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話し合い2

続きです。




何処まで願っていいのだろう?


何処まで思ってもいいのだろう?


何処までが許されて許されない?



この想いは貴女にとっては重荷にしかならないのだろうか?


でも


それでも


それでも私は



ー・・貴女を想わずにはいられない





                    *




眉間にぎゅっと皺が寄る。

あまり笑顔を見せず、いつも無表情に近いー・・どちらかといえば仏頂面の彼女の眉間に皺が寄るのは本当に嫌なことがあったりしたときだ、例えば昨日の夕飯に出したサンポェーナ(*1)を出したときとか。


「とにかく、お前が危惧しているようなことはまず絶対ありえないから安心しろ。それだけは天地神明にかけて誓うぞ」


げんなりとそういう彼女の言葉を信用していないわけではないー・・ではないが、まだ私の胸の奥に残ったしこりはとれたわけではない。


確かに彼は言っていたのだ、あの絵を愛でながら「私の思い人だ」と。

・・・その言葉を頭の中で反芻するたびにざわりとした感情が腹の底を撫でる。


「じゃっじゃあ、あの人間はどうしてセリさんの絵を?」


「知るか」


心底嫌そうに一言で片付けられてしまった。

しかも彼女もその絵のことを思い出したのかそのまま考え込むように少し俯いたかと思えば、ぽつりと聞こえてくる独り言。


「・・・あぁやっぱり不快だ、燃やしてくるか」


「駄目!いっちゃ駄目です!!」


放火魔になることを止めるというよりは、あの屋敷に戻って欲しくなかったので彼女を引きとめようとその腰にがしっとしがみついた。


「どうしてお前はそう一々引っ付いてくる!!」


「うぅっ」


離れろといわんばかりにぐいぐいと顔を両手で押されるがそれに反発するように力を込めた。

ここで離すわけにはいかないのだ。


「だって離したら行っちゃうじゃないですかー!!捨てないでください!!」


「人聞きの悪いことを言うなと何度言えばー・・あぁっくそっ!!・・・お前と話してるといつまでたっても堂々巡りだ」


重く深い溜息を吐いた彼女。

上から聞こえてくるその音に大げさだが思わずびくりと反応してしまった。


・・・・・・・・呆れられてしまった?


気付けば引き剥がそうとしていた腕の抵抗もなくなっていた。

不安になって見上げればいつもの仏頂面に、少し困ったような感情を乗せた彼女の顔。


「あっ・・・」


どうしよう、困らせてしまった。

きっと私がどうしようもなく我儘ばかり言うから怒ってしまったんだ。

どうしよう、どうしよう。


はぁ、とまた一つ溜息。

それに再びビクリと反応してしまい項垂れた。


「どうしてそんな顔をする。・・まるで私が虐めているみたいじゃないか」


「すいません・・・」


「全く・・・私にはお前が理解できない」


その言葉がズンと心の奥底に突き刺さる。


あぁやっぱり駄目だった。嫌われてしまった。


頭の中が真っ白だ。ぐちゃぐちゃといろんなものが混ざり合いすぎて思考がまとまらない。

どうしよう。どうしよう。どうしようどうしようどうしようどうしようー・・


彼女の口が動くー・・お願いだから、時間よ止まってしまえと節に願うがそうはいかない。


「お前は」


きっとその口から次に出される言葉を聴いてしまったら私は絶望で死んでしまうー・・


「お前は、どうすれば納得するんだ?」


「えっ・・・?」


だが、彼女の口から紡がれた言葉は予想していたものとは違っていて・・思わず聞き返してしまった。


「どうして欲しい?」


怒るでもなく、拒絶するでもなくー・・彼女は聞いたのだった。





                      *



泣いたかと思えば怒りを顕にしたり、また泣いたかと思えば豹変し・・・そしてまた泣く。

今なんて捨てられた子犬のような目でこちらを見上げてくる。


「どうしてそんな顔をする」


全く


「・・・まるで私が虐めているみたいじゃないか」


「すいません・・・」


幼子のようにふざけているかと思えば急に大人びる。

背筋を凍らせるほどの殺気にも近い怒気をその身からたぎらせて見せる。

・・・かと思えば自分で言った言葉に傷つき、泣き始める。

感情の起伏が激しいというか・・・これではまるで子供のようではないか。


「全く・・・私にはお前が理解できないよ」


だが、そこでふと気付いた。

子供の様でないー・・"子供"なのだ。


人魚は総じて自由奔放で穏やかな一族だという。

それは人の何倍も違う長寿故だとも言われている。


彼等の時間は海の底を緩やかに流れる海流のようにゆっくりと進む。

肉体もー・・そして精神も。


見た目はどれだけ成人したように見えても中身は子供のままだ。


・・・そう考えるのであれば、私は彼を理解するため(・・・・・・)にどうすればいいのか考えることが出来る。


「お前はどうすれば納得するんだ?」


「えっ・・・?」


昔、少しの間だけだが知人の子供をあずかったことがある。

物心もつくかつかないかの年頃で、よくよく癇癪をおこしては泣く子だった。

しかもそれがよくわからないような事で突然泣き出すものだからほとほと困り果てたものだ。

どうしたものかと友人に助けを求めれば"何、簡単なことだよ"と笑われた。


ー・・その子の真実望むことをゆっくり聞いてあげればいいんだ。


「どうして欲しい?」


ー・・子供というのは感情をすぐ表に出すくせにそれを伝えるのはあまり上手じゃないんだよ

  私たち大人はそれを上手に引き出してやってあげなくちゃいけない


表に出た感情だけを見て頭ごなしに押さえつけるのではなく、それをしっかりと言葉に置き換えて伝わせるようにしなくてはいけない。

人は大人になるに連れ子供の時の"感情"を忘れる-・・"理性"ばかりが頭でっかちに育っていってしまって言葉を巧みに操る変わりに感情に蓋をしていく術を覚えるのだ。

だがそれを知らない子供は感情ばかりを表にだす。

それを私たちが理解するにはそれ(・・)を"言葉"に置き換えさせるしかないのだ。


ー・・つまるところ師に教えを乞う弟子のようにその思いに辛抱強く耳を傾けなければいけないのさ


と、友人は笑っていっていた。


今、私は(ディオン)のことが理解できない。

だから理解しようと耳を傾けることにした。彼の表ばかりの"感情"にではなく内にあるであろう"言葉"に。


「言葉にしてくれなければわからないこともある。私には今のお前が理解できない。お前は何を望み、何を知れば納得する?」


促すように続ければ、ディオンの瞳が揺れた。

考えるように、心の内に溜っているであろう言葉を探している。


「私・・・は・・・」


ぎゅっと服を掴む手に力がこめられた。


「私は、セリさんと、一緒にいたい、です。でもセリさんのことを何も知らない、何も知らないのが凄く寂しくて悲しい・・・今セリさんといるのは私なのに・・・私はセリさんを知らない」


だから、とゆっくりと彼は言葉を紡ぐ。


「セリさんのことが知りたいです」


しぼりだすように口にされたその言葉に知らず内に苦笑が漏れる。


「わかった」


ポンとその頭に手を置く。


最初からそう言えば良かったのにー・・全く、全く馬鹿な奴。








*1  サンポェーナ=酢の物のようなもの。



最初はセリさん視点で書いていたのですがディオン視点もありかな?と思い至り急遽書き直し。

とりあえずはこれで一段落?

セリさんのことについては次回、閑話休題的な感じで書きます。

その次からまた新たな展開へ・・・




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