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第一章三話『やり直し』

にゃーにゃー








リリア・ルーシュ。


ポンコツ魔法使い。


街ではそう呼ばれているらしい彼女は、瓦礫の前で小さくため息をついた。




「……とりあえず、被害の確認と修復をしないと」




そう言って、ローブの袖を軽く払う。


煤まみれなのに、所作だけは無駄に上品だ。




「修復、できるの?」




「できます。理論上は」




……またその言い方だ。


私は内心でツッコミを入れつつ、少し距離を取る。


猫耳がぴくりと動いた。


嫌な予感が、音より先に胸を叩いたから。




「念のため言っとくけど、街中だよ?」




「ええ、分かっています。今回は暴発しません」




断言。


でも、その直後に小声でこう付け足した。




「……多分」




嫌な予感、確信に変わった。


リリアは地面に魔法陣を描き始める。


淡い光が広がり、空気が張り詰めるのが分かる。


耳が、やけにうるさい。


何か少し違和感を感じる流れ。これが魔力ってやつだろう。


魔力の流れが、歪んで聞こえる。




――まずい。




「リリア、ちょっと待っ……」




言い切る前に、世界が白く弾けた。


爆風。


熱。


音という音が一斉に砕ける。


体が宙に浮き、次の瞬間、背中から地面に叩きつけられた。


息が、できない。


視界が歪む。


石畳に広がる赤が、自分のものだと理解するのに数秒かかった。




「……あ、あ……」




声にならない音。


肺が動かない。


猫耳が、ぴくりとも動かなくなった。




――ああ。


これ、死ぬやつだ。




そう思った瞬間、視界が闇に沈んだ。






――カツン。


靴底に小石が当たる音。


冷たい風。


杉の匂い。




「……え?」




私は、通学路に立っていた。




見慣れた森。


見慣れた道。


横断歩道の、少し手前。


心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。




「うそ……」




手を見下ろす。


制服。


そして――猫耳は、ない。


しっぽも、ない。




「戻って……る?」




瞬間、全てを理解した。


轢かれたあの日。


異世界。


爆発。


そして今。


時間が、巻き戻っている。




「……死んだら、やり直し?」




冗談みたいな能力。


でも、体は確かに覚えている。


あの痛みも、熱も、息が止まる感覚も。


横断歩道の向こうから、車の音が聞こえた。


反射的に、後ずさる。


次の瞬間、あの異様な速度の影が通り過ぎていった。


今回は、当たらない。


足が震える。


でも、生きている。




「……助かった」




その言葉が零れた瞬間、世界が再び歪んだ。


視界が白く反転し、重力が消える。






石畳の冷たさ。


ざわめく通り。


賑やかな異世界の音。


頭の上に、確かな重み。




「……戻った」




川面に映る自分には、ちゃんと猫耳としっぽがあった。


心臓が早鐘を打つ。


つまり――


私は、この世界で死んだら、元の時間に戻る。


しかも、異世界に来る前まで。




「……最悪だけど」




同時に、思う。


やり直せる。


失敗しても、間に合わなくても。


もう一度、選び直せる。




その瞬間、遠くから――


ドオォォォン!!!


聞き覚えのある爆発音が、街に響いた。


私は、走り出す。




「……今度は、死なせない」




誰を、とは言わなかった。


けれど胸の奥で、確かに決めていた。


この力は、逃げるためじゃない。


守るために、使う。








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