夢
翌朝、静寂に包まれ外の空気は刺すように冷たい。まだ暗い中、暖炉に薪をくべて部屋が暖まるのを待つ。日が登ると、辺り一面幻想的な霧に包まれていた
「最近、変な夢を見るな…」
誰かが私の名を呼ぶ声がした。殺さないでくれ、助けてくれ、と。正体は分からない。ただ、すごく苦しそうだった
「主人…ご主人、大丈夫か?」
「ん?大丈夫大丈夫、変な夢見ただけだから」
「少しうなされているように見えましたが…」
「いつもの事だよ」
ボーっとしているマリが心配な2人。ダリアも起きてきた
「皆さんおはようございます…ご主人様?眠そうですね」
「うん、何か最近変な夢ばっかり見るからさ」
「それは心配です…。そうだ!バクを捕まえに行きましょう」
バクを…捕まえる…?どうやって?
「すばしっこいですが、この森の湖近くで見たことがあります」
「へぇ、それはすごいね」
「バクか…まぁ捕まえられんことは無いな」
マチが言うからにはそうなのだろう
「悪い夢を捧げるのでどうぞ食べに来てください、と言うと来てくれるぞ。そのままペットにするか」
「それは面白いね」
「では、朝ごはんを食べたら早速捕まえに行きましょう!」
ジェイドまで乗り気だ
朝ごはんはダリアの作った焼きサクラトラウト、ご飯、卵焼き、漬物に味噌汁。
「サクラトラウトって美味しいよね」
「簡単に身がほぐれる」
「塩焼きが1番ですね」
「うん、美味しい」
朝ごはんが食べ終わったらいざ、暖かい格好をしてバクを探しに出発!まずはダリアが見たという湖の付近を隈なく探す
「キュイッ!」
甲高く綺麗な鳴き声が聞こえた
「ご主人様、バクの鳴き声です!東の方角!」
ゆっくりゆっくり湖に近づいていくと、バクの姿があった
「ご主人様、取ってきます!」
「え、大丈夫?」
そう言ったのもつかの間、ダリアの足は速い。狼の獣人だからだ。
「はい、ご主人様!」
本当に取ってきた…。何故か無抵抗なバク
「あぁ…ありがとう」
そのまま連れて帰ってきた。近くで見るととても可愛い
「まさかこんなに早く捕獲できるとは思わなかったがな」
「マリ様、使い魔契約を」
バクの下に緑色の魔法陣が現れる。魔法陣が光を放ったあと、使い魔契約が完了した
「キュイッ」
「よろしくね、君の名前は…キューイだ」
「そのままだな、ふふっ」
いとも簡単に捕まえてしまったバク、マリの使い魔になり、果たして今日はいい夢を見られるだろうか。
そして翌日、目が覚めると…あの変な夢は見なくなっていた。キューイが悪い夢を食べてくれたのだろうか
「ありがとうキューイ。お陰様で変な夢は見なかったよ」
「キュイ」
「良かったなご主人、本当に良かった」
これでマリの安眠がサポートされたのだった
キューイはバク、幻の生き物と言われているが幻樹の森では普通に見られる。ケンタウロスだってマリの友達なのだ。
「マリ殿、お久しぶりで」
「久しぶりだね、リゼロス」
「まぁ、マリ様!私のことは覚えていらっしゃいますか?」
「うん、リザリスだね」
こっちはケンタウリス、女性だ。リゼリスとリザリスは夫婦なのだ。今マリ達は湖のほとりで魚を釣って焚き火をしている。
「それにしても今日は暖かいですねぇ」
「そうだね」
まだ冬なのに春並みの暖かさだ。過ごしやすくていい
「暖かいと眠くなってくるよね」
「まぁ、でしたら私の背で眠ってくださいまし」
「お魚食べてから、そうしようかな」
パチパチと焚き火の音、風邪でサラサラと揺れる葉の音、ザザザっと湖の水が盛り上がる音…ん?
「あ、タッピーだ」
このタピネス湖のUMA、タッピーは守り神的な存在だ
「フォォォン」
「タッピー、久しぶりだねー」
「フォォン」
水色の体に長い首のタッピー。人語を理解できるのだ。様々な種族が暮らす森。これぞ幻樹の森だ
「魚、いい感じに焼けてきたね。焼き芋ももう少しかな」
外で食べると、いつもより美味しく感じるのは何故だろう。自然と会話しながら命に感謝する
「マリ様、魔王が目覚めたみたいですわ」
「そうだね。強い魔力を感じる」
数日前から異常な魔力量を感知していた。この魔力は人間に害を及ぼす。放ってはおけない
「魔王と戦う時が来たのか」
「そうだね。まぁ私が圧勝すると思うよ」
「マリ殿はお強いですからな」
唯一魔王を倒す魔法が使えるマリ。圧勝する。私が勝つと自負している。ただ、厄介なのは周りにいる悪魔だ。悪魔たちがマリを横から邪魔する。それを阻止するために皆で戦わなければならない
「マリ殿、私達は地上から弓で戦います。総力戦でしょう?」
「まぁ、ざっくり言えばそうだね」
主な悪魔は72柱。そのうちの1柱はストラスであるマチだ。
「他に使い魔になってくれる悪魔いないかなぁ」
そう言いながらレッドトラウトの塩焼きを頬張るマリ
「そうだな…アバドンやパイモン、マルバスだろうか」
「マリ殿は悪魔でさえも使い魔にしてしまう…なんて素晴らしい力だ」
アバドンは千年間サタンを閉じ込めていた悪魔だ。滅ぼす物、奈落の底を意味する。パイモンはあらゆる知識を与え、召喚者に良い使い魔を用意してくれるという。マルバスは疫病をもたらす力とそれを治癒する力を持ち合わせる
「まぁ、召喚してみないと分からないけどね…あ、焼き芋焼けたよ。みんなで食べよう」
まぁこんな時でさえも、ゆったりゆっくりしているマリなのだった




