第2話 プロポーズ
真紀が士郎と結婚したのは三年前。出会いのきっかけは父の病院に士郎が来たことで生まれたの。言い遅れたけど、父もそれなりに腕のいい医者だったのよ。あー、父の病院って言ったけど本当は母の病院、ってそれも違うわね。母の父の病院が正解でいいのかな。真紀は医者の道を目指そうなんてことはしなかったけど、数字には強かったから祖父の病院に就職して事務職をやってたの。
士郎は若手のエースにして、顔面偏差値も高く、高身長で、患者さんからの評価も問題ないどころか、患者さんが問題を起こすんじゃないかって心配になるくらい特にご婦人からは大絶賛よ。難しい手術も難なくこなし、「私、失敗しないので」って言わせたくなるほど優秀なの。
そんな引く手あまただろう士郎が何で真紀と結婚することになったのか不思議よね。祖父の病院って何故か、顔面偏差値が採用基準になってるんじゃないかって疑いたくなるほどに美男美女が充実しているのよ。医者に技師に看護師、そして事務職にとどまらず、清掃員や警備員に至るまで。かく言う真紀も負けず劣らずその枠内に納まっている自負はあるんだけどね。祖父も「真紀も美紀も由紀に似てとっても可愛いよ」ってずっと言い続けてくれてるし。由紀っていうのは真紀と美紀の母親のことよ。母の若い時の写真を見せてもらったことがあるけど、ワタシ達と瓜二つってぐらいそっくりだったわ。実際、今でも母と一緒に出かけると姉妹に間違われることもしょっちゅうだし。母もそう言われて満更でもなさそうなんだけど、「なんで三つ子って言われないのかしら」って言ってるのを聞いた時にはそれはさすがに欲しがり過ぎでしょ、とは思ったわ。
話が逸れちゃったけど士郎との馴れ初めの話、だったわよね。
そんな大した話でもないんだけどね。
祖父の病院で何かのシンポジウムを開催した時に、真紀が会場の受付の一人だったんだけど、そこに士郎が来て真紀のことを凝視するのよ。これでもかってぐらいに。
それまで一度も直接話したこともなかったんで、どうしてこんなに見てくるんだろうってかなり戸惑ったわ。
だからずっと素知らぬふりして受付業務してたんだけど、意を決したのか突然士郎がこんなことを言い出したの。
「「はらまき」から「だてまき」になってくださいっ。」
は?
何言っちゃってくれてるのかしら、この人。
腹巻きが伊達巻きになるわけないじゃない。
ひと昔前の集団お見合い番組じゃあるまいし、そこまで腰を折ってまで言うことじゃないわよね。
頭大丈夫かしら。脳外科医なんだから自分の頭の面倒ぐらい、ちゃんとなんとかしなさいよ。
真紀が士郎に対応しないでいると一緒に受付をしていた人たちが騒ぎだしたわ。
「原さん、伊達先生に返事してあげた方がいいんじゃない?」
「真紀ちゃんっ!いつの間にそんなことになってたのっ!?」
は?
何の話よ。
えー?どういうことよ。
「真紀ちゃん、どうもこうもないよっ。原真紀から伊達真紀になってってことはあれしかないじゃない。」
「そうよ、原さん。あの伊達先生が公衆の面前でプロポーズするなんて信じられないけど、それ以外に受け取りようがないわよ。」
はぁ?
プロポーズって何だっけ?
え?もしかして結婚の申し込みをされてるの?
真紀が?伊達士郎先生に?何で?
そりゃあ真紀は一目惚れするぐらい容姿端麗な美人さんではあると思うわよ。
でも実際、いきなり交際の申し込みじゃなく求婚されてみなさいよ。
こっちは相手のこと知ってはいるけど、ただそれだけよ。
向こうが真紀のことを知ってるだけでも驚きだっていうのに、交際すっ飛ばして結婚してくださいって前戯もなしにいきなり挿入してくるほぼほぼ強姦みたいにしか思えないわよ。
ドン引きだわ。
こんな例えをする真紀にドン引きするって!?




