・ティティール・ファンフォーン"と決別するために私自身でつけた名だ。


「今の私は貴族ではない、ただのセリレイネウスだー・・間違えてもあのド変態みたいに貴族名で呼ぼうなんて思うなよ、わかったか?」


「はい!」


「よろしい。あ~・・何処まで話したんだったか…あぁあいつとの関係だったな。そう、あいつとは学院の同期で…」


 ここで一端言葉を切る。ふむ、どう説明するのが一番いいのだろうか。


「…一方的に好意を寄せられてはいたがまさに害虫以外の何者でもな」


「好意!?ー・・ぐぅっ」


「人の話を最後まで聞けないのかお前は」


 相変わらず人の話の腰を折るのが好きらしい。

 ぐにっとその両頬をつまみあげれば折角の美形が見るも無残に面白い顔になっていく。


「うぅっ…すいません」


「大体好意といってもだな、アレが興味があったのは私の髪と瞳の色だけだよ」


 両親から受け継いだこの色ー・・滅多にない組み合わせに(迷惑なことこの上ないが)自称美しいもの収集家(コレクター)としてのあれの目に止まってしまった。

 元々苦手だった自分の色彩に輪をかけて嫌いになったのもアレのせいだと言っても過言ではない。


「アレが私に寄せる好意は普通の男女のものとは言い難いなー・・例えて言うならば私は求める芸術品(コレクション)の一つでしかない、ということだ。無論そんなのに言い寄られても気持ちのいいものではないし、元々興味がない。私にとって"ヴィレル・セド・クィル・ラディフォール"という人間は興味の範囲外、むしろ敵だ!天敵、害虫、蛆虫以下のド変態っー・・わかったか?」


 話しているうちにだんだんとムカムカしてきて、自然語尾が強くなっていく。


「はっはい…あの人がセリさんにとって物凄く嫌な人ってことはわかりました」


 私が目に見えて苛々しているのが怖いのか頷いたディオンは、恐る恐るといった様で片手を挙げた。


「じゃあ次の質問してもいいですか?…何でセリさんは昔と今は色が」


「……」


 やっぱり話の流れ的にはそう来るよな。

 むむっと思わず眉間に皺がよるのを感じる。

 そんな私の様子にディオンはかくりとうなだれた。


「すいません…やっぱりいいです」


「ん?あぁ、いや別にいいさ。一言で言えば"嫌い"だから、かな。学院(インシティット)をでてからは魔法でずっとこの色に変えている」


「嫌い…ですか?確かセリさんのお父様とお母様から頂いた色なんですよね?」


「あぁー・・あの人たちにはよく似合う色だろうが、私みたいな平々凡々な顔には到底不釣合いな色さ」


「そんな!そんなことないです!セリさんにだって絶対似合います!」


 拳を握って否定するディオンに思わず苦笑が漏れた。

 宥める言葉の変わりにその頭をぽんぽんと軽くなでつければ(まだ何か言いたげではあったが)彼はおとなしく元の姿勢に戻る。


「他には?」


「う…うーんと…ではセリさんのお仕事を教えてください!」


「ん?」


 あれ?言ってなかったか?

 出会ってからここ数日の会話を思い浮かべてみるが…そういえば言っていないな。


 しかし何の仕事をしているかもしれない他人のうちに転がり込んで生活できるのも常識はずれ…まぁ人魚だし仕方がないといえばそれで終いか。

 やはり今回の件といい、こいつには一から常識というものを叩き込んだほうがいいのだろう。


「…ちなみに何の仕事をしていると思う?」


「えぇっと………本を読む人?」


「そんな仕事があるか」


 確かに本ばかり読んでいるからそう思われても仕方がないか。しかし本を読むだけで仕事になるなら楽なことこの上ないな。


「私は学者だ。生態錬術師(エルヒミーク)の称号を持っている」


生態錬術師(エルヒミーク)…?」


「動植物の生態系を分析し探求しそこから得られるあらゆるものを生み出す学者たちのことさ」


 この世にある全ての動植物が私の研究対象ー・・無論、幻想種(レジンヴァラ)は除くが。

 幻想種(レジンヴァラ)はそれ専門の幻想精錬師(ファーフュドピレ)という学者がいる。

 余談ではあるが、王都(カマンサ・レール)の友人はこの幻想精錬師(ファーフュドピレ)として城勤めをしている。

 6年前までは私も生態錬術師(エルヒミーク)として登城していたものだったが…


「論文や研究成果を出して生活費や研究費を稼ぐのが主な仕事だが、まぁ今は半隠居の身だからな。もっぱら研究だけが今の私の仕事だ」


「成る程!」


 そう深く頷いたディオンは、では次の質問を!と再びうんうんと考え込みはじめたが…


「どうした?」


「…うぅっ……セリさんのこといっぱい知りたいのに知りたいことが多すぎて頭がこんがらがっちゃってます…」


 と、頭を抱え始めた。

 そんなに難しく考えることもないだろうに、と思いはしたもののそれを口にはせずに私は席を立つ。


「無理をするな。もう夜も遅い、とにかく今日はもう寝るとしよう」


「ええっでもっ…!」


「焦る必要はないだろう?また聞きたくなったら聞けばいい」


「!!…はい!」


 落ち込んだかと思えばそのたった一言で嬉々とした顔を見せるディオンに肩を竦めて見せる。


 何はともあれとにかくこれで今回のことは片付いたか、ようやく一息つける。

しかし本当に疲れた一日だった…今日はもうおとなしく寝るとしようか、と部屋に戻りかけ


「あぁ、そういえば」


 一つ気になることを思い出した。


「ディオン」


「何ですか?セリさん」


「私も一つ聞きたいことがあるんだが…いいか?」


「はい!何でも仰って下さい!!」


 ばーんと胸を張って何でもこいの姿勢のディオンに私は疑問をぶつける。


「あんな言葉何処で覚えてきた?」


「あんな言葉?」


「ほら、自分で言って怖いっていってただろう、あれだ」


「あぁ」


 思い返すだけで少しぞくりとする今のディオンとは到底かけ離れたあの時のディオン。

 しかし彼は自分で言った筈のあの言葉を"怖い"と表現したー・・そしてその後の彼の言動とこの性格から推測するに元々彼の今までの生活の中でああいった"言葉"に触れる機会は皆無といっていいほど無かったのではないだろうか。

 では何故彼はあそこまでの変貌を遂げたのか?


 それとも人魚というものは成人すれば性格も変わってしまうものだろうか?あぁしかしそれでは穏やかな性格多いという定説が崩れて…


「あれはマリーシカさんが」


「マリーシカさん?…奥方か?」


「はい!マリーシカさんが"押して駄目なら引いてみなさい。引いても駄目ならいっそのこと引きずり込んじゃいなさい”って本を貸してくれて」


「まてまてまてまて、話が見えない。本?」


「はいー・・あっちょっと待っててくださいね」


 ぱたぱたと小走りで自分の部屋に戻ったディオンが持ってきたのは少し古びた書物を3冊持ってきて見せた。


「これです!"参考にしなさい"っていただいたんですが」


 その外装に書かれた文字には見覚えがある。

 確か何年か前に王都(カマンサ・レール)の女性たちの間で流行ったー・・恋愛小説と同じ表題だ。

 全3部作で構成されており、城を攻め落とされた亡国の王女がその征服者によって奪われ、王女の恋人が彼女を助けに行くも王女の心は征服者に傾いてて…いい感じのドロドロした三角関係なのよー!征服王の鬼畜ッぷりがたまらないのよー!!とか友人が言っていた気がする。よくわからないが。


「結構面白いんですよ!セリさんも読んでみます?」


「…いや、それよりも何故お前が奥方からそれを受け取れる?いつあった?」


「え?いつって昨日も一昨日もお会いしましたよ?お野菜とか沢山いただけるし色々相談聞いてくれるんです。本当に良い方たちですよね」


「…たち?」


「はい。マリーシカさんに、メリィさん、ロザさん、マァラさん、それに…」


 次々とあげられていく村のご婦人たちの名前。


 …つまりあれか、私が部屋で研究に没頭している間に村のご婦人たちと井戸端会議をしていたということか。

 しかも相談………何の相談かは聞かなくても察しはつく。


 (イコール)筒抜けということで。


「…迂闊」


 迂闊以外なんだというのか。

 全く私としたことがとんでもない失態をしてしまったようだ。


「セリさんの好きな野菜とか魚とかも教えてもらったりしてるんです!あっそうだ!今度マイリーノの漬け方を教えてもらうことになってるので楽しみに」


「…ディオン」


「って…あれ?セリ…さん?」







 一晩外に放置した。












ちなみに色を変える魔法をかけているのは王都の友人です。

セリさんは魔法は使えません。


井戸端会議で内情喋りまくりのディオンは一晩ほされました。

そろそろセリさんの特技に「放置プレイ」が追加されそうです。


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